世界中にその名を知らしめた名曲
「ラウンドアバウト」を含む
イエスの傑作『こわれもの』

天才リック・ウェイクマン

ハウの加入によってグループの演奏技術は大きく前進したわけだが、当時格段の進歩を遂げていたモーグやメロトロンなどシンセサイザーの導入を巡ってグループ内で衝突が起こり、否定派のトニー・ケイが解雇されることになる。そして、後任としてストローブスにいたリック・ウェイクマンが加入するのだが、彼の加入でイエスは最強の布陣となる。ウェイクマンはピアノやシンセサイザーを駆使し、ブリティッシュトラッドからクラシックの豊富な知識をイエスの音楽に応用できる、まさにプログレッシブな天才アーティストであった。これまでのイエスの良いところを残しつつ、ウェイクマンの新しいアイデアを具現化するべく、メンバーはリハーサルを重ねる。この時点のイエスのメンバーたちは、ウェイクマンのハードルの高いアイデアを形にできるぐらいの力量を持ったミュージシャンの集合体に成長していて、一気にその能力を開花させる時がやってきた。その集大成が4作目となる本作『こわれもの』なのである。

本作『こわれもの』について

本作は演奏面ではウェイクマンが主導権を握り、クラシックの様式美とジャズが持つインプロビゼイションの自由さ、そしてロックの重厚なグルーブ感を併せ持つサウンドに仕上がっている。収録曲は全9曲で、バンド編成のものが4曲、メンバーのソロユニットが5曲という構成であるが、各楽曲のコンセプトが統一されているせいか散漫な印象は受けない。この統一感こそ、これまでの作品には感じられなかったところで、そのあたりはウェイクマンの参加によって修正したものだろう。

ハウのギターワークは前作で見られたようなカントリーリックはあまり出さず、あえてクラシック的およびスパニッシュ的な要素を前面に押し出しているのだが、これがアルバムの統一感を醸し出すのに大きな役割を担っている。おそらく、これはウェイクマンの助言をハウが受け入れたからだろう。また、バンド編成の「ラウンドアバウト」でのコーラスは完全にCSN&Yのコピーと言っても過言ではないが、この曲のサウンドイメージに過不足なく合っている。アンダーソンのヴォーカルを多重録音した「天国の架け橋(原題:We Have Heaven)」を聴けば、アンダーソンがビートルズ的なコーラスを目指していることが分かるだけに、CSN&Y風のコーラスを取り入れたのはハウのアイデアだと思われる。

イエスの曲の中でも「ラウンドアバウト」は異色のナンバーだ。これまでになく、ブルフォードのタイトで重厚なドラムとスクワイアのヘヴィなベースが絡み合い、ウェイクマンの考え抜かれたシンセサイザーの多重録音と、曲の間を縫うように張り巡らされたハウの緻密で大胆なギターワークが混じり合い、まさに神がかった演奏が繰り広げられている。イントロとアウトロでのハウのギターや後半のウェイクマンの熱くドライブするオルガンプレイなど、何度聴いてもゾクゾクするような陶酔感を味わえる名曲中の名曲に仕上がっている。

最後にロジャー・ディーンのことに触れておきたい。本作でアルバムデザインを手がけたディーンのファンタジーなイメージは『こわれもの』のサウンドを表現するのにぴったりで、その意味ではディーンはイエスのメンバーの一人と言っても良いかもしれない。ディーンは本作以降もデザインを手がけることになるが、最高作は間違いなく『こわれもの』のデザインである。ただ、CDはLPのような豪華な感触が再現できないのが残念だ。

TEXT:河崎直人

アルバム『Fragile』1971年発表作品
    • 1. ラウンドアバウト/Roundabout
    • 2. キャンズ・アンド・ブラームス (交響曲第4番ホ短調第3楽章) /Cans and Brahms
    • 3. 天国への架け橋/We Have Heaven
    • 4. 南の空/South Side of the Sky
    • 5. 無益の5%/5% for Nothing
    • 6. 遥かなる想い出/Long Distance Runaround
    • 7. ザ・フィッシュ/The Fish
    • 8. ムード・フォー・ア・デイ/Mood for a Day
    • 9. 燃える朝やけ/Heart of the Sunrise

OKMusic編集部

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