【前Qの「いいアニメを見にいこう」
】第16回 「さらざんまい」について
書こうと思う

(c)イクニラッパー/シリコマンダーズ 「さらざんまい」について書こうと思う。思うのだが、正直、気が重い。暗喩に満ちており、全話見終えたあとですら全貌を掴むこと容易ならざる幾原邦彦監督の作品を第1話の段階で語るなんて、みすみす罠にかかりに行くようなものだから。とはいえ、選んだのは自分である。精一杯やってみることとしよう。3カ月後に読み返して、自分でも失笑するんだろうなぁ……などと思いつつ。
 「欲望搾取」というキーワードがOPから強調され、作中でも何かと「欲望」という言葉が登場人物の口の端に上る。奇っ怪なカッパの王子(ケッピ)の口から主人公格である3人の少年が吸い込まれ、尻から吐き出される。「欲望」はラカンの精神分析におけるキー概念であるし、フロイトの心理性的発達理論では、第一段階が「口唇期」であり、第二段階が「肛門期」である。くわえて第1話のクライマックスにおいて、〈さらざんまい〉なる行為により、登場人物たちの秘めたる欲望が、他人に転移するなど、作中に配置された各要素を踏まえれば踏まえるほど、今作が精神分析の理論を作劇のうえで援用しているのは明らかである。そして、利用者の購入情報を元にした精緻なレコメンド機能を有することで有名な某通販サイトのものを模したと思しき箱。SNSの描写をインサートしながらの「つながり」の強調。これはすなわち、本作が精神分析の理論を踏まえ、現代の空転する欲望によって駆動している消費社会を批判する、いわゆる「資本主義リアリズム」へのカウンターとしての映像表現を……って、いいかげんイヤになってきたわ。ぐえー。
 こんなふうに読み解いていくことが、作品の魅力に肉薄したり、作品の中から意外性のあるおもしろさを引き出すために必要なことだとはあんまり思えないんです、ワタクシ。そういうゲームと割り切れば、それなりに楽しいといえば、楽しいけど。まさに「言葉遊び」で。ただその、つくっている人たちはおそらく、こうした読み方が出てくることを見越してつくっているわけですよね。それにそのまま乗っかってしまうのは、視聴者として敗北した気がしてしまう。勝ち負けの問題じゃないですけどね、別に。あれです、ミステリーで真犯人の用意した証拠にうかうかと乗っかって、偽の犯人を警察に差し出して事件を解決したつもりになってしまう探偵役のような気分とでもいいますか。偽の犯人も納得していて、警察も大喜び、誰も不幸になっていないのだとしても、そのとき探偵役は悔しいじゃないですか。
 ……なんの話をしてるんだ? ま、さておき。そんな好きでもなければ得意でもない深読みごっこをしつつ、何度か第1話を見返してみて感じたのは、映像としての強度の高さ。そう、ついつい作品の深層に迫ろうなどととしてしまったのが間違いで、最初から映像そのものを正面からきちんと受け止めるべきだったのである。密度のある背景とピクトグラム的に表現されたモブ、極めて現代のアニメらしいキャッチーな魅力を備えた主要キャラクターたちのコントラストによって生まれる画面のバランスのよさ。カットの切り替えのテンポ感も絶妙だし、動かすところはとことんダイナミック。これは……まごうことなくアニメじゃないですか!! 実にアニメらしい楽しさが詰まったアニメですよ!!(結論)
 ってな感じで、ぐるぐると旋回した挙げ句に当たり前の結論にたどり着いてしまったところで、また次回……。

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