SHISHAMO 公演延期を乗り越え、快心
のライブ「大好きな歌を聴いてくれる
大好きなみんながいる」

SHISHAMO ワンマンツアー2018-2019 追加公演

「ねぇ、あなたとあの娘は夢でしか逢えない間柄なのにどうして夜明けにキスしてたの?」スペシャル!!!
2019.3.2 Zepp Tokyo
1月31日に行われる予定だったツアー・ファイナルのライブが宮崎朝子(Gt&Vo)の喉の不調によって延期となり、振り替え公演として行われたのが3月2日のZepp Tokyoだ。つまりリベンジ公演ということになる。喉の具合は大丈夫なのか。そんな懸念は宮崎、松岡彩(Ba)、吉川美冴貴(Dr)がステージに登場して、オープニングナンバーの「あの娘の城」が始まった瞬間に消え去った。いや、3人の気迫あふれるプレイが不安要素をきれいさっぱり、吹き飛ばしてしまったという表現がふさわしいだろう。ギターが鳴り響き、ベースとドラムが加わり、そして宮崎が歌い出す。胸の奥に溜まっていた感情すべてを解き放っていくような歌とファイティング・スピリッツあふれるバンドサウンドに胸が熱くなる。一丸の演奏だ。松岡のベースから始まったのは「BYE BYE」。観客のハンドクラップが加わって、演奏が白熱していく。ツアーの国内初日、11月9日のZepp DiverCityでのステージも見たのだが、アンサンブルの切れ味がさらに増していた。ツアーを回ってきた成果の表れだろう。ステージに向かっていく気持ちの強さとともに、ファイナルらしい完成度の高さを両立させているところが素晴らしい。
SHISHAMO・宮崎朝子
「みなさま、ご心配をおかけしてすみません。今日こうやってまたステージに立って、みんなの前で歌えるのがとてもうれしいです。ありがとうございます」との宮崎からの挨拶もあった。喉と鼻の間が炎症する上咽頭炎という病気と診断されたこと、現在も治療中であることも報告された。つまりまだ完治したわけではないのだが、そんな状況をまったく感じさせない歌声だ。雲ひとつない澄み切った青空も気持ちいいが、ほんのりと白い雲がかかった青空もまた趣があっていい、というのに近いかもしれない。彼女の歌声からは歌う喜びまでもが伝わってきた。水を得た魚、水を得たSHISHAMOならぬ、歌を得た宮崎と言いたくなった。
SHISHAMO・松岡彩
「この1か月の間、リベンジできるのを楽しみにしてきました。ツアー・ファイナル、みなさんと一緒に楽しい時間を過ごせたら」とは吉川の言葉だ。悔しい思いをしたのは吉川も松岡も一緒だろう。3人はその悔しさをバネにし、エネルギーに変換して、見事なライブを展開していた。「ドキドキ」に続いて、松岡による説明と練習を経て、会場内でタオルが回る光景が出現したのは「タオル」。宮崎と松岡が花道からサブステージへと出てきて演奏する場面もあった。会場内が一体となって盛り上がっていくSHISHAMOならではのライブの楽しさが前半から全開となった。「恋に落ちる音が聞こえたら」ではハンドクラップが起こっていく。
SHISHAMO・吉川美冴貴
SHISHAMO
花道の先端のサブステージに移動して、アコースティック編成で3曲が披露された。最新アルバム『SHISHAMO 5』収録曲の「あなたと私の間柄」は宮崎のアコースティックギター、吉川のカホンに、松岡がグロッケンとピアニカを交互で演奏しつつ、という編成での演奏となった。日常的な題材が歌われているSHISHAMOの楽曲と、アットホームな雰囲気でリラックスして演奏されるアコースティック編成はきわめて相性がいい。身近な歌がさらに近寄ってくるような気がするからだ。松岡のコミカルかつほのぼのとしたピアニカがいい味を出していた。指揮者がタクトを振るように宮崎が手で合図して、3人のアカペラのコーラスで始まったのは「ロマンチックに恋して」。3人の麗しいハーモニーとボサノバ風の涼しげなアレンジがいい。松岡はシェーカーを担当。吉川のカホンもニュアンス豊かだ。「恋」は宮崎のアカペラで始まり、松岡のグロッケンが入ってくる。さりげなくて、繊細な始まり方が曲の世界観とマッチしている。激情をほとばしらせる激しい演奏もいいが、密やかな思いがふわっとにじむ柔らかな演奏もいい。
