『UKFC on the Road 2019』レポート
TOTALFATと盟友たちが繰り広げた夏
の宴

UKFC on the Road 2019 2019.8.22 新木場STUDIO COAST
EASTOKLAB/FUTURE STAGE
EASTOKLAB:Photo by AZUSA TAKADA
2010年代最後の『UKFC』、FUTURE STAGEのトップバッターを務めるのは今年6月に『EASTOKLAB』でDAIZAWA RECORDSからデビューした名古屋発の4人組・EASTOKLAB。ノルウェーのエレクトロニカ系アーティストであるアンドレ・ブレッテンをSEに登場したように、北欧的な繊細さと雄大さを生楽器とデジタルを混ぜ合わせることで生み出す、アートロックの系譜に連なるバンドである。
明滅する電飾に彩られたステージにメンバーが姿を現し、一曲目に始まったのは「In Boredom」。シンセベースを用いてロウを強く出し、空間系のエフェクトを用いたギターとともにレイヤーを作り出すことで、立体的なサウンドスケープが広がっていく。ゆったりとしたグルーヴの上を日置逸人のハイトーンボイスが泳ぎ、シューゲイズなギターが織り重なったりと、既にはっきりとしたストロングポイントを持っているバンドだ。4つ打ちを基調としたヴァースから一転、コーラスでスネアが打ち鳴らされる「Fireworks」は、日置のファルセットを生かしたボーカルも含め、強い高揚感が感じさせるものだった。
開演前のTOTALFATメンバーによる「陽キャシールを作ったんで、ハイタッチしてくれた人に配ります」というMCを受け、「陽キャシールをもらったんで、陽キャな感じで楽しんで行きたい」と明らかに陽キャではない雰囲気を漂わせたMCを挟むと、歪んだシンセの音色が印象的な「Always」へ。この曲もヴァースのタイトなリズムセクションと、大胆なブレイクを挟みながらのコーラスの対比が面白い。シンプルなエイトビートはほぼなく、多彩なリズムパターンもこのバンドのラジカルさを良く表している。音数を絞ったミニマルな構成が特徴の「Gazelle」では再びシューゲイズなギターをフィーチャーし、日置がフェイバリットに挙げるディアハンター的な世界観を展開していった。
かつてUK.PROJECTに所属していたTHE NOVEMBERSや、石毛輝のソロワークにも通じる陰影を帯びた美しいサウンドスケープは「洋楽的」とも言えるが、人懐っこい歌声やポップなメロディーセンスからはより幅広いオーディエンスを獲得できそうなポテンシャルを感じさせる。「ここはFUTURE STAGEなので、未来に向けて作った曲を」と言って、最後に演奏されたのは「Dive」。ギターフレーズのループを基調とした前半を経て、後半で「Dive」というフレーズを連呼する構成は、まさにここからより高く、より遠くへと羽ばたいて行こうとするバンドの決意表明のようだった。

the telephones/FRONTIER STAGE
the telephones:Photo by YUKI KAWAMOTO
「来年はデビュー10周年で、祝ってほしいから、いっぱいライブやります!」
と、1年前にこの『UKFC』のステージで宣言したthe telephones。その言葉どおり2019年は『まだ行ったことのない都道府県ツアー』に始まり、イベントや、対バンゲストや、各地のフェスなどで積極的にライブ活動中、今年の『UKFC』にはFRONTIER STAGEの一番手で登場した。おなじみのSEの「♪Everybody clap your hands!」に合わせて、ハンドクラップがスタジオコーストを包み、「UKFC!」と石毛が叫ぶとノブがステージ左にセットされたTOTALFAT・Buntaの(だと誰もが察しがつく)ドラムに座って腕を組む。なお、後のMCで石毛、「まさかノブさんが最初に座るとは思わなかった」。そして「サルのように踊るんだー!」という雄叫びから「Monkey Discooooooo」へ。大きなハンドクラップを送るオーディエンスを、石毛、「もっといけるっしょみんな!」と、ブリッジしながらのギター・ソロでさらにあおる。
