明日のアー×テニスコート対談〜「控
えめに言って、普通に、最高の出汁が
出る出るアー」

2019年11月、渋谷のユーロライブを舞台に、テアトロコント specialと題して『最高のアー』と『出汁が出る出る』というふたつの作品が上演される。前者は明日のアーの、後者はテニスコートの舞台公演だ。コントと演劇のボーダーを標榜する「テアトロコント」は月例で開催されているが、単独special公演が立て続けに開催されることは珍しい(なお、両公演はセットで割引購入することもできる)。
そこで今回、各公演を行う明日のアー主宰・最高記念室の大北栄人と、テニスコートの神谷圭介、小出圭祐、吉田正幸による対談を実施。「お笑い芸人でもなく、さりとて演劇畑の出身者」でもない同年代の二組に、互いの印象から、笑いと演劇について、コントのつくりかたまで幅広く語ってもらった。
小出圭祐(テニスコート)、大北栄人(明日のアー)、神谷圭介(テニスコート)、吉田正幸(テニスコート)
おれは今年からコントをやることにした
――今回は、チケットのセット販売も行われています。販売直後から好評ですね。
神谷 そうなんですか?
大北 好評ですよ。検索すると「このふたつをセット、それはいくでしょ」的な感じで。今回のタイトル(『出汁が出る出る』)は、どうやって決まったんですか?
神谷 みんなで候補を上げていって、最終選考に3つくらい残るんですけど。
大北 そんなトーナメント制みたいのがあるんですね(笑)。
神谷 揉めに揉めて、選ばれた最終候補じゃなくて、その場で出てきた「出汁が出る出る」に決定しました。かわいそうですよね。最終候補に残った3つ(のタイトル案)が。
小出 次また、出てくるんじゃない?
神谷 そうか、また声がかかる可能性もあるのか。
吉田 逆に、明日のアーはどうやって決めたんですか?
大北 本音の部分ですね。今年は最高のやつにしようって。結果的に「おいしい牛乳」みたいになった(笑)。だけど、オムニバスのコント公演なので、毎回タイトル付けるのって、よくわからないですよね。
神谷 たしかに。ぼくらも明日のアーもオムニバス的にコントがあるけど、一応コントの公演として全体で塊感のあるものにするっていう状態は近しいですよね。
大北 めちゃくちゃ近しい。コントの作り方が違うな、くらいですかね。
大北栄人(明日のアー)
神谷 明日のアーは、最初からカルチャー系のライターさんとか音楽のひと、デザインやイラストのひとが(演者として)出てきて、それを締める形でプロの俳優さんもいる――あれも相当、意図的ですよね?
大北 そうですね。なんか身の回りのひとでやることが大事なのかなって。ぼくは35(歳)くらいではじめたから、いろんなことが恥ずかしくて。
神谷 いきなり知らない人を呼んでもね。
大北 俳優さんを集めて「私が台本を書きました。さーやりますよ」って無理ですよね。
神谷 たしかに。
大北 周りのひとに「おれは今年からコントをやることにした」とか言ったら。
神谷 「どうした?」ってなっちゃいますもんね。八木(光太郎)くんは最初から?
