the peggies (ザ・ペギーズ)が『ワンマンツアー2018〜君のせいで最終バス乗り過ごしたツアー〜』を開催。12月7日の札幌DUCEでファイナルを迎えた。本記事では、セミファイナルとなった東京・渋谷TSUTAYA O-EASTでの模様をレポートする。


パワーポップとライブ運びのうまさ

満員の『TSUTAYA O-EAST』。BGMがSEに変わり、大勢のオーディエンスが手拍子をするなか、大貫みく(Dr.)、石渡マキコ(Ba.)、北澤ゆうほ(Vo. & Gt.)の3人が現れると、照明は一気に明度を増す。まぶしい光のなかで『グライダー』が演奏され、ライブは始まった。

『グライダー』はインディーズ時代の楽曲で、ペギーズの認知度を一気にあげた曲でもある。ポップで爽快さのあるアルバムリード曲だったが、この日の演奏は爽快さに加え、メジャーデビュー以降バンドが着実に身につけてきたパワーポップ感が上乗せされ、重厚感のある力強いサウンドになっていた。
この曲、北澤ゆうほのツイートによれば「19歳の時に音楽で焦って焦って悩んで悩みすぎてできた曲」とのこと。ちょっと意外な気がするが、ツイートはこう続く。「この曲が20代の自分の背中をいつまでも押してあげてると良いなと思ってた」。

パワーポップにブラッシュアップされた現在の『グライダー』は、まさに誰かの背中を押すような力強さと繊細さに満ちている。「背中を押す」は現在のペギーズを象徴的に表す一言かもしれない。『グライダー』に続いて、ペギーズ流パワーポップの代表格である『ネバーランド』という力強い楽曲を2曲並べてライブを始めたことに、このバンドの意志やアイデンティティを読み取ることもできるだろう。
パワーポップなモードに加えてもうひとつ、最近のペギーズの特徴として顕著なのが、ライブ運びのうまさである。

彼女たちは、自分たちがオーディエンスに求めている反応を引き出すことがうまい。若手ロックバンドにありがちなやや強制的なノリがほとんどなく、これといった決め事があるわけでもないのに(正確には「ペギーズのライブは非常にわかりやすいシステムを導入している(ゆうほ)」のだが)、オーディエンスはここぞという箇所で手拍子をし、ジャンプする。そしてフロアには一体感がうまれている。『ドリーミージャーニー』のような決して速いわけではない曲でもオーディエンスは手をあげて手拍子をして身体を揺らすので、「踊れる曲」と化している。だとしたら、『恋の呪い』や『ちゅるりらサマフィッシュ』といったライブ向きの楽曲は推して知るべしだ。

楽曲の良さだけでなく、3人の演奏や見せ方のうまさ、キャラクターの強さ、MCのうまさ、曲と曲のつなぎ方のうまさ、そして恒例のドラムエクササイズをはじめとした演出など、現在のペギーズは様々な要素が結実しつつある。今後、ライブバンドとしての彼女たちがさらなる注目を集めていくことは容易に予想できる。

誰かの背中を押すような音楽

最初期の音源にもかかわらず根強い人気で再録もされた『ボーイミーツガール』や上質な短編小説のような『遠距離恋愛』、北澤ゆうほが「良い曲」と評する『最終バスと砂時計』など、ロマンティックな楽曲が披露されるなか、中盤では、近年のペギーズのライブでは珍しい楽曲も披露された。それが『ヘルズ』だった。

『ヘルズ』は、北澤ゆうほが10代の頃に描いた曲であり、ペギーズとしてはインディーズ時代の3年前に一度演奏したきりだった。浮遊感ある打ち込みサウンドがループするなか、「僕の選んだ道は これで良かったのかい?」と北澤ゆうほが語りかけるように始まるこの曲は、原曲では彼女の弾き語りで4分30秒程度進み、終盤でようやくバンドサウンドになる。
この構成は、歌詞の内容がかもし出す悲しみや後悔といったムード、孤独や不安というテーマに非常にマッチしていたわけだが、3年ぶりの演奏では、よりバンド感の強いアレンジが施されていた。1サビが終わるとすぐにバンドサウンドに移行し、石渡マキコの優しくスムースなベースと大貫みくの勇気と強さを与えるドラムが重なり、北澤ゆうほの分厚いギターと相まって、音はひとつの大きな塊になる。その結果、痛みに満ちていた『ヘルズ』は、誰かの背中を押すようなポップで美しい楽曲へと進化した。
この曲の打ち込みサウンドは、行き場のない葛藤のループを表現しているように思えた。しかし10代の頃にループしていた北澤ゆうほの切実な思いは、the peggiesというバンドの輪郭が確かなものになることによってその行き先を見つけたのではないか。そしてバンドの輪郭を確かなものにしたのは誰なのかといえば、ペギーズの音楽を愛する人々だ。

