70sアメリカンロックの
進むべき道を示したザ・バーズの
『タイトルのないアルバム』
本作『タイトルのないアルバム』
について
アルバムに収録されているのは、ライヴ7曲、スタジオ9曲の16曲。ライヴサイドとスタジオサイドはかなり違うテイストに仕上がっている。ライヴサイドはこれまでのフォークロックやカントリーロックのイメージではなく、ハードで荒削りなアメリカンロックグループに生まれ変わったかのような骨太なサウンドだ。
手数の多いパーソンズのドラム、うねりまくるバッティンのベース、ファズのかかったクラレンスのドライブ感に満ちたギターなど、これまでには見られなかったライヴアクトとしてのバーズの姿がここにある。カントリー的なナンバーやフォーク的なナンバーを演奏しても、ロックスピリットが感じられる演奏になっていて、大音量で聴いてほしいと思う。「ミスター・タンブリンマン」のような旧ヒットもパワーアップしているし、マッギンの新曲「ラバー・オブ・ザ・バイユー」ではデラニー&ボニー的なスワンプっぽさが感じられるなど、初ライヴ盤にもかかわらず多くのチャレンジを盛り込んでいるのには驚かされる。16分にも及ぶ「霧の5マイル(原題:Eight Miles High)」ではマッギンの12弦ギターソロをはじめ、最初から最後までメンバーはノリまくっており、聴いているこっちにまで会場の熱い様子が伝わってくる。バーズ初のライヴアルバムは素晴らしい内容で、この試みは大成功だったと言えるだろう。
一方、スタジオサイドは名曲ぞろいで、成熟したカントリーロックが聴ける。このスタジオサイドを彼らの代表作として挙げるバーズファンは多いが、少なくともこれ以降に見られるウエストコーストロックの隆盛は、本作の影響が大きい。マッギン&レヴィ作の「栗毛の雌馬(原題:Chestnut Mare)」「オール・ザ・シングス」「ジャスト・ア・シーズン」は90sのオルタナカントリーへとつながるサウンドになっているし、パーソンズ&バッティン作の傑作「昨日の汽車(原題:Yesterday's Train)」はコロンビア時代のフライング・ブリトー・ブラザーズそのものの音である。また、「飢えた惑星(原題:Hungry Planet)」はこれ以前にも以後にもないファンキーなテイストで、G・ラブのような90sオルタナティブ感がすごい。
しかし、本作で最高のナンバーはクラレンスが歌う「トラック・ストップ・ガール」だと僕は思う。当時、まだ無名であったリトル・フィートのローウェル・ジョージの曲であるが、クラレンスのヴォーカルは秀逸である。そして、この曲の後半に登場するギターソロはクラレンスの数ある名演の中でも最高のものである。ちなみに、僕の考えるクラレンスの最高の演奏はエレキではこの「トラック・ストップ・ガール」で、アコースティックでは『ミュールスキナー』に収録された「ブルー・ミュール」だ。ブルーグラス時代のケンタッキー・カーネルズやホワイト・ブラザーズも必聴だけどね。
本作はバーズの傑作というだけでなく、ウエストコーストのカントリーロック全体の基礎部分にあたる重要作である。もしバーズを聴いてみようと考えているなら、今も古びていない『タイトルのないアルバム』をぜひ聴いてみてください♪
TEXT:河崎直人