Have a Nice Day! ディストピア・シ
ティ・トーキョーに生きるトリックス
ターは変わったか?

Have a Nice Day! Smells Like Teenage Riot Tour

2019.9.17 新宿LOFT
ステージ上の演者より、モッシュピットにこそHave a Nice Day!(以下、ハバナイ)の本質がある――。フロントマンの浅見北斗(Vo)が言い続けてきたことだが、ハバナイのモッシュピットは、この日の会場である新宿LOFTで5月に開催したライブにおいて負傷者が出たことを契機に、ダイブ、リフトアップ、クラウドサーフを禁止事項とした。だが、ハバナイにとっての“モッシュピット”はすでに殺伐としたストレス発散の場所ではなく、全力で己の生を放出しながらノンケミカルで昇天する場所に変わりはないようだった。
Have a Nice Day!
今回は、ライブタイトルにもあるニューシングル「Smells Like Teenage Riot」のリリースに伴うツアー。ハバナイをよく知る人にとっては浅見の90年代以降のロック/ダンスアクトに対する造詣の深さからくる、そのファンタジックなエレクトロニック・サウンドと一見、相反するようなディストピア感と人生への諦観めいた歌詞や、多くのロックイディオムは他のどのバンドにもないリアリティとして、結成から8年を経過した今でも信頼できるものだろう。加えて今回はライブ直前に11月6日リリースのニューアルバム『DYSTOPIA ROMANCE 4.0』でエイベックスからのメジャーデビューもアナウンスされた。クラウドファンディングのリターンとしてZeppDivercity Tokyoでのライブを開催したり、注目度の高まった去年の活動を経ても、規模感が大きくなることが正解でも不正解でもないといったモヤモヤを抱えたまま、浅見は今、どこを見ているのだろう?
Have a Nice Day!
相変わらずヲタ風青年も普通の男子高校・大学生も白人男性もモッシュピットに集合し、歓声・奇声をあげながらメンバーの登場を歓待。モッシュピットに紛れる勇敢な女子もいるし、少し後ろではビジネスマン&ウーマン風の年齢層高めのオーディエンスもいる。相変わらずハバナイの客層は多様だ。
いきなりキラッキラのエレクトロチューン「ファウスト」をオープナーに配するも、フロアの反応にいささか不満げな浅見は毒を吐きまくる。オーディエンスもそれを承知で曲間には浅見に野次の飛ばし放題。それにしてもこの曲の<本当は世界平和なんてどうでもよくて、あなたを支配してめちゃくちゃにしたいだけ>というタームは泣ける。多幸感に満ちたモッシュピットの底にある獣のような本能。いや、むしろそれがあるからこそ、この場所を信用できるんだ――そんな声が聞こえてきそうだ。
Have a Nice Day!
一気に3曲プレイしたところで、さらりと「メジャー行って魂売ってくるから」と、先手を打つ。それにしても音楽的な表層はパリピ好きするEDM要素すらあるにも関わらず、体をぶつけ合いながら汗まみれでジャンプするオーディエンスはどこのどんなライブより感覚的にパンクだ(浅見はパンクよりロックンロールというワーディングでその状態を指すけれども)。
ロックイディオムが随所に仕込まれたハバナイの楽曲。この日、浅見は曲の頭出しをしくじったが、「秘密警察」に感じるトーキング・ヘッズ的な擬似ファンク、「Riot Girl」の頭のビートはモロにニュー・オーダーの「ブルー・マンデー」だ。時空を超えた憂鬱が2019年9月の東京・新宿で共振している。そんなことがこの浅見北斗という男の脳ミソと肉体を通して可能になっている。何度繰り返されてもその光景は美しい。
Have a Nice Day!
美しいアンセム「愛こそすべて」「僕らの時代」で巨大なシンガロングを作り、「フォーエバーヤング」や「ミッドナイトタイムライン」で泣きながら踊る。誰も誰かに合わせたりしない。溢れる感情をジャンプや独自のムーヴでアウトプットしているだけだ。この日は怒声や野次以外に、フランス人男性が浅見に盛んに愛を伝えていて、とてもラブリーな空間が生まれてもいた。ハバナイのモッシュピットは名状しがたい感情の渦だが、その軸には間違いなく愛があった。
Have a Nice Day!
女の子が大声でシンガロングしていた「わたしを離さないで」にしてもこのツアーの冠である「Smells Like Teenage Riot」にしても、青い春をとうに終えてしまった人も、渦中にいる人も、いずれもどこにいても居心地の悪さを感じている人をきらめくシンセサウンドと平熱の浅見の歌が解き放つ。
Have a Nice Day!
東京という街でしか生まれなかったであろう音楽でありバンドだから、東京のライブハウスだけ10カ所選んでツアーをすると、浅見は言った。ツアータイトルは『NEO TOKYO OLYMPIA!!! 』という。現実世界への逆張りだ。シンパシーを抱いた人はハバナイが描くディストピアに一度飛び込むことをお勧めする。
取材・文=石角友香

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