大北 ではないですね。
神谷 大北くんも参加してくれた『テニスコートのコントリミックス 大交流会館』に出てもらったけど、めちゃくちゃいいですよね。なんて言ったらいいんだろう……。
吉田 声が大きい。
神谷 そう、すごい声が大きいんですよ。
大北 明るいんですよね。
小出 喜劇って感じの。でも、ニュアンス(のお芝居)もできる。
神谷 「すっごい便利」って思った。
小出 便利(笑)。
神谷 このひとがいたらコントになるなって。どこに出しても恥ずかしくないひとだよね。だって、すごい声が大きいんだもん。
大北 自分たちのことを振り返っても、八木くんがいないと別に面白くないなってことが結構ありますね。
神谷 ぼくらもそうだけど、大北くんのネタって「これが“おもしろ”なんだ」ってことを書いても、それを伝えきってくれる演者じゃないと観客に届かないじゃないですか。八木くんは、その“おもしろ”に分かりやすくマーカーを引いてくれて、強烈に押し出してくれるから。微妙なネタほど必要な存在。
大北 「大八木くん褒め祭り」ですね。
神谷 八木祭り……八木祭りって響きもいいじゃないですか。
大北 八木節っていうのはあります。
神谷 八木節と言っていいくらい大きい声ですもんね。(小出さんと吉田さんの方をみて)まだ八木くんの話を続けていいの? 違うのにする? じゃあ、明日のアーに出会ったキッカケを話そうか。
神谷圭介(テニスコート)
先輩風を吹かせたい
小出 ぼくは、あれですね。昇悟と純子(昇悟と純子「evergreen」)から。
神谷 昇悟と純子は、ぼくも観ました。それとは別に、どうしても行きたかった公演が自分の本番で観れないときに通し稽古だけ観させてもらったこともあって。それがね、すごい楽しそうなの。現場がワイワイしてて、なんか文化祭のような雰囲気で。
吉田 その楽しそうなのは、悔しかったわけ?
神谷 羨ましいとは思ったよ。
吉田 だから、その方がいいって言いたいの?
神谷 どうしたの? なんなの?
吉田 ……急に、対立構造をつくりたくなる。
神谷 ああ、そういうことね。下手だよ! だとしたら。
吉田 同時期にユーロライブでやるなら……なんかそういう方が盛り上がるんじゃないですか?
大北 じゃあ、いままでの話は一旦なしにして。
神谷 一言目から対立してたほうがいいってことね。
吉田 「負けねーぞ」みたいなほうが。
小出 まさかの仲が悪かった説を生む。
神谷 無理やり? 大交流したあとに? なぜ、そんな茶番を(笑)。
吉田 だから、白黒つけるために11月に(公演を)ぶつけてきたんでしょ。
神谷 じゃあ、なんでチケットをセットで売ってるんだ! だいたい明日のアーはすごい人気あるからな!
吉田 そうでしょ。
神谷 集客でカウントしたら無理だよ。
吉田 だからこそ、やっぱり白黒つけないと。
神谷 ステージ数はどれくらいですか?
大北 6ステージで(舞台の)前をつぶして148席かな。
神谷 同じだ!
吉田 前、潰しちゃう?
神谷 それは潰すよ! 明日のアーはいっぱい出るんだから。
吉田 じゃあ、こっちは潰さない。
神谷 そっちが(舞台を)張り出すなら……。よし、俺らは潰さないでやるぞって。
小出 やりづらくなるだけ(笑)。
神谷 でも、明日のアーがユーロライブでやるのは初なんですよね?
大北 テアトロコントはありますけど、劇場で本公演をやるのが初なんですよ。
神谷 あそこは映画館だから、(空間が)縦に長いじゃないですか。目の前の温度感とか空気感が出やすい場所に比べると、後ろだとかなり冷静にネタを見るみたいになってくるんですよね。
吉田 「ユーロライブは、そんな甘いもんじゃねーぞ」ってこと?
大北 先輩からのアドバイス(笑)。
神谷 でも、明日のアーは“現れた感”がすごかったですよ。いろんなカルチャーを押さえてるし、うまい見せ方もしていて、面白そうだし。結構、トントン拍子に大きくなってる印象だよね。
吉田 ぼくは、芽を潰しておこうとは思ってたね。
神谷 そうか、そうか。
吉田 ただ、潰そうと思ったときには(自分たちが)抜かれてた感じもあるんで。
吉田正幸(テニスコート)
神谷 「気に入らないな。潰しとこうか」って言っても、まず潰す術がないからね。こちら側に。
一同 (笑)。
神谷 その力がない。逆に大北くんは、テニスコートをなにで知りました?
