松岡広大、“言葉”を研ぎ澄まし挑む
ストレートプレイ 舞台『恐るべき子
供たち』インタビュー

2019年5月18日(土)より、KAAT 神奈川芸術劇場にて舞台『恐るべき子供たち』が上演される。KAAT 芸術監督・白井晃が手掛ける“近現代戯曲シリーズ”最新作。4月13日(土)~4月29日(月)上演の『春のめざめ』に続くシリーズ2作品連続上演の第二弾として、2012年に『○○トアル風景』により第56回岸田國士戯曲賞を受賞したノゾエ征爾が戯曲化を手掛ける。
原作はフランスの作家、ジャン・コクトーの代表作。愛情と憎悪、そして嫉妬に満ちた、美しい姉・エリザベート(南沢奈央)と幼稚で享楽的な弟のポール(柾木玲弥)が織りなす姉弟の物語のなかで、ポールの友人であり語り部的役割を担うジェラールを松岡広大が演じる。ストレートプレイ初出演となる本作に臨む現在の心境を語ってもらった。
ーーいよいよ稽古が始まりましたね。製作会見などでは、作品に対してどこか難しさのようなものを抱いてらっしゃった姿が印象的でした。
今思うと、稽古初日の時点ではどういう解釈をしていけばよいのかも含め、実像がありませんでした。アタマから通してみて、ようやく輪郭が掴めてきたんです。“難しい”というイメージは、非常に強い先入観から自分が一方的に思っていただけだったのかなと。
ーー早い段階で脱せたんですね。先入観の要因は何だったのでしょう?
ジャン・コクトーの原作では、口語よりも情景や心情描写が中心なので、セリフとして発する言葉が少ない分、想像で探っていましたが、ノゾエ(征爾)さんの台本を読んで、謎だった部分が一個ずつ解けてパーツが組み合っていく感覚でした。これからは前向きにいけそうです。
松岡広大
ーー改めて、松岡さん演じるジェラールに対して感じていることは。
台本で感じたのは、ジェラールは見守る、というかポールとエリザベートの下手に出ている節がある。白井さんが演出で仰っていたのは、ジェラールは大人と子供の端境に居る存在。姉弟のあいだに中立で入れるのはそういうことなんだなと。正義感にあふれ、誠実で真面目な人柄ということは原作からも感じていましたが、台本からは新たにチャーミングでコミカルな一面も垣間見えました。ポールとエリザベートという2人を説明していく、彼らが生きていた時間を一つずつ説明していく証人ですね。お客様への語り掛けるシーンもありますが、それが非常に難しくて。塩梅を探っているところです。
ーー役を作りこむ上で、何か変化はありましたか?
あまり変わってはいないですけど、演出を受けてから兄弟たちへの愛の深さを感じました。ダルジュロスのような危険な存在に惹かれてしまうポールを見守りつつ止めたい、責任感のような気持ちがある。その思いがポールからエリザベートへも移り変わっていって、特別な家族のようになる。ただ、ジェラールは自分の家に帰ったら、姉弟と一緒にいる時間を味わえなくなってしまう。ジェラールにとっては自分一人では感じられなかったものを与えてくれる唯一無二の存在なんだと思います。エリザベートのきつい言い草にも下手には出るけど、言うところは言う。そこが彼のかわいらしい面でもあるなと。
ーー稽古やカンパニーの雰囲気はいかがですか?
