昆夏美が語るミュージカル『レ・ミゼ
ラブル』ーー「木の役でもいいから出
たかった」4度目のエポニーヌ役を演
じる

1987年の日本初演以来、東宝演劇史上最多の3,172回(2018年10月時点)という驚異的な上演回数誇るミュージカル『レ・ミゼラブル』(以下、『レ・ミゼ』)。ヴィクトル・ユゴーが自身の体験に基づき、19世紀初頭のフランスの動乱期を舞台に当時の社会情勢や民衆の生活を克明に描いた大河小説が原作だ。仮出獄の後、過去を捨てて新しい人生を生きようと誓うジャン・バルジャン中心に、出会いと別れ、苦悩や葛藤、さまざまな愛の形を映し出しながら、懸命に生きる市井の人々の姿を描いている。
2013年にはロンドン初演25周年を機に舞台装置、照明、音響、衣裳、そして登場人物のキャラクターの描き方など演出面を一新した新演出版が日本初演を迎え、第39回菊田一夫演劇賞で演劇大賞を受賞するなど、大成功を収めた。
昆夏美が語る『レ・ミゼラブル』●
その年にエポニーヌ役で『レ・ミゼ』初出演を叶えた昆夏美。今年、エポニーヌ役で4度目の出演を果たす。「木の役でもいいからに出たかった」と言うほど大の『レ・ミゼ』ファンだったという昆が、2019年度版にかける思いと、『レ・ミゼ』そのものへの熱い気持ちを語った。
2013年に初めて出演したときは、2015年、2017年、そして2019年と毎回、挑戦できるとは思っていなかったと話す。「ミュージカル俳優を志す中で、エポニーヌは演じたい役の一つでした。実際に演じれば演じるほど、前回では感じられなかった感覚が自分の中で少しずつ出てきて、ゴールは決してないんだなと思います」。2019年は「エポニーヌとはこうであるという概念を自分の中から捨てて、お客様にもそう思ってもらえるよう演じられたらいいなと思います」と意気込む。
エポニーヌとコゼットはそれぞれトリプルキャスト。2013年に初出演した時は、この二役のキャストの中で一番年下だった昆も、いまや最年長になった。「そのことにまず、びっくりしましたね(笑)。今回も、まだ何の色もついていないエポニーヌが入ってくることによって、自分も気づかされることがたくさんあると思いますし、そういった意味でもワクワクしています」。
フランス革命のさなか、エポニーヌはバリケードで敵に打たれ、恋焦がれていたマリウスの腕の中で息を引き取る。その心情をつづった楽曲が「恵みの雨」だ。「2017年に演じさせていただいたときに心に残っているのが「恵みの雨」で自分はこんなに幸せに死ねるのだという気持ちでした。それは、2013年、2015年には感じたことのなかった気持ちです。そういう気持ちで昇天していく感覚を自分の中でまた新たに得られたことはすごく大きなことでした。『レ・ミゼ』に出たいと夢見ていたころは、「オン・マイ・オウン」(エポニーヌが、決して届かないマリウスへの愛を自覚し、その心情を描いた楽曲)を歌いたいと思っていて、「恵みの雨」の重要性をまだ理解していなかったのですが、演じていくうちに一番大事にしたいシーンの一つでもあると気づきました。切ない話ですが、命が絶たれると同時に初めてマリウスのぬくもりに触れたという深いシーンだなと思います」。
●老若男女問わず愛される作品『レ・ミゼラブル』●
昆夏美 撮影=田浦ボン
そして、2019年ももっと進化をさせていきたいと話す。演出家からは「エポニーヌの辛さを理解しても悲劇のヒロインにはならないでほしい」というアドバイスがあった。「絶対に自分を憐れんではいけない。コゼットとマリウスが「心は愛に溢れて」を歌っているときは、辛いし、見たくないと感情は動きますけど、”みんな!私を憐れんで“というアピールはやめてほしいと」
そんなエポニーヌのことを「客観的に見て分かると思う部分もある」という。「でも、相手の幸せがあれば私はどうでもいいという極地にはまだ……(笑)。そこがエポニーヌはすごいなと思いますし、憧れる部分の一つだと思います。いくら自分が願ったところで、現実は何も変わらない。だからこそ思うだけはいいじゃないとエポニーヌは「オン・マイ・オウン」を歌うのかもしれない。演出家がおっしゃるには、エポニーヌはマリウスから見たら貧乏なストリートガールの一人という印象で、彼女自身もそういうふうに彼に思われていると分かっている。好きになってもらいたいと願っても仕方がないから彼の幸せを願うけど、でも私は好きでいさせてほしという気持ちがあって。あきらめと願望が入り交じったような感じではないでしょうか」と心を寄せる。
ミュージカル俳優を目指した10代、『レ・ミゼ』のエポニーヌに憧れた理由はとにかく「オン・マイ・オウン」を歌いたかったことと、好きな俳優がエポニーヌを演じていたからだという。「「オン・マイ・オウン」を歌いたい! 帝国劇場に出たい!みたいな(笑)。そんな役はないですが、木の役でもいいから『レ・ミゼ』に出たいと家族に言っていました」
それほどまでに出たかった『レ・ミゼ』。その魅力を聞いた。「すごくざっくりした言い方ですが、いろんな見方ができる作品なのではと思います。だから老若男女問わず愛される作品なのだと。バルジャンという一人の男性の変化、彼を追うことによって葛藤するジャベール、コゼットも、エポニーヌも、マリウスもいろんな物語があります。誰の視点で見るかによって変わってくる作品なので、何回も観たいし、トリプルキャストなど個性が全く異なる俳優が同じ役を演じることで作品の色がまた変わってきます。愛とか許しとか、いろんなメッセージを感じ取っていただくことで、明日への活力になればいいなと思います」。
ミュージカル『レ・ミゼラブル』は東京公演が2019年4月19日(金)からスタートする。

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