「今日はTOTALFATのために作られたイベントです。会社のものだった『UKFC』が、ひとつのバンドに乗っ取られました!」という言葉をはさんでの「Don't Stop The Move, Keep On Dancing!!」では、ドラム横のスモールサイズのミラーボールとフロア上の巨大ミラーボールが同時に回転、フロアを照らす。復活以降のライブを観るたびに思うが、このバンドのライブ、あきらかに休止前よりもよくなっている。特にベース・長島涼平&ドラム・松本誠治のリズム隊、グルーヴが格段に太く逞しくなった。
「Urban Disco」では、オーディエンスの上に身を投げたノブが右に左に運ばれた末にステージに戻り、間奏でステージから下りてフロア後方へ走り去り、戻ってきたと思ったら男性のお客さんに肩車してもらって、フロアを見渡してポーズ。拍手が降り注ぐ。ラストはTOTALFATからKubotyとBuntaが加わり、石毛とオーディエンスの「We are!」「Disco!」のコール&レスポンスから「We are DISCO!!!」に入る……が、何か不協和音が混じる演奏で曲が成立せず、演奏がストップ。何事かと思ったら、「Kubotyに内緒でリハと違う曲をやる」というドッキリなのだった。涼平が「ドッキリ大成功!」のボードを掲げると、Kuboty、「俺が昔おまえにやったドッキリを返したつもりかもしんねえけど、ギターは上モノだから合ってなくたって平気なんだよ!」と反撃。でも、「……今になってドキドキしてきた……」とも漏らす。フロア、大笑い。涼平のTOTALFATのステージへの参加が急遽決まったりしたMCを経てのラスト・チューンは「I Hate DISCOOOOOOO!!」。誠治&Buntaのドラム・バトル→Kubotyのギターソロにノブがシャウトで応戦、という、まさに今ここでしか観ることのできない光景がくり広げられた。

the shes gone/FUTURE STAGE
the shes gone:Photo by かわどう
FUTURE STAGEの2番手は、今年1月にミニアルバム『DAYS』でデビューを果たした20歳過ぎの3人組the shes gone。メランコリックなメロディーと、恋愛を主題とし、日常に寄り添う歌詞を特徴とするバンドで、女性をフィーチャーしたミュージックビデオも大きな話題に。9月にはレーベルの先輩にあたるLOST IN TIMEとの2マンが決まっていて、海北大輔は彼らについて、「今の彼らにしかならせない音たち。とても瑞々しくて、キラキラしている」とコメントしている。
EASTOKLABに続いての北欧繋がりでシガーロスをSEにメンバーが登場し、ボーカル/ギターの兼丸による弾き語りから始まったのは一曲目の「最低だなんて」。アップテンポなナンバーによるオープニングから、4つ打ちに乗せてクラップを煽った「化物」へと、序盤は勢いのある曲調でグイグイと押して行く。「高い演奏力」とまでは言えないものの、ベースによるコーラスや、ギターの印象的なフレーズを混ぜつつ、シンプルにまとまったアンサンブルで歌を最優先に聴かせていった。
「人前で歌うことでもないかもしれないけど、それを真っすぐ伝えにきました」と言って披露されたのは、YouTubeで400万回以上の再生回数を記録している現時点でのバンドの代表曲「想いあい」。アンサンブルは淡々としていながら、<もう行かないでよね 耐えられないの>や<憂鬱で時々寝て日が暮れることが未だにあるんだよ>など、誰にでも思い当たるであろう女々しい感情を描いた歌詞と、柔らかな歌声で歌われるメロディーには妙に引っかかりがある。多くのバンドが速いBPMと乗りやすいリズムで「ライブ/フェスの時代」と向き合った2010年代を経て、近年では日本でもストリーミングの環境が整い、いい歌・いいメロディーのバンドが改めて評価されるようになったように思うが、彼らもまたそんな時代性を感じさせる。
