『相対的浮世絵』座談会~「今、悩ん
でいる人に観に来て欲しい」石田明(
NONSTYLE)、山西惇、青木豪、土田英
生が語る

2004年に劇団MONOで初演されたコメディー『相対的浮世絵』を、演出、キャストを新たに9年ぶりに上演。ジャニーズJr.のユニット・宇宙Sixの山本亮太を主演に迎え、伊礼彼方、石田明、玉置玲央、山西惇と、個性的な面々が集う話題作だ。
SPICEでは始動したばかりの稽古場で取材を敢行。お笑い芸人の石田明、映像から舞台まで広く活躍する俳優・山西惇、演出家の青木豪、劇作家の土田英生が、戯曲の誕生秘話から稽古場の手応えまでたっぷりと語ってくれた。
コメディーでありながら、生きた人間と死者との対話を描いた本作。どこか一筋縄ではいかない人々が放つ独特なセリフの数々に、思わずクスリと笑わされ、最後はホロリとさせられる会話劇になりそうだ。
<あらすじ>
人生の曲がり角にさしかかり、それぞれにややこしい問題を抱えてしまっている岬智朗(伊礼彼方)と、高校時代の同級生、関守(石田明)。そんな二人の前に突然現れ、救いの手をさしのべたのは、20年前、高校生のときに事故で死んだはずの、同級生・遠山大介(玉置玲央)と岬の弟・達朗(山本亮太)だった。
どこかでうしろめたい気持ちを抱えながら、遠山と達朗の「ある力」を頼りにするようになる二人。そこへ現れたのは、自分の思い出ばかり語りたがる、やたらおしゃべりな初老の男、野村淳(山西 惇)。彼は、遠山、達朗と知り合いだという。
いつも一緒にいた高校時代の、他愛のない思い出話に盛り上がる4人。そして、そんな話に入れて貰えない野村。やがて、話はかつての事故の話にさかのぼり…… 。
あの日、何が起こったのか。現在を生きる二人と過去のままの二人。四人の時間が交差した時、明らかになる真実とは……。
ーーお稽古が始まってみて、手応えはいかがですか?
青木:絶対に面白くなるんじゃないかと思っています。ね、土田君!
土田:いや、僕は今日これから初めて稽古を見学しますから(笑)。
一同:笑
山西:最初の本読み稽古は、ちょっと挨拶しただけで、すぐ始まったよね。
石田:ほんま、お互い名前言い合っただけでしたね。
土田:山西さんと石田さんも今回初めましてだったんですか?
石田:出演されていた舞台を観たことはあるんですけど、共演は初めてで。
山西:それぞれが「自分はこうやりたい!」って感じでグイグイ来るのかと思いきや、割とみんな「どうします?」と探り合うような感じだった。
青木:そうだね。
石田:たしかに、みんなでアウトボクシングをしているみたいでした。
石田明(NONSTYLE)
土田:いいですね。人数が少ない芝居は、ガンガン行く人がいるとしんどくなるでしょ?
山西:そうそう。この5人はその点雰囲気が似てますね。面白い稽古場だなって。
石田:ホンがいいから、稽古もすごく面白いんですよ。セリフの面白いニュアンスをストレートに伝えたほうがいいか、面白いニュアンスを削ったほうが面白く聞こえるのか、と考えるのが楽しくて。お笑いは“おもろいことは面白くいうべき”っていう文化だから、このセリフは真面目に言ったほうが逆に面白いかな? と考えて、色々試せるのが、めちゃめちゃ楽しいです。
ーー2004年に劇団MONOで初演され、その後10年にG2さんの演出で再演され、今回3度目の上演となりますね。
土田:何度も上演されるのは、劇作家として純粋にうれしいです。戯曲って上演されなくなったらそれでサヨナラだから。新しいキャスト、演出家に上演してもらうことで、戯曲が生き返りますしね。この間、青木さんと打ち合わせをした時に、この戯曲を書こうと思った発端をお話したんです。
青木:そうだったね。
土田:もともと、この物語はすごく個人的な話だったんです。僕は劇団を30年やっているんだけど、15年目くらいの時に、劇団員たちとうまくいかなくなっちゃった時があって。長く一緒にやっていると色々あるじゃないですか。言葉を選ばずに言うと「何かあった時、お前らは俺を見捨てるんだろ」みたいな恨めしい気持ちで書いた作品なんです。
山西・石田:へーーーー!
