伊礼彼方が語るスタクラフェスの魅力
「ミュージカル音楽の魅力を広めたい

2019年9月28日(土)・29日(日)に横浜赤レンガ倉庫特設会場にて開催される『STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2019』(以下スタクラフェス)。誰もが知っているクラシックの名曲から、ミュージカル、アニメ音楽まで、ビールやワインを片手に一日中楽しむことができる国内最大の野外クラシック音楽祭だ。
スタクラフェスでは今年、ミュージカルに関連する2つのプログラムが行われる。「クラシック紅白歌合戦!オペラからミュージカルまで」(28日)、「THIS IS ミュージカル」(29日)の2つだ。ここに、昨年に引き続きスタクラフェス出演となるミュージカル俳優・伊礼彼方が出演する。伊礼は今年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』にジャベール役で初出演を果たし、同作品で上半期 読売演劇大賞 男優賞にノミネート。さらに、来年2020年にはミュージカル『ミス・サイゴン』に市村正親らと並びエンジニア役での出演が決定している。また、今年4月には、これまで自身が出演した演目を中心としたミュージカル・カバー・アルバムを発売するなど精力的に活動し、ミュージカル界で躍進を続ける伊礼に、2度目のスタクラフェス出演にあたっての胸の内を語ってもらった。

ミュージカルを知らない方でも楽しめるようなプログラムを

ーー「昨年に引き続き、今年もぜひ!」とオファーを受けたそうですが、率直な心境から教えていただけますか?
もちろん、お声掛け頂いてうれしかったですよ! 昨年出演した時に、クラシック音楽を野外でやるっていうチャレンジ精神に惚れましたね。僕自身はさほどクラシックに詳しいわけではなかったので、生のクラシックの音に触れられて自分にとっても良い機会だな、と思いました。その中でミュージカルのコーナーを設けていただいて、僕がミュージカル代表としてLe Velvetsと一緒に歌わせていただいたのは、非常に光栄なことで。今年は出演者がグッと増えて、さらに幅広いミュージカル楽曲の魅力を感じていただけるんじゃないかな。
伊礼彼方
ーー今年のスタクラフェスのミュージカルプログラムの選曲には伊礼さんご自身も関わったと伺いました。
こういう曲をやったら、きっとお客様に楽しんでいただけますよね、というお話をさせていただきました。ミュージカルを知らないクラシック畑のお客様が多いだろうから、やっぱりメジャーな曲をやりたいな、と。28日は『レ・ミゼラブル』(以下『レ・ミゼ』)、29日は『エリザベート』の曲を多く披露する予定で、我ながら非常にお客様思いな選曲になりました(笑)。今まさに『レ・ミゼ』に出演中の佐藤隆紀君や昆夏美ちゃんは現役でやっているからこその説得力があるだろうし、エリアンナも本役とは違う魅力で楽しませてくれると思いますよ。
ーー9月17日(火)に大千秋楽を迎えたばかりのタイミングでまた『レ・ミゼ』が観られるとは、とても贅沢です。
早速再演!というくらいたっぷりお届けします。実は『レ・ミゼ』は本番期間中に本役のキャストがコンサートなど本公演以外では自由に歌ってはいけないという決まりがあるらしくて。終わったからにはこっちのものですから(笑)思う存分歌わせていただきます。
伊礼彼方
ミュージカルの名曲をたくさんの人に知って欲しい
ーー昨年のインタビューでは、コンサートやライブを避けていた時期があったと語られていらっしゃいました。現在は音楽活動に対してどのような思いがありますか?
