成河が語る、村上春樹×インバル・ピ
ント×藤田貴大『ねじまき鳥クロニク
ル』 ビジュアル撮影レポートも

『海辺のカフカ』『神の子どもたちはみな踊る』と、これまで村上春樹の小説2作品をそれぞれ舞台化してきたホリプロの企画・制作で、村上春樹舞台化シリーズ第三弾『ねじまき鳥クロニクル』が2020年2月に上演される。三部作に渡る長編小説の舞台化というだけでもビッグプロジェクトだが、今作のクリエイティブスタッフとして、イスラエルの世界的演出・振付・美術家であるインバル・ピント、同じくイスラエルの劇作家・演出家・ドラマターグとして活動するアミール・クリガー、自身の劇団「マームとジプシー」のみならずその活動の幅を広げる注目の若手脚本家・演出家である藤田貴大、NHKドラマ『あまちゃん』『いだてん』など映像作品の劇伴をはじめ音楽家として多彩な活躍をする大友良英、とその名前を見ただけでも期待と興奮が押し寄せる面々がずらりと並んでいる。
キャストも個性派揃いだ。演技力・歌唱力・身体性を兼ね備え、ストレートプレイからミュージカルまで多岐にわたって活躍する成河、ロックバンド黒猫チェルシーのボーカルにして、映画やドラマ、舞台等で俳優として主演もこなす渡辺大知、来年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』でヒロイン役が決定しているなど、数々の話題作で独特の存在感を発揮している門脇麦ら若手実力派たちに加え、吹越満、銀粉蝶といったベテラン俳優も名を連ねる。
これだけの強力なメンバーが揃った今作品、一体どのような舞台になるのだろうか。この物語の主人公・岡田トオル役の成河に話を聞いた。
インタビュー前に、ビジュアル撮影を見学した。成河は黒づくめの衣裳に、黒いメイクを施し、「闇」や「影」を連想させるような見るからに人間界の存在ではない風貌で登場した。
ビジュアル撮影の模様
ビジュアル撮影の模様
撮影スペースには、透明のアクリル板がひざ丈くらいの高さに水平に置かれていた。直前まで、他の俳優がそのアクリル板の上に立った状態で撮影が行われていたので、成河も同様に撮影を行うのかと思いきや、「ではスタンバイお願いします」という声がかかると、なんと成河はそのアクリル板の下に潜り込んだのだ。寝転がってなんとか人一人が入れる程度の狭いスペースだ。成河が仰向けの状態で所定の位置につくと、そのまま撮影はスタート。アクリル板越しに上をのぞき込むような姿勢のまま、成河は手足を持ち上げ、アクリル板に触れるようにポーズを取る。かなりきつい体勢だが、成河はさすがの身体能力で安定したポーズをキープしながらカメラマンの指示に黙々と応え、撮影はスムーズに進行した。
ビジュアル撮影の模様

