フジロックでYouTubeライブ配信が実
現した背景

昨年、フジロックフェスティバルは国内音楽フェスとしては初となるYouTubeでのライブ配信を行った。50組以上のアーティストのパフォーマンスを、2つのチャンネルを通じて全世界に中継。3日間の2チャンネル合計の視聴回数は1200万回を突破し、同時間帯での最大視聴数は8万人以上を記録したという。

様々な反響が集まったが、その中でも多かったのは「来年こそフジに行きたくなった」という声だった。いまや海外の大型フェスのライブ配信は珍しいことでない。そして、毎年ラインナップの発表前にチケットが即日ソールドアウトするようになったコーチェラ・フェスティバルを筆頭に、YouTubeでのライブ配信がフェスの話題性を増し、来場者数の増加に寄与していることも明らかだ。

フジロックのYouTubeでのライブ配信が実現した背景には何があったのか。そして、今、ネットでの生配信が当たり前になったことでフェスの文化や魅力がどう変わりつつあるのか。さらに、YouTubeは今の音楽シーンにどんな影響を与えているのか。Googleで音楽コンテンツパートナーシップ・マネージャーを務める佐々木 舞氏に話を聞いた。

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■ コーチェラの成功事例が大きかったんじゃないかと思います

── まず、フジロックのYouTubeライブ配信はどういう経緯で実現したんでしょうか。

「YouTubeのライブ配信の機能自体は10年以上前からローンチしていました。2009年にはU2のコンサート・ツアー<360 TOUR>でライブ配信を行い、フェスに関しては2011年のコーチェラから、その後ボナルーやロック・イン・リオなどの大型フェスでも行うようになりました。それがUSを中心に、非常に大きな反響を集めたんですね。YouTube自体もライブ配信という機能に力をいれて開発していましたし、それをいろんな国に広げていこうということになった。そこでフジロックに数年前からご提案をさせていただいていて、去年ようやく実現しました」
── 決め手になったのは?

「いろいろな要素はありますが、コーチェラの成功事例が大きかったんじゃないかと思います。コーチェラに関してはYouTubeが今年で9年連続でライブ配信してきていますが、その中で規模も大きくなり、ラインナップ発表前からチケットもソールドアウトするようになった。ライブ配信することでフェスに行っていた人が『現地に行かなくてもいい』と思って来場者数が減ってしまうのではなく、むしろYouTubeで見たことををきっかけにコーチェラに行きたいと思う人が増えるようになった。そういう海外の実績を成功事例として感じていただけたというのは、きっかけの一つとしてあったんじゃないかと思います」

── 特にコーチェラは存在感と認知度が大きく増し、日本で話題に上がることも増えたように感じています。反響はどのように感じていますか?

「特に“ビーチェラ”と言われた去年のビヨンセがすごかったですね。あれだけの規模のステージを用意して、その中であれだけのパフォーマンスをやって、それをYouTubeのストリーミングで45万人以上が同時視聴した。あのステージは、単にコーチェラに来ていた人だけでなく、ライブ配信を通じて世界中の人が観ているという意識があってこそ実現したものだと思います」

── コーチェラはアメリカ西海岸のフェスですが、USだけでなく、グローバルなポップミュージックシーンの潮流を象徴するようなフェスになった印象があります。

「私自身、第1週目のコーチェラから昨日帰ってきたばかりなのですが(※インタビューは4月18日に行われた)、特に印象的だったのは、US国内だけでなく、グローバルな反響を集めるフェスになったということですね。ラインナップ自体も今年は大きく国際化していました。J.バルヴィンやBLACKPINK、ナイジェリア出身のMr イージーのように、ラテン、アジア、アフリカのアーティストが出演するようになった。もちろんPerfumeもそうですね。その背景には、ステージをYouTubeでライブ配信するようになったということの影響もあるのではないかと思います」

── 特に最近ではラテン系のアーティストの人気が大きくなっていますね。また、K-POPだけでなく、アジア全域への注目が高まっている感触もあります。

「そうですね。音楽シーン自体がグローバルになっているということもありますし、コーチェラのブッキングもそうしたマーケットの動向を感じていると思います。特にラテンやアフリカのアーティストは自国のマーケットがそこまで大きくないので、国外を意識せざるを得ない。そのためYouTubeをツールとして有効に活用してグローバルなファンベースを築いているアーティストが多いです。そうすることでコーチェラでメインステージに立つようなビッグなアーティストになっていった。アーティストがYouTubeチャンネルをどう戦略的に使うかが重要だったということも言えると思います」

── 昨年にはフジロックのYouTubeライブ配信が実現しました。反響はいかがでしたか?

