高野 寛が『CUE』で示した
“虹の都”とは
アーティストとして理想郷だった

Todd Rundgrenプロデュース作品

その理由は後述するとして、まずは当コラムの主題でもある作品紹介をしていこう。「虹の都へ」が収録された3rdアルバム『CUE』である。現在までのところ、高野 寛作品で最高セールスを記録したアルバムなので、ある意味で代表作と言っても間違いではなかろう。単に売上が良かったから…というだけでなく、その内容もいい。それは“ポップミュージックの鬼才”と言われる世界的アーティストかつプロデューサーのTodd Rundgrenのプロデュース作であることもそうだが、そこにアーティストの意思がしっかりと感じられる点も音楽作品としてとても優秀だと思う。

本作はM1「I・O・N(in japanglish) 」から幕を開ける。グラムロックにも似たポップなギターリフが引っ張る8ビートのロックナンバー。1990年の作品ということを考えればドンシャリ感はいかんともしがたいものの、デジタルっぽいサウンドを融合させたニューウェイブ感にはこれから新しい世界が開けていくような印象があって、オープニングとして最良とも思える。シニカルさを孕んだ感じの歌詞もいかにもロックらしいのだが、この次がM2「虹の都へ」であることを考えると下記のフレーズはお見事。

《判らないことばかり 多すぎるみたい/現実にここにある 夢を見てみたい/つまらないことばかり 多すぎるみたい/現実にそこにいる 君を見ていたい》(M1「I・O・N(in japanglish) 」)。

《君と僕はいつでもここで会っているのさ/太陽しか知らない二人だけの秘密》《何を信じたらいいのかも/判らない時が来ていた/だけど僕たちは知っている/君を変えるのは君だけさ》(M2「虹の都へ」)。

M2「虹の都へ」の内容ともリンクしている。「虹の都へ」はCMソングに起用されたこともあってか、キャッチーなサビのメロディーが最も印象的ではあるのだが、Aメロでは比較的抑えめであるサウンドがBメロでロック的に展開して、サビで全体的にキラキラとした聴き応えになるアレンジも見逃せない。パーカッシブなリズムを重ねることで躍動感を増している点も確認できて、実によくできたポップチューンであると思う。

続くM3「やがてふる」はシングル「虹の都へ」のカップリングでもあった楽曲。個人的には、『CUE』というアルバムはここから本領発揮といった趣があると思う。「やがてふる」はメロトロンを使用したようなプログレッシブかつサイケデリックなサウンドから始まり、Bメロではボコーダーを使用していたり、イントロや間奏、アウトロでのメインのシンセに重なる雨音っぽい電子音(?)であったり、全体に世界観の構築が素晴らしい。派手さこそないものの、丁寧に奏でられるメロディーと、平素だからこそ奥行きを増している感じの歌詞との相性も良い秀曲である。

以後、リズムがわずかにボサっぽいAORといった面持ちのM4「Eye to Eye」は、メロディーの抑揚も独特で、なおかつコーラスワークもどこか幻想的なナンバー。3拍子のピアノから始まるM5「一喜一憂」は、逆回転あり、厚めの管楽器あり、アコーディオン(たぶん)あり、小鳥っぽい音ありと、音響ものと言ってしまうとかなり語弊があるが、サウンドメイキングの妙味がある。M6「DAN DAN」も同様。鈴っぽい音~ピアノ+ディレイとリバーブの深いコーラス+シンセと、折り重なっているサウンドが楽曲全体の雰囲気、カラーを決定付けている。歌詞の《一喜一憂》や《だんだん》のリフレインもそこにファンタジックな作用を及ぼしており、夢見心地にさせてくれると言っても大袈裟ではなかろう。

M7「幻」辺りで、本作はサイケデリックロックを意識したポップ作品であることが明白になる。M9「人形峠で見た少年」はフュージョンっぽいギターも印象的なのでそこまで中心的な役割ではないが、M7「幻」、M8「From Poltamba」、そしてM9とシタールっぽい音が聴こえている(ギターやシンセで出した音かもしれないが、その響きはシタールを意識したものであることは間違いなかろう)。しかも、M7はリズムもインド音楽風だし、M8はメロトロンが使われているようで、The Beatles中期を彷彿させるようなところがある。ついでに言うと、サイケだと思って聴くと、M10「友達について」はどことなくThe Beatlesの「A Day in the Life」っぽく思えてくる(ような気がする…個人の感想です)。コンセプトアルバムと謳ってはいないものの、「虹の都へ」「幻」というタイトルが象徴するように、本作では現実感のなさというか、夢や幻想へ誘うような仕掛けがほぼ全編に貫かれているのである。

たおやかなメロディーに電子音を合わせたM11「大切な「物」」。秒針を刻む時計の音が印象的なM12「化石の記憶」。ポップなブラスアレンジと実験的とも思える音使いが同居したM13「9の時代」。そして、アルバムのフィナーレであるM14「October」では、アコギにこれまたリバースサウンドが重なったサウンドを聴くことができる。いずれもメロディーや歌詞のイメージを損なうことのない──あるいは限定することのないアレンジと音作りがなされている。さすがにTodd Rundgrenのプロデュースであるとも言えるが、それも高野本人のアーティストとしての指向性と確かなセンスがあってのことであろう。聞くところによれば、制作期間が満足にとれなかったという『CUE』だが、それでもなおこれだけバラエティー豊かな楽曲が並んでいるのだから、これはもう傑作と言って間違いはないと思う。

OKMusic編集部

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