土田:今後劇団を続けていくために、と本当に個人的な思いで書いたものだったから、それが劇団以外で上演されて、普遍性を持っていることがうれしいですね。5人のアンサンブルが大事な芝居なので、今回のメンバーでどうなるのか楽しみです。ちなみに劇団でやった時は、すごくお客さんが笑ってくれた日と、全くウケなかった日があったんです。
山西:アハハハハ、そうなんだ。
山西惇
土田:客席が静かすぎて、本当に客いる? って劇団員に聞いたくらい、
青木:でもそういう日ってあるよね。
土田:5人のアンサンブルが生み出す笑いだから、何かがズレちゃうと取り戻せなくなっちゃうんだよね。
石田:開演してすぐに、いい波に乗れるといいってことですね。
青木:ウンウン。
土田:だからこそ、役者が笑いを狙っていくとしんどくなると思います。
山西:そうだなぁ。
土田:青木さんとは、お笑いの石田さんがいるから、漫才のテンポくらいスピードがあっていいんじゃないの? って、話してたんです。丁寧にセリフを言いすぎると、しんどいと思う。
青木:最初の本読みの時にかかった時間は、土田さんに言われた目標タイムに限りなく近かったから、大丈夫だと思うよ。
山西:1時間40分くらいでしたよね。
土田:だいたいそれくらいがちょうどいいと思います。
山西:確かに、リズムがすごく大事な芝居だなって思いますね。なるべくテンポよくしたほうがいい。土田君のホン自体が、役者がセリフを喋って、心情が動いて、次のセリフを喋って……とじっくり時間をかけて演じるのはちょっと違うものなんですよね。
土田:そうです。自分が演出する時はいつも、ダイレクトにパスしてくれって言ってます。セリフを深刻に一回飲み込まれちゃうと、ニュアンスが変わってしまうから。
(左から)青木豪、山西惇、石田明(NON STYLE)、土田英生
石田:反射神経でやる感じですかね。
土田:一言ずつ考えすぎると、どんどん長くなるよ。
山西:セリフの応酬でだんだんと生まれてくるものを見せたい芝居だから。
土田:山西さんには20年以上前に1回ホンを書かせてもらってますから。さすがよく僕のことをご存知ですね。
山西:とにかくセリフを回していくことを大事にしたいですね。この間稽古で、みんながわーっとセリフを言っている時に、玉置君が「あれ、急に分かった気がする」というようなことを言ってました。
青木:独特のセリフのリズムがこの戯曲の面白さだよね。だからこそ稽古をすればするほど面白くなる。
山西:しかも、タイトルがまたいいよね。
土田:まじっすか! ありがとうございます! あんまりお客さんウケが良くないともっぱらの評判なんだけど。
山西:どんな物語か、ちょっと分かりづらいタイトルではあるもんね。
石田:最近は、タイトルだけで全部わかるくらいの方がウケますからね。なんで『相対的浮世絵』ってタイトルにしたんですか?
土田:「浮世絵」は物語のテーマでもある現世という意味。自分の個人的な恨めしい気持ちから、この物語を書いたけど、みんなにも言い分があるだろうなってことで、みんなの、という意味で「相対的」、合わせて『相対的浮世絵』にしました。
石田・山西:なるほど!
青木:じゃあ、これ分かりやすいタイトルをつけるとしたら何になるの?
青木豪
土田:『僕はお化けじゃない』ですね。
一同:アハハハハハハハ!