大北 名前はだいぶ前から知ってましたよ。ただ、なかなか観る機会はなくて。
神谷 ルーツでいうと関西じゃないですか。
大北 そうですね。こっち(東京)に来てから「男子はだまってなさいよ」(細川徹が2002年に立ち上げたコントユニット)とか面白いなと思ってて。ほかになんかないのかな、みたいな流れで名前をみた気がします。
神谷 でも、そのときってぼくら、ほとんど知名度ないですよね。一回調べたくらいじゃ出てこない。
大北 はっきりとコントを観たのはYouTubeでしたね。テープカットするやつとかを観て、ぐわぁーって笑いを取りに行くんじゃなくて、センスを大切にしている。この感覚はわかるなって思いました。
神谷 ぼくらはお笑いも好きだけど、お笑い芸人の方とは違うコントのラインをどうしても意識しちゃうので。「コントやってるんです」って言うと「ああ、芸人さんですか」って言われるけど、「いや、お笑い芸人さんではないんです」ってわざわざ言わなきゃいけないことが多くて。そこの言い方って用意してますか?
大北 あー用意してないですねぇ。
神谷 お客さんにとってはどっちでもいいし、関係ないんですけどね。
大北 芸人さんらのコントを観て思うのは、彼らは万人を対象にしないといけなくて。そうなってくると、ちょっと物足りない。ぼくは、「自分の面白いとこだけやりたい」みたいな感じでやってますかね。
神谷 でも、やってる間に「ここもうちょっとウケたい」とかも出てきたりするじゃないですか。
大北 そうですね。結局、劇場に行くともっとウケたいになってくる。
神谷 20代の頃、吉田君が「それやるとちょっとウケすぎちゃうな」って言ったことがあって。
吉田 (小声で)カッコいい。
神谷 そんとき「なに言ってんだろ、こいつ」って思ったんですけど。
吉田 (より小声で)カッコいいねえ。
神谷 言ってることの意味は、わかりますよ。でもね、そういうやつじゃなかったんで。なんか……。
吉田 カッコつけてた?
神谷 カッコつけてたね。
大北 それ、ただの悪口じゃないですか(笑)。
神谷 ほんと自分たちを説明するのが難しい。そういうときって言わない方がいいのかね? 大北くんは作家って感じがしますよね。
大北 ひとに聞かれたら「コントをやってます。友だちと」とかにしますかね。プロではないですよって匂いを出しますね。
小出 アマチュア…アマ。
神谷 (小出さんを見て)なんですか?
小出 アマチュア、です。
神谷 とは、言ってないでしょ。
小出 (笑いをかみ殺しながら)どうぞ。
小出圭祐(テニスコート)
大北 でも、アマチュアみたいなもんですよ。お笑いのプロフェッショナルは万人を笑わせて、そこでお金をもらって暮らしていくイメージがあるから。ぼくらはみんなそれぞれ別に仕事があって、コントの研究をしてるような感じですね。
小出 お笑い芸人と一緒にみてもらえるなら、それはありがたいけど。「研究してます」くらいの方が気持ちはいいですね。
大北 そうですね〜。ほんと、研究会ですよね。
神谷 実はコントって誰がやったっていいものだから。芸人さんじゃなくたっていいとは思うんですけどね。
明日のアー写どうしようかな
小出 だいぶ前に「リトル・モア地下」ってギャラリー兼劇場みたいところで連続公演をやったことがあって。
神谷 担当の方がね、いろいろ広めてくれたんだよね。
小出 そう、演劇ライターのひととかを呼んでくれて。
神谷 ぼくら、まずその機能がなかったから。広める術がわからなかったのもありますし、単純に単純に照れてたのかな?
