いのうえひでのり&倉持裕が『けむり
の軍団』を語る!「役者への思い入れ
の強さが上演時間に反映してしまうん
です(笑)」

2019年7月15日(月・祝)から東京・TBS赤坂ACTシアターにて上演される劇団☆新感線「いのうえ歌舞伎《亞》alternative『けむりの軍団』」。頭の切れる軍配士(古田新太)とずる賢い謎の浪人(池田成志)を中心とした王道の人情時代劇が描かれる本作。脚本を務めるのは3年前の『乱鶯』で筆を執った倉持裕。そして演出はご存じ、いのうえひでのり。本作に向けた想いを二人に聴いてきた。
■『けむりの軍団』は今の新感線が描く大人の時代劇
ーー改めて『けむりの軍団』誕生のいきさつを伺いたいのですが。
いのうえ:古田がメインで、という事で何か時代劇をやろうと思ったんですが、(中島)かずきさんの作品だと、彼を真ん中に持ってくるには身体的な面などいろいろとキツイんですよ(笑)。だからもっと年相応の人間が主人公になる作品がいいなと思ったんです。ならば『乱鶯』を書いた倉持くんがいいんじゃないかなって。『乱鶯』よりはガチャガチャしたものにしてほしいってお願いはしましたけどね。
倉持:執筆のオファーは本当に嬉しかったです。『乱鶯』で終わり、とは思ってなかったんですが、まさかたった3年で再び書かせてもらえるなんて思ってもいなかったので。僕としても『乱鶯』くらい重たい芝居は個人的に好きですが、でもまた次にやらせてもらえるならもう少し軽妙、軽薄なキャラクターで書きたかったんです。そんな事を想っていた矢先にいのうえさんからも同じようなリクエストが来たので「きた!」と思いましたね。
ーー願ったり叶ったりだったんですね。ここ最近、新感線に出演されてきた若手俳優さんたちに何度となく取材する機会があったんですが、『乱鶯』で初めて新感線作品に触れたという方が多く、「自分も新感線に出たい」と言われてきました。
いのうえ:『乱鶯』は最近やった中では異質の作品でしたからね。あれ以降はぐるぐる、ぐるぐると回ってましたし(笑)。だから直近で新作って言うと『偽義経冥界歌』を除けば『乱鶯』。他の作品とは質感が違いますからね。
いのうえひでのり
倉持:本当に(笑)。
ーー以前、古田さんにインタビューした時に聴いたんですが、『けむりの軍団』というタイトルは元は違うタイトルだったそうですね。
いのうえ:「けむり」は「煤煙」でした。
倉持:「軍団」は「大軍」とかだったはず……。
いのうえ:「軍団」の方が馬鹿っぽくていいなって。キャッチーでしょ(笑)?
倉持:平たい感じですよね(笑)。
ーー『けむりの軍団』は、黒澤明監督の『隠し峠の三悪人』がベースにあるという事ですが。
倉持:これは、いのうえさんからのお題のうちの一つでした。『乱鶯』の時は同じく黒澤作品の『椿三十郎』をベースにって言われていました。僕も黒澤映画は好きなんです。あんまり剣で戦ってない感じがいいなと思ってたんです。言葉で戦っている感じがしてね。
いのうえ:そうなんだよ。「ここぞ! という時は剣を抜きますが、それ以外は口で戦っているんです。割と頭脳戦なんです。
倉持:そしてユーモアもありますしね。
■早乙女太一、須賀健太、清野菜名にかける大きな期待とは
ーー製作発表でも話題になりましたが今回は「古田さんと早乙女太一さんのチャンバラ」が見どころの一つだそうですね。
いのうえ:チャンバラは入れて欲しいってお願いしたんです。古田がチャンバラというのはもうそろそろ年齢的にきつくなるだろうなと思っていて。今回も極力絞って「ここぞ!」というところで見せられるようにしたいなと。太一も一度は古田と絡みたいって言っていましたしね。
新感線に出る若手俳優たちは皆「古田さんと絡みたい」って言うんです。でもなかなか難しくて。古田を真ん中に持ってくるときはそうそう呼べないから。太一はチャンスをゲットしましたね!
(左から)倉持裕、いのうえひでのり
ーー稽古はどのように進めていく予定ですか?
いのうえ:今回は新感線の事を知っている百戦錬磨の俳優さんばかりなので、ざっくりと形を作ったらあとは自然と動いてくれて出来上がっていくんじゃないかな。もちろん(須賀)健太を初め、若手には芝居は付けるとは思いますが、古田や成志、粟根や聖子に細かく芝居をつけることはないと思いますよ。いちを言って12くらい分かってくれる人たちですから。
ーーその若手3人~早乙女太一さん、須賀健太さん、清野菜名さんへの期待はいかがでしょうか?
