今年のみつなかオペラはブッファ~チ
マローザ「秘密の結婚」を上演

第28回みつなかオペラ、チマローザの歌劇『秘密の結婚』の開催まで1か月を切った。
クオリティが高く、玄人受けする作品を作る事で知られているみつなかオペラは、これまでにも色々な賞を受賞してきたが、昨年上演したプッチーニの『トスカ』でタイトルロールを演じた並河寿美が、文化庁芸術祭大賞を受賞したことで大変な話題となった。
昨年のみつなかオペラ「トスカ」のタイトルロールで、文化庁芸術祭大賞を受賞した並河寿美
兵庫県川西市にある客席数480席のホールのオペラが、僅か23年で全国でも有数の人気オペラプロダクションへと変貌を遂げた秘密と魅力を、当事者でもある指揮者 牧村邦彦、演出家 井原広樹と、1日目のキャストから中川正崇、西村圭市に聞いた。
みつなかオペラといえばこのお二人。演出の井原広樹と指揮者 牧村邦彦 (c)H.isojima
──昨年の『トスカ』も大変な評判となりましたが、並河さんの文化庁芸術祭大賞受賞は関係者の皆さんにとっても朗報だったのではないでしょうか。
牧村邦彦(以下、牧村) はい。並河さん自身も、いちばん思い入れの強い『トスカ』での受賞は嬉しかったでしょうね。もちろん我々にとっても嬉しい報せでした。
──みつなかオペラへの関心がますます高まったのではないですか。
牧村 各地の劇場や、オペラ団体、歌手の皆さんの関心は、ここ数年で随分高くなっているように思いますが、チケットを購入してくださる一般のお客様にとってはどうなんでしょうね(笑)。川西市のイメージや知名度アップに繋がるのなら、素敵な事ですね。
──そんな中、今年はチマローザの『秘密の結婚』ですが、これはどんなオペラですか。
牧村 音大生やオペラ団体の研修所などでよく取り上げるオペラですね。比較的判りやすいイタリア語である事。譜読みがし易く、上手に歌う事を訓練できる曲である事。ストーリーがそれほど複雑ではない事。などが理由ですが、演奏機会は少ないオペラだと思います。私もピアノ伴奏では何度も指揮していますが、オーケストラを指揮するのは今回が初めてです。
日本を代表するオペラ指揮者 牧村邦彦
井原広樹(以下、井原) 『秘密の結婚』を知っている人なら、このメンバーでやる事に驚かれるかもしれませんね(笑)。この素晴らしいメンバーでやれば、これだけの演奏が出来るんだ!というところを、お客様にお聞かせしたいですし、オペラをかじっている人達には、全く違った景色を見せつけたいという気持ちです。
先ほど、牧村さんもストーリーはそれほど複雑ではないと話されていました。チラシに書かれている文書の引用となりますが。私の方から簡単にあらすじを紹介しておきましょう。
18世紀ころ、ボローニャにジェロニモという裕福な商人がおりました。夢は娘を貴族と結婚させること! ジェロニモには、エリゼッタとカロリーナという二人の娘がおり、未亡人となった妹のフィダルマも一緒に暮らしています。実は、使用人のパオリーノとカロリーナは親に内緒で結婚していて、彼らはエリゼッタと知り合いのロビンソン伯爵を結婚させようと企みます。がしかし、ロビンソン伯爵はカロリーナを気に入り、フィダルマはパオリーノとの再婚を狙い……。はてさて、ジェロニモの夢はどうなるのか?この家族の結婚はいったいどんな形で決着するのか?
