今までのシドのライブとは何かがはっ
きりと違う、『承認欲求』ツアー開幕

SID TOUR 2019 -承認欲求-

2019.9.14　松戸・森のホール21

9月13、14日、千葉県 / 松戸・森のホール21から、シドの全国ツアー『SID TOUR 2019 -承認欲求-』がスタートした。2年ぶりのニューアルバム『承認欲求』は、シドの新たな扉を開く音楽性、メッセージ性の強い言葉を詰め込んだ、コンセプチュアルな野心作だ。果たしてのその世界は、ステージ上でどう表現されるのか？ メンバーズクラブ「ID-S」会員限定の初日を経て、14日のステージをレポートする。

シドのライブに付き物の、大歓声や手拍子が聞こえない。思わずステージに見入ってしまう、細部まで演出されたオープニングに息を呑むが、ツアーは始まったばかり、ネタばらしはしないでおこう。明希(Ba)、Shinji(Gt)、ゆうや(Dr)はモノトーンの衣装で、マオ(Vo)はその上に白いコート。大人びたクールな雰囲気を身にまとい、バンドはとても力強く、アルバム『承認欲求』からの楽曲を自信を持って披露してゆく。

「いつものシドとは一味も二味も違うシドをお見せしたいと思います。とはいえ懐かしい曲も散りばめて、みんなで楽しんでいこうと思います」（マオ）

広がりのあるミドルテンポや、柔らかくグルーヴィーな楽曲の多い『承認欲求』の楽曲に、アッパーで勢いのあるライブの人気曲を交え、緩急をつけライブは進む。そこで今回、極めて重要なポイントを占めるのが“言葉の力”だ。要所で映像や字幕を効果的に使いながら、『承認欲求』を貫く歌詞のテーマをしっかりと伝えてゆく。時代のキーワードでもある、承認欲求とは一体何か？ 人はなぜ認められたいのか？ あなたは誰で、私は誰なのか？ 音と言葉がそれぞれ強烈なイマジネーションを放ち、頭と体に作用する。今までのシドのライブとは、何かがはっきりと違う。

明希が「今日はまだ間違ってません。そのぐらい真剣にやってます！」と、笑顔で胸を張る。「僕、千葉県出身なんで、言わせてください。ただいま！」と、ゆうやが叫ぶ。「承認欲求といえば、僕のケータイがなかなか顔承認してくれないんです」と、Shinjiが笑わせる。すかさずマオが、「それは承認じゃなくて認証でしょ？」と突っ込む。音楽はシリアスだが、MCタイムになると、4人のノリは相変わらずだ。

シド　撮影＝今元秀明

オーディエンスを座らせ、じっくり聴かせる中盤を経て、後半にアップテンポのロックチューンを畳みかける。新たなチャレンジもあるが、変わらぬシドらしさも4人は決して忘れない。水を得た魚のように、満員のオーディエンスがジャンプ、手振り、ヘドバン、サビの大合唱で盛り上がる。ゆうやがどっしり構え、Shinjiがくるくる回り、明希が激しく動き、マオが「もっと行けるよな！」と煽る。天井の高い森のホール21の、3階バルコニー席のてっぺんまで熱気が満ちてゆく。

「シドは結成16年です。最初は、かっこいい音楽がやりたいという夢しかなかったけれど、最近は、長く続けていくことが夢になりました。素晴らしい未来に向かって、ついてきてくれますか？ 一緒に行きましょう」（マオ）

まるで一幕の芝居のように起承転結ある、紗幕や様々なものをスクリーンとして映像を使った見事な演出。シドの新たな面を引き出すことに成功した本編が終わり、アンコールの拍手に呼び戻された4人は、緊張から解放されたように、白いツアーTシャツ姿ですっかりリラックスモード。マオお気に入りの“松戸のおいしい定食屋さん”の話で爆笑を誘うなど、MCも絶好調だが、演奏はそれ以上にハジけまくり。緊張感の高いシドもいいが、笑顔いっぱいのシドもやっぱりいい。

台風15号による被害の影響で、この日のライブに来られなかったファンもいた。マオの最後のMCは、そのことに触れ、「過去を取り返すことはできないけど、未来に向けて歌えば、来られなかった子たちにもきっと届く。未来でまた会える」というものだった。歌詞だけではない、確かな“言葉の力”が、満員のオーディエンスの胸に沁みてゆく。その力を糧に、バンドはこれから長いツアーへと旅立ってゆく。11月21日には、東京国際フォーラム ホールAでもファイナル追加公演も決まった。これまでにないシドの新たな面が、たっぷりと見られる注目のツアー。ぜひ体感してほしい。

取材・文＝宮本英夫