Sting来日記念スペシャルコラム「My
Songs」を考える

Stingが10月に来日する。
『My Songs』という名前のアルバムを5月にリリースし、「My Songs」という名前のワールド・ツアーの一環での来日公演だ。
『My Songs』とは、StingがThe Policeの一員として活躍した1977年から1984年までの名曲たちや、1985年にソロになって以降の多くの代表曲を再びレコーディングしなおした、セルフ・カバー・アルバムだ。
このアルバム『My Songs』には、「Every Breath You Take(邦題:見つめていたい)」や、「Massage In A Bottle」、「Walking On the Moon」といった誰もが知っているThe Policeのヒット曲をはじめ、ソロ時代の「Englishman In New York」や「Fields Of Gold」という楽曲が収録されており、その名を冠した「My Songs」ツアーは、そのままヒット曲満載のオール・タイム・ヒッツのツアーになるという。
この『My Songs』を語る前に、少し前のことを振り返りたいと思う。
Stingは2010年に『Symphonicities(邦題:シンフォニシティ)』というアルバムを発売している。
このアルバムは、ポリスの時代からソロの曲も含めた、彼の書いた代表的な曲をクラシック・アレンジを施してオーケストラの演奏をバックに歌い直した、セルフ・カバー・アルバムというものだった。
このアルバムのトラックリストを見ると、ザ・ポリスのデビュー曲の「Roxanne」や、ソロの代表曲の「Englishman in New York」などを取り上げており、この企画は当時はここ日本でも大いに話題になった。
ただ、このアルバムはセルフ・カバー・アルバムではあるが、新たに施された斬新なアレンジや、大胆な新解釈を期待してはいけない。とてもよくできたアルバムではあったが、驚くほどにオリジナルに忠実で楽曲の雰囲気はそのままという、ややもすると単にオーケストラでやってみた、というアルバムだった。基本的には、楽曲のテンポは原曲のBPMに近いものでほとんど変わらないし、オリジナルではギターやベースで奏でられていたキーとなるフレーズやリフもそのままオーケストラに置き換えられていた。
当時、このアルバムをかなり聴き込んだものだが、その原曲に対して忠実な仕上がりに、これではオリジナル・ヴァージョンを聴けばいいのではないかと、ふと思ったのも事実だ。
そこから9年が経った。
クラシック・セルフ・カバーの『Symphonicities』も含めてロックからずいぶんと長い間遠ざかっていたStingが、改めてロック・フォーマットでセルフ・カバー・アルバムを出すとの報が届いた。それが『My Songs』だ。
このニュースを聞いて、驚くと共に一抹の不安を覚えたのも事実だが、果たして、明らかになったセルフ・カバー・アルバム『My Songs』の全貌は、誤解を恐れずに言うと、また同じだった。もちろん、全く同じということではない。ただ、新しい解釈による大胆なアレンジの変更などは、ほとんどない。オリジナルの世界観をそのままに「今」の味付けが施されている程度の変更しか見られないため、大幅で大胆な新解釈を求めると肩透かしを食うかもしれない。
Stingといえば、やはりこのThe Police時代の大名曲が真っ先に頭をよぎると思うが、まず、その曲を聴いて頂きたい。最初が新しい『My Songs』バージョンで、その下が1983年のオリジナル・バージョンだ。
Sting - Every Breath You Take (My Songs Version/Audio)

The Police - Every Breath You Take
この2つのバージョンは、本当に大きな差がないと言えるだろう。
続いて、ソロの代表曲といえば、この曲。同じく最初が新しいバージョンで、その下が1987年のオリジナル・バージョン。
Sting - Englishman In New York (My Songs Version/Audio)
Sting - Englishman In New York