僕はもともとミュージシャン志望だったのですが、なかなか音楽1本では売れなかったんですね。演劇の世界に入ってからは、ミュージカルに携わることで音楽にも関わってきたのですが、個人的に音楽をやることにはどうしても前向きになれなかった。なかなか過去の自分と対峙できず受け入れられなかったんです。企画モノのコンサートにオファーをいただいて出演することもありましたが、自主的に歌だけを歌うことは長らく遠慮していました。ただ、歳を重ねて心の奥底では音楽をやりたいと思っていたことに改めて気が付いて。芝居の中で歌う時と、ただ歌うときでは表現方法が変わるので、役ではなく伊礼彼方として歌うことが怖かったのかもしれません。最近はその恐怖心が少しずつ和らいで、自信がついてきて。長年応援してくださっているファンの方々やスタッフさんに、少しでも”恩返し”というか、伊礼彼方が頑張っている姿を見にきてください!と思うようになりました。
ーー4月にはミュージカルカバーアルバム『Elegante』をリリース、今冬にはソロコンサートも予定され、とても精力的に音楽活動をされている印象です。
そうですね。ここ数年で自分の考え方が変わってきて、よりミュージカルの魅力を広めたいと思うようになったんです。ミュージカルには本当にたくさんの名曲がありますから。僕は自分のオリジナル曲がどうこうとか、伊礼彼方を見せるということに実はあまり興味がなくて。だから今までは役に扮していたり、物語を通して伝える方が心地よく表現することができたんです。今後もそういう生き方をしていこうと思っていたんですが、あまりに世間にミュージカルが浸透していなくて。多分クラシックもそうだと思うんです。ミュージカルよりは知られているかもしれないけれど、まだまだマイナーなところがある。ロックやヒップホップに興味を持っている若者たちにも、幅広くいろいろな音楽に触れて欲しくて、その一環として、僕もまた音楽を始めようって思ったんです。
伊礼彼方
ーー“ミュージカル音楽の素晴らしさを広める”というミッションを掲げる伊礼さんに、スタクラフェスはピッタリなイベントですね。
最高です。ミュージカルを知らない方が大勢いる前で歌わせていただけるので。最初は「クラシックよりちょっと劣っているけど、ミュージカルもいいじゃないか」くらいに思ってもらっても構わないんです。クラシックの作曲家が手掛けたミュージカル曲もあるし、遠からず近いものがあると思っていますよ。
オペラとミュージカル歌唱の違いとは?
ーー28日のプログラムは「クラシック紅白歌合戦!オペラからミュージカルへ」というテーマです。
オペラからミュージカル、というのがいいですね。オペラ歌手の方々にも最初に出演していただくので、オペラとミュージカルの違いを知ってもらえるかと。「オペラとクラシックとミュージカルの歌い方の違いってなんですか?」って聞かれても分からないお客様が多いんじゃないかなと思って。でもバレエとストリートダンスの違いはみなさんなんとなく分かりますよね。実はあれくらい表現方法が違うものなんです。並べて聞いてもらった時に、違いがわかるんじゃないかな、と思いますよ。
ーーズバリ、その違いとは?
オペラとクラシックってマイクを使わないんですね。だから、オペラの曲をミュージカルの人が歌うと迫力に欠けてしまうことが多い。僕らはマイクを使って表現するから。そういう違いを知ってもらえるだけでも、幅広いジャンルの音楽を喰わず嫌いにならずに済むのかなって。その点、もともとテノール歌手の佐藤君(『レ・ミゼ』で物語の中心となる人物ジャン・バルジャンを好演中)が出演してくれるのはまさにピッタリ。オペラからミュージカルの世界に来て、色々と苦労と努力をしている人ですから。ミュージカルの歌唱は響かせるだけではなく、お芝居として意図的に効果的に表現しないといけない。彼は素晴らしい歌手ですし、お芝居に対しても情熱的で大好きな役者の一人です。
伊礼彼方
ーーオペラ歌手の方々とのコラボレーションも見どころですね。
昨年は小林沙羅さんと『ウエスト・サイド・ストーリー』の「トゥナイト」を歌わせていただきました。オペラ歌手の方とご一緒する機会はなかなかありませんから、今年もぜひやらせてくださいとお願いし『オペラ座の怪人』の「ザ・ポイント・オブ・ノー・リターン」をデュエットする予定です。沙羅さんの高音の聴かせどころが後半にたくさんある曲ですから、僕は曲の前半を歌ってしっかりバトンを渡したいなと思っています。
ーー時間帯も夕暮れから夜の初め頃にかけて行われ、魅力が倍増しそうです。
昨年はお昼の時間だったんですけど、今年の28日のプログラムはちょうど日没の頃。いい時間帯ですね。きっとお客様はお酒が進むんじゃないかな。そういえば、昨年は場内で売っているお酒が完売したらしいので、今年は仕入れを多くしていただかないと(笑)。僕は『レ・ミゼ』の「スターズ(星よ)」を歌いながら、星空とみなとみらいの夜景に酔いしれたいです。
ーー29日の「THIS IS ミュージカル」と題したプログラムはどういったものになりそうですか?