「手を上げても、ゆっくり聴いても、それぞれの楽しみ方で楽しんでもらえれば」という挨拶を挟んで、再び疾走感のある「緑とレンガ」でオーディエンスとコミュニケーションを取りながら盛り上げると、ラストはミドルテンポの「甘い記憶」。やはり「無理やりにでも盛り上げる!」というより「いい歌を聴かせる」という信念を感じさせるが、アウトロでリズムが16分に変わる変化球的なアレンジも垣間見せたのは、バンドとしての今後への伸びしろを感じさせた。「この場にいてくれてありがとう」という最後の挨拶まで、実にフレッシュなステージだった。

POLYSICS/FRONTIER STAGE
POLYSICS:Photo by AZUSA TAKADA
今期のポリのステージは、フロントにハヤシとフミ、後方にヤノとナカムラリョウ、というフォーメーション。いきなり鉄板中の鉄板「シーラカンス イズ アンドロイド」と、ハヤシ&フミのツインボーカルの「Funny Attitude」でがっちりフロアをつかむ。ただ、「Twist and Turn!」では、急にハヤシとフミの立ち位置が入れ替わったりもする。曲終わりのMCでフミが説明。「ハヤシのマイクから出る音と私のマイクから出る音が逆になってた」というトラブルに即対応してそうなった、とのこと。
ハヤシ、「どうだいどうだいみんな楽しんでるかい! 1階! 2階! 配信を観てるみんな!」とカメラに顔を近づけ、「こういう心配りが(UKプロジェクトの)長兄としては大事なのよ」などと言いつつ、10月9日にニューアルバムがリリースされることや、別バンドThe Vocodersのアルバムも同時に出ることなどを告知しつつ、そのポリのニューアルバムから2曲続けてプレイするコーナーへ。最初にやった「Kami-Sama」はテクノやパンクやエレポップやプログレなど、つまりハヤシのルーツをすべて詰め込んだような曲。次の「Belong」はポリにはめずらしい横ノリでブルージーな曲で、いずれも新鮮。2曲ともアルバムに先駆けて配信されている。
「さあいつでしょう、いつ登場するんでしょう!」とステージ中央にセットされたKubotyのギターアンプを指差すハヤシ。そして「シーラカンス イズ アンドロイド」と並ぶポリの鉄板曲「Let’ sダバダバ」で、またフロアをまたピークに導く。曲の途中でハヤシ、ギターを置いてクラウドサーフ、入れ替わるようにツナギとバイザー姿のTOTALFAT・Joseが登場。すると曲が「Let’ sダバダバ」からTOTALFATの「PARTY PARTY」に変わったり、また「Let’ sダバダバ」に戻ったり──という展開に。オーディエンス、そのたびに大歓声。曲が終わり、Joseが去ると、ツナギ姿のKubotyが現れ、「How are you?」でソロを弾きまくる。そのKubotyと闘うようにハヤシも弾きまくる。目まぐるしくて豪華、とにかく。4人に戻ってのラスト・チューンは「SUN ELECTRIC」。ステージの上も下も、さらにもう一段ギアを上げてシメたPOLYSICSだった。

■SPiCYSOL/FUTURE STAGE
SPiCYSOL:Photo by YUKI KAWAMOTO
フレッシュな初登場組が続いたFUTURE STAGE前半を経て、中盤戦は『UKFC』常連となってきたバンドたちがしっかりとバトンを繋いでいく。3番手はストリーミング配信などで話題を集めるSPiCYSOLが登場。今年はこのイベントの野外エリア「CHILL GARDEN」のプロデュースを担当するなど(「CHILL TIME」としてミニライブも)、すっかりレーベルの顔役になったと言えそうだ。さざ波の音に導かれるように、サポートを含む5人のメンバーが登場すると、昨年発表されたアルバムのタイトルトラックであり、軽快なグルーヴが魅力的な「Mellow Yellow」でライブがスタート。やはり「サーフビートミュージック」を標榜するだけあって、抜群に夏の似合うバンドだ。彼らが音を鳴らせば、ひとつ前のPOLYSICSのステージによる熱気が残るフロアに涼しい風が吹き込んでくるかのよう。