日本を代表するオペラ演出家 井原宏樹
──これ、オペラ・ブッファ(喜劇)ですね。
井原 はい。この作品、ブッファの王道とも言える作品です。オペラ・ブッファと呼ばれている作品でも、モーツァルトのダ・ポンテものなど、途中でセリア的(シリアス)な要素が出て来たりしますが、この作品は正真正銘オペラ・ブッファ。気軽に楽しんで頂きたいですね。
エリゼッタ平野雅世に演出を付ける井原広樹 (c)H.isojima
牧村 みつなかでブッファを取り上げるのは久し振りですね。2007年の『セヴィリアの理髪師』以来だと思います。誰も死なないオペラ…新鮮です(笑)。
──楽器編成はどうですか。例によって大幅なリダクション(楽器の削ぎ落し)を施されるのでしょうか。
牧村 今回はトロンボーン無しの二管編成で、ハープや特殊楽器も無いのでリダクション無しでそのままピットに入ります。余計な労力が無いので随分楽です。
指揮者 牧原邦彦と、井原広樹に代わり指示を出す演出助手 唐谷裕子 (c)みつなかホール
──この『秘密の結婚』を、牧村さんはハイパーオペラと名付けられたそうですね。
牧村 オペラに纏わる決まり事を超えて、エンターテインメントとしてお客様に楽しんで頂きたい。そのためには、オリジナルでは登場しない合唱なんかも加え、何でもアリなオペラにしようということです(笑)。
ジェロニモ井原秀人を中央に、エリゼッタ平野雅世とカロリーナ内藤里美、周囲は合唱団員! (c)H.isojima
──今回は、2公演をダブルキャストで上演されますが、若手選抜チームとレギュラーチームと言っていいのでしょうか。しっかり色分け出来ていますね。
牧村 そうですね、実は、今回二つの内一つは、学校出たての若手だけで構成するくらいのメリハリを付けたかったのですが、若手の連中、オーディションを受けに来なかったんです(笑)。最近のみつなかオペラは、そこそこ歌えないと受けられないと思われているのでしょうね。そこで、キャリアを考えてチーム分けしました。出演者の名前を見て頂ければ判ると思いますが、2日目チームはすぐに一定のレベルに到達しましたが、最終的にどこまで行けるか…私も楽しみです。
井原 1日目チームは2日目チームに危機感を持たせ欲しいですね。その可能性のあるメンバーが集結したと思います。
──既に2日目のチケットは完売だとか。1日目のチケットはまだ余裕があるようです。
井原 そうみたいですね。並河寿美、坂口裕子、尾崎比佐子。それに迎肇聡、松本薫平、片桐直樹。このキャストを見たら、2日目を買いたくなりますね。よくわかります(笑)。
しかし今回、1日目も面白いと思いますよ。ざっとメンバーを見ても、聴きどころ盛り沢山。例えば、平野雅世さんはブッファを歌われる機会は少ないのではないでしょうか。新しい一面が発見出来るかもしれません。内藤里美さんは、すごくチャーミングな方です。役のイメージがビジュアルに合っています。理想的なカロリーナ登場です! 大賀真理子さんとは今回初めてですが、大変歌唱力のある方です。内藤さんと同級生だそうですが、小澤征爾さんとご一緒されるなど、とてもプロフィールが充実しています。
男性チーム、中川正崇さんは新国立劇場研修所出身。順調に人気と実力を獲得しておられる安定のテノール。西村圭市さんも新国立劇場研修所出身ですね。以前、大阪音大の『カーリュー・リバー』でご一緒しましたが素晴らしかった。関西では男性の低い声が少ないので、楽しみです。そして、このチームを取りまとめるのが、輝かしい実績を誇るベテラン井原秀人さん。
このプロダクションの持つ雰囲気だと思いますが、みんな2日目チームの同じ役の事を意識しつつも、委縮することなく、楽しそうに稽古をしています。
1日目にとんでもない名演が誕生するかもしれませんね(笑)
チマローザ「秘密の結婚」をよろしくお願いいたします! (c)H.isojima
──なるほど。牧村さん、井原さん、ありがとうございました。引き続き、そのあたりの事をもっとお聞きしたいという事で、1日目の公演にご出演の中川正崇さんと西村圭市さんにもお越し頂きました。みつなかオペラは、若い歌手の間ではどんなイメージで見られているのでしょうか。
西村圭市(以下、西村) みつなかオペラは大きなプロダクションの一つです。並河さんの受賞で注目度も高まり、みんなチェックしていると思います。そこに出演させて頂けて、大変光栄です。
中川正崇(以下、中村) これだけのキャストが集まるプロダクションでやれて、本当に嬉しいです。ここに来るとエネルギーをいっぱい頂けます。高レベルの音のキャッチボールが楽しいです。
──お二人は「秘密の結婚」を歌われた事はありますか。アカデミーで触れる機会の多い曲だそうですが。
中川 私は今回が初めてです。このオペラ、テナーは超高音が多く、なかなか難しいオペラですよ。
西村 私もこれまで歌う機会はありませんでした。女性の三重唱なんかは確かにそうかもしれませんね。今は教材として取り上げる曲と言えば、やはりモーツァルトが多いように感じます。
兄弟のような仲の良さ。パオリーノ中川正崇とロビンソン伯爵 西村圭市 (c)H.isojima
──お二人は新国立劇場のオペラ研修所出身だそうですね。オペラの世界では、新国OBで活躍されている人がたくさんいらっしゃいます。どんなところが勉強になりましたか?