吉田 照れも、ありますね。自信もないし、そもそも友だちが少ない。
小出 そのせいでノルマ制をやめたもんね。
神谷 もともとやってないけどね。
小出 やってないか。
大北 ふふふふふふ。
神谷 あなた、ひとり、ふたりも呼ばなかったでしょ。
小出 そうなんですよねぇ。誰も呼べなくて。チケットを渡されるんですけど、いまでもまだ保管してます。
一同 (爆笑)
神谷 それは“記念”だよね。でも、「売れようとしてないですよね」とか「どこに隠れてたんですか」とか言われたりするけど。別に隠れてないし、普通にやってたんですけどね。どうしてます? 売り方とか。
大北 ぼくはこう言っちゃなんですけど、メディア側に近い人間なので。
神谷 そうか、そこはうまく発信する術が。
大北 多少は。でも、「これをやっておけば大丈夫」みたいのはなくて。35(歳)からはじめたことなので大人の思うやるべきことはやるって感じですね。
神谷 たしかにぼくらは学生のときからやってたから。「いつか評判を聞いてすごいひとが集まってきたらいいな」とか思ってた。だから、宣伝を頑張るのはなんかカッコ悪いんじゃないかって。そのまま、なんの反応もない暗闇に石を投げ続けて……。
小出 社会を知らなかったってことだね。
吉田 いまだにね。
神谷 明日のアーは業界視聴率が高そうなイメージがあるんです。発信力も強そうだし。ぼくらのお客さん、あんまりつぶやかないので。
吉田 そこがいいよね。
神谷 そうね、秘めておきたいっていう。
小出 奥ゆかしさ。
大北 アンケート用紙にも「感想はツイッターに」って書いてますし、はじめたときにはインターネットがあったから。
吉田 明日のアーは検索するとすぐに出てくるけど、テニスコートは検索しづらい。
神谷 名前を考えるときに、検索しやすいみたいなことは意識したんですか?
大北 いやいや、そんなことないです。ツイッターで明日のアーって検索したら、「明日のアー写どうしようかな」っていうのばっかり出てきますから。でもそれ、全部チェックしてますよ。
神谷 すごい(笑)。自分の名前を検索したら、そんなやつらがわんさかつかまるんだ。
大北 こんなに明日のアー写を気にしてるひとがいるのかって思う。
神谷 ぼくら、ただただ全国のテニスコートが出てくるだけですけど。
大北 自意識と向き合ってますね。ずっと。
神谷 でも、それめっちゃいいですね。だって、わざわざツイッターで言うんでしょ。「明日のアー写どうしようかな」って。
小出 (半笑いで)それは、でも言いたいでしょう。
神谷 どうした?
大北 小出さんもそのなかにいたかもしれない(笑)。
吉田 そういう形で(明日のアーを)妨害してた?
小出 あ、ぼくがね。
神谷 でも、バンドのファンはうれしいのかな。
小出 そうそうそう。活動してるんだって思うでしょ。最近ライブないけど、アー写は撮るんだなって。
神谷 それ、皮肉だけどね。
左から:大北栄人(明日のアー)+テニスコート
控えめにいって『最高のアー』
大北 若者言葉みたいのって使います? kemioとかEXITとかが使う「ブーン」とか、ああいうの。どんどん生まれるじゃないですか。
小出 「ブン・ブン・ブン」とか。
大北 「Pon!Pon!Pon!」とかも。自分が普段から使わない言葉は書けないってあるじゃないですか。
神谷 演じられるひとがいればなんとかなりそうですけどね。若者言葉かぁ。
小出 あ、じゃあ「控えめに言って」ってどうですか?
大北 あれはツイッター言葉ですよね。
小出 あと、「語彙力が」って。あれは誰が言い出したんですか? 褒めるときですよね。「控えめに言って」って。
大北 「控えめに言って神」とか。あれもネットミームな気がします。
吉田 一旦、自分を下げておいて。
神谷 「控えめに言って」って、すごい上から言ってる感じに聞こえるけど、どうなんすかね? そんなことない?