いのうえ:3人とも芝居がまっすぐだし、本人たちも「動き担当」と言ってましたが、若者らしく身体がきく子ばかりなので、それも大きいです。ベテランたちが省エネで動く分、彼らが無駄に動き回ってもらえればいいですね。
太一は刀を持たせれば多分若手の中では随一、現代のサムライ俳優だと思うんです。それを「若手の中で」じゃなく、きちんと芝居で古田と絡む事で太一の芝居の見え方も変わってくると思います。実際、彼も「鳥髑髏」でおじさんたちとお芝居をしてすごく楽しかったって言ってましたし、いい刺激になるんじゃないかなと。
健太はずーっと新感線が好きで、自分が出てない時も観に来ていました。今回の役柄が血気盛んで真面目な彼にも当て書きされているので、きっとハマると思います。
菜名ちゃんもね。アクション女優さんだから。でも世間は意外と「あの子、あそこまで動けるんだ!」って知られてないから。新感線や『今日から俺は!』でハイキックとか見た人は知っていると思うんですが。お姫様役で品の良さが出れば。僕が一番最初に彼女を知ったのは園子温監督の『TOKYO TRIBE』でした。あれはインパクトがありましたね。思い切りの良さも輝いていました。
ーーいのうえさんは実際に演出を付けているので、3人の人となりはご存じかと思いますが、台本を書く側の倉持さんは3人にどのような想いを持ちながら台本や役を描いていたんですか?
倉持:太一くんは斬りあいだけでお金がとれる「技・芸」がある。あれだけカッコいいんだから、逆にあえてかっこ悪いところも書きたいと(笑)。なので口を開くと支離滅裂な事を喋ってしまう口下手キャラにしました。「何言ってんだこいつ」っていうような口を開けばかっこ悪いキャラに。ギャップを付けたいと思いましたね。
須賀くんはプライドばかり高いのにすこぶる弱い奴。普通の役者なら嫌われてしまいそうな役であっても彼なら共感してもらえたり、愛らしく思えるんじゃないかな。
清野さんはもっともっとチャンバラを書きたかったように思いますね。でもお姫様が立ち回りに参加すると護衛が要らなくなっちゃうから。本音はもっと暴れて欲しかったと思っています。
倉持裕
いのうえ:そこらへんは稽古を通じてね、もったいないのでもっと動かそうと思っていますよ!
ーーそして、今回の物語の要となる成志さん! もはや「準劇団員」の「準」を付けるのも申し訳ない気がする成志さんですが、新感線にとってどのような存在と呼べるのでしょうか?
いのうえ:成志は新感線に一番近い親戚の人。それこそ「新感線TRIBE」じゃないですが、客観的に見ているところもありますし、意見も言う。僕も「参考意見」として話を聴いてますよ(笑)。
倉持:「参考」なんですね(笑)。
■大切にしている事は「人」
ーーいろいろ話を伺ってきましたが、基本的なところに戻しますと、お二人が台本を執筆する立場、そして演出を付ける立場として大事にしている事は?
倉持:新感線の他の公演と並べると、僕が書くものは地味になりがちなんですが、地味なりによりエンターテイメント性を意識して起承転結を明確にしていきたいと思いました。でもやっぱり大切なのは人の感情の動きでしょうね。感情って起伏がないとつまらないので、いかに感情を揺さぶるか、を大事にしてますね。
いのうえ:やはり人間がブレないで書かれているか、ですね。特にいのうえ歌舞伎の場合は。ネタものならある意味ブレたほうが面白かったりするんですが。「さっき出てきた時とキャラが違うじゃないか!」みたいな(笑)。「お金をもらったら人は変わるのさ」みたいな事を言ったり。そうはいっても今回の成志の役みたいに裏切るけれど一人の人間として一貫性がある役を描きたいですね。成志の役はそういう目線で言うならば非常に新鮮ですよ!
ーー最後にこの質問だけはどうしてもお伺いせねば……ズバリ、今回の上演時間はどのくらいになりそうですか!?
いのうえ:プロデューサーからは「3時間超えはなるべくしないように」って言われてます(笑)。
倉持:休憩込みですか?
いのうえ:そう。でもそうするとキツイんですよ。先日までやっていた『偽義経』が3時間10分~15分くらいなのでそのくらいにはなると思います(笑)。まあ、できるだけ頑張ってみますが、でもはしょりすぎて訳が分からなくなるのはもっと困る話ですから。
倉持:僕も書いているときは全体の上演時間を念頭に置いて書いていますよ。でもね……キャラクターも多いし……(笑)。『乱鶯』をやったことで、劇団員それぞれに対する思い入れが増してしまい、今回は前回以上に書いてみたくなってしまうんです(笑)。
いのうえ:役者一人ひとりを描きたいんですよ、お互い。それを「切れ」っていうんですよ、プロデューサーは(笑)!
(左から)倉持裕、いのうえひでのり
取材・文=こむらさき 撮影=岩間辰徳

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