【インタビュー】スキレット「現在の
カルチャーは、“いつだって人生が素
晴らしい”と誤解している」

2度のグラミー賞ノミネートを誇るロック・バンド、スキレットが、10枚目のアルバム『ビクトリアス』を8月2日に全世界同時リリースする。前作『アンリーシュド』はゴールド認定されるなど、21世紀に売れたロック・バンドのひとつと言える彼ら。今回BARKSでは、その最新作についてジョン・クーパー(リード・ボーカル、ベース)に訊いたオフィシャルインタビューを掲載する。

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■ 望みを失っても希望はあると伝えたかった

── ニュー・アルバムの発売を控え、コリー(・クーパー/ギター、キーボード)のホームタウンであるミルウォーキーで週末ショウが控えていますね。

ジョン・クーパー(リード・ボーカル、ベース): そうだね、地元に戻れることがとても楽しみなんだ。実は明日オフなんだけど、息子とスパイダーマンの最新作を観に行く予定なんだ。家族と一緒の時間を過ごしてから、ミルウォーキーで<SUMMER FEST>に出るよ。このフェスはクールで、ローカルなフェスでそこにいるみんなが顔見知りだったり友人だったりするんだ。とても穏やかで、僕らの素晴らしいオーディエンスも大勢いるんだ。

── 実は私も行ったことがありますが、とても素晴らしいフェスですよね。それから、明日スパイダーマンの新作をご覧になると。あなたはマーヴェルのコミックや映画が好きで、あなたのポッドキャストによると『アヴェンジャーズ/エンドゲーム』を観た後には泣いたそうですね。一番お気に入りのスーパーヒーローはアイアンマンだったりするのでしょうか?

ジョン:(笑)。あぁ あれね!いや、スパイダーマンが僕のもっともお気に入りのスーパーヒーローだよ。子供の頃から現在に至るまで、スパイダーマンが1番のお気に入りであり、僕が一番最初にはまったスーパーヒーローでもあるんだ。

── スキレットの音楽はWWEやESPN、NBAなどのスポーツチャンネルなどでフィーチャーされていますよね。あなたはスポーツもお好きだったりしますか?

ジョン:うん、そうだよ。僕はスポーツをして育ったし、ジムに行ったり、バスケットボールをしたりしてる。スポーツが好きだし、スポーツをして時間を過ごしているよ。スキレットの音楽はスポーツにとても向いていると思うんだ。自分でいうのもなんだけど、僕たちの音楽はエネルギッシュでありながら同時にメロディック。それに、たくさんのポジティブさが詰まっていると思うんだ。シンガロングもできるけれどアグレッシブでもある。ギターもドラムもロックだけど、一緒に歌うことができる。

── 最新作『ヴィクトリアス』を通じて感じたことでもありますね。前作『アンリーシュド』よりもヘヴィな印象ですが、エモーショナルで、ポジティブなエネルギーに溢れていますね。あなたがポッドキャストで用いていた、“ウルトラ・ポジティビティ”こそが今作を表わすのに最適なのではないかと個人的には感じています。
ジョン:ポジティブな友人を持つのは、人生でとても重要なことであり、多くの人を助けることだと思う。でも僕が伝えたいのは、現在のカルチャーは…ソーシャルメディア、メディア、セレブリティーなどは“いつだって人生が素晴らしい”と誤解していると思うんだ。ポジティブ思考というのは、人生は容易くなく、不運な時を過ごすこともある、けれども打ち勝つことができる、それには成功の糸口を探し出さなければいけないという認識だと思うんだ。己の中にあるのか、神か、それが何であろうと、勝者になるためには成功の糸口を探し出す必要があると思う。ウルトラ・ポジティビティというアイデアを教授したのはもっとハートフルなもので、人生で困難なことがあったとしても、自分がより強い人間だからこそ向き合うことができる。でも、人生って時としてさらに困難なこと、本当にどうしようもないほどの最悪の時が訪れることがあるってことに気づかない人もいる。人生における最悪な時といえば、僕が6年生の頃だから、だいたい10歳くらいの頃かな、母親がガンと診断されたんだ。3年間ガンと闘って消えたと思ったら再発して、化学療法を受けたんだけど、僕が14歳の頃に亡くなった。この3~4年の、母が衰えていく姿、ゆっくりと少しずつ死に向かっていく姿を見る日々は僕にとって本当に辛いものだった。ただ、僕がポジティブになれたきっかけは神様や友人との繋がり、そして僕を愛してくれる人々との対話だったんだ。ポジティブさっていうのは素晴らしいものだよ。でも、悪いことが起こらないって考えは非現実的だと思うんだ。