土田:実は昔、この作品を映画にしようっていう企画が出たことがあって。結局映画化はしなかったんですが、その企画書にあったのが「僕はお化けじゃない(仮)」でした。
石田:一気にポップな感じになりますね(笑)。
ーーたしかに“お化け”が鍵を握る物語ですね。今生きている人、死んでいる人との対話が、この物語の大きなテーマだと感じます。
山西:最初にこのホンを読んだ時、東日本大震災を意識せざるを得ないな、と感じましたね。
土田:僕の個人的な感情から書いた物語が、震災にも紐付けられることになるとは。
青木:普遍性がある物語なんでしょうね。シェイクスピア作品のように時代が変わっても受け入れられるし、お客様がいかようにも取れる物語なんだと思います。震災を思い出す人もいると思うし、そうじゃない人もいると思う。門戸が広い物語ですね。
土田:身近な人を亡くした経験があれば、その記憶を思い出すかもしれない。ちなみに今の僕は、連絡を取っていなかった昔の友達から、しつこく何かを頼まれて、ちょっとめんどくさいな……って気持ちを、この物語から思い出しています(笑)。
石田:観る人によっていろいろなことを感じていただけそうですね。
山西:そういえば、今回の舞台セットも、お化けが出そうな感じを意識してるんですか?
青木:そうだね。能舞台みたいにしたかったの。上手の奥に松の木があって、幽霊が出てきそうな感じで。
土田:それで下手側が橋掛りみたいな感じなんですね。僕がやった時は、そこまで考えずに上手に通路作っちゃったよ。
土田英生
ーー最後に読者の皆さまにメッセージをお願いします。
青木:今回、役者さんの出自がバラバラなので、戸惑われている方も多いと思うんですけど、皆さん違う持ち味があるからこそ、いいアンサンブルを生み出しています。山本君や伊礼君は歌わないの? とか、石田さんってお笑いの人でしょ? とか、山西さん、玉置君が出るなら真面目な芝居なのかな? とかファンの方は気になっていらっしゃるかもしれませんが、とにかく1回観に来てほしいです。1回観たら何度も反芻できる、家に帰ってからも考えさせられるような内容の芝居です。思い切って劇場にいらしてください。
石田:稽古をしていると、生きてたら取り返しがつくんだなって思うんですよね。誰でも、悩むし、何かから逃げたい衝動に駆られることってあると思うんですけど、生きてたら結構なんとかなる。どれだけ悩んでもゴールはあるんだなっていうこと、人間ってアホだなってことを、僕はこの作品から感じます。悩んでいる人も、この舞台をみて、人生ってなんだかアホだな、結局自分はアホの一部だな〜って、肩の荷が降りるんじゃないかなと思いますよ。
山西:中年に差し掛かっても悩みを抱えている人と、先がないから悩むこともしなくなった人たちの対比を見てもらいたいです。劇中には青春というワードが何度も出てくるんですけど、青春って悩み多きものですよね。結局生きるってずっと悩み続けるってことなのかな、ずっと青春なのかなと思ってもらえるんじゃないでしょうか。人が悩んでいるのをみると、自分の悩みもそんなたいしたことないなって思えることもあるじゃないですか。そんな演劇の効用を体験しにきてほしいですね。と言いつつ、決して重苦しい内容ではないので、軽い気持ちで来てくれたらいいなと思います。
土田:自分を認めること、相手を受け入れることって大事だなって、改めてこの作品について思いました。僕はこの戯曲を書いた頃、勝手に世間の期待に応えようとしたり、できない自分が受け入れられなかったりして、しんどかったんです。自分が楽になるために、自分と相手を受け入れるって大切なことだと思うので、悩みがある人に観に来てほしい。誰もが受け入れられなくて悩んでいることの一つや二つあると思いますからね。
(左から)土田英生、石田明(NON STYLE)、山西惇、青木豪
取材・文=永瀬夏海 撮影=iwa

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