ビジュアル撮影の模様

続いて、ヘアメイクを変えて場所も移動し、立った状態での撮影が行われた。先ほどまでの異世界を表現した雰囲気から一転、素顔に近い状態になった成河だが、その表情は鋭さや暗さを宿したままだった。役柄によって毎回異なる空気をその身にまとう成河だが、この日はどこか人間ではない、美しく残酷なおとぎ話の登場人物のような耽美な空気感を醸し出していた。手足を大きく使ってしなやかに踊るように、次々と取るポーズには思わず見入ってしまう美しさがあった。
ビジュアル撮影の模様
ビジュアル撮影の模様
ビジュアル撮影の模様
撮影終了後、ほとんど休む間もなく成河はインタビューに応じてくれた。
一生モノの宝物をくれたインバル・ピント
ーー撮影お疲れ様でした。まずは、今作の依頼が来た時の率直な気持ちをお聞かせください。
2015年に『100万回生きたねこ』でインバル・ピント作品に出演して以来、インバルとのクリエイションはずっとやりたいと思っていました。今回は念願かなってようやくまた一緒にできるな、という思いと、でも大変だよこれ、という思いです。
ーースタッフもキャストもすごいメンバーばかりで驚きました。
現段階ではまだどうなるか誰にもわからないですけど、今ある情報だけで既にめちゃくちゃ面白いですよね。インバルと藤田貴大さんという、今まで誰も混ぜたことのないクリエイター同士を組ませるという、こういう組み合わせなら安心、ということではないところがすごくスリリングで今からワクワクします。
成河
ーー『100万回生きたねこ』でインバルの舞台に出演したときのことを教えていただけますか。
僕は野田秀樹さんに憧れて劇団で活動していて、そういうフィジカルなお芝居が好きでやってきたんですけど、インバルからはコンテンポラリーダンスの、より幅広く奥深い身体表現をみっちり教わりました。その時受け取った種を、フィリップ・ドゥクフレ演出のミュージカル『わたしは真悟』(2016年12月~2017年1月公演)という作品でも自分なりに応用して消化しました。インバルからは一生モノの宝物のような種をもらったので、それは会話劇でもどんな舞台でも豊かに使える材料だと思っています。
既成のジャンルを取っ払い、効率化よりもカオスの方へ
ーープロデューサーの篠田さんとのお仕事は、『100万回生きたねこ』『わたしは真悟』に続き、今回が3回目ですね。
篠田さんはいわゆる演劇のジャンルレスなものをずっと探求し続けて、日本でジャンルごとにそれぞれ部屋が出来てしまっているものを取っ払おう、という気概を持っている方です。効率を取るべきか、面白いカオスを取るべきか、というときに、篠田さんは比較的カオスの方を取ってきた人なので、今回も楽しみですね。
成河
ーー今作は「ミュージカル」「音楽劇」「オペラ」といった既成のジャンルにカテゴライズされない表現を目指すと伺いました。歌に関して言えば、成河さんはミュージカルにも多くご出演されていて、今回成河さんと二人で「岡田トオル」という一役を演じることになる渡辺大知さんはバンドのボーカルでもあり、それぞれ違うジャンルで歌う方面でもご活躍です。
音楽っていろいろだし、歌唱もいろいろだと思います。だから今回は何か一つのジャンルに閉じこもらずに、稽古をしていく中で日本語が持ってる歌唱の可能性、日本語で表現することの意味を探せたらいいなと思っています。インバルのいいところは、ジャンルの概念にとらわれず、いいものはいい、面白いものは面白い、と感じる一番大切な原理を彼女なりに持っているので、そこに僕たちがそれぞれに持っている様々な物をぶつけていけたら、本当に幸せな稽古場になるだろうなと思います。
未知数な部分を観客も一緒に楽しんで欲しい
ーー共演者には『100万回生きたねこ』でも共演された銀粉蝶さんはじめ、インバルの現場を知っている方も多くいらっしゃいます。
今回はインバル・ピントカンパニーの状況が変わったことも含めて、創作環境がガラッと変わるので、インバルの現場を知っている作り手も一体どうなるのか、恐怖しながら同時にワクワクしているような状態です。だから、お客さんも一緒にワクワクして待っていて欲しいですね。挑戦的な作品ではどうしても失敗を恐れちゃいますけど、30年後40年後の文化の根っこをみんなで作っていかなければならないわけですから、そこは観客も含めて一蓮托生で「手伝ってくれ、お客さん!」という思いです。僕としては、そういう環境の中で吹越満さんと共演できるのがとても嬉しいです。

成河

ーー吹越さんとの共演は初めてですか?
吹越さんはサイモン・マクバーニー演出の『エレファント・バニッシュ』に出演していて、僕が同じくサイモン演出の『春琴』に参加しているので、サイモン繋がりでよくお会いしていたんですが、共演は初めてなんです。吹越さんとは、カオスでクリエイティブな現場でご一緒したい、と思っていたので、それがこんなにストレートな形でかなうなんて思ってもいませんでした。
ーー吹越さんは映像でもご活躍されていますけれども、素晴らしい舞台俳優ですよね。
日本のフィジカルシアターの文脈において大切な存在ですから、吹越さんが持っている“宝”の数々をおすそ分けしていただきたいと思うし、一緒に考えたいと思います。今回、頼もしくて頭のいい、考えるのが好きな人たちが集まっているんですよ。正直言って考えるのなんて面倒くさいから、一週間で嫌になると思うけど(笑)。でも、そこからが勝負なんです。その先に行きたいから考え続けるんです。
ーーでは、最後に公演を楽しみにしている皆様にメッセージをお願いします。
どういう作品になるのか、その未知数な部分を楽しんでいただきたいなと思います。ミュージカルだとか、台詞劇​だとか、コンテンポラリーダンスだとか、そういうジャンル分けについて考えたりせずに客席に座っていられる時間を作るのが僕たちの仕事だと思うので、みんなで死ぬほど面白くしますから、ぜひ期待してください。
成河
取材・文=久田絢子 撮影=荒川 潤

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