ここからは最新作『EASY』の楽曲を立て続けに演奏し、小気味いいカッティングがリードするドライブチューン「Traffic Jam」から、PETEのトランペットをフィーチャーしたファンキーなダンスナンバー「Fresh Go」へ。この曲はリオデジャネイロ発祥のラケットスポーツである日本フレスコボール協会のオフィシャルタイアップ曲となっていて、アウトロではKENNYがラケットを使ってボールをフロアへと打ち込んだ。トラップビートを取り入れ、音源では沖縄出身のラッパーRude-αとコラボしている「The Night Is Still Young」では<好きにFlow いつもSlow>というリリックの通り、手を上げたり、横に揺れたりと、この場を自由に楽しむオーディエンスの姿が目につく。このフリーマインドな雰囲気も、非常にSPiCYSOLらしい。
ここでお待ちかねのスペシャルゲスト=TOTALFATを迎えて、レゲエ風味の「Room45」を披露。この曲はTOTALFATのカバーで、音源ではShunがフィーチャリングされていたが、今回は何とメンバー全員が登場! 決して広くはないFUTURE STAGEに9人が並ぶ賑やかな雰囲気の中、コーラスではオーディエンスとともに合唱し、ギターソロではAKUNがKubotyの背後から手元を見ずにプレイするという曲芸のような演奏をしたりと、文字通りのパーティータイムはとにかく楽しい。ラストはチルな雰囲気の「Coral」でKENNYがしっとりと愛の歌を届けて、FREE & EASYなステージを締め括った。

teto/FRONTIER STAGE
teto:Photo by かわどう
フェスとかイベントとかの類いでは……いや、普通のライブハウスの対バンであっても、どこに行っても必ず浮く、しかし超強力なインパクトを残すバンド、teto。思えば数年前、スタジオコーストのロビー内に作られた小さなステージで初めて『UKFC』に出た時から浮いていた。そして大きい方のFUTURE STAGEの三番目に出た今年も、やっぱり浮いていた。違うのは、そんなtetoに魅了されるフロアの人数が、ケタ違いに多くなっていることだ。ここ『UKFC』でも、世の中全体においても。
SEの「人生を語らず」(吉田拓郎)をぶったぎるように、ギター・山崎陸が放つフィードバック・ノイズが響き、言葉になったりならなかったりする雄叫びをボーカル&ギター・小池貞利があげ、「高層ビルと人工衛星」になだれ込んでスタート。マイクスタンドを回したり、横にしたり、斜めにしたりしながら同曲を歌いきった小池貞利、続く「拝啓」では、一回目の間奏で背中からフロアへ飛ぶ。
「世の中にはいろいろ全肯定できる人がいる、人のことを全部ありのままでいいよって受け入れる人がいる。すごいと思うんです、俺、無理だなと思って──」というMCから、新曲「全肯否定」を披露。リリカルなメロディを持つ美しい曲で。後半、歌のないところでも小池貞利が口を動かして何か歌って(言って?)いたのが印象に残った。
叫ぶように、あるいはまくしたてるように「暖かい都会から」を歌い、たぶん今だから選んだのであろう「9月になること」ではしっかりとメロディを届ける。間奏で「今年の夏はどんな夏でしたか?」という問いが小池貞利から飛ぶが、始まった時の「盛り上がる」空気から「固唾を呑んで見つめる」空気へとモードが変わっているフロアは、それによってワーッと湧いたりはしない。ただ、フロアからステージに向けられる集中力が、どんどん強くなっていくのがわかる。最後は、お盆に群馬の田舎に帰った話をしてから(入院している祖父は孫の名前も忘れてしまったが、tetoのCDを聴くと「貞利の歌はいいなあ」と名前を思い出すそうだ)、「最後にお祖父ちゃんがいちばん好きな歌を」と「光るまち」を歌う。彼の一声一声、一言一言に、みんなじいっと聴き入る。曲終わりで倒れ込み、メンバーが去り、なんとか立ち上がった小池貞利を、大きな拍手が包んだ。

ウソツキ/FUTURE STAGE
ウソツキ:Photo by AZUSA TAKADA
FUTURE STAGEの4番手にはウソツキが登場。彼らも今やイベントの常連バンドだが、3人編成となってからは初の『UKFC』(ライブにはサポートメンバーが参加)。これまでとは違うモードに入ったことは、『UKFC』では一曲目が恒例となっていた「新木場発、銀河鉄道」をリハーサルで早くも披露してしまったことからも感じられたが、果たして本編はどうなる?
