熊川哲也、『印象派への旅 海運王の
夢 バレル・コレクション』展の魅力
を語る 「古いものには美しさがある

Bunkamuraザ・ミュージアム(渋谷)で開催中の展覧会『印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション』(会期:2019年6月30日まで)にて、Bunkamuraオーチャードホール芸術監督を務める熊川哲也が、4月26日に行われた内覧会に登場。日本初公開となるドガの《リハーサル》を見た感想や、バレル・コレクションの魅力について語った。
本展は、スコットランドの海港都市グラスゴーで、若くして父親の家業を継ぎ、船舶の売買で財を成したウィリアム・バレルのコレクションを紹介するもの。海運王と称されたバレルは、古今東西におよぶ様々なジャンルの芸術作品を集め、1944年に、数千点のコレクションをグラスゴー市に寄贈した。本展覧会には、バレルが収集したフランス絵画の名品を中心に、スコットランドやオランダ人画家の作品を合わせた約80点を展示。日本初上陸となる印象派の画家エドガー・ドガの《リハーサル》をはじめ、ゴッホやルノワール、セザンヌの絵画も紹介されている。
エドガー・ドガ 《リハーサル》 1874年頃
はじめてドガの絵画を生で鑑賞したという熊川は、「買えるなら買いたい。5億円なら出せる」と興奮した様子。現在のバレエスタジオと、絵画の中に見られるスタジオとの違いにも関心を寄せていた。以下、その模様をお届けしよう。
熊川哲也「木の軋む音が感じられるようなスタジオが羨ましい」
ーーまずは、《リハーサル》を見た率直な感想を聞かせてください。
現在のバレエスタジオの世界と共通する点や、異なる点はどういったところなのかという疑問が、自然と自分の中で生まれました。
ーー本作は日本初上陸の作品として、大きな見どころのひとつになっています。
ドガの絵には以前から慣れ親しんでいましたし、彼が描いてきた踊り子の姿は、ずっと目に焼き付いていました。けれど、実際に生の絵を見るのははじめてだったので、少し興奮しています。
ーーはじめてドガの絵を鑑賞された感動はどのようなものでしたか?
(作品の値段が)いくらなのかなって(笑)。買えるなら買いたいですよね。僕は所有欲がすごく強いので。
ーーいろんな角度から、時間をかけて鑑賞されていましたね。
右端に描かれた指導者のおじさんは、『ジゼル』という素晴らしいロマンティックバレエを作った、振り付け師のジュール・ペロー氏だそうです。ペロー氏は1841年に『ジゼル』を作って、本作が描かれたのは1874年頃なので、だいたい30年くらいの年月が経っている。僕の30年後くらいの姿かもしれないと思うと、ロマンがあります。
ーー《リハーサル》では、アラベスクの練習をしている少女も描かれています。まるで本番そのものといった躍動感も感じます。
画面手前には、ふてぶてしく座っているダンサーもいるし、衣装を直している関係者や、(画面左上には)階段を降りてくる裸足の人物も見受けられます。なので、やっぱり自主練習をしている感じが伝わってきますね。ただ、僕から見ると非常に(絵の中のダンサーの踊りが)崩れていますけど(笑)
とはいえ、この時代に、このような場所でリハーサルできるのはとても羨ましいです。今はもう少し近代化されたスタジオになって、床の軋む音がひとつもしないような場所でリハーサルをしていますから。だからこそ、木の軋む音が感じられるスタジオが羨ましいなと思います。それに、絵の中に登場するような素敵な格好でリハーサルをする人もいないですよね。現代では、衣装も昔に比べてスポーティーな感じになっています。やっぱり、古典というのはいいですね。古いものには美しさがあると思います。
ロマンを感じながら作品を鑑賞すると、100倍楽しくなる
ーー熊川さんは多くの作品を購入していると伺っていますが、お好きな作品について教えてください。
僕は、目に映るものがすべて綺麗で完ぺきであってほしいという思いが常にあります。その中で自分を癒す空間や、自分に活力をくれる作品というのが好きです。作品自身が主張するものは、あまりないかもしれないです。
ーーご自身のコレクションの中で、お気に入りの作家はいらっしゃいますか?
今気に入っているのは、オーギュスト・ロダンの彫刻です。《イヴ》という立体作品で、自分で触れて、角度を変えながら鑑賞することができるんです。苦しみや怒り、喜びがすごく感じられます。あとは、昔の写真や楽譜も好きですね。
ーーご自身のコレクションを鑑賞することと、ダンサーとしての踊りがつながってくることはありますか?
僕は、自分自身のためになるものにしか投資はしません。作品をこの世に生んでくれた作曲家や振付家たちの息吹を感じて、対等な立場で会話をしたいと思うんです。たとえば、僕はベートーヴェンが作曲した交響曲第9番の初版の楽譜を持っています。この楽譜が出版された1826年は、ベートーヴェンが亡くなる1年前だったので、もしかしたらこの楽譜をベートーヴェン自身が見ているかもしれない。そういった感性を掻き立てるようなアートとの付き合い方をしています。
ーー海運王として財を成した、ウィリアム・バレルについてはどのような印象を抱きましたか?
お金持ちの方は、大概アート収集をされますよね。その中でも、バレルさんは絵の趣味に一貫性があったと思います。すごくダークなものが好きだったり、あまり派手すぎないものだったり。油絵や水彩画も含めて、奥行きのある作品を中心にコレクションしているように思います。なおかつ、グラスゴー市に自身のコレクションを寄付する際には、厳格な条件を提示していて、心からアートを愛している方だったんだなと。
ーー本展は、門外不出だった作品を見られる大変貴重な機会になりそうですね。
作品は500年後、1,000年後、地球が滅びない限りは保管され続けるでしょうからね。そういったロマンを感じつつ鑑賞すると、100倍楽しいと思います。
ーー最後に、来場者の方に向けてメッセージを一言お願いします。
Bunkamuraをこよなく愛していただけたらうれしいです。渋谷というサブカルチャー発信の地で、ハイカルチャーも発信している場所なので、Bunkamuraのアンバサダーを務める身としては、ぜひとも多くの方に足を運んでいただきたいです。

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