── アルバムに関する質問に戻りますが、今作にはいくつかのキーワードが存在すると思います。まずは、アルバムタイトルでもあり、表題曲のヴィクトリアス。 “闘いに勝つ”という意味のある言葉ですが、この曲におけるヴィクトリアスは、“素晴らしい人生”という意味合いに受け取れたように感じました。

▲アルバム『Victorious / ビクトリアス』

ジョン:闘いに勝つ、というのが大部分の意味だと思うよ。僕はかなりの衝撃を受けたんだけど、ここ何年で多くのロックスターが他界しているよね。自殺や誤ってオーバードーズで命を落としている人もいる。特にリンキン・パークのチェスター・ベニントンの死に大きな衝撃を受けたんだ。彼のことを個人的に知っていたわけでもなければ、直接会ったことすらなかったから、そんな風に思ったことが不思議だけど、僕は本当に悲しかったんだ。僕らはリンキン・パークと多くのファンを共有していたし、いつか一緒にツアーするんじゃないかって思っていた。僕は彼らの大ファンだしね。だから彼が自らの命を絶ったのがとても悲しかったんだ。インターネットで多くの反応をみたんだけど、本当に大勢の人々が悲しみを伝えていた。彼の死によって多くの人が落ち込んでいた。そんな深い悲しみの淵にいる人々のために、生き続けるように曲を書いたんだ。その悲しみや暗闇に打ち勝てるように、そして彼らが愛する人たちに「ねぇ、私は今とても辛くて助けが必要なんだ」と伝えるよう促したいという願いがあったからこそ作ったのが “ヴィクトリアス” なんだ。それがこの曲を作った動機であり望みでもあったんだよね。君の言葉によって気付かされたんだけど、望みを失っても希望はあると伝えたかったんだ。できればいつかこの曲が誰かを救うことができればいいな。

── “アンカー” は本作におけるところの“ヴィクトリアス”に対するアンサーソングのようにも受け取れました。この曲はまるで誰かに抱き締めてもらっているような温かみのある曲で、 “ヴィクトリアス”が、希望をという光を求めている人へ届けている曲ならば、“アンカー”はまるで温かな光で未来を照らすような1曲だと感じました。

ジョン:あぁ、そうだよ! “アンカー”はまさにそういった方向性の曲だよ。僕も君が今投げてくれたような思いをこの曲に対して感じているよ。君個人や僕個人の絶え間なく続く人生の中で、落ちていくものや、周りで落ちていくものの中で、この曲は守ってくれるような曲だよ。恐らくスキレットのこれまでの曲の中でもっとも優しい曲だと思うよ。ロマンティックでもあれば同時にドリーミーなサウンドでもある。そんなムードを醸し出すことができたのは良かったね。
── 今作のほとんどを初めて貴方とコリーがセルフ・プロデュースしたそうですが、いかがでしたか?

ジョン:実はコリーは過去のアルバムも多くのプロダクションにおける責任者だったんだけどクレジットされていなかっただけなんだ。僕はいままでスキレット・サウンドの責任者で曲を作ってきたんだけど、プロデューサーを迎えることで自分たちが間違った方向へ進んでいないか指南してもらった方が無難かなと思っていたんだ。過去にたくさんアルバムを作ってきたし、僕ら自身でプロデュースする用意はできてる!ってことになった。実際やってみたらうまく行った。なんというか以前よりもピースだったし、よりアグレッシヴにもなれたし、面白くなった。だってさ、僕らは時間をかけて自分のやりたいことを追求してきたんだし、僕らのやってきたことや試みてきたことは誰も知らないんだしさ!コリーは素晴らしいよ。僕よりはるかに素晴らしい役割を果たしてくれたし、音楽の才能も優れていて、あらゆるサウンドを潤滑させ、ピアノを演奏している。彼女はこういった作業がとても得意なんだ。僕はヘヴィメタル派で、彼女はオルタナティヴで。僕はあらゆるサウンドをメタリカみたいにしたがるし、彼女はすべてを ザ・キュアーみたいにしたがるんだ(笑)。それをひとつにしているんだよ。

◆インタビュー(2)へ
■ 僕らは本当に日本へ戻る必要があると思うよ

── セルフプロデュースだったことで、過去のアルバムと比較して制作には時間がかかりましたか?

