フルカワユタカ×百々和宏×渡會将士
“観たい組み合わせ”は相性抜群だ
った 『貴ちゃんナイト Vol.11』レポ

貴ちゃんナイト Vol.11 2019.2.16 下北沢CLUB251
“貴ちゃん”ことラジオ・パーソナリティの中村貴子が主宰するライブイベント『貴ちゃんナイト』、その11回目が2月16日、下北沢CLUB251で行われた。「Vol.11」と銘打たれてはいるが、ラジオリスナー有志が自発的に行ったDJイベントに端を発しているため、彼女のキュレーションするライブとしては10回目。そういう背景からもわかるように、とてもアットホームなことが特徴としてまず挙げられるイベントである。特に今回は、アニバーサリー回として渋谷duoでの開催だった前回から、“ホーム”のCLUB251に戻ってきたから余計そう感じる。
そしてもう一つ。ブッキングの妙も特筆すべきだろう。毎回、貴ちゃん自身がリスナーとして観たいアーティスト、観たい組み合わせにこだわって決められるアーティスト同士が、それぞれのファンも含め、絶妙にハモるのだ。今回の渡會将士百々和宏フルカワユタカという3組に関しても、過去の対バン実績等はあまりないらしいのに、互いにリスペクトを表しつつ、先輩・後輩関係ならではの弄り弄られる関係性までが自然と構築されていた。観に来ている側に目を向けても、3組ともファンですという人はそんなに多くなさそうなのに、いざライブが始まればくまなく盛り上がるし、MCで飛び出す他のアーティストネタ(この日は髭とかナンバガとか)にも素早く反応していたところを見ても、大枠の好みが似ているのだろう。それこそが貴ちゃんの慧眼ぶりであり、センスというより他ない。
渡會将士 撮影=釘野 孝宏
渡會将士 撮影=釘野 孝宏
トップバッターは渡會将士だ。「37歳にもなるんですけど一番後輩という、なかなかハードな状況でして……」と楽屋での所在なさが想像できるようなMCで笑いを誘い、続く2組のライブ中にも弄られまくっていた彼だが、いざ音が放たれれば恐縮ぶりがウソのように豹変するから面白い。話し声のようなナチュラルなトーンにファルセットを交え、独特のアクセントをつけながらの歌唱と、タイトながら縦横自在にファンキーなノリを生む演奏で「GoodRoutine」「Vernal Times」と続け、たちまちゴキゲンな空気が醸成されていく。歌詞を間違えても瞬間的に即興のラップを繰り出したり、無茶振り気味のコール&レスポンスでしっかり場内を巻き込んだり。かと思えば、切々としたボーカルと重厚なサウンドで「Weather Report」をじっくり届け、その余韻残る中で“神曲だ”と自画自賛して笑ったり。気づけば完全に渡會のペースだ。
渡會将士 撮影=釘野 孝宏
渡會将士 撮影=釘野 孝宏
そんなエンターテイナーぶりの真髄が楽しめたのは、告知と称したコール&レスポンスのレクチャーからなだれ込んだ自称“パリピソング”の「コイコイ月見りゃSeptember」だ。ミラーボールが回る中、キャッチーかつスピーディな曲展開の中にあらゆるモチーフとネタを詰め込んでいけば、場内がみな笑顔になっていく。強烈な陽のパワーに、「なんだかこれサザンみたいだなぁ」と思っていたら、あとで百々もMCでそう言っていた。最後も「Chloe」で自然とシンガロングを巻き起こすなど、渡會は終始のびのびとしたパフォーマンスで場内を温めまくったのだった。
渡會将士 撮影=釘野 孝宏
百々和宏 撮影=釘野 孝宏
登場するなりいきなり自分のドリンクをオーダーし、「渡會くんのギャラから引いといてください」と一言、掴みはOKな百々和宏。“自分のドリンク”というのは、これもこのイベントでは恒例となっている出演アーティストにちなんだスペシャルメニューのことで、渡會は日本酒「和田来」のソーダ割り、百々は“もも→桃→ピーチリキュール”をウーロン茶で割ったもの、フルカワはかつての所属バンド・DOPING PANDAにちなみ“パンダ→白と黒”ということでカルアミルクである。ちなみに、百々は「せっかくだからライブ中に全種類飲みます」と宣言して見事完飲。それどころか、和田来は2杯飲んでました。
百々和宏 撮影=釘野 孝宏
百々和宏 撮影=釘野 孝宏
そんな彼のライブは弾き語り形式のもの。MO’ SOME TONEBENDERでの姿からすると意外かもしれないが、ソロでの楽曲は、彼の愛するロックンロールのルーツにあたる音楽性、ブルースやフォークの色合いが濃い。アコギにエフェクトをかけ、ハープを吹きながらディランばりの嗄れ声で歌う「高架下の幽霊」からじっくりとスタートしたあと、続く「クラクラ」では一転して少年性すら感じさせるストレートな歌声をみせ、「ポテト・フォー・ピープル」は女性目線の歌詞を哀愁たっぷりに歌う。決してガンガン拳が挙がるようなタイプのライブではないが、彼のブルースシンガーぶりと詩人ぶりにどっぷりと浸る時間はとても心地がよく、おまけに大変ゆるいMCのせいなのか、酒場か、下手すると家飲みのようなまったり感すら味わえる。