SHISHAMO
「4月24日にニューシングル『OH!』を発売することが決定しました」との吉川からの報告もあった。「『OH!』じゃない新曲を2曲続けてお届けします」との吉川の言葉に続いて、まず演奏されたのはファンキーなリズムを備えていて、ベースとドラムの表情豊かな演奏が新鮮なナンバー。この曲は11月の公演でも演奏されたが、アンサンブルもグルーヴもさらに磨かれていると感じた。間奏ではエモーショナルなギターソロもあり。「あの娘の城」に通じるような、主人公の女の子の胸の奥にあるダークな感情を鮮やかに描く歌の世界に引きこまれた。続いての新曲は伸びやかな演奏が気持ちいいナンバー。中盤でラテン的なリズムも交えて、ギターもベースもドラムも自在に疾走していく。新曲2曲に続いて演奏されたのは自主制作CD『卒業制作』収録曲の「第3ボタン」。初期の曲だが、みずみずしさはそのまま維持した鮮度の高い演奏だ。レアな選曲もスペシャルだった。
SHISHAMO
ツアー恒例の吉川による“吉川美冴貴の本当にあった○○な話”コーナーはファイナル公演ということで、各地で披露してきた話の中でスタッフの間で一番受けたというZepp Sapporo公演での話が紹介された。吉川が使用しているリップクリームがマネージャー(男性)とまったく同じ商品で、あわや間接キッスか! その運命やいかに? というネタだったのだが、話の展開のおもしろさといい、見事なオチといい、さすがのクオリティーの高さだった。
SHISHAMO・宮崎朝子
松岡の陰影と深みのあるベースと吉川の躍動感あふれるドラムが印象的な「同窓会」、ポップな爽快感と疾走感とを備えた「きっとあの漫画のせい」に続いて、この日のハイライトは「夢で逢う」で訪れた。宮崎のつぶやくような、さりげないギターの弾き語りで始まったのだが、曲が進行するにつれて、歌の表情が劇的に変化していく。中盤からディープなベースが入り、バンドの演奏がオルタナティブな空気を孕んでいく。後半に入っての、せつなさの極地と言いたくなるような、喪失感と痛みがにじむ歌と演奏が圧巻だった。音楽の素晴らしさのひとつは、どんなにネガティブな感情であっても、音楽として表現された瞬間に、浄化作用や昇華作用を備えていくところにある。音とともにあふれだした深い悲しみはその激しさと強さゆえに、聴き手の胸の中に溜まっていた暗い感情も、一緒に洗い流していくパワーを発揮していく。宮崎はMCで、1か月間、歌えない期間があったと語っていたが、その鬱憤も一気に晴らしていくような見事な歌いっぷりだった。
SHISHAMO・松岡彩
「夢で逢う」での圧倒的な余韻から一転して、サブステージでは観客から募集した悩みに3人が回答するコーナー、そして募ったリクエストに応えるコーナー。悩み相談が書かれた紙が入った青い箱を吉川が抱え、リクエスト曲とその曲にまつわるエピソードが書かれた赤い箱を宮崎が抱えて、松岡が箱の中から紙を引いていくという流れのコーナーだ。振り替え公演にしてファイナルというスペシャルな状況が重なったこともあってか、たっぷり時間を取ってのトークとなったのだが、飾らずに本音で話す3人のトークはときに鋭く、ときにフレンドリーで、実にいい感じだ。リクエストに応えて演奏されたのは3rdアルバム収録曲の「笑顔のとなり」だった。久々に演奏される曲で、しかもリハなし、ぶっつけ本番での演奏となったのだが、3人は息の合った演奏を展開していく。こうしたフットワークの軽さもスリーピースバンド、SHISHAMOの魅力のひとつ。
SHISHAMO・吉川美冴貴