大北 「最高」の修飾語じゃないですか。最高を更に上げるには自分が下るしかないみたいな。“土下座スコップ”みたいなもんですよ。
小出・吉田 (ハモりながら)土下座スコップ?
神谷 写真集でヌードになってもらうためのスコップですよね。
小出 え?
神谷 有名なひとですよね。ヌード写真集を出したいがために、土下座では足りないから、地面よりも低いところに頭をもっていくために穴を掘る。でもそれ、土下座じゃないですよね。穴に頭を入れるひとですもんね。
大北 そうですね(笑)。
吉田 えっ実際にいたの?
神谷 いたんだって、有名な(女性を)脱がす人が。
吉田 誰が掘るの? アシスタント?
神谷 アシスタントに掘らせて、じゃあ行くかってやつもいやでしょ。
大北 「控えめに言って」は、そういう最高をさらに持ち上げるために、みんなが編み出した技じゃないですか。
小出 「普通に」っていうのも、その流れで言いますよね。
神谷 より強めてるよね。でも、それは「思ってたより」でしょ。だって、「普通に」って言うのは、「自分で見積もってたよりは上だったよ」って言い方だと思うんです。「控えめに言って」にも、ちょっとそれを感じるんです。そのひとのいまある価値基準みたいなものを提示してきてる感じがちょっと気持ちわるいなって思っちゃうけど。
小出 使いづらくなっちゃうね。
神谷 そうだねぇ。でも、控えめに言っていく?
小出 え?
神谷 この取材も。でも、大北くんは『最高のアー』って言ってるからね。全く控えてない。
大北 そうですね。「控えめにいって『最高のアー』」だと、いまっぽいんじゃないですか。
大北栄人(明日のアー)
神谷 相性がいい枕言葉ですね。あと、この段階で言えることってなんだろう。
小出 ぼくらの? 内容?
神谷 大北くんはある程度言えるんじゃない? いまもう、だって稽古も始まって。
小出 えっやってるんですか?
大北 いや、一回読み合わせただけで。あとは愛知の。
神谷 そうか、これからトリエンナーレがあるのか。大北くんはライターでもあるし、「したコメ(したまちコメディ映画祭)」もやって、トリエンナーレにも出るわけでしょ。球の出しどころがいろいろある気がしますね。
大北 ネットでずっとギャグをやってたんですけどね。
吉田 ネットでギャグ?
大北 笑わせる記事を書くのって、ネットでギャグをやってるようなものじゃないですか。
神谷 それをナマモノでやりたいみたいな意志があっての、舞台?
大北 というよりかは、もともとコントをやりたいっていうのがあったんですけど。普通の人間がコントをやるって言ったら、やめとけってなるじゃないですか(笑)。
神谷 たしかに。まず親はとめますよね。「やめなさい、みっともない」って。
大北 入れ墨をいれるようなものですよ。でも、ネット上でギャグを書いたり、映像でやったものがウケたりして。これが受けるなら生でやってもいいなって。
神谷 そうか、映像をかませた上での舞台。そういう確認、確認でタトゥー入れ始めたんだ。
大北 そうですね。やっぱり(コントをやり始めるのは)大ごとですよ。
神谷 (メンバーふたりに向けて)ぼくら、タトゥーだらけでしょ。それで言ったら。
吉田 えっなんの話?
神谷 いや、あの、タトゥーは例えで言ったんだけどね。
ぼくらも、おもしろビデオを撮ってましたね
吉田 でも、ぼくらも映像は撮ってましたよ。
神谷 たしかに。ぼくらも一回映像から入ってる。なに? やり合いたいの? 言ったら、大北くんは「したコメ」で賞を獲ってるからね。
吉田 (声のボリュームを上げて)僕らだって!
神谷 なんか取った?
吉田 おもしろ映像、撮ってたんですよ。
神谷 僕らだって、おもしろ映像……おもしろビデオを撮ってましたね。
吉田 撮ってた時期があるんですよ。
神谷 大事なひと夏を無駄にした記憶がありますね。
吉田 なんかある? 言えるような。
神谷 言えるようなものは、ないですね。
吉田 ないかぁ。なんにもない?