「新木場発、銀河鉄道」に代わって一曲目を飾ったのは「名もなき感情」。オーディエンスはジッとステージを見つめ、温かみのある言葉とメロディーがスタジオコーストの広いフロアにジワジワと染み渡って行く様子が伝わってくる。アウトロでの歌とギターのユニゾンを経て、「UK.PROJECTで一番の陽キャのバンドです」というMCに笑いが起こると、「踊ろう!」と一言挟んで、「夏の亡霊」へ。サビへと盛り上げるギターのフレーズや間奏でのキメなど、EDM以降の海外ポップスをシンセを用いずに再現するような引き算のアレンジが現代的で、バンドとしての洗練がはっきりと感じられる。
「次の曲はいつもやってないんですけど、『UKFC』特別仕様ということで」と言って演奏されたのは、ディズニー曲のカバー集『ROCK IN DISNEY』に収録され、軽やかなダンスチューンに仕上げられた「リトル・マーメイド」のテーマ曲「アンダー・ザ・シー」。そして、この曲の一番が終わったところでTOTALFATのShunが登場!両者の音楽性の違いからして異色のコラボとなったが、ウソツキの端正なアンサンブルに合わせてShunが体を揺らし、「気持ちいい!」を連呼すると、フロアからも一斉に手が上がっていた。
Shunがステージを下りると、竹田昌和は「僕ホントは陽キャが苦手なんです」と笑い、「でも、みんなが帰って、一人になったときに、突然訪れる虚無みたいな時間があることを僕は知ってます。好きな人が振り向いてくれるかどうか、胸がグッとなる瞬間があることを知ってます。僕らウソツキは部屋に入った一人のあなたに向かって歌います」と語りかけると、新曲「0時2分」を披露。<もしも今ここで君を追いかけられたなら>と、タイトル通りに深夜の心境を歌ったメランコリックなナンバーは、フロアを埋めたたくさんの若いオーディエンスが胸の内に秘めたドアをきっとノックしたに違いない。ラストは隙間の開いたドアに精一杯の愛をねじ込むかのように「一生分のラブレター」をエモーショナルに届けて、充実のステージが終了。ウソツキはまだまだ進化を続けて行くだろう。

BLUE ENCOUNT/FRONTIER STAGE
BLUE ENCOUNT:Photo by YUKI KAWAMOTO
今年の『UKFC』の「外からの」ゲスト・アクトは、TOTALFATの地元八王子の後輩・INKYMAP、同じく八王子の同級生グッドモーニングアメリカ、そしてこのBLUE ENCOUNT。サウンドチェック中、幕の下りたステージの向こうで、田邊駿一(VO&G)、「♪夏の始まり 君と交わり」と「夏のトカゲ」(TOTALFAT)を歌ってオーディエンスを喜ばせ、「……あと歌詞忘れた」と、ドッと笑わせる。姿を見せる前から、もうすっかり場をつかんでいる。そんな田辺の正式な第一声は「はじめまして、BLUE ENCOUNTです!」。『UKFC』に出るのが初めてだからそう言ったのだろうが、1曲目「KICKASS」も2曲目「#YOLO」も、まったくもってフロアは「はじめまして」な空気じゃない、熱狂的にBLUE ENCOUNTを迎えている。ただし、「はじめまして」の人でも瞬時に巻き込む、「いかつさ」と「しなやかさ」を併せ持ったバンド・サウンドの力も大きいことが、この音を浴びているとわかる。数限りなく現場を踏むことで鍛え上げられてきた末に、この音を手に入れたのだということが、聴いていると肌で感じられる。
「新曲やってもいいですか? ドラマの主題歌やってもいいですか?」と突入した「バッドパラドックス」(9/11リリースのニューシングルで、日本テレビのドラマ『ボイス 110 緊急指令室』の主題歌)では、「全員で飛び跳ねたいんだけどやってくれる? 全国にライブハウスのすごさを見せてやろう!」と、フロアいっぱいのジャンプを誘発。5曲目「DAY ✕ DAY」ではフロア、「最後の曲?」みたいなカオス状態と化す。そしてそのカオス状態は、次の「VS」でさらに熱を帯びていく。
「正直な思いを伝えるのが苦手な奴らが、バンドやってるんだと思います。だからかき鳴らしたり、『♪あああ~』(歌ってみせる)って、歌ったりするんだと思います。特にTOTALFATは、そういう先輩だと思います。だったら言葉で言うよりも、曲で、その先輩に届くように──」と、最後にBLUE ENCOUNTは、TOTALFATに「THANKS」を捧げた。ブレイクでオーディエンス、大シンガロングで応える。あと、捧げたわりに、「TOTALFATに体力残してんじゃねえぞ!」とオーディエンスをあおっていたのも、何かよかったです。