タイトル通り全てがミュージカルの曲で構成される、とっても贅沢な時間になりそうです。映画『グレイテスト・ショーマン』のような世界観で、僕はストーリーテラーになると聞いています。朝夏まなとさん、相葉裕樹さんが、過去の出演作から名曲の数々を披露しますので、楽しみにしていてください。お二人とはそれぞれ『エリザベート』の楽曲でデュエットも予定していますよ。
伊礼彼方
宮本笑里さんと運命的な再会!
ーー29日にはヴァイオリニストの宮本笑里さんともコラボレーションをするそうですね。しかも、素敵なご縁があると伺いました。
笑里ちゃんは、僕がまだまだ音楽で食べられず路上ライブをやっていた時に、何度か立ち止まって聞いてくださったことがあったんです。後々テレビで見かけて「きっとあの時の彼女だ!」とずっと思っていたんですが、なかなか再会できず。昨年のスタクラフェスでやっと「あの時の女性は笑里ちゃんですよね?」「はいそうです!」と事実確認をすることができました。今年は念願叶ってコラボレーションを承諾していただきうれしいです。
ーー歌とヴァイオリンの演奏のコラボレーションとは、興味深いです。
『アラジン』の「ホール・ニュー・ワールド」を演奏する予定です。僕が男性パートを歌い、彼女が女性パートを演奏するという、ちょっと異例なものになると思います。彼女との共演が一つの夢だったので、こんなに大きなイベントで叶ってうれしいです。お互いに無名だったのに、こうして月日を経て同じステージに立てるなんて、本当に感慨深くて。こういうコラボができるのはフェスならではだなと思います。僕の夢ばかりになっちゃいますが、今回総合司会の松下奈緒さんとも、いつか共演できたらうれしいですね。松下さん、宮本さん、僕の3人でいつかご一緒できたら……いやー、夢のような話です。
伊礼彼方
音楽の豊かさを子供たちに伝えていきたい
ーーリビングルームミュージカル(食事と共に楽しめるミュージカルショー)の出演者も、盛り上げてくださるとか?
アンサンブル的な立ち位置で、出演してくださいます。コンサートだとどうしても少人数で歌うことが多くなってしまうんですけど、群衆で魅せるのもミュージカルの醍醐味だと思うんですよね。ラストはミュージカルコーナー出演者全員で歌って、きっと盛り上がるはず。全員で同じ曲を歌うことで、より一人一人のキャラクターが突出して魅力的に感じていただけると思います。
ーー本当にミュージカル音楽の見どころが詰まったイベントになりそうです。
こういうイベントをきっかけに、「ミュージカルっていい曲があるな」と知ってもらいたいですね。『ラ・マンチャの男』の「見果てぬ夢」や、『サウンド・オブ・ミュージック』の「ドレミの歌」など、曲自体は有名だけど、実はミュージカルの曲という認識を持たれていない曲も多いと思いますし。僕自身ミュージカルの音楽に触れて視野が広がり、心が豊かになった。多くの人がこの魅力を知らずに生きていくなんてもったいない。僕はこういうことをこれから子供たちに伝えていきたくて、自分の歌を歌っていこうと改めて思っているところなんです。
取材・文=永瀬夏海 撮影=池上夢貢

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着