かわせみ座『まほろばのこだま のの
さまたちが目を覚ます』~映画監督・
高畑勲が、日本人が生活の中で感じて
きた“気配”を描いた人形劇

 かわせみ座という人形劇団がある。主宰でパフォーマーでもある山本由也が、一体一体その動きをイメージし、設計図を引いて、構造を新たに考えながら生み出す人形たちは、とても精密なものだ。そこにパフォーマーとしての山本が指先から繊細に命を吹き込むと、まるで生き物のように動き出す。それぞれの人形に物語があって、愛らしくて、楽しく、悲しい。セリフはしゃべらず、鳴き声と仕草だけの表現だが、とても雄弁に心情が伝わってくる。
 そんな彼らの人形から和のキャラクターばかりを選び出し、童役の役者とわらべ唄の挿入によってオムニバスだった物語を一つの世界観で包み込み、かつては生活の隙間で感じていたはずなのに、現代の日本人が鈍感になったが故にどこかに置き忘れてしまった「気配」みたいなものをステージ上に浮き彫りにしたのが『まほろばのこだま ののさまたちが目を覚ます』。東京国立近代美術館で回顧展「高畑勲展――日本のアニメーションに遺したもの」が始まった、アニメーションの巨匠、故・高畑勲の演出だ。のの様とは、尊いものを表す言葉。仏様も、神様も、光も、水も、大地自然も、のの様。かわせみ座のキャラクターたちも、のの様にふさわしい。
河童のつらら
烏天狗
 山本由也がコメントを寄せてくれた
 「私が生涯師と仰ぐ竹田喜之助(竹田人形座)さんとの縁で高畑勲さんが『まほろばのこだま』の演出を受けてくださったのは1998年のこと。小品集的なバラバラだった作品を童役の役者とわらべ唄でつなげることで、一つの作品にまとめてくださいました。
 セットはほとんど使わない黒の舞台。古き良き日本の原風景を思い起こす「気配・けはい」がこの舞台の要になる。人とかかわろうとするが気付いてもらえない精霊たち。滑稽だったり、恐ろしかったり……切なく、ペーソスを含んだ精霊たちのオムニバス。
 いつも前向きで朗らかな高畑さんは、伝わらない表現に対しては妥協を許さず、かわせみ座の人形だから可能な舞台表現を共に構築してくださいました。世のすべてに関心を持ち、素敵にときめく青年のような心を持っている方でした。
 高畑さんがこだわった「気配」・「観客に伝わる表現」・「人形たちの思い」をぜひお楽しみください。」
狐変化
雪変化
花鬼ぐじ&ごべ
文=いまいこういち

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