90年代が生んだ傾奇者、NUMBER GIRLとはどんなバンド?

90年代が生んだ傾奇者、NUMBER GIRLとはどんなバンド?

90年代が生んだ傾奇者、NUMBER GIRL
とはどんなバンド?

1990年代後半という時代の熱
NUMBER GIRLは、1995年に向井秀徳(Vo/Gt)を中心に、田渕ひさ子(Gt)、中尾憲太郎(Ba)、アヒト・イナザワ(Dr)という4人のメンバーが集まり、福岡で結成されました。数年のインディーズでの活動を経て、99年に東芝EMIよりメジャー・デビューを果たしましたが、彼らが世に出た90年代後半の日本の音楽シーンは、一体どのようなものであったのか。
よく言われるように、ミリオン・セラーが連発するような、まさにCDバブルの時代でありましたが、同時に、新世代を感じさせるバンドやアーティストが次々に登場した変革期でもありました。
具体的には、宇多田ヒカル椎名林檎といった、今も尚、第一線で活躍する天才肌の女性シンガー・ソングライターが次々とデビュー、歴史に残る名盤を生み出しました。
非商業的な姿勢で、硬派なロックを鳴らすTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのようなバンドのアルバムが、オリコン・トップ10内にラインクインし、TRICERATOPSGRAPEVINEなどの、洋楽的志向を持った若手バンドもチャート入りを果たし、パンク・ロック/メロコア・シーンも盛り上がりを見せ、Hi-STANDARDがノン・タイアップでミリオン・ヒットを成し遂げたのも、この時代です。所謂ヴィジュアル系も、ブームとしては良くも悪くも絶頂期であったと言えましょう。
俺が思うに、例えばあの子は――メジャー・デビュー曲「透明少女」の衝撃!!

上述したバンドやアーティストは、ほんの一例に過ぎませんが、メジャーにおいてもインディーズにおいても、凄まじい熱量に満ちていた時代であったのです。CD屋に足を運べば、毎週のように洋楽邦楽問わず、様々な作品に出会うことができたのも、今となっては単なるノスタルジーではありますが、個人的にも、いつものようにCD屋を物色している中で、ふと手にしたNUMBER GIRLのメジャー・デビュー・シングル『透明少女』は、あまりにも異質であり、衝撃的でありました。
ほとんど一発録りのようなライブ感溢れる音質で、テレキャスとジャズマスターでかき鳴らす、空間を切り裂くような鋭利でシャープなギター、力強く骨太なベース、爆撃機のようなドラムスが迫りくるサウンドに、ヴォーカルが埋もれてしまってあまり聴こえないという点も含めて、“これは凄いバンドが出てきた!”と興奮したものです。
作詞作曲を担当しているのは、フロントマンの向井秀徳氏です。およそロック的なものとは程遠そうなルックスの、地味な眼鏡の青年――と見せかけて、鬼のような形相でギターを弾き、文学的妄想と覚醒を行き来するような歌詞を叫び散らす姿が、類型的なヴォーカリストとは全く違う存在感を放っておりました。
彼のようなフロントマンを擁するバンドがメジャー進出を果たす、新しい時代が到来したのだと感じたことも、その後の彼らが伝説のバンドとして名を残したことを思うと、的外れではなかったのだなと述懐します。
リリース20年を迎えた、「SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT」の迸る激情!!
1999年の夏、7月にNUMBER GIRLはメジャー・デビューにして通算2枚目となるフル・アルバム『SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT』をリリースします。話が前後しますが、彼らは結成から7年目の2002年に解散しており、長いとは言えない活動期間で残したオリジナル・アルバムは、4枚のみ(更に2枚のライブ・アルバムをリリースしております)。
そのどれもが傑作ではありますが、ギター・ロックとして最も純度の高いアルバムが、本作です。全10曲、35分28秒という時間に込められたエモーションや、蒼い疾走感、殺気だった緊張感が、渾然一体となってリスナーの耳に飛び込んでくる様は、今聴いても強烈なインパクトを与えます。

上述したように、ヴォーカルの録音レベルの問題で、歌詞が聴き取り辛いことは事実ですが、向井氏が持つ独特のセンスで紡がれる言葉の数々は、読めば読むほど味わい深い。『PIXIE DU』という曲名で、歌詞に”ミネアポリス”(曲名の元ネタのバンドの1つ、Hüsker Düが拠点とした地)などと書いてしまう遊び心も、この時点で極まっております。
坂口安吾の小説から引用するなど、日本文学の影響も感じさせ、オルタナティブ・ロックやポスト・ハードコアといったジャンルから学んだエッセンスと、純日本的なものが結合し、迸る激情と共に生み出された、真の意味で日本独自のオルタナティブなアルバムである、と言えましょう。

NUMBER GIRLが日本のロック・シーンに残した、貴重な財産
繰り返しになりますが、NUMBER GIRLが世に送り出したオリジナル・アルバムは4枚、キャリアの中期から後期にかけては、ダブ~レゲエなどの音響的アプローチも増え、音楽的な進化も含めて、一気に時代を駆け抜けたバンドです。
同時期にデビューし、俗に”97の世代”などとも称される、くるりやスーパーカーと比べても、商業的成功に恵まれたわけではなく、ヒット曲があるわけでもありません。当時を思い出してみても、ロック・フェスに足を運ぶような熱心な音楽ファンや、バンドをやっているような層を中心に、熱狂的に聴かれている――という立ち位置であったというのが、あくまで個人的な意見ではありますが、一ファンとしての偽らざる印象です。
それは、NUMBER GIRL解散後に、各メンバーがそれぞれの音楽キャリアを重ねた今も、あまり変わらないように感じます。
それでも尚、多くのアーティストがNUMBER GIRLからの影響を公言しております。ASIAN KUNG-FU GENERATIONBase Ball Bear凛として時雨ストレイテナー等々、00年代以降の日本のロックを牽引する面々が、こぞってNUMBER GIRLの名前を挙げるのは、彼らの残した音楽が、存在そのものが、日本のロック史においてどれほど貴重な財産であるか、ということの端的な証左でもありましょう。
再結成を経た今、伝説は現在進行形になろうとしております。NUMBER GIRLの真骨頂とも言えるライブという場で、是非彼らの音楽を体感してみてください。
「売れる売れない二の次で、恰好のよろしい歌ば作り、聴いてもらえりゃ万々歳。そんな私は傾奇者――人呼んでNUMBER GIRLと発します」(向井氏による、圧倒的に面白いMCの1つ)
TEXT KOH-1

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