【インタビュー】『菊とギロチン』木
竜麻生、初主演の過酷現場は「必死す
ぎて覚えていない」そこから得た“度
胸とワクワク”

 人々が貧困と出口のない閉塞感にあえぐ大正末期の日本を舞台に、実在した「女相撲」の一座とアナーキスト・グループ「ギロチン社」の青年たちが心を通わせ、自由を追い求めて生きる姿を描いた映画『菊とギロチン』。同作のブルーレイ・DVDが発売されるにあたり、構想30年という瀬々敬久監督の熱いエネルギーを感じながら、主人公で女力士の花菊役に体当たりで臨んだ木竜麻生が、過酷な撮影現場を振り返ると共に、女優としての進化を語ってくれた。
―多数の映画賞を受賞した作品ですが、改めて同作に携わっての感想は。
 瀬々監督をはじめ、スタッフ・キャストの熱量がすごくて、映画に対する愛情が伝わる作品の現場にいられたことは本当に幸せです。
―木竜さんも新人女優賞をいくつも受賞しましたね。
 新人賞は一生に一度しかいただけないものだし、壇上でトロフィーを受け取ることも初めての経験だったので純粋にうれしかったです。でもやはり、クラウドファンディングを通して支援してくれた大勢の方をはじめ、制作に携わった全員の代表としていただいた賞だと思います。
―自身の演技についてはいかがですか。
 自分だけではたどり着けないところまで、スタッフ・キャストの皆さんに引っ張ってもらった部分もありますが、至らないところが多く、もう少し役に向き合えたんじゃないかと思うこともあります。でも今は、初めて主演をさせてもらって「よし!」という気持ちよりは、こうやって反省できただけでもいいのかな…と思います。
―約300人の中から花菊役を射止めましたが、オーディションを受けたきっかけとは?
 大学4年生の時、もう少し映画の現場に入りたいと考えていたので、作品のオーディションがあると聞いて挑戦しようと決心しました。
―その年頃で“女力士”という役柄に抵抗はありませんでしたか。 
最初は「うわっ、力士なんだ…」と思いました。アナーキストとかも、よく分かりませんでしたが、登場人物それぞれが悩みを抱えていて、ちょっと悲しいけど、すごい人間っぽくて、懸命に生きようとする姿や、そのために行動を起こすところに引かれたので頑張ろうと決めました。
―クランクインの3カ月も前から相撲の稽古をしたそうですが、体重も増量されましたか。
 最初から力士役ではなく、農家から逃げ出して女相撲「玉岩興行」に入る設定だったので、3~5kgくらい増量する程度でした。共演者の中には10kgも増やされた方がいました。
―女性故に虐げられるというハードなシーンも多かったですが、実生活では経験がない心情の表現は難しく、役へのすり合わせは大変だったのでは?
 撮影中は、女性だから言動を妨げられ、女性であることを邪魔に思ったり、手も足も出ない自分は弱いと痛感したりする花菊を実感することができました。その共感する気持ちがあれば、経験がないことも補えるのかなと思いながら演じていました。
―演じる上で特に心がけたことはなんですか。
 撮影中は心がけも飛ぶくらいいっぱいいっぱいでした(笑)。でも、実力も経験もないけど、花菊が泥だらけになりながらもがむしゃらに真っすぐに進んでいくので、その姿を大事に、自分が今やれることを全部出し切ろうと頑張りました。
―この鬱屈とした時代に生まれていたら、木竜さんならどう生きますか。
 何が何でも生きます! 花菊みたいに言葉にして行動を起こしていきたいです。撮影に入った当初はきっとそうは思えなかったけど、花菊が強くなったように私も変わったので、ボロボロになりながらも生きていきたいです。
―特典映像には瀬々監督が檄を飛ばすシーンも収められていますね。木竜さんも「このままだと主役を奪われる」と言われたこともあったとか。
 ありました。ギロチン社のメンバーの大次郎さん(寛 一 郎)との大事なやりとりのあと、その時の感情を背負って臨まなければいけないシーンなのにそれができず、周りで起きていることを細やかに感じてくみ取ることもできていなかった時でした。ただ、必死過ぎて、その瞬間を覚えていなくて、撮影後にスタッフさんが「花菊がすごい怒られていた」と言っているのを聞いて、そういえば今の正気の自分が聞いたら、かなりショックなことを言われていたな…と思いました(笑)。
―瀬々監督からの要求で一番難しかったことは何ですか。
 「自由に動いてください」というスタンスだったので、そもそも苦戦ばかりでした。後半の爆弾シーンは何テイクも撮っているうちに日が落ちて、雨も降り始めて、瀬々監督が「大体わかったな。あとは自由演技だ!」と言ったんですが、わかってもいないのに「はい」と応えていました(笑)。
―瀬々監督が、みなさんにとても慎重に演技指導している姿が印象的でしたが、テイク数はかなり重ねたのでしょうか。
 私は最高で10テイクくらいです。寛 一 郎くんの爆弾シーンが最高値で、「朝8時から17時までワンシーンしか撮っていないんだって」と現場がザワザワしました。なので、自分はこれくらいでへこたれている場合じゃないと奮起しました。
―寛 一 郎さんもだいぶ鍛えられていましたが、励まし合いましたか。
 年が近いこともあって、撮影期間はホテルからコンビニまでよく一緒に歩きました。爆弾シーンのことは「もう、午前中の記憶なんてないよ」って言っていました(笑)。そういうおしゃべりの時間はとても有り難かったし、「明日も頑張ろう」と助けになりました。寛 一 郎くんは、今でも久しぶりに会うと戦友に見えてホッとします。
―同作を通して女優としての変化はありましたか。
 撮影を乗り越えられたことは自信につながったし、度胸もついたと思います。今までは、おっかなびっくりで「私がここにいていいのかな」とネガティブになることもあったけど、失敗や怒られることは20代のうちにやっておかないといけないだろうし、やって怒られたら「すみません!」でいいかなって。これからは、もっとワクワクした気持ちで現場に立ちたいです。
―この作品は木竜さんにとってどのような存在になりましたか。
 この現場がなかったら今の私はないです。いろんな初めてを経験させてもらい、女優としても人としても新しい考え方や感情を引き出してもらいました。
―最後に読者にメッセージをお願いします。
 瀬々監督をはじめ、スタッフ・キャストが圧倒的な熱量で作り上げました。舞台は大正ですが、現代にも当時と同じような鬱屈として先が見えない不安はあると思うので、今を生きる人たちにも何かを感じてもらえると思います。是非観てください!
(取材・文・写真/錦怜那)
~DVD商品情報~
『菊とギロチン』Blu-ray&DVD
2019年4月26日(金)発売

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