新時代のファンクを提示した
ハービー・ハンコックの
『ヘッド・ハンターズ』

ヘッド・ハンターズの
メンバーをヘッドハント

ハンコックは新たなバックメンを探すためニューヨークからロスへと移り、そこで多くのグループを観たりセッションを行なったりと忙しい時間を過ごす。結局、キャロル・キングのアルバムでポップソウル風のドラミングを聴かせていたハーヴィ・メイソンと、まだ無名のベーシストであったポール・ジャクソンという若いリズムセクションをヘッドハンティングする。パーカッションにはニューオーリンズ出身のビル・サマーズを起用、そしてマイルスのグループで共演し、ハンコックのソロ作にも参加し続けているベニー・モウピンがサックスで合流する。このメンバーならハンコックが考える新しいテイストのファンクアルバムを制作することが可能である。

本作『ヘッド・ハンターズ』について

『ヘッド・ハンターズ』はハンコックがジャズサイドから提示したファンク作品であり、ロックサイドから制作された熱いロックスピリットに満ちたスライ・ストーンの諸作品と比べると、基本的にクールさが感じられる仕上がりになっている。これまでのハンコック作品には見られないほどシンプルな構成で、リズムセクションのハーヴィ・メイソンとポール・ジャクソンの、ある種ロック的なフィーリングを感じさせるグルーブがこの作品のキモだと言える。とにかく、シンコペーションの付け方が新しくてカッコ良い。

本当は泥臭くて粘液質のファンクが、本作ではスッキリと整理されていて分かりやすいだけに、一般のポピュラー音楽ファンにも支持され、ハンコックとしては初の全米ジャズチャートで1位、総合チャートでも13位と大ヒットとなった。ただ、コアなジャズファンは「ハンコックは日和った」と酷評する者も少なくなかった。しかし、本作が以降のフュージョンに与えた影響は多大で、フュージョンの基本的技術はほぼ網羅(ギターは参加していないので除く)されていると言ってもいいだろう。

収録曲は4曲。長尺のナンバーばかりである。ハンコックの「ウォーターメロン・マン」を再録、デビュー盤に収められたファンキージャズ・スタイルの同曲が、見事に洗練されたファンクへと転身しているので聴き比べてみてほしい。冒頭の15分に及ぶ「カメレオン・マン」はハンコックの多重録音も聴きものだが、ハーヴィ・メイソンのタイトで重いドラムワークが光るナンバー。「スライ」は文字通りスライ・ストーンに捧げられたナンバーで、すでにフュージョン作品として完成されている。途中、テンポアップしてからのメイソンとジャクソンのコンビネーションは恐ろしいまでの完成度である。それに触発されてか、ハンコックも熱の入った素晴らしいプレイを繰り広げている。

本作はファンクを極めようとしたアルバムであり、フュージョンというジャンルを創造した重要なアルバムでもある。この作品がリリースされていなければ、以降のポピュラー音楽の風景は少し変わったものになっていただろう。ハーヴィ・メイソンとポール・ジャクソンが世間に認知されたこと、そして一般のリスナーに、分かりやすいファンクを伝道したということでも大きな意味を持つ作品である。

TEXT:河崎直人

アルバム『Head Hunters』1973年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. カメレオン/Chameleon
    • 2. ウォーターメロン・マン/Watermelon Man
    • 3. スライ/Sly
    • 4. ヴェイン・メルター/Vein Melter
『Head Hunters』(‘73)/Herbie Hancock

OKMusic編集部

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