ポルノグラフィティの最大の特徴を
ロックへの敬愛と共に捧げた
『ロマンチスト・エゴイスト』
ロックへの敬意を随所に散りばめて
M5「憂色〜Love is you〜」はハードロックではあるが乾いたアコギのストロークやスネアの音にサザンロックを感じなくもないし、M6「Heart Beat」はファンクでありながらも大胆にデジタルを取り入れている。ギターのリフがモッズ的なM7「マシンガントーク」。アメリカンハードロック風なミディアムM8「デッサン#1」。M9「アポロ(New Apollo Project Version)」から続くM10「ラビュー・ラビュー」は、ボサノヴァタッチのギターも印象的なポップンソウル。オーストラリアの先住民、アボリジニの楽器である“ディジュリドゥ”を同期のリズムに合わせるという革新的なイントロから始まり、本編はオールドスクールなロックであるM11「ジレンマ(How To Play "didgeridoo" Version)」、ややサイバーな味付けが感じられるM12「リビドー」、歌へ絡むブルージーなギターにやや泥臭さが感じられるタイトルチューンのM13「ロマンチスト・エゴイスト」…ざっと紹介しただけでも、随分とバラエティー豊かであることがお分かりいただけると思う。メロディーがポップで、親しみやすいものばかりであって、そこで一本筋が通っているものの、サウンド面はいい意味でバラバラと言っても過言ではないだろう。これがデビューアルバムなのだから、バンドの懐の深さ、ポテンシャルの高さを示すに十分すぎるほどだ。
この辺はアレンジャーのak.homma=本間昭光氏の手腕によるところも大きかったのだろうが、さりとて氏の趣味に任せてやったことではないこともまた明白だろう。岡野昭仁、新藤晴一のふたり、つまりメンバーが手掛けた歌詞でそれを裏付けることができると思う。
《ディランはこんなふうにうたってる/そうさ「答えは風に舞ってる」って》《ジョンがみつけたシンプルなこと/それは「愛とは―愛されたいと願うこと」》(M2「Century Lovers」)。
《愛のために(love up journeyman)/何が出来る(like a jumping jack)》《愛の前に(love up Ramblingman)/ひざまずけ(like a Tumbling dice)》(M11「ジレンマ」)。
《ジャニスジョプリンのような声で本能へと蹴り込んでくれないか?》(M12「リビドー」)。
ディランはBob Dylanで、「答えは風に舞ってる」は「Blowin' in the Wind」の歌詞からの引用。ジョンはJohn Lennonで、同じく「愛とは―愛されたいと願うこと」は「Love」からの引用である。ジャニスジョプリンは説明不要だろう。「ジレンマ」のサビのコーラスパートは──『journeyman』はEric Claptonのアルバム名、「jumping jack」「Tumbling dice」はThe Rolling Stonesの曲名(「Tumbling dice」はそのまま、「jumping jack」は「Jumpin' Jack Flash」から)、「Ramblingman」はThe Allman Brothers Bandの曲名を拝借している。M4「ライオン」が確信犯的なLed Zeppelinへのオマージュであったと同様、それと分かるように伝説のロックアーティストに敬愛を捧げている。
また、これは歌詞ではないが、M2「Century Lovers」の《言葉が胸で大渋滞 クラクションたたくよ》のあとでThe Beatles「Drive My Car」の《Beep beep'm beep beep》を模したコーラスを入れるなど、随所々々で遊び心を露呈している。伝説のアーティストたちが歩いて来たロックの地平に自分たちも立てている喜びを、プロデューサー、アレンジャー、エンジニアらと一緒になって音楽で表現しているかのようで、聴いているこちらも楽しくなってくる。メンバーの心意気がスタッフに伝播してこうした作品になったことを勝手に想像してしまうが、そうした塊具合というか、一丸感といったものが強烈に感じられる、実にいいアルバムだと思った。
TEXT:帆苅智之
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