Netflix『全裸監督』配信予告ビジュアル

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僕が『全裸監督』をみない理由:ロマ
ン優光連載142

ロマン優光のさよなら、くまさん
連載第142回 僕が『全裸監督』をみない理由 Netflixで配信中のドラマ『全裸監督』について編集氏から書いてくれという依頼があったのだけれど、自分は観ていないし、今後も観る気がしないので、ちょっと書けないなと思った。80年代というギラギラ時代の黎明期のAV業界という狂った業界で活躍した異常な人物を主人公にし、それを山田孝之のような役者が演じるドラマというのは、単純に観たら面白いだろうなとは思う。しかし、自分はそれを単純に楽しめないだろうなと思うのだ。そういうわけで、その「なんで観る気がしない」かについて書いてみようと思う。
 先日、たまたま小野田寛郎氏を扱った地上波のテレビ番組を観てしまった。小野田氏と言えば、第二次世界大戦終戦後もフィリピンのルバング島で29年間に渡り潜伏し遊撃戦を行っていた人物だ。しかし、その遊撃戦と称するものの内容には、現地の民間人に対する略奪、放火、殺人といったものが含まれているわけだが、番組では明確にそこに触れることはなかった。現地のガイドに小野田氏のことをどう考えるか聞いたシーンでは、ガイドが話してる最中に不自然に場面が切り替わり、その辺の話をしている部分をカットしたのだろうなという気がした。そこら辺の話をないことにされて、単純な感動的な話にされても落ち着かなくてしょうがない。
 そういう、あるべき事実が語られていないと猛烈に違和感を感じてしまうタイプなので、すごく居心地が悪くなってしまったわけなのだが、地上派のゴールデンタイムの情報バラエティーがかった番組で、そこまでちゃんと俯瞰で人物を描くわけがないのだから、観てしまった自分が悪いとも言える。
 ドラマ『全裸監督』は本橋信宏氏のノンフィクション『全裸監督』を元にしたフィクションなわけであるが、主人公は「村西とおる」という実在する村西とおる氏と同じ名前の人物である。自分は村西氏がAV界の寵児であった時代の記憶があるし、本橋氏の何冊かの著作をはじめとして氏に関する文章をいくつか読んできている。黒木香氏についてもそうだし、その後、二人がどういうことになっていくかも知っている。そして、現在の村西氏の言動についても。
 ノンフィクションですら、造り手の立ち位置、思惑で事実は編集されているわけだが、エンターテイメントとして制作されているドラマである以上、虚実が入り交じったものになるのは当然であろう。例えば『ブギーナイツ』のように実在の人物をモデルにした別人物が主人公でオリジナルのストーリーが作られていくなら別にいいのだが、主人公は「村西とおる」という名前の人物であり、実在する本人や事実と切り離して考えるのは結局のところ難しい。
 ドラマを観てしまうと、「この人、絶対こんなんじゃないでしょう」とか「でも、この人ってこんなことやっちゃう人なんだよな」とか、「この二人、結局ああいうことになってしまうんだよな」というふうに感じてしまうのは避けられないだろう。そういうモヤモヤが発生するのが嫌なので、私は『全裸監督』を観ないのです。そんなことで観ないなんて可哀想な人間だとか、色々思う人もいるでしょうが、性格なので。あと、自分もいい年なので時間が限られてきたし、観れば面白いだろうものよりも、自発的に観たいと思うものを優先していきたいと思うのです。
 現存する実在の人物を登場人物にしてエンタメを創作するというのは難しいことだ。既に歴史上の人物として見なされている実在人物が登場するエンタメ作品は無数にある。既に存在が概念のようなもので、現実とあまり結び付いていないからできるのだろう。キリストがタイムスリップした現代人や宇宙意思の操る悪のエージェントだったり、織田信長が妖怪だったりするような作品や、山田風太郎の伝奇もののような作品も、登場する人物が歴史上の人物であるから大きく遊べているわけだ。それでも、子孫やファン的な人、信者によっては怒ることもあるだろう。
 ましてや、存命の人物をエンタメ作品の中で扱うのは、現実の本人と結び付きやすいので非常に難しいだろう。それは名誉が傷つけられる場合もあるし、逆に本人の実像とは関係ない良いイメージが与えられてしまう場合もある。人物だけではなく、そこに登場する業界や時代性などについてもそうだ。それが世間に影響を与えることからは避けられない。製作者は、そういった事に対する責任をどれだけとれるのかを踏まえて創作しなければならないというのはあるだろう。また、いくらエンタメでありフィクションであったとしても、実在する人物の現在の言動に対するリアクションも作品に関してフィードバックしてくるのも避けられない。実在の人物を実名で登場させる場合、純粋に作品としての評価だけで終わらないのは仕方がないことなんだろうなとは思う。
(隔週金曜連載)
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