「とても大きかったですね。特に『来年は行きたい』とか『一度は行ってみたい』というコメントがすごく多かったのが印象的です。やはり主催者側にはライブ配信があったら現地に行かなくていいと思われるんじゃないかという危惧もあったかと思いますが、昨年の反響ではそれも杞憂に終わったと言えるのではと思います」

── 日本のアーティストが海外にパフォーマンスを伝えるきっかけにもなったと思います。

「そうですね。フジロックがそもそもいろんな国の出演者が集まっているグローバルなフェスというのも大きいと思います。日本のアーティストに海外の視聴者の方から反響があったり、今まで邦楽しか聴いてなかった人が海外のアーティストを聴くきっかけの一つになったのではないかと思います。すごく喜んでくださったアーティストさんも多かったです。たとえば、Ovallさんからは、ソーシャルでトレンド入りするなどかつてない反響が集まったと仰ってくださった。観ている側だけでなく、パフォーマンスする側の方々にも、ポジティブな声が多かったですね」
── YouTubeはいろんなフェスの生配信をしていますが、フジロックならではの魅力のようなものも感じましたか。

「ご一緒するにあたって、パフォーマンスをライブ配信するだけでなく、フジロックならではのカルチャーをライブ配信で伝えようと考えていました。現地のエリアの映像や、グルメ、ファッションといったフェスのカルチャーも配信に乗せてお伝えしようと試みました。たとえば、現地にはベビーカーに乗せてお子さんを連れてらっしゃる方がいたり、子供が川で遊んでいたりする。そういった親子連れでも遊べる、楽しいフェスの雰囲気が伝わればいいなという思いもありました。やはりフジは世界的にも唯一無二のフェスだと思うので、ライブ配信でもそれが伝わってほしいですね」
── 次回への改善点、もっとこうしたいというポイントもありましたか?

「沢山あります。コーチェラはライブ配信の合間にアーティストのインタビューをやっているんですね。フジロックでもそれはやっているんですが、今年のコーチェラは、アーティストの思いや制作の裏側を伝える映像を作って、それをアーカイブしていたんです。そういうアプローチも面白いなと思いました。たとえば、去年のフジロックでは何組かのアーティストでステージ直前のステージ裏に撮影に入らせてもらったんです。たとえば、サカナクションの5人が山口さんを中心にステージに上がっていく映像を撮らせていただいた。そうした映像は、実際にフジロックで彼らのステージを観た人も、改めてYouTubeで追体験して楽しめるようなものになっていると思います。そうしたフェスやアーティストをより深く知ることのできる“ビハインド・ザ・シーン”的な映像も、もっとやりたいなと思いました。アーカイブにも力を入れていきたいですね」

◆インタビュー(2)へ
■ これからはYouTube自体が新しいビジネスプラットフォームになる

── 昨年には音楽配信サービスとして「YouTube Music」もリリースされました。YouTubeが音楽に力を入れている理由はどんなところにあるんでしょうか。

「YouTubeには、英会話のような学習動画やクリエイターが作る動画など、いろんなコンテンツがありますが、その中で音楽はずっと重要で、インパクトも大きいジャンルです。ですから、今までもいろんなことを取り組んできてはいたんですが、音楽権利者の皆さんからのご意見もいただきようやく日本でも昨年の11月に「YouTube Music」という音楽に特化したサービスをローンチできました。そこから、これを盛り上げるために、今までなかなかできなかったプロモーションマーケティングができるようになりました。「YouTube アーティストプロモ」と言い、海外ではカミラ・カベロやデュア・リパと、日本ではSixTONESやSuchmosとご一緒しています。ここ2年は、YouTubeが音楽に取り組んでいることを外から見ても感じていただけるかと思います」

── 「YouTube Music」には有料プラン(Youtube Music Premium)もありますが、どういったサービスになっているんでしょうか。

「YouTubeは既存のYouTubeアプリやウェブブラウザで見られますが、そこから音楽だけを切り出してアプリにしたのがYouTube Musicです。もちろんMVの充実度も大きいですし、プレイリストもある。広告モデルでも使えますが、有料プランに入れば広告が出なくなり、またバックグラウンド再生や、オフライン再生ができるようになります」

── 先ほど海外ではアーティストがYouTubeを戦略的に使っているというお話もお伺いしましたが、日本の音楽業界やアーティストにとって、どんな風にYouTubeを活用するとメリットがありますでしょうか?

