浦井健治にインタビュー ミュージカ
ル『ビッグ・フィッシュ』で描く愛の
形とは

2019年11月から東京・シアタークリエにてミュージカル『ビッグ・フィッシュ』が上演される。ティム・バートン監督による映画「ビッグ・フィッシュ」をもとにした本作は、2017年に日本初演を迎え、感動の涙と拍手の中、幕を下ろした。

あれから2年。メインキャストが初演と同じ顔触れで再演されることとなった今回、主人公・エドワード・ブルーム(演:川平慈英)の息子ウィル役を演じる浦井健治に、初演時のエピソードも含め、作品に対する想いなどをたっぷりと伺った。
■愛に溢れ、白井晃の頭から湯気も沸いた初演
ーーまずは大好評となった初演の振り返りから聴かせてください。
稽古場からキャストもスタッフさんも、皆涙を流して、それが例えではなく本当に涙を流して歌えなくなる人もいれば、目が腫れるくらいに涙が溢れて止まらない人もいる初演でした。そんな稽古から始まり、初日、楽日にかけて本当のファミリー感がカンパニーに生まれた、愛溢れる作品に仕上がりました。取材会でも話が出ましたが、皆が「これは受け継いでいかなければならない作品、上演し続けていかなければならない作品だ」と強く感じるほど、慈英さんを中心に素晴らしいエネルギーに満ちた初演だったと思います。​
その後、再演の報を受け、天にも昇る気持ちでした。それも同じ顔触れで集まれたという奇跡。「皆、本当に心から(この作品が)好きなんだな」という事が伝わってくるんです。また、演出の白井(晃)さんが「またこの作品を育てていけるんだ」とイキイキとしていらっしゃるので、きっと初演以上の愛溢れる作品になっていくんだろうと確信を抱きつつ、自分もウィルという役を慈英さんのエドワードと共に深めていき、おもしろい親子関係を築いていけたらと思っています。​
浦井健治
ーー再演では新曲が追加されるそうですが、どのような曲なんですか?
母国版のサウンドトラックには入っているのですが、二人の親子をより深く歌う曲が今回追加されます。一方でカットされる曲もあるので、そのカットされた曲で描いている心情を追加される曲で描くことになります。
ーー今回上演会場が日生劇場からシアタークリエに変わりますが、変わる事でより力を入れたい事ってありますか?
よりお客様とも近くなりますし、コンパクトになる分、僕らからあふれ出る想いをさらに伝えていけるだろうし、また舞台上の様々な仕掛けもシアタークリエではどう見せるのかにも期待していただきたいですね。映画版でも印象的な一面に広がる水仙の場面など、白井さんのこだわりを感じる部分ですから。エドワードの一途な想いを舞台セットで表していますが、その一面の水仙のなかにいる川平さん、サンドラ・ブルーム役の霧矢さんのお二人が本当に愛らしいんですよ。舞台袖から(夢咲)ねねちゃんと見ながら「いいよね、ああいう夫婦になりたいね」っていつも話してたんです。​
ーーそんな白井さんの稽古場での“こだわり”を感じさせる印象的なエピソード、他にもありますか?
いっぱいありますよ!(笑) 細かなところを確かめたいから「もう一回やってくれない?」「もう一回!」「もう一回この角度でやってくれない?」っていう稽古がずーっと続くんです。その背景にはお客様にいちばん親切である事を追求しているから。劇中に登場する“ビッグ・フィッシュ”についてもどういう出方をすればお客様が一番感動するのか、劇場に入ってからもずっとこだわっていましたしね。お芝居に関しても「ウソがないように」と僕とねねちゃんの“夫婦”に対してもお芝居の“千本ノック”で叩きこんでくれたり……。​
白井さんご自身はご飯も食べずに演出卓に座ったままやっているんです。しまいには頭から本当に湯気が出るくらいに。それでも楽しそうに演出を付けていらっしゃるので、演出助手さんやアンサンブルさんが氷嚢を作って白井さんの頭に乗せて、その姿を皆で写真に撮るという事もありました(笑)。​
浦井健治
■父・エドワード役は川平慈英しかできない役
ーー浦井さんから見た川平さんの父親ぶりはいかがでしょうか?
