原作者も太鼓判! 新作歌舞伎『NAR
UTO-ナルト-』がさらにパワーアップ
して京都・南座へ

バトルアクション漫画として人気を集める『NARUTO-ナルト-』が、2019年6月2日(日)から京都・南座にて新作歌舞伎『NARUTO-ナルト-』として上演される。その製作発表が4月22日(月)に都内某所にて開催され、坂東巳之助、中村隼人、G2(脚本・演出)、安孫子正副社長(松竹株式会社)の4人らが登壇した。製作発表後には、巳之助と隼人の2名の合同取材も実施された。その取材の模様も合わせてレポートする。
左からG2、中村隼人、坂東巳之助、松竹株式会社 安孫子正副社長

岸本斉史の漫画『NARUTO-ナルト-』は、忍者の里“木ノ葉隠れの里”で育った落ちこぼれ忍者・うずまきナルトの成長を描いたバトルアクション物語。1999年から2014年の間に集英社の『週刊少年ジャンプ』で連載され、全72巻のコミックスは国内でシリーズ累計1億4千万部を記録。その人気は日本に留まることなく、40を超える国でも発売され、海外でのコミックス累計発行部数は9500万部を超える。
そんな世界的人気漫画を歌舞伎化したのが本公演だ。『NARUTO-ナルト-』は2018年8月に東京・新橋演舞場で初めて歌舞伎化され好評を博したが、今回は場所を京都・南座へと移しての上演となる。前回に引き続き、うずまきナルト役を巳之助が、うちはサスケ役を隼人が演じる。注目は、この2人の前に最強の敵として立ちはだかるうちはマダラ役の中村梅玉。歌舞伎界の重鎮である中村梅玉が新作歌舞伎に出演するのは、本公演が初めてだ。脚本・演出は前回公演に引き続き、G2が務める。また、和楽器とロックバンドを融合させていることで話題の“和楽器バンド”が楽曲提供することも決まっており、前作同様、本作のための書き下ろし楽曲「光の中で」が作中で流れる予定だ。物語には九尾封印の謎、うちは一族にまつわる因縁、秘密結社「暁(あかつき)」と仮面の男の野望といったエピソードを盛り込み、歌舞伎らしさが強く出る演出になるという。
製作発表では安孫子副社長、G2、巳之助、隼人の順で一人ずつ挨拶の言葉が述べられた。

