阿部真央「やめようと思わなかった」8年ぶり野音で証明したもの

阿部真央「やめようと思わなかった」8年ぶり野音で証明したもの

阿部真央「やめようと思わなかった」
8年ぶり野音で証明したもの

2011年以来2度目の日比谷野音
シンガーソングライター・阿部真央。2009年にデビューし、これまでに8枚のアルバムをリリースするなど、等身大の心情を綴った歌詞とインパクトのあるヴォーカルで支持を集めてきた。2019年8月31日に行われた、2011年以来2度目となる日比谷野外音楽堂での公演。
立見席も売り切れる注目のライブに多くのファンが集結した。
ジャムセッションで熱気が高まったステージに阿部真央が登場する。
アコースティックギターをかき鳴らしながら、総立ちの会場に向けて「ハロー、盛り上がっていくぜ!用意はできていますか?」と叫んで、オープニングナンバーは「逝きそうなヒーローと糠に釘男」。間髪入れずに「モットー。」、「ふりぃ」を続けて演奏すると会場のテンションはまたたく間に上昇した。
ふりぃ 歌詞 「阿部真央」
https://utaten.com/lyric/jb50903123
この日は、バンドセットでアグレッシブなステージを展開。少し鼻にかかったハスキーな声質で、高音から低音域まで感情豊かに表現する阿部真央は、理想的なロックボーカリストでもある。
赤く染まったステージで振り絞るように絶叫する「痛み」、続く「走れ」では、会場を激しいグルーヴの渦に巻き込んでいく。バックバンドとあうんの呼吸で繰り出すグルーヴが、随所でスリリングな展開を導く。
アカペラからはじまる「じゃあ、何故」では、エモーショナルに昇りつめていく高揚感に身を浸した。
「日が暮れるのが早くなりましたね」。ここでマイクを手に取ってMC。「夏の思い出は?」という客席の声にこたえて、ケツメイシ「夏の思い出」のものまねを挿入しつつ、某テーマパークに息子と行った話題で母親の顔を見せると、「すべてを投げうって愛してほしいと思う瞬間」を歌ったという「この愛は救われない」を弾き語りで演奏した。

ニューシングル「どうしますか、あなたなら」を熱唱
移り変わる景色が心情とリンクする「深夜高速」。オフィス街をバックに、規則的なリズムとギターのアルペジオが残照に溶けて広がっていく。
気がつくとあたりは虫の声に包まれている。ファンの人気も高い代表曲「貴方の恋人になりたいのです」を夏の終わりを惜しむように歌う。会場全体がしばし時間を忘れて聞き入る光景は、ライブ前半のクライマックスだった。
続くミドルテンポの「傘」とダンサンブルな「immorality」で、多方面に広がるソングライティングとサウンドのバラエティを示すと、ドラマ『これは経費で落ちません!』(NHK総合)主題歌で、8月21日に発売されたばかりのニューシングル「どうしますか、あなたなら」を演奏。
どうしますか、あなたなら 歌詞 「阿部真央」
https://utaten.com/lyric/sa19072356
自称「サビ前・サビ中・サビ終わりにみんなにライブで歌ってもらうの好き系シンガーソングライター」という阿部真央にとって「すごく大切で大好きな曲」という1曲を自ら歌唱指導。
この場面だけでなく、曲の合間のMCや言葉の端々から、ファンとの距離の近さが垣間見えた。
なにげない日常の出来事を、気取らない言葉で軽やかに転がす阿部真央流ロックンロールは、「君の唄(キミノウタ)」でこぶしを突き上げると、さらにギアを上げて「答」に突入する。
オーソドックスなロックチューンを輝かせているのは地に足の着いた歌い手としての姿勢であり、母としてステージに立ち続けることで、より強くしなやかに成長しているように見えた。
「聞いてくれる人がいるから、やめようと思わなかった」
阿部真央本人も「楽しみにしてきた」という野音ライブもいよいよ終盤へ。
バンドメンバー紹介とMCを挟んで「なんにもない今から」、「変わりたい唄」でラストスパートをかけると、本編最後に「もう1曲、夏の歌を最後にやって帰ってもいいですか?」と叫び、「ロンリー」を歌ってステージを降りた。
ロンリー 歌詞 「阿部真央」
https://utaten.com/lyric/jb71005057
アンコールでは装いも新たに「K.I.S.S.I.N.G.」、「這い上がれ MY WAY」を披露。「あっという間」だったというライブを振り返って、「みなさんにとって、生きていて良かったと思う日がたくさんあってほしいし、このライブが明日も頑張って生きようとする人たちの活力になってくれたらうれしい」と話し、「まだ僕は生きてる」を演奏した。
これで終わらず、ダブルアンコールでふたたび登場。「ライブが好きで、ライブをするために作品をつくっている」と話す阿部真央にとって、10年間続けることができた原動力は、ファンの存在に加えて、結局のところ「やめようと思わなかったから」。
「やめちゃいたいと思うくらい辛いことはあったけど、やめようと思わなかったし、決めなかった。続けようと思うよりは、やめられなかった」。ある意味で「原始的。表現したいという欲に勝てなかった」と言うが、ありのままに歌い、曲を紡ぐその姿勢が、10年目の野音につながっているのだ。
「聞いてくれる人がいるから、やめようと思わなかった」と言い、あらためてファンに感謝を伝えると、最後にライブ会場限定の「母の唄」を弾き語りで歌って締めくくった。
呼吸するように歌う阿部真央にとって、歌はつくるものではなく、生まれてくるものではないだろうか。
新世代の女性シンガーが次々と登場する音楽シーンにあって、今なお私たちの耳を引き付ける阿部真央はまさに生粋のシンガーソングライター。
やめずに歌い続ける中で迎えた8年ぶりの野音が、何よりもそのことを証明していた。
Text 石河コウヘイ
Photo 吉場正和

セットリスト
1. 逝きそうなヒーローと糠に釘男
2. モットー。
3. ふりぃ
4. 痛み
5. 走れ
6. じゃあ、何故
7. この愛は救われない
8. 深夜高速
9. 貴方の恋人になりたいのです
10. 傘
11. immorality
12. どうしますか、あなたなら
13. 君の唄(キミノウタ)
14. 答
15. なんにもない今から
16. 変わりたい唄
17. ロンリー
EC-1 K.I.S.S.I.N.G.

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