■INKYMAP/FUTURE STAGE
INKYMAP:Photo by かわどう
いよいよ2019年のUKFCも後半戦、FUTURE STAGEに登場するのはTOTALFATと同じ八王子で結成された次世代メロディックパンクバンド・INKYMAP。長野県出身のボーカル・Kazumaは高校生の頃に地元に来たTOTALFATを見て憧れていたそうで、この日を感慨深く迎えたはずだ。フィードバックノイズが響き渡る中、一曲目の「Reminder」でいきなりKubotyがサプライズで登場! Kazumaのギターを持ってバンドの演奏に加わると、ハンドマイクになったKazumaはこの空間を楽しむようにフロアに手を振りながら歌う。アウトロではKazumaとKubotyが抱き合い、Kubotyが「やったれ!」と言わんばかりにKazumaの肩を叩いてステージを降りて行った。
「泣きたいときに泣けてますか? 笑いたいときに笑えてますか?輝いて行こう!」と言って「Shine」が始まると、ベースのRyosukeがフロアを煽り、ドラムのTetsuoが全身を目一杯揺らしながらビートを刻んだりと、とにかくメンバー全員がエネルギッシュに、楽しそうに演奏するバンドだ。アウトロではギターのJunがサイドのスピーカーに上がると、そのまま「Take The Lead」へ。<Believe Your way and go ahead>と歌われるこの曲は、サブタイトルに「GO AHEAD TOTALFAT」と銘打たれた今年の『UKFC』にぴったりのナンバーであり、汚れた地図を持って宝物を探し続けるすべての人の背中を押す一曲だ。
「はじめましての人たくさんいると思います。見てくれてありがとうございます」という感謝の言葉から、「新木場、拳を見せてくれ!愛を出し惜しみすんじゃねえ!」と熱く語りかけると、ゴリゴリのミュートで攻めるヴァースから開放感のあるコーラスへの展開が印象的な「Mantis」を演奏。「好きなものには全力で行こうぜ!」とさらに煽ると、ギターのフランジャーによる轟音が鳴り響く。生声で「ありがとう!」と叫ぶKazumaの熱量は、フロアに確実に伝わっていたはずだ。
「TOTALFAT、呼んでくれてありがとうございます!最高だぜ!」と改めて先輩への感謝を伝え、「俺たちライブハウスから来ました」とバンドマンとしての姿勢を示すと、「両手を上げてくれ!頼むぜ!」ともう一度オーディエンスに熱く語りかけ、ハンドクラップに包まれる中で「白銀の夜に」を軽快に演奏。ラストの「Still in A Dream」までグッドメロディーを届け続け、ひたすらにエモーショナルで、喜びに溢れたステージが幕を閉じた。

BIGMAMA/FRONTIER STAGE
BIGMAMA:Photo by AZUSA TAKADA
1曲目を「No.9」で始めるやいなや、いきなりフロアをまさに歓喜のどまんなかに叩き込み、曲間なしで「MUTOPIA」につなぐことで、この曲が「第九 歓喜の歌」と同じくらいの喜びに満ちていることを証明してみせる。「最後の一口」から「ダイヤモンドリング」にかけての流れでは、ラウドさではなく流麗さや切なさでフェスという熱狂の場を制圧できる、そういうバンドもいる、ということを体現してみせる。どの曲も、どの瞬間も、もう圧倒的。BIGMAMAにとって、この『UKFC』がホームであることは言うまでもないが、それだけでは決してこんなステージはできないだろうと思う。たとえば「王者感」とか、あるいは「風格」とか、そんなような言葉で表したくなる、途方もないスケール感を、今のBIGMAMAは持っている、ということがよくわかる。