百々和宏 撮影=釘野 孝宏
とはいえその終盤は激しくスリリングな展開となり、歪ませた爆音ギターと後半の絶叫リフレインが鳥肌ものだった「ロックンロールハート(イズネバーダイ)」からの中島みゆき「悪女」のカバーというラスト2曲がとにかく圧巻。アウトロで自らアンプのボリュームを右に捻り、ガンガンに弾き倒したあと、飄々とステージを後にしていった。
百々和宏 撮影=釘野 孝宏
フルカワユタカ 撮影=釘野 孝宏
「こんばんは、ロックスター・フルカワユタカです」「いずれ呼ばれることは分かっていたんですけども(笑)」
トリを務めるフルカワユタカはいきなり絶口調。SEの重たい四つ打ちビートに乗せてクラップが巻き起こる中を登場するなり、「revelation」「busted」と、昨年リリースしたアルバム『Yesterday Today Tomorrow』からの楽曲を連打する。3ピース編成のバンドから放たれるサウンドは、硬質でパンキッシュでありながらポップ。DOPING PANDA時代、ソロと、彼がそのキャリアの中で取り込んできた様々な音楽性を含みつつも、それを盛るというよりも余計なものを削ぎ落とした核心に触れるような、真っ直ぐさと鋭さが痛快だ。随所にお立ち台での早弾きギターソロを盛り込み、ギタリストとしての妙技を魅せることも忘れない。
フルカワユタカ 撮影=釘野 孝宏
フルカワユタカ 撮影=釘野 孝宏
「ここらへんから、ロックスターである所以を見せたいと思ってます」
そんな宣言も飛び出した中盤以降では、うねるベースが印象的でダンサブルかつ攻撃的な「I don’ t wanna dance」から、「Beast」「シューティングゲーム」と矢継ぎ早に繋いでいく流れが興奮を誘う。「跳ね回れ、下北!!」とフルカワが煽るより先に、会場のいたるところからガンガン手が上がり、容赦なく浴びせられるビートとグルーヴに乗ってジャンプする人、多数出現。それにしても、演奏中の姿はもちろん、顔にかかった髪を払ったり、ふとしたタイミングで不敵に微笑んだりするフルカワの仕草はいちいちサマになっていて、伊達にロックスターの看板を背負い続けてないなあ、そんなことを思う。ラストはthe band apartの原昌和をフィーチャーしたシングル曲「ドナルドとウォルター」。ジャジーなコード感の上にテクニカルなフレーズとキャッチーなメロディが乗っかった同曲を、颯爽と弾きこなし、歌いこなしてライブを締めくくった。
フルカワユタカ 撮影=釘野 孝宏
フルカワユタカ 撮影=釘野 孝宏
アンコールに応えて再登場したのは百々とフルカワ。百々のギターからなかなか音が出ないというハプニングもあったが、その間をトークで繋ぐ2人の息はピッタリだ。フルカワのバースデイ・ライブへの出演を百々から逆オファーする一幕もあったりと、まるで普段から一緒にやっている同士かのようである。パフォーマンスの相性も抜群で、フルカワの「バスストップ」を2人で弾き語ると、歌声が重なるたびに感嘆の声が上がった。
百々和宏 / フルカワユタカ 撮影=釘野 孝宏
先輩2人から呼び込まれた渡會は、先ほどの堂々たるライブがウソのように恐縮しきりで、ツッコミを受けまくってはまた恐縮する、という展開に。ただ一度演奏が始まれば、まるで何かのスイッチが入ったかのように、堂々たる姿なのだから面白い。3人のフロントマンが代わる代わるボーカルをとった斉藤和義の「歩いて帰ろう」は、渡會が「次のフレーズを早口で言ってから客席に歌わせる」「やたら派手にギターソロを振る」など、各種“あるある”的な動きを次々に繰り出して、会場中が大いに盛り上がる。
百々和宏 / 渡會将士 / フルカワユタカ 撮影=釘野 孝宏
最後は「楽しい!! みんなのことが大好き!!」と、こちら側の気持ちを代弁するかのように喜びを爆発させながら貴ちゃんがステージに現れ、全員とラインナップして記念撮影。さらに客席をバックにした記念撮影も行ったあと、出演した一人ひとりに名指しで感謝を伝えながら送り出して、『貴ちゃんナイト Vol.11』は大団円を迎えたのだった。
百々和宏 / 渡會将士 / フルカワユタカ 撮影=釘野 孝宏
「音楽が好きでよかったね」「これからも大好きでいようね」
イベントの終わりに貴ちゃんはいつもそんなことを言うが、心底そんな気持ちにさせてくれるライブがそこにあるからこそ、そういうライブを出来るアーティストを貴ちゃんが毎回選んでいるからこそ、その結果として似たようなロック好きたちが集ってホーム感が生まれているからこそ、この『貴ちゃんナイト』は長寿イベントになりつつあるワケだ。次回、誰が出るのかはチケットが発売してしばらくするまでわからないのだけれど、そこんとこの魅力だけは今のうちから太鼓判を押しておく。

取材・文=風間大洋 撮影=釘野 孝宏
貴ちゃんナイト Vol.11 撮影=釘野 孝宏

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