【ライブレポート】ルーファス・ウェ
インライト、タイムレスな魅力を再確
認させられた3年半ぶりの来日公演

デビュー20周年を機に企画した、最初の2枚のアルバムを再現するワールド・ツアー『ALL THESE POSES ANNIVERSARY TOUR』の一環として、3年半ぶりの来日を果たしたルーファス・ウェインライト。3月28日に東京国際フォーラムで行なわれた初日公演の模様をお届けする。

東京国際フォーラムには、リアルタイムでこれらのアルバムを聴いた長年のファンと察せられる世代の人々が、客席を埋め尽くした。数回の衣装チェンジを行ない、計2時間半に及んだ今回のパフォーマンスは、二部構成の形をとり、第一部はファースト『ルーファス・ウェインライト』、休憩を挿んで第二部は『ポーゼス』を披露。1998年の初来日公演の思い出に触れたりしていたルーファス自身もオーディエンスも、それぞれに時間の経過を実感していたに違いないが、と同時に、特定の流行に属していたわけではない彼の曲のタイムレスな魅力を再確認させられる一夜でもあった。
まずは第一部、先に姿を見せたバンドが事実上のデビュー・シングル『エイプリル・フール』のイントロを演奏する中、グランドピアノが中央に配置されたステージに、ルーファスが登場。そう、久しぶりのバンド編成となった今回の彼は、長年コラボしているジェリー・レナード(ギター)とマット・ジョンソン(ドラムス)を含む5ピース・バンドを従え、曲ごとにピアノに向かったりギターを弾いたりしながら、12のアルバム収録曲のうち8曲を披露する。いつものように曲間にはたっぷりお喋りを挿み、『サリー・アン』では、娘の祖父でもある故レナード・コーエンが曲をいたく気に入ってくれたという逸話を誇らしげに聞かせ、母ケイト・マクギャリグルに宛てた『ビューティー・マーク』では、ソングライターとしての能力を伸ばしてくれたケイトに想いを馳せて、この20年間に故人となったふたりを追悼しているようでもあった。
バンドとのケミストリーも、辣腕のジェリーのディレクションの下にすでに30公演を近くこなしているだけに申し分ない。アルバムでは妹マーサがバッキング・ヴォーカルを提供していた曲については、ソロ・シンガーでもあるキーボード奏者のレイチェル・エクロスが代役を務めていたほか、5人全員がコーラス隊としても大活躍。厚いハーモニーでルーファスを支える。一方、そんな彼のテノールの美しさはデビュー当時から全く変わらず、屈託ないMCで爆笑させたかと思えば、次の瞬間に歌声の魔力で我々を圧倒するという場面がしばしば。殊に、珍しく楽器を弾かずに歌に専念した、第一部の最後の2曲――ジョニ・ミッチェルの『青春の光と影』と現時点での最新シングル『Sword of Damocles』――は出色の出来。歌声はさらにダイナミックに鳴り響き、グラマラスな衣装も相俟って、ディーバとしか形容しようがない佇まいだ。
そして第二部になると一転、MCは抜きにして『ポーゼス』を全編丁寧になぞっていく。といっても曲によってアレンジにかなり手を加えており、エレクトロニック仕様だった『シャドウズ』はよりオーガニックでジャジーなスタイルに刷新し、『レベル・プリンス』や『イーヴィル・エンジェル』は、曲が持つシアトリカルさをさらに強調。ふたりのキーボード奏者が腕をふるってシネマティックな世界を作り出し、ジェリーのギターも、原曲になかった色彩や動きを随所に加えて、全作品中最も多様な、若さの光と影を描いたアルバムに、新たな命を吹き込んでいた。

その後のアンコールでは、『ルーファス・ウェインライト』を締め括る曲『イマジナリー・ラヴ』に続いて、2007年にブッシュ政権下のアメリカについて綴ったプロテスト・ソング『ゴーイング・トゥ・ア・タウン』を披露。今までになくアグレッシヴに響いたのは、今のアメリカに抱く憤りをそこに投影したからだろう。次いでフィナーレには、映画『アイ・アム・サム』のサントラでカヴァーしたザ・ビートルズの『アクロス・ザ・ユニバース』を、やはり楽器を弾かずに全身を使って歌い聴かせたルーファス。2019年のリアリティに言及することで少し重くなった空気を不朽のアンセムでさっと塗り替え、聴き手の胸に希望を刻んでショウの幕を閉じるのだった。

文:新谷洋子
写真:土居政則

3/28(木)公演セットリスト

第一部『Rufus Wainwright
April Fools
Barcelona
Danny Boy
Foolish Love
Sally Ann
In My Arms
Millbrook
Beauty Mark
Both Sides, Now (Joni Mitchell)
The Sword of Damocles

第二部『Poses』
Cigarettes and Chocolate Milk
Greek Song
Poses
Shadows
California
The Tower of Learning
Grey Gardens
Rebel Prince
The Consort
One Man Guy
Evil Angel
In a Graveyard

アンコール
Imaginary Love
Going to a Town
Across the Universe (The Beatles)

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