「曲を作るときからずっと、みんなのことを考えていた。みんなはどういうことで悩んでるかな、とか。自分にとってみんながすごく大事なんだなって改めて気付きました。悩んだり辛くなったり、何もかもやめたくなったりすることもあるけど、みなさんがいてくれるという事実が常にわたしの背中を押してくれている。私たちと音楽をつなぎとめてくれているのは、いつもペギーズをそばで見守ってくれているみなさんです」

北澤ゆうほが感謝を述べると、フロアから大きな拍手が起きた。彼女はこう続ける。

「元気をもらっているぶん、何をして返そうか。私たちは、暴力的とも言えるような強さや明るさ、前向きなポジティブさでみなさんの背中を押して、つらい時の明るい光みたいな存在になりたい。一緒に、力強く、人生前に進んで行きましょう」
このような姿勢を顕著に表しているのが、コーラスとモータウンビートが特徴の『I 御中〜文房具屋さんにあった試し書きだけで歌をつくってみました。〜』や、青い恋の衝動を描いた爽快なポップロック『サマラブ超特急』といった楽曲だろう。

あるいは、北澤ゆうほがギターをフライングVに持ち替えて演奏した新曲の『そうだ、僕らは』もそうかもしれない。『そうだ、僕らは』は、BPMが速めでガレージロックらしさのある強いカッティングと細かいフレーズが特徴的で、「もしもBLANKEY JET CITYがガールズバンドだったらこうなる」と思わせられるような楽曲だった。

本編ラストは11月7日にリリースされ、iTunesロックチャートで1位を記録した『君のせい』。「こんなに楽しいのは誰のせいだ!?」という見事なフリからのハッピーなムードでフロアを満たした。

Hell like Heaven=はいあがる力を持っ
た明るさ

アンコールでは、この日が23歳の誕生日となる北澤ゆうほをサプライズでお祝い。フロア全員のバースデーソング大合唱と、バースデーケーキ、ではなくバースデー寿司でお祝いし、「寿司女王」が誕生したのだった。

また、2月6日にメジャー1stフルアルバム『Hell like Heaven』がリリースされることも発表。タイトルには「這い上がる力を持った明るさ、辛いことも受け入れて力強く前に進む」という想いが込められているという。

単なる明るさだけでなく、地獄から這い上がる明るさ。おそらくそれは、ペギーズというバンドが結成以来通ってきた道のりにぴったり当てはまる言葉なのだろう。だからこそこのバンドには誰かの背中を押せるだけの説得力があるのだ。

最後は新曲の『マイクロフォン』と『BABY!』をポップにキュートに、かつロックに演奏。フロアをシンガロングに導き、恒例の一本締めでライブは終わった。

すべては『ヘルズ』に書いてあった

ふたたび『ヘルズ』の歌い出しの歌詞を引用するが、前述した通り、この曲はこんな歌詞で始まる。

「僕の選んだ道は これで良かったのかい?」

この問いに対する答えが肯定的なものであることは明白だろう。この日のライブパフォーマンスやオーディエンスの反応を見れば、誰にでも了解できる。あるいは、ペギーズの音楽を愛する人々のこれまでのリアクションがすべてを物語っている。

では、こうしたオーディエンスの反応や感情にあえて名前をつけるとしたら、どのような言葉がふさわしいだろうか?

今回のツアーは『ヘルズ』がひとつのポイントだったし、記事でもせっかく『ヘルズ』に焦点を当てたのだから、この曲の終わりの歌詞を引用して本レポートを締めることにする。

問いも答えも、すべては『ヘルズ』に書いてあった。

「人はそれを愛と呼んだんだ」


〈セットリスト〉

1.グライダー
2.ネバーランド
3.ドリーミージャーニー
4.恋の呪い
5.ちゅるりらサマフィッシュ
6.ボーイミーツガール
7.遠距離恋愛
8.最終バスと砂時計
9.ヘルズ
10.JAM
11.I 御中〜文房具屋さんにあった試し書きだけで歌をつくってみました。〜
12.サマラブ超特急
13.そうだ、僕らは
14.LOVE TRIP
15.君のせい

En1. マイクロフォン
En2. BABY!


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the peggies ワンマン2018 人はそれを◯と呼ぶはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

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