松竹株式会社 安孫子正副社長

今回の『NARUTO-ナルト-』上演にあたり、安孫子副社長は「歌舞伎の世界は古典をきちんと継承していくことが大事ですが、同じように、その時代の新しい作品作りをしていくことも大事なことでございます。若い俳優が頑張っていい作品を作っていかないと、若いお客様はついてきてくれません。若い力を結集し、新しい歌舞伎のお客様を開拓し、新しい作品作りをしていきたい。ゆくゆくは、『NARUTO-ナルト-』も歴史を経て古典になっていくというくらいの想いで作ってきました」と新作歌舞伎への熱い想いを述べた。
G2
本公演が京都・南座での上演となることに対し、関西育ちだというG2は「南座という場所にすごく憧れを抱いており、本当に光栄に思っています。ただ、とっても大変な作品なので、京都情緒を楽しみながら作れるかというと全く自信がございません(笑)前回公演は、山に例えるとヒマラヤ級だったと思っているのですが、それ程大変だけれどやりがいのある作品でした。劇場の雰囲気や出演者も一部変わって、また新たな世界を作らねばと思っております。ヒマラヤに2回登る人の気持ちがちょっとわかるような気がする昨今です」と、作品の大変さを山で例えて会場の笑いを誘った。
坂東巳之助
南座公演に向けて第1回目の打ち合わせをG2と行ったばかりだという巳之助は、「気付いたら序幕の打ち合わせだけで3時間も経っているような状況です。以前やったものをもう一度やるだけ、というわけでは決してございません。改善点や変更点などあらゆるものを精査致しまして、南座のための『NARUTO-ナルト-』を改めて作り直して皆様にご覧いただくつもりでおります」と、南座ならではの作品にすることを力強く宣言した。
中村隼人
『NARUTO-ナルト-』の続編やアニメもかかさず観る程のファンだという隼人は、「再演ということは前回よりもパワーアップしたものを観せなければいけないということで、すごくプレッシャーはあります。けれど、京都・南座の新開場記念として、歌舞伎が発祥された京都で上演させていただけるのは本当に嬉しいことです。いろいろなことを噛み締めながら、新しく生まれ変わった『NARUTO-ナルト-』を作っていきたいなと思っております」と、南座公演への意気込みを語った。
登壇者4名の挨拶の後は、質疑応答へと移った。
本公演における中村梅玉の出演に関して、安孫子副社長は「我々としても、最初の段階では考えてもいなかったことです。梅玉さんには『こういう作品に出ることは大事だし、作っていくことも大事だと常々思っているんだ』とご快諾いただきました」と、今回の出演が予想外の出来事だったことを明かした。
(左から)坂東巳之助、松竹株式会社 安孫子正副社長
続けて巳之助は「前回公演をご覧になった上でご快諾いただけたということは、我々としては非常に心強く、ありがたく、何より嬉しいことです。どういう風におやりになるのかということが想像できないので、今会場にいる皆様と同じように楽しみな気持ちです」。隼人も「近年いろいろな歌舞伎の古典のお役をやらせていただいていますが、それはほとんど梅玉のおじさまに教わったもの。喜びが表現しきれないと言いますか、不安や怖さもあります。ただただご快諾いただけたことにびっくりしていますし、緊張しています」と、驚きと喜びの様子を顕にした。
巳之助と隼人がそれぞれ演じる役で苦労した点に質問が及ぶと、金髪がトレードマークのナルトを演じる巳之助からは「眉毛を金髪にすること」という意外な答えが。「通常の歌舞伎で炭で書くように金色の眉を書くと、照明で飛んで眉が見えなくなってしまいます。なので、自分の眉毛を生やしてその色をブリーチで抜いて金髪にし、さらに眉を書き足しています」と、公演中にも伸びてくる眉を小まめにブリーチしているという苦労話を明かした。サスケ役のためにコンタクトを付ける必要がある隼人は、「僕は普段裸眼なので、巳之助兄さんの部屋に行ってコンタクト講座をしてもらったのを覚えています。最初は目に入れるだけで20分くらいかかりました」とコンタクトを付ける素振りをして会場を沸かせていた。
(左から)中村隼人、坂東巳之助
歌舞伎ならではの『NARUTO-ナルト-』の魅力について、隼人は「歌舞伎によってより引き出せる魅力があると思っています。例えば、日本は昔から色の組み合わせで着物を楽しんできた。それが今回デザイナーさんたちの手によって、動きやすい着物として生まれ変わっている。大掛かりなセットが組めるということも歌舞伎の魅力。何トンものお水を使った”本水の立回り”という手法もあります」と述べた。一方、巳之助は「観ていただくと『これが歌舞伎か』と思っていただけるところがたくさんあると思います。それが我々が意図した歌舞伎的な部分ではなかったとしても、そう感じられたならそれは歌舞伎なのだと思います。ですから、ご自分の中の『歌舞伎とは何だろう』という気持ちを持って、歌舞伎を探しに来ていただけたら嬉しいです」と持論を述べた。

中村隼人
製作発表後に行われた合同取材では、巳之助と隼人の2名が先程のスーツから着替え、それぞれが演じるキャラクターのイメージカラーを取り入れた装いで登場した。
(左から)中村隼人、坂東巳之助