この曲は先程よりも変化はみられるが、楽曲の構成や、間奏やエンディングのソプラノ・サックスのフレーズなどはオリジナルを踏襲していると言っていいかもしれない。
もう一曲取り上げよう。ソロになって4枚目のアルバム『Ten Summoner's Tales』からのシングル曲、「Fields Of Gold」だ。
Sting - Fields Of Gold (My Songs Version/Audio)
Sting - Fields Of Gold (Official Video)
この曲は、ガットギターをアレンジの中心に据えた新たな味付けがなされているが、楽曲全体から受ける印象は、オリジナルから大きくは変わらない。いや、意図して変えていないのだろう。
このStingのある種、頑なにも見える姿勢に興味を持ち色々と調べてみると、彼自身のこんな言葉に行きついた。
最近のSting自身の言葉によるとこのアルバムは、「ここに収めた曲は、私の人生そのもの、といっていいだろう。それらを、再構築し、部分的に修正し、手を加え、そしてそのすべてを、今現在の視点で見つめ直してみた」ということらしい。
この言葉通り、アルバム『My Songs』に収録されている楽曲はいずれも彼を象徴するような代表曲ばかりだ。なので、「ここに収めた曲は、私の人生そのもの」という表現には自然と頷いてしまう。
そして、その楽曲たちを「再構築し、部分的に修正し、手を加え、そしてそのすべてを、今現在の視点で見つめ直してみた」と言う。なるほど、このアルバムは新たな解釈を施すのではなく、「今現在の視点で見つめ直す」ものなのだ。
ここで、分かった気がする。
『My Songs』でも、前述の『Symphonicities』でも、基本的なアレンジやリフなどがオリジナルのままなのは、Stingにとっては「曲」とはメロディーとコードと歌詞という楽曲の骨格部分のみならず、アレンジやリフなども含めているということなのだろう。
そう考えると、The Police時代の名曲の数々は、Stingの歌声やベースはもちろんのこと、アンディー・サマーズのギター・リフや、スチュアート・コープランドのドラム・フィルまでも含めて初めて成立して他を圧倒する個性を発揮しているし、ソロの曲はジャジーなサックスや哀愁をおびたガットギターなどのフレーズの一つ一つがその楽曲には不可欠なものとして存在している。
アレンジも含めた、レコーディングされた作品をまるまるそのままに「楽曲」と捉えて考えると、Stingのこれまでの仕事と発言に整合性を見出すことができるし、前述の『Symphonicities』も本作『My Songs』の内容も理解できる。
ここまで変わらないのは、オリジナルバージョンの持つ強度がすさまじいから。その一言に尽きると思う。だからこそ、2回目のセルフ・カバーでも、名曲たちはあの頃聴いた名曲のままだ。Stingをずっと追ってきた人たちも、そうでない人たちも、この新しい『My Songs』を一聴すれば心に沸き立つものがあることだろう。

ここまでいろいろ書いてきたが、Stingも含め、第一線で活躍し続ける大ベテランのアーティストたちはいずれも一筋縄ではいかない。Stingも1977年のデビューから40年以上が経ち、自身も67歳になった。
そんなStingがいまだに現役でロックし続けていること。その事実が、どうしようもなく嬉しい。
そして、その内容や選曲がいつも同じであろうとも、一聴してアレンジがほとんど変わらなくとも、67歳になってもStingはやはり何も変わらずに、カッコいいベースを弾き続け、ワン・アンド・オンリーな歌声を聴かせてくれている。
そんな彼のベスト・ヒット・セルフ・カバー・ライブ(Stingの来日公演は、いつだってベスト・ヒット・ライブだったけれど)を、10月までしっかりと待っていたい。
最後に、現ラインナップであろうライブの映像を。
Stingのソロをずっと支え続けているギタリスト、ドミニク・ミラーの姿が見えるところはやはり変わらないが、ギタリストが2人のツインギターの体制であること、よりロック色の強いドラマーがいることなど、新たな要素も見られてワクワクする(この編成がワールド・ツアーのバンドかどうかは分からないが)。
頑なに変えないものと、柔軟に変えていくもの。
そのバランスを確かめるために、10月のライブをしかと見届けたい。

Demolition Man (My Songs Version/Live From The Tonight Show Starring Jimmy Fallon/2019)

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