ジョン:むしろ短い時間で済んだと思うよ。だって他の人のスケジュールを待つ必要がなかったからね。これまでのアルバムレコーディングに関しては、ツアーにツアーを重ねた後に4ヶ月のオフを取って、約1ヶ月間、スタジオに通ってレコーディングをしていた。でも自分たちでやるとなれば、ツアーの移動中に色々なことが出来るんだ。レコーディング機材をツアーに持ち込んで、ツアーバスや控え室、ホテルの部屋の中など、やりたい時にレコーディングスタジオのようなセッティングをして作業することができるんだ。仕上げたいと思った時に仕上げることができた。そしてレコーディングスタジオを1日借りて、よりいい音に仕上げるためにギターやストリングスなどのオーバーダビングをするんだ。できなかったことなんてごくわずかだよ。ボーカルだってすべてツアーバスの中や自宅で行なった。自分たちでコントロールできたのは良かったし、予算削減においても優れていたよ。

── いろんな場所でレコーディングを行ったとのことですが、そんな中でもユニークな場所はありましたか?

ジョン:劣悪なエコーが発生する場所なんかはあったよね。控え室とか。そんな時はツアーバスへ行って、窓側にソロボーカルのセットアップをしたりしたよ。ある時、ジェン(・レジャー/ドラム、ボーカル)がホテルの部屋で、深夜だったんだけど、大きな声で歌うからみんなが起きるんじゃないかって思って、カウチの上でクッションで頭を隠して突っ伏して、レコーディングしなければならなかったことはあったね(笑)。

── ニューアルバムから1曲、あなたにとって1番重要な曲や特別な思い入れのある曲を選んで頂けますか?

ジョン:そうだなぁ…“ヴィクトリアス” だね。この曲に関してはすでに話した通りだよ。そして恐らく“セイヴ・ミー” だね。この楽曲は僕が思うにオールドスクールなスキレット・ソングなんだ。まるで10年前のスキレットのようなね。その頃が好きなファン向けでもあるし、当時のスタイルは今も健在だよと伝えることができる。それから10年が経ってスタイルも変わったけれど、例えるならばまるでU2のような。100人のU2ファンにベストアルバムは?と聞いたらそれぞれバラバラのアルバムを選ぶような。いつ好きになったのかによってそれぞれ違う。なぜかっていうとレコードと人との相互作用のようなものだし、僕たちのファンは多様性があると思うんだ。“セイヴ・ミー” がクールだと僕が感じるのは、僕はメタルが好きだから。この曲にはよりメタルなギターのパートが多く入っていて、ギター・ソロも十分に容赦なくてオールドなスキレットのスタイルだ。それにこの曲の歌詞も好きなんだ!ダークで、少しゴシックでもある。こういったスタイルはしばらくやっていなかったから僕をハッピーにさせてくれたよ。
── 今回ニューアルバムと同じく2019年8月にグラフィックノベル『Eden: A Skillet Graphic Novel』も発売となりますね。フィクションだけど、あなた方メンバーが全員、実名で登場するんですよね?

ジョン:これは本当にいいんだよ!ファンもきっと気に入ってくれるはずだよ。サイエンス・フィクションで、同時にミステリアス、少しだけスピチュアルな感じもあればアクションもあって、クールなんだ。僕ら全員が実名で登場するんだけど、スキレットのメンバーとしてではないんだ。物語の中で僕とコリーは結婚していて、ジェンとセス(・モリソン/リード・ギター)とは途中で、違うグループと旅をしている彼らと出会うんだ。みんなが自分らしさを保とうと苦悩していて、他人を救う術も忘れてしまっているような、暗い未来が舞台になっているんだ。それを僕らがエデンと呼ぶのは、僕らがそんな場所から離れ、明るい未来へとたどり着こうとしているから。(物語の中で)探し求めているのが新しい地球への門戸のようなもので、だからそれをエデンと呼んでいる。聖書の中でエデンは神が創造したもので、争いも恐れも痛みもない新しい地球。そしてその入り口はあらゆる人に開かれていて、自分たち自身がそこで新たな世界を創造することができる、というのがアイデアなんだ。

── とても壮大で美しいコンセプトですね。ちなみにこの『Eden』は1冊完結なのでしょうか?それとも続いていくのでしょうか?