後半は「量産型彼女」、「ねぇ、」、「君とゲレンデ」と、たたみかけていく展開。コール&レスポンスが起こり、メンバー3人の熱気と観客との熱気との相乗効果で会場内に濃密な一体感が漂っていく。本編のラストに演奏されたのは「明日も」だった。この曲の<良いことばかりじゃないからさ>というフレーズがいつも以上に強く響いてきたのは、3人が公演延期というアクシデントを乗り越えてステージに立ち、この歌を奏でていたからだろう。試練を乗り越えるたびに、歌の説得力が増し、演奏がパワーアップしている。バンドの成長と歌の成長が見事にリンクしていると感じた。吊されたライトやミラーボールが輝いている。その光をきっとたくさんの笑顔が受けとめていたに違いない。折れずに走り続けるバンドの闘志あふれる演奏に大きな歓声と拍手が起こった。
SHISHAMO
アンコールで再び登場した3人からそれぞれこんなMCがあった。
「振り替え公演ができて、もう1回来てくれる人がたんさんいて、ありがたいなと思いました。学ぶことがたくさんあったのですが、これも来てくれたみなさんのおかげです」と松岡。
「私は軽音部にいた高校生のときからずっと朝子と一緒にやってきてまして、朝子の喉の調子が悪くなるのは初めてで、延期になった日、どうしたらいいんだろうって思ったんですが、来て下さった人たちが“振り替え公演を楽しみにしてます”と言ってくださって、ありがたすぎて。そうした言葉に救われて、振り替え公演をやれたこと、みなさんが来てくれて、ライブを出来ることが本当に幸せです」と吉川。
続く宮崎のMCでは延期になった当日、リハ中に声が出ずに病院に向かったこと、その後、吉川と松岡が雨の中で約3時間、観に来ていた人たちと写真を撮るなど、自分たちに出来ることで、交流をはかっていたことも語られた。優れた音楽性はもちろんだが、そうした誠実さを持っているからこそ、SHISHAMOは多くの人々の共感を得ているのだろう。さらに宮崎はこうMCを続けた。
SHISHAMO
「今日来てくれたみなさんに対してもそうなんですが、スタッフにも感謝しています。初めてメンバーってありがたいなって思いました(ここでは当然、二人から「初めてかよ!」とのツッコミも入った)。歌えるのが当たり前だったので、びっくりしちゃって。私は歌うのが大好きなんですよ。でもこの1か月くらい、ずっと歌えなくて、何をしてたらいいんだろうと思う瞬間があって。今回のことがあって、こんなに歌うことが好きだったんだな、歌を歌うのって楽しいなと思いました。大好きな歌を聴いてくれる大好きなみんながいるので、体に気を付けて歌っていけたらいいなあと思います」
SHISHAMO・宮崎朝子
アンコールでは「水色の日々」と「恋する」が演奏された。「水色の日々」では会場内にハート型のウイングが舞い、「恋する」では銀テープが発射される演出もあった。「恋する」のラストでは宮崎と松岡が吉川の前に近寄って、向かい合っての演奏。この光景がバンドの絆の深さを象徴するようだった。演奏が終わると、3人は花道を歩き、サブステージへと出てきた。床に溜まったウイングハートと銀テープを手ではらってスペースを作り、手をつないで、お辞儀する3人に盛大な拍手の嵐が降り注いだ。
SHISHAMO・宮崎朝子
音楽に対する真摯な姿勢と情熱、観客への感謝の思い、そしてメンバー同士の信頼、たくさんの思いが、歌と演奏をさらに輝かせていると感じる瞬間がたくさんあった。アンコールも含めて、ほぼ3時間。持てる力のすべてを投入していくスペシャルなステージからは清々しさも漂っていた。アクシデントに見舞われたときこそ、バンドの真価が問われる。バンドは折れることなく、未来を切り拓き続けている。SHISHAMOの“明日”がさらに楽しみになるファイナルだった。

取材・文=長谷川誠 撮影=上山陽介
SHISHAMO

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