カンパニーも例えるなら“家族”、でしょうか。キャストの皆さんへの尊敬が絶対的にあって、エネルギーにあふれた稽古場です。特にエリザベートとポールは役柄も相まって嵐のような、もう、かまいたちのような。触れたらケガをしてしまうんじゃないかと思うほどです。そんな若い役者たちのスピード感を守ってくださっているのが先輩方の包容力。ちゃんと作品に愛を持って、演出の白井(晃)さん、キャストの皆さんを信じてやっていきたいです。
ーー念願だったという白井さんの演出を受けられたご感想もぜひ教えてください。
台本読みの時点から、1行ごとに繊細な感情について指摘、というよりも示唆をしていただきました。それに応えたいのはもちろん、いただいたものに対して考えるという時間も含め、挑戦しています。白井さんが演出される作品はすごく綿密で、舞台のどこを見ても一分の隙もなく成立しているんです。先日、『春のめざめ』の通し稽古を見学させてもらったのですが、圧巻でした。白井さんの演出を受けたいとずっと思っていましたし、先輩やほかの役者さんからも「役者としての財産になるよ」というお話は方々から聞いていました。21歳という早いタイミングでご一緒できたことは名誉なことだと感じています。
松岡広大
ーーそして本作がストレートプレイ初出演。役者として、一つのターニングポイントになりそうですね。
もともと戯曲をやりたい、ストレートプレイをやってみたいという話をマネージャーさんには伝えていました。これまでは体を動かす作品が多かったので、今度は言葉の感覚を研ぎ澄ました心の動きで表現を、勝負をしてみたいと思っていて。今回、やりたいと思ったことが実現でき、何よりチャレンジさせて頂ける作品になっていること間違いないです​。
ーーその思いを抱くようになったきっかけは?
千葉哲也さんはじめ、劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season月で出会った、自分以外のすべての役者さんの芝居に打ちのめされたことがきっかけです。自分も上手になりたい、と思いました。貪欲さみたいなものが自分には足りていなかった部分。それに気づいてからは、アンテナを張っていろんな作品を積極的に観に行くようになりました。その時期、純粋に触れてみたかったシェイクスピアやチェーホフを読んでいたこともあって刺激になったんだと思います。
ーーインプットが必要と考えられたんですね。板の上でほかの役者さんと共演するのと、観劇から受ける刺激はまた違いますか?
もう、全然違います! 自分が舞台に出ているとき以外は、(役者ということを)シャットアウトしているんです。偏見も何もなく、純粋に作品を楽しんでいます。始まる前のソワソワした雰囲気や暗くなったら背筋を伸ばす緊張感もたまらなく好きですし、お客さんの喜怒哀楽も近くで感じますし。開演前にセットが見えている状態なら、自分の客席の位置から立って確認します……ちょっと不審かもしれませんね(笑)。劇場や客席に置いてあるフライヤーを見て、面白そうな作品を見つけるのも楽しみです。
ーー本当にお客様と同じ視点ですね。
チケットサイトもチェックしますし、当日券も並びます! チケット代を捻出するために「今月、食費どうしようかな……」と悩むこともたまにあります(笑)。すごく吸収したいんです。まだまだ足りないくらい。出会っていない作品がたくさんあるので。
松岡広大
ーー継続中の“インプット期”ですが、これまでご覧になった作品で印象深いのは?
大ファンでもある成河さんの舞台『フリー・コミティッド』です。1人芝居で38役を約2時間演じられていて、「なんて面白いんだろう!」と圧倒されました。ストレートプレイとは、ということも考えた作品です。
ーーでは、作品タイトルにちなんでこんな質問も。どんな子供だったか教えてください。
まず、落ち着きがない(笑)。どちらかというとポールのような雰囲気で、行動力はすごくありました。双子の姉と、兄が2人いて末っ子。特に双子ということもあって、近所の人にチヤホヤされました(笑)
ーー小さいころ恐れていたものは?
カーテンが顔に見えたり、壁のシミが髑髏に見えたり。そういうものに目をつけては怖がっていた記憶があります。
ーーほほえましいエピソード、ありがとうございます! 20歳という節目を経て、現在は完全に“大人”へシフトできた感覚はありますか?
そうですね……大人になりきれてない、子供でいたい部分はあります。それはもう、黙認していかなければなと(笑)。もちろん責任を持つことは大切ですけど、荷重が大きいとどうしても保身的になってしまう。なんて厳しい世界なんだろうと思うこともあります。責任と覚悟は持ち合わせていきたいです。
ーー最後に、作品を楽しみにされている読者の方へメッセージをお願いします。
非常にわかりやすい作品になっていると思います。ベースは姉弟のお話ですが、何に対しての心情を抱くかはそれぞれ。「こんな感じ、あったかもしれない」と共感できるでしょうし、「そういえばいつ大人になったんだろう」と感じていただけると思います。言葉にできない何かを表現しますので、そこを楽しみにしていただけたらうれしいです。
松岡広大
取材・文=潮田茗 撮影=寺坂ジョニー

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