大きなホラを吹くめんどくさい父親なんですが、慈英さんが演じている事でキラキラして見ているだけで笑顔になっちゃうんですよ。でも一方では自分の運命と対峙していて、それを支える妻の霧矢さんとの姿を見ているともうやるせない想いになるんです。本当の家族ってこうだな、と思いやる関係を慈英さんから教わったと思います。キャストの人数が前回と変わりますが、最後にはきっとまた同じ気持ちを共有できる、そんな関係をもう一度築きたいです。​
ーーエドワード役の川平さんはカンパニーにとってどんな存在ですか?
慈英さんは「クーッ」の人であり「ムムーッ」の人であり(笑)。その場に慈英さんがいれば皆ハッピーになれる。エネルギーの塊で、クレバーな一面もある人。素直で人に優しく、とても好奇心旺盛な方なので、いつも多くの人が集まってくる。パフォーマーとしてもクリエイティブですべての技量が揃っている。日本でこれだけの事が出来る人って他にいないんじゃないかなと思います。尊敬する先輩で自分にとって目標の一人です。
あのエドワード・ブルーム役をやりたい人は他にもいらっしゃると思いますが、きっと慈英さんにしかできない役なんじゃないかな。他にも、例えば『雨に唄えば』のコズモ役も慈英さんにぴったりのイメージで、なんとかして観れないかなぁ……って思うぐらい、本当に魅力溢れる素敵な役者さんだと思います。
浦井健治
ーーでは、逆に浦井さんご自身について。演じるウィルと何か重なるところはありますか?
僕は喜怒哀楽の「怒」があまりないらしくて。蜷川幸雄さんに怒られた事もあるんです(笑)。普段からあまりガーッ! って怒るタイプじゃないので怒りを出すのが難しいんです。でもこの作品では父に対して怒る場面もある。ウィルが怒る時は人を傷つけないように探りながらものを言うところがあり、そんなちょっとしたねちっこさ、ある意味めんどくさいところは少し似ているかもしれませんね(笑)。​
ーーいつか浦井さんも父親役が似合う年齢になるかと思いますが、もしそんな年齢になって「エドワード役をやりませんか?」とお声がかかったらどうしますか?
どうかなあ。慈英さん​というパフォーマンスに長けた超一流のエンターテイナーでないとエドワード役は難しいと思います。演じるには高いクオリティが求められるし、キャラクターも共存している事が必須だと思うので。そんなエドワード役を引き継ぐという事は、作品そのものを引き継ぐという事を意味しているので……。オファーがきたら、もちろん頑張りますけど、大変な役ですよ、これは! もし僕がやるならウィルの役は(初演時に幼い頃のウィル役/ウィルの息子役を演じた)鈴木福くんかりょうたくんでお願いしたいですね(笑)。​
浦井健治
■浦井健治を作った“父親”の存在
ーー作品では川平さんが父親役ですが、浦井さんご自身のお父さんはどんな方ですか?
頼もしくておもしろくもあり、その一方でちゃんと叱ってくれる存在です。父は山とか川とか自然と触れさせる育て方をしてくれたんです。ニジマスをつかみ獲りしたり、タケノコを掘りにいったり……高いところから川に飛び込む経験などもいっぱいさせてくれました。今思えば「大きな男になれよ」という事を教えてくれていたのかもしれないですね。父はマラソンが好きで今もずっと走っているんです。もうそろそろ休憩したら? って思うんですけど、走るのをやめないんです。何かの時に走る理由を聴いたら、父は「母のために自分を維持していたいから」と。そんなこと聴いちゃったら「かっこいいなあ」って思っちゃいますよね。​
ーー本当にかっこいいお父さんですね! では、この業界での“父親”的存在と言ったら?
山口祐一郎さんですね(即答)。父のようであり兄のようであり。『エリザベート』で僕が帝国劇場にデビューするとき、目の前にいてくれた人だし、そんな存在が今も背中で何かを伝えようとしてくれている事がわかるんです。どんな事でも相談に乗ってくれますし。市村正親さんや鹿賀丈史さんらと共にずっと第一線を引っ張ってきた人であり、ミュージカル界を“創った人”。今の我々は“創っていく世代”なのかもしれませんが、祐さん(山口祐一郎)は“創った人” ですね。
浦井健治
ヘアメイク=山下由花
スタイリング=壽村太一

取材・文=こむらさき 撮影=岡崎雄昌

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着