中川 私が新国研修所の8期生、西村さんが12期生、4年違いです。この4月に入所した生徒は22期生ですので、随分時間が経過しましたね(笑)。生徒は1期5名。競争率は高いです。研修期間は3年。座学と実践で一日のスケジュールはいっぱい。先生も生徒も海外を意識している人が多いので、視野が広がり、考え方が変わると思います。
西村 単純な音を、どういう表現に繋げていくのかといった事を、徹底的に勉強していくのが新国オペラ研修所ですね。出演者の技術も意識も高く、外国のアンテナを張っている人も多く、刺激的な時間を送れていることなど、みつなかオペラは新国のオペラ研修所で学んだ事柄を、皆さんが当たり前に実践されている理想的な現場ですね。
──では今回、みつなかオペラに臨む上での豊富を聞かせてください。中川さんは2014年のベッリーニ「清教徒」のアルトゥーロ役以来ですね。
中川 はい。もちろんドキドキしますが、今は嬉しい気持ちの方が大きいです。出演者の皆さまから色々な事を学び、それを糧にどこまで行けるか!自分の思い以上の事が膨らみ始めているのを感じます。2日目チームの皆さまの事は当然意識しますが、しっかり学ばせていただくと同時に、先輩方に少しでも刺激を与えて、その結果から得られる事を大切にしたいと思います。
秘密の結婚をしている、カロリーナ内藤里美とパオリーノ中川正崇 (c)H.isojima
──西村さんは初出演ですね。今回、自分でオーディションを受けようと思われたのですか。
西村 はい。注目度の高いみつなかオペラに挑戦して、自分をアピール出来ればと思っています(笑)。それと、あまり得意ではない三枚目の役にチャレンジし、なんとか苦手意識を克服したいと思っています。素晴らしい共演者の力を借りて成長できるように頑張ります。
カロリーナ内藤里美とロビンソン伯爵 西村圭市 (c)H.isojima
──牧村さんが提唱されるハイパーオペラ! 稽古を少し見せて頂きましたが、オリジナルにはない合唱も大活躍ですね。
西村 いやー、合唱団の皆さまの動きが本当にスゴイ!本当にびっくりしました。演出の井原さんが、少し話されるだけで、どうしてあんな動きが出来るのか。合唱指揮の岩城さんが普段から色々とおっしゃられているのでしょうね。
中川 あそこまで合唱団にやられたら、こっちも頑張らないといけません(笑)。色々な刺激を受けながら、頑張りますよ。『秘密の結婚』2日目は完売ですので、ぜひ、1日目にお越しください!
西村 皆様のご来場をお待ちしています!
──中川さん、西村さん、ありがとうございました。
今年もみつなかオペラは凄いですよ。ぜひお越しください! (c)H.isojima
まるでヨーロッパの地方にあるオペラハウスに来たような活気あふれる雰囲気の中、上質なオペラを体験出来る と評判のみつなかオペラ。早々に売り切れた2日目公演に未練を残し、不参加表明!などと早まった行動を取るのは、あまり賢明だとは思えない。制作サイドも出演者も、目いっぱい力のこもった1日目公演のパフォーマンスが、あなたにとってかけがえのない一期一会になるかもしれないのだから。
今年のみつなかオペラも、名演の予感が……。
取材・文=磯島浩彰

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