ジョン:続編を作るというアイデアは僕らも好きだね。この本がどの位成功するのかわからないので続編に関して今はノーアイデアだけど、すごくいい本だと思うし、ファンも当然気に入ってくれるだろうって願っているよ。本音を言うと、本そのものの内容よりも、感じ方というか、希望に満ちていて、スピリチュアルで、まさにスキレットが本を書いたって感じなんだ。僕らの音楽と似通っていて、ダークなんだけど同時に美しくもある、みたいな。だからファンも気に入ってくれるだろうって確信しているし、実際ファンが気に入ってくれたら、さらに本を書くだろうね!実は『Eden』のために、エクスクルーシヴ・ソングをレコーディングするんだ。しかもその曲はスキレットのアルバムには聴くことができない。あくまでその曲は『Eden』を購入してくれた人のみが手に入れられるんだ。今週(*7月初週)レコーディングするんだけど、曲のタイトルは “Dreaming an Eden” っていうんだよ。

── 今作、そして前作の楽曲を目の前でプレイしてもらう日を日本のファンは楽しみにしていると思います。前回の来日から随分と長い月日が経っていますが、ジャパンツアーの予定はありますか?

ジョン:前回日本に行ったのが確か2010年だったと思うんだけど、とても楽しい時間を過ごすことができたし、とても日本が気に入ったんだ。以前、僕のポッドキャスト“COOPER STUFF - Thought Of the Day”の中で日本のことを語ったことがあるんだよ。3分ほどのものだけど、ほぼ毎日、僕が感じたこと、僕の今日の1曲みたいなことを語って、(聴いてくれた人に)インスパイアを与えられたらなと思っているんだけど、その中で日本から影響を受けたことについて触れたんだ。日本の人たちが日本にいることをどれだけ愛しているか、仕事に対してや自分自身に対するリスペクトを持っているかということ、自分たちの行なっていることに誇りを持っていることなどに影響を受けたっていう、素晴らしい体験について語ったんだ。食事も素晴らしいし。日本のことをそんなに知ってはいないけれど、その時の Thought Of the Dayのポイントは、リスペクトすること、リスペクトすることの価値について僕が学んだことだったんだ。そうだね、僕らは本当に日本へ戻る必要があると思うよ。まだその予定は立っていないけれどね。

── ありがとうございます!もし、再来日公演が実現したらセットリストはどんな感じになると思いますか?

ジョン:そうだねぇ、ヒットした曲は演奏しなきゃって思うんだよね。“モンスター”(『アウェイク』2009年)、“ヒーロー”(『アウェイク』) や “フィール・インヴィジブル”(『アンリーシュド』2016年) 、“レジェンダリー” といったね。でも、日本のオーディエンスってメロディックな曲が好きなんだなって覚えているんだ。“アウェイク・アンド・アライヴ” (『アウェイク』)みたいな曲だね。恐らくそういった曲をやって、サプライズで何か足すとか、そんな感じかな。
── 来日の報せが届くのを心待ちにしていますね!ちなみに、特別に日本の人々のために“Thoughts of the Day” を届けるとしたらどんな思いを送りますか?

ジョン:日本のファンへ送る思い?うーん本当にたくさんの思いが浮かぶんだけど…多分ひとつだけを伝えるとするならば “Hope (希望)” だろうね。ホープって僕の書く音楽について表す思いでもあるし、人々に伝えたい思いでもある。ホープなしの人生なんて実にひどいものだよ。

インタビュー、訳:宮原亜矢
アーティスト写真撮影:Chrissy Nix

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■ アルバム『Victorious / ビクトリアス』

2019年8月2日発売
WPCR-18230 / ¥1,980+税

トラックリスト:
1. Legendary / レジェンダリー
2. You Ain’t Ready / ユー・エイント・レディー
3. Victorious / ビクトリアス
4. This Is the Kingdom / ディス・イズ・ザ・キングダム
5. Save Me / セイヴ・ミー
6. Rise Up / ライズ・アップ
7. Terrify the Dark / テリファイ・ザ・ダーク
8. Never Going Back / ネバー・ゴーイング・バック
9. Reach / リーチ
10. Anchor / アンカー
11. Finish Line / フィニッシュ・ライン
12. Back to Life / バック・トゥ・ライフ
13. Victorious (Demo Version) / ビクトリアス(デモ・バージョン)*日本盤ボーナス・トラック

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