ーーお二人のそれぞれの『NARUTO-ナルト-』原作との出会いを教えてください。
巳之助:小学3年生のとき、祖母の家に遊びに行った帰りのバスの中で読むために、単行本を1〜3巻まで買ってもらったのが出会いです。そこからずっと、面白い漫画だなあと思いながら読んでいました。
隼人:僕は小学校で授業を終えた後に稽古して、家に帰ってきた頃にちょうどテレビでアニメがやっていた思い出があります。漫画より先にアニメと出会いましたね。
ーーナルトとサスケを実際に演じてみてどうですか?
巳之助:やっぱりいろんな思いもありますし、言葉で言うのは難しいですけど……単純にナルトみたいな人は、楽しいですよね。サスケはどうですか?
隼人:精神的には本当にしんどいんですけど、役者的にはこんなに楽しい役はないと思います。割とクールなキャラって一辺倒なことが多い中で、サスケは本当にいろんな感情の動きがあるので、役者としてはすごく楽しいしやりがいがある。あと、お客様に響く瞬間というのは自分でも感じることもあるので、そういったところをもっと大事にできれば役者として成長できるのかなと思います。
ーー前回公演時、千秋楽が近づくにつれて変わっていったことはありますか?
巳之助:痩せていった!! 僕ら二人共、「今日どこ痛い?」みたいな(笑)
隼人:僕、肋間神経痛になりました。体重も7kg落ちて……。
巳之助:経口補水液ばかり飲む日々だったね。『NARUTO-ナルト-』はバトル漫画。戦いの中で気持ちの交換をしていくのがバトル漫画のキャラクターのコミュニケーションの取り方でもあるので、会話だけじゃ成り立たないことが多いから戦いっぱなしなんです。そういう意味では体力勝負。なので、変化といえば痩せて筋肉がついていったということになりますね。
隼人:サスケは作中で大人になってから長い刀を持てるんですけど、ナルトの場合は割と無手でアクロバットのようなアクションをやるという。30歳なのに。
巳之助:もうすぐ、ね。
隼人:去年の『NARUTO-ナルト-』公演時、「もうこれ30歳になったらきついな」って巳之助兄さんが言っていたんですよ。でもやってるじゃん、と(笑)
巳之助:「僕たちもう無理だよね」とか言うんですよ。僕より4つも年下なのに! 隼人くんは少なくともあと4年は大丈夫だよ(笑)
(左から)中村隼人、坂東巳之助
ーーそんな体力勝負の公演で、日々コンディションを保つ秘訣は?
巳之助:いっぱい寝る。これはマジです。喉、声、体力、どれにとっても、何をするより寝るのが一番効きます。
隼人:僕も、どれ程きつくても温かいお風呂に入って寝るということはやっています。あと、前回公演の中日くらいに気付いたことがあって。いつも公演後に家でコンビニ弁当とかを食べていたのを、ちょっと頑張って共演者とご飯を食べて帰るようにしただけで、次の日の気持ちが全然違ったんです。公演日数が多くて出ずっぱりだと、本当に寝るか舞台かになってしまう。少し無理をしてでも、ひとつ息抜きの場を作ることによって精神的に違うなと感じました。
ーー昨年『NARUTO-ナルト-』を上演したときに手応えは感じましたか?
巳之助:いろんなお客様がないまぜになっているような土俵でやらせていただいて、伝わるものは伝わったかなという手応えはありました。『NARUTO-ナルト-』しか知らない人に歌舞伎を知ってもらうという意図ももちろんありますが、歌舞伎しか知らない人に『NARUTO-ナルト-』を知ってもらうというきっかけにもなれた気がします。
隼人:正直、当時は『ワンピース』と比べられることが多かったんです。世間からも二番煎じ感みたいなものが伝わってきて。でも僕が思うのは、『ワンピース』がなかったら『NARUTO-ナルト-』もやっていなかったということ。なぜなら、「人気漫画を歌舞伎化したときにこんな風に面白くなるなら、じゃあこれもやってみよう」というようにしてできた企画だと僕は思っているので。『ワンピース』は大衆受けする作品だったと思いますが、『NARUTO-ナルト-』は作品の性質上暗い面が多いので、どちらかと言うとお芝居の部分の内容が濃い作品なのかな、と。
ーー新作歌舞伎に出ることの面白みや、他の作品との違いなどあれば教えてください。
隼人:僕の中では、「新作歌舞伎で、はたして自分がやってきたことが活かされるのかな?」という疑問の方が最初は多かった印象です。でもいざ稽古が始まってみると、自分が古典で培ってきた引き出しを披露する場所のように感じました。芝居には正解がないけれど、歌舞伎の型にはいくつか正解というものがあるので。自分の引き出しを開けて使う作業、と言えばいいでしょうか。
今もまだ歌舞伎界には「新作歌舞伎ってどうなの?」と思う人も一定数いると思います。でも、新作歌舞伎をやったからこそ気づくこともあると思うんです。今日の製作発表で、巳之助兄さんが「歌舞伎を探してください」と言っていたじゃないですか。僕ら歌舞伎役者も、新作歌舞伎で歌舞伎を探す作業をしているんですよ。体の使い方、セリフの言い方、その場の居方とか。そういったことを考える時間が、どんどん歌舞伎になっていくんじゃないかな、と。僕は古典に育ててもらってきましたが、新作歌舞伎にもう一度育ててもらったなというのは感じましたね。
巳之助:本当にそのとおりですね。結局、彼と僕が言うことは変わらないんですよ。古典を残していきたいからこそ、新作歌舞伎もやっていく。その気持ちは一緒です。
(左から)中村隼人、坂東巳之助

最後は、昨年の新橋演舞場での公演を踏まえて製作発表の場に寄せられた『NARUTO-ナルト-』の原作者である岸本斉史からのメッセージで締め括りたいと思う。
「新作歌舞伎『NARUTO-ナルト-』、原作者としていろいろな『NARUTO-ナルト-』作品を見てきた中でも、ダントツで楽しかった。目の前での臨場感に、『NARUTO-ナルト-』に通ずる世界観はこれでしか味わえなかった。皆さんも京都公演でぜひ味わってください」

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