「ファビュラ・フィビュラ」でKubotyが加わる。ハンドマイクになった金井政人は間奏でFUTURE STAGEへ移動、次のグッドモーニングアメリカのメンバーたちが準備をしている前で歌いまくる。続く「CPX」ではShunも参加、さっきの金井に負けじとハンドマイクで歌う歌う。電話ズ•石毛も一瞬乱入。金井は生配信のスタッフからカメラを奪い、フロアに向けながら歌っている。さっき金井にセッティングを邪魔されたグドモのメンバーたちも、FUTURE STAGEで盛り上げに一役買っている。なお、「ファビュラ・フィビュラ」も「CPX」も、柿沼広也とKubotyのツイン・ギターは、まるで最初からこういう編成のバンドだったかのような相性のよさで鳴っている。そのツイン・リードに東出真緒のバイオリンが加わる、というたまらない瞬間も。直線のリズムも曲線のリズムを自在に描いていく、ドラムのリアド偉武&ベース・安井英人の安定感も、とても大きい。
曲が始まったのと同時にShunがフロアに飛び込んだ、ラストの「荒狂曲"シンセカイ"」では、ここまでのこの日の中でもっとも、フロアが波になった。Kubotyの音が加わっている、その分カオス度が増しているような大波。この曲で、ライブハウスのフロアやフェスの会場がえらいことになっている瞬間、これまで何度も体験してきたが、その中でも屈指だった気がする。

■グッドモーニングアメリカ/FUTURE STAGE
グッドモーニングアメリカ:Photo by YUKI KAWAMOTO
FUTURE STAGEのトリを飾るのは、TOTALFATの盟友・グッドモーニングアメリカ。どちらも地元が八王子で、同じ高校に通っていた同級生のメンバーも多く、さらにTOTALFATのBunta、グドモのたなしんとペギは同居していたこともあったりと、長い時間を共有し、しのぎを削りあってきた仲である。TOTALFATにとってのメモリアルな一日にはどうしても欠かせないバンドだ。KubotyがTOTALFATの前にボーカルをやっていた(!)というバンド・LOWBROWの曲をSEに、ヅラを被ったたなしんがフロアから登場し、「Kubotyのギターソロで午後ティーを一気します!」という何ともらしい演出でショウの幕開けを飾ると、「気合い入ってますか? 最高のTOTALFATのライブを一緒に見よう!」とオーディエンスを煽って、性急な4つ打ちで攻め立てる「アブラカダブラ」からライブがスタート。間違いなくこの日のFUTURE STAGE最高の盛り上がりを見せ、さらに「YEAH!!!!」を畳み掛けると、オーディエンスが一斉に手を振り、場内の温度が急激に上昇していく。
「UKFCは好きですか!TOTALFATは好きですか!Kubotyは好きですか!俺は大好きだ!」と渡邊幸一が早口で捲し立て、「しゃべりたいことが渋滞してるんだけど、友達のために一生懸命頑張るから力貸してくれよ! みんなでTOTALFATに繋げよう!」と熱く語りかけると、たなしんはシャツを脱いでパンツ一丁に。「幸一はファイヤーを一回もしたことないんだけど、今日ならやってくれるかも!」と言ってから、「3、2、1……」とカウントダウンをすると、渡邊はステージ袖のスピーカーに上って「ファイヤー!」。そのまま傾れ込んだ「言葉にならない」では、フロア前方で無数のダイブが巻き起こった。
「今日は特別な日なので、昔からの仲間に捧げます」と言って披露されたのは、前身バンドであるfor better,for worse時代の「A landscape back to us」。ツービートのメロディックパンク直系なこの曲には、一部のファンから熱狂的な反応が起こる。さらに、「未来へのスパイラル」が始まるとここでTOTALFATのJoseが登場!「暴れる準備はいいか?」と叫び、サビに突入すると、一斉にフロアから手が上がり、オーディエンスの熱気は最高潮を迎えた。
「『UKFC』はずっと憧れてました。友達の大事な日に一緒にイベントを作れて嬉しいです。ありがとうございました!」という渡邊の感謝に続き、金廣真悟が「話したいことはいっぱいあるけど、音楽に気持ちを込めました。全力でやって帰るんで、楽しんで」と話すと、バラードの「餞(はなむけ)の詩」へ。<餞に何を贈ろう?あの詩で良いかい?>と、TOTALFATへの想いを込めてエモーショナルに歌を届けると、ラストにはサプライズでKubotyが登場! 金廣のギターを受け取り、「空ばかり見ていた」を一緒に演奏して、文字通りの大団円。愛すべき友人たちへ、最高の形でバトンを渡した。

■TOTALFAT/FRONTIER STAGE
TOTALFAT:Photo by かわどう