神谷 ないです。
吉田 あっでも、映像に出てくれたひとが直木賞を獲った。
神谷 あー最近ね。それも本人、絶対言ってほしくないと思う。
吉田 たしかにね。
神谷 邪魔でしかないでしょう、そんなの。
大北 ふふふふふふ。
神谷 でも、たしかにあるのかも。映像かませてからコントやるっていうのは。
小出 コントやりだしたのは、やっぱ、ちょっと我慢できなかったからですか?
大北 あー。
神谷 映像をやってみてガマンできなくなったんでしょ。再生ボタン押して、あとは観客の反応だけみてるのが耐えられなくなったんじゃないですか?
大北 3人はそのへんが出自だったんですか?
小出 美大に入ったら、自分たちの作品をつくるじゃないですか。それで自己顕示欲を満たせられると思ったけど、満たされず。映像にちょっと出てみても満たされず。じゃあ、もう出るしかないみたいな。
小出圭祐(テニスコート)
神谷 展示とかしても、あんまり手応えを感じられないかったかもしれない。だったらコントやってたほうがね。
大北 ボケると気持ちいいですよね。
神谷 最初に通し稽古を観に行ったときに、大北くんもちょっと出てたじゃないですか。出るって知らなかったから「自分でもやるんだ」と思って。そんなたくさんはでないけど。でも、必ずどこかしらは出てるじゃないですか。
大北 そうですね。出演者に「お前、向こう側で楽してんじゃねーぞ」って思われたくないからで。
神谷 ちゃんと自分も生身で舞台に出ることを課してるんだ。
大北 そうです、そうです。ただ、あんまり出ちゃうと演出ができないので。
神谷 たしかに。演出して一歩引いて観るっていうね。
大北 そういう感じでやってますね。
神谷 ぼくら、全員出てるから。誰も観るひとがいなくなっちゃうんですよね。
大北 どうしてるんですか? 客観的な視点は。
神谷 最近は、構成に入ってくれる方に引いて見てもらってアドバイスもらったりとかですかね。
小出 でも、全然動きとかはあんまり決まらないよね。
大北 『パリドライビングスクール』でいうと、山口さんが尿瓶を持ってたあの動きはどうやって決まっていったんですか?
神谷 あれは(ジェスチャーを交えて)ぼくがこうやってくれって言って。ほんとは水をこぼしちゃいけないステージだから、マイクに対する距離感にめちゃくちゃぼくが気を遣いながら。
大北 えっ水が入ってたんですか?
神谷 そうすね。
大北 めっちゃ怖いな(笑)。
神谷 どう溢れるか、読めなかったんで。
小出 でも、こぼれたほうが面白いからね。
神谷 そこは、ほんとにハラハラしてた。演出って難しい。
小出 テクニックが、当たり前だけどありますよね。
神谷 テクニックなの?
小出 いや、だって引き出すわけでしょ。
神谷 引き出すんですか?
大北 いや、ちょっと待ってください。ぼくに関しても、テニスコートに関しても、演出を語る言葉はないと思います。なんとなくしかやってない、我々は(笑)。
吉田 たしかにね。
神谷 でも、聞いてみたいよね。すごい演出家だらけの。
吉田 演出家だらけ?
小出 水泳大会。
神谷 これは、そろそろなくなってきたかな。しゃべることが。
小出 あ!
神谷 ん?
小出 別にしなくてもいい話だけど。演出家のひとって、そのときに集めた役者さんで、コミュニケーションも取ったことないひとたちで感じを……その……やり取りを(我慢できずに吹き出す)。
神谷 (笑いをこらえながら)なんで言いたくもないのにその森に入った? 迷子になるってわかってて。
神谷圭介(テニスコート)
お味噌汁とかを飲むと「あー」って言っちゃうっていう
大北 『出汁が出る出る』は、ほんとに決まってないんですか?