「これまではプロモーションとしてYouTubeにミュージックビデオを上げるだけという考え方が主流でした。しかし「YouTube Music」が始まり有料サービスになったことで、サブスクリプションのプラットフォームになった。それによりビジネスとして戦略的にYouTubeをどう使うかということを考えたいし、取り組みたいと思っています。

YouTubeでは、一つの楽曲にいろんな映像の表現ができるんです。リリックビデオもあれば、ミュージックビデオもある。ティーザービデオもあれば、ビハインド・ザ・シーンも見せることができる。セルフカバーもできるし、ライブバージョンもある。一つの楽曲に対して、いろんな表現がある。それがこのサービスに集約できて、ビジネスにつながる。そこからグローバルにつながる。世界に広がることによって、海外でのツアーやプロモーションにつながっていく。先日にはプレミア公開という新機能もリリースしました」

── プレミア公開というのは?

「ミュージックビデオをYouTubeに公開する際、ライブ配信として公開するんです。予め時間を決めて、カウントダウンを経てファン同志がチャットをしながら同時に観る。この機能をリリースして以来、MV公開からの24時間の再生回数に次々と記録が生まれています。先日はアリアナ・グランデが「サンキュー、ネクスト」でその記録を作って、BLACKPINK、BTSがそれを塗り替えるようなニュースも出てきています」

── MV公開が一つのファンイベントになるわけですね。

「そうですね。ここを拠点にいろいろなことができるようになっていて、戦略的に使えれば、すごく可能性がある。今まではCDやダウンロードにつなげるプロモーションのためにMVを投稿するという考え方が主流でしたが、これからはYouTube自体が新しいビジネスプラットフォームになる。特に国内だけでなく海外にそれを拡大していくことができる。YouTubeは100カ国以上、90以上のローカル言語に対応しているプラットフォームですからね。また、まだ日本ではローンチしていませんが、アメリカではチケットやグッズ販売につながる機能もあります。アーティストのみなさんもこのサービスを戦略的に使って発信していっていきただきたいし、私たちもバックアップしていきたい。そういった動きから音楽業界の新しいフェーズを作っていければと思います」

取材・文◎柴 那典

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■<FUJI ROCK FESTIVAL'19>

2019年7月26日(金)27日(土)28日(日) 新潟県 湯沢町 苗場スキー場

【<FUJI ROCK FESTIVAL'19>出演アーティスト ※第4弾時点】
■■7月26日(金)
THE CHEMICAL BROTHERS
THOM YORKE TOMORROW’S MODERN BOXES / ELLEGARDEN
JANELLE MONAE
ANNE-MARIE / BIGYUKI / GARY CLARK JR. / KAYTRANADA
KID FRESINO (BAND SET) / KING GIZZARD & THE LIZARD WIZARD / LUCKY TAPES
THE LUMINEERS / MITSKI / 中村佳穂 / 七尾旅人 / NICOLA CRUZ
NST & THE SOUL SAUCE MEETS KIM YULHEE
OAU(OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND) / 思い出野郎Aチーム
ORIGINAL LOVE / RED HOT CHILLI PIPERS / SABRINA CLAUDIO SHAME
SOUL FLOWER UNION / スガ シカオ / TORO Y MOI / TYCHO / THE WATERBOYS
YAEJI

■■7月27日(土)
SIA
DEATH CAB FOR CUTIE / MARTIN GARRIX
ASIAN KUNG-FU GENERATION
ALVVAYS / AMERICAN FOOTBALL / ANNA LUNOE / CAKE / CALPURNIA
Char×Chabo / clammbon / COURTNEY BARNETT / DANIEL CAESAR / 怒髪天 / DYGL EGO-WRAPPIN’ / GEORGE PORTER JR & FRIENDS / GEZAN / 銀杏BOYZ
蓮沼執太フィル / JONAS BLUE / キセル / MATADOR! SOUL SOUNDS / okadada
SUNSET ROLLERCOASTER / Tempalay / UNKNOWN MORTAL ORCHESTRA / ZOO
ずっと真夜中でいいのに。

■■7月28日(日)
THE CURE
JAMES BLAKE / JASON MRAZ
Superfly
BANDA BASSOTTI / CHON / THE COMET IS COMING / ドミコ / HANGGAI
平沢進+会人(EJIN) / HYUKOH / INTERACTIVO / KHRUANGBIN / KOHH
never young beach / Night Tempo / PHONY PPL / 渋さ知らズオーケストラ / スカート
STELLA DONNELLY / 竹原ピストル / TAKKYU ISHINO / TENDRE / toe
VAUDOU GAME / VINCE STAPLES

and more artists to be announced

※入場券は販売時期によって料金が変わります。
※中学生以下は保護者同伴に限り入場無料となります。
※チケット料金、販売スケジュールにつきましてはオフィシャルサイトをご覧ください。
※出演者・出演日・出演順に変更が出る場合もあります。
総合問い合わせ/オフィシャルサイト:https://www.fujirockfestival.com

関連リンク
◆<FUJI ROCK FESTIVAL '19>特集ページ

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