「UKFC! 最後まで残ってくれてありがとな! ハデにやっちゃいましょう、よろしく!」とJoseが挨拶、そして4人で拳を合わせてから「夏のトカゲ」でスタート。ハンドクラップとジャンプで突き上げられる腕でフロアが埋まり、祭りの音頭になるブロックからは千切れんばかりにタオルが回る。続く超高速チューン「Broken Bones」では、曲に合わせて超高速サークルモッシュがフロアの二ヵ所に現れる。「Phoenix」ではシンガロング、「Room45」でもシンガロング。「晴天」でBIGMAMA・金井政人&東出真緒が登場、金井とShunがハモリ、Kubotyと真緒のソロもハモる。金井&真緒が去り、「行こうぜ! 栄光の世界へ!」と「World of Glory」に入ろうとするが失敗、最初の一音でストップ。Joseが「金井と真緒ちゃん、もう一回出て来てもらっていい?」とふたりを呼び戻すそぶりを見せやり直す。フロア、爆笑と拍手、そして曲にまた熱狂。
TOTALFAT:Photo by かわどう
「さあKubotyいこうか、きみが作った最高の曲を、やらないわけにはいかないでしょう!」というShunのアオリから「Good Bye, Good Luck」へ。フロアの熱は高いままだが、曲が曲だけに、この時ばかりはちょっとセンチメンタルな空気が漂う。そんな中、Kubotyのすぐ下あたりのフロアで、黒いモジャモジャを振り回して踊ってるお客がいる。金髪だ。グドモのたなしんだった。さっき「昔のKubotyコスプレ」をした時のカツラだ、あれ。
TOTALFAT:Photo by かわどう
ここでBLUE ENCOUNT田邊駿一&江口雄也と、the telephones長島涼平&ノブが加わって、8人編成『ブルータルフォン』で「PARTY PARTY」をぶちかます。ShunとJoseは田邊駿一と一緒にハンドマイク、ノブはカウベルを叩きながら走り回る──という、楽しさの究極みたいな絵図がくり広げられる。
TOTALFAT:Photo by かわどう
今日やりたいと言った数多くのことに対して、一切NGと言わなかったUKプロジェクトの社長への感謝、会社への感謝、他のミュージシャンたちへの感謝を言葉にするShun。「でも、わかった。UKプロジェクトはNGがないらしい。じゃあ来年の『UKFC』はKubotyをゲストに呼べばいいんだ!」。スタジオコーストが笑顔と拍手で埋まる……というか、「あ、そうか、それ、別になしじゃないよね」という納得の気持ちでも埋まった気がした。
TOTALFAT:Photo by かわどう
TOTALFAT:Photo by かわどう
「ONE FOR THE DREAMS」でこの日最大のシンガロングを巻き起こし、本編が終了。お立ち台でギターを弾くKuboty、本当に晴れやかな表情をしている。アンコールではShun、フロアのたなしんに「なんでそこにいんだよ?」とツッコミを入れたり、今日のBIGMAMA→グッドモーニングアメリカ→TOTALFATは、中央大学附属高校時代の後輩→先輩→同級生の流れだったことを説明したりする。そしてその3バンド全員で「Good Fight & Promise You」。曲が始まると、ブルエン田邉や電話ズ石毛もステージに出て来る。とても華やかな光景。そして最後の1曲はTOTALFAT4人だけでシメる予定だったようだが、Kuboty「さみしいからみんなそこに残っといて!」。
TOTALFAT:Photo by かわどう
TOTALFAT:Photo by かわどう
曲は「Place to Try」。TOTALFATの4人の後方には見守るバンド仲間たち、前方には声をかぎりに歌うオーディエンス。とても感動的な光景だった。あ、たなしんは、曲が始まるとすぐ見守るのをやめてお客さんの頭の上を転がって行ったが。そして曲の後半は、「見守るのをやめて転がるバンドマン」が続出。最後に、出演者全員で記念撮影。フロアにシャツを投げるKuboty。そしてShunが「5,4,3……」とカウントダウン。0と同時にKubotyがフロアに身を投げて2019年の『UKFC on the Road』は幕を降ろした。

取材・文=兵庫慎司(FRONTIER STAGE)、金子厚武(FUTURE STAGE) 撮影=各写真のクレジット参照

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