神谷 そう、ですねぇ……。
吉田 でも、出汁について調べたんじゃないの? リード文を書くために。
神谷 小出くんがリード文を書いてきたんですよ。
小出 最近、お味噌汁とかを飲むと「あー」って言っちゃうっていう不満を。不満っていうか。
大北 疑問?
神谷 お風呂はいったときの「あー」とおんなじ? あ、でもこれそうか「明日のアー」は、恥ずかしいことを思い出しての「アー」ですよね。布団のなかでつい叫んじゃう「アー」ですよね。
吉田 あっじゃあ「あー」対決じゃない? これは。
吉田正幸(テニスコート)
大北 あはははははは。吉田さんの煽りがすげえ(笑)。
神谷 いや、だから、もともと「アー」なんなんだよ!
小出 いや、まあ、そういうことを書いたんですけど。ただ、出汁について調べたらめちゃくちゃ奥が深いじゃないですか。
大北 そっちにいっちゃった。
小出 そこに触れずにただの実感だけを書いた。ま、深いところはコントで触れればいいかなと。別にリード文は変えてもいいんだけどね。でも、最近すごい言っちゃう。
神谷 お味噌汁を飲んだときに?
小出 お味噌汁に限らず、スープとかで「あー」とかって。
神谷 その声、よく聞くね。
小出 でしょ! でも、すごい嫌がられるんですよ。
神谷 それ、自然に出てるんだと思うんだけど。すごく嘘くさいのよ。何口も飲むたびにいうから。
吉田 ふふふふふふ。
神谷 なんか、そういうふうにふざけてるのかなって。
小出 いや、ほんとに沁みてるんだと思うよ。
神谷 そっか、沁みてるのね。
小出 自分でも意識はしてないから。
神谷 そっか。
小出 おじさんになるとくしゃみの音が大きくなるのとか。
吉田 その後の反応も。
小出 「チクショウ」みたいな。
神谷 反動ね。あと、なにかコメントが一個入るみたい。あれ、おじさんだから入るの?
吉田 だから、言ってたじゃん。
神谷 音がでかくなった勢いで出だしちゃうんでしょ。音を利用して。
吉田 いや、違う違う。腰が痛くなるからじゃない?
神谷 あ、逃してるんだっけ? そっか。全部自分で受けちゃうと体に負担がかかるから外に出すために。
小出 あとは『夢がMORI MORI』なんじゃないか、と思ったね。
大北 なるほど! そこかー。
小出 それは、ちょっと知らないだろうなって。
神谷 若い子がね。でも、『出汁が出る出る』と『夢がMORI MORI』って、並ぶとすごくいいね。
小出 そういう内容になると思いますね。
神谷 そんな……そんなこんなで。
大北 めちゃくちゃ長く喋っちゃいましたね。
神谷 ねえ。ほんとに必要だったのって、この1/5くらいですよね。
——長く喋っていただいたおかげで5パック分の出汁が出ました。
神谷 じゃあ、まあよかったのかな。
前列:大北栄人(明日のアー)、後列:テニスコート
取材・文=金井悟  写真撮影=中田智章
【明日のアー プロフィール】Webライター/動画制作の大北栄人がコントを書いて友人たちが上演するユニット。一般市民が出てきて一般市民的視点のコントを繰り広げます ※アーは思い出しアーのこと。ロゴは花池洋輝(左右)作
【テニスコート プロフィール】神谷圭介、小出圭祐、吉田正幸の3名からなるコントグループ。「テニスコートのコント」と題した自主公演を開催する他、書籍・雑誌などにイラストや文章の提供も行う。NHK Eテレ「シャキーン!」に構成作家として参加する傍、たまに出演。近年はテレビ東京深夜放送の「びしょ濡れ探偵 水野羽衣」の脚本に参加するなどドラマの脚本も執筆。

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