レスリー・キー写真展『WE ARE LOVE
 photographed by LESLIE KEE』レポ
ート 銀座から発信される、ダイバー
シティと愛のかたち

今、東京・銀座のポーラ ミュージアム アネックスで、シンガポール出身の写真家、レスリー・キーの展覧会『WE ARE LOVE photographed by LESLIE KEE』が開催中だ。2018年11月23日(金・祝)〜12月24日(月・祝)の1ヵ月間という短い期間に約100点もの写真が公開されるこの展示は、レスリーが手掛けてきた2つのプロジェクトの集大成である。
「やさしさに包まれたなら」が裏テーマ
スカーフが表現するダイバーシティと愛のかたち

ポーラ ミュージアム アネックスの白い会場に足を踏み入れると、ファッショナブルな魅力を発する写真と、写真の中の人々が浮かべるいきいきとした表情に圧倒される。会場左側は、多様な国籍や人種、性別の夫婦・カップル・親子・姉妹・兄弟・友人などを写真に収めたSUPER LOVEシリーズ。個性や国際色の豊かなヌードはすべて美しく、180cm✕180cmの滑らかなスカーフに包まれている。レスリーによれば、このシリーズは、ユーミン(松任谷由実)の曲「やさしさに包まれたなら」が裏テーマだという。レスリーはユーミンの大ファンであり、中でも「やさしさに包まれたなら」がとりわけ好きなのだと語った。
色鮮やかで複雑な模様のスカーフは、さまざまな形で被写体のモデルたちに巻き付いており、互いを優しさで包み込んでいるようにも、絆をより強めているようにも、関係性を象徴しているようにも見える。写真を観る者はスカーフによって「モデルたちはどんな愛に包まれているのか」という疑問を持った後、「自分にとって愛のかたちは何か」という問いを持ち、それぞれの答えを導き出すだろう。
会場に入ってすぐ目につくかわらしい小型犬たちは、レスリーの大切な家族。だが、レスリーは最近、愛犬と死別してしまったとのこと。レスリーは、身近にいる者はいつの間にか当たり前の存在になってしまい、大切さを忘れてしまいがちだが、失って初めてその存在の大きさに気づいたと嘆く。しかしそんなレスリーの傍らで、写真の中の犬たちは落ち着きと理知に満ちた表情でこちらを見据えており、写真を撮っているレスリーとの間に築かれた揺るぎない情と信頼関係を示しているようだった。レスリーのポートレートは、被写体が誰であれ、いつもモデル自身の尊厳と撮影しているレスリーのパッションを鮮やかに示す。

LGBTカップルたちの幸福な姿
曇りない眼差しから見えてくる、さまざまな愛

会場右側は、100組以上のLGBTカップルのブライダルフォトを撮影したharMony SUPER LGBT WEDDINGプロジェクトの写真だ。「すべての愛は、うつくしい」というスローガンを掲げる本プロジェクトは、一般の人の応募によって開催されており、毎年代々木公園で行われている撮影風景の映像が会場に流れている。唯一無二の愛する人と共にいる喜びと、2人で写真を撮ることができる幸福に満ちた写真は、観ているこちらにも幸せな気分を分けてくれるようであり、また撮影者がモデルの2人に対し、深い理解と心からの祝福を送っていることが伝わってくる。
LGBTカップルにとってつらいことは、存在しないように見なされることや無視されることだ。そのため、彼らの家族や周りの友人がレスリーのように理解し、応援することが重要である。LGBTへの理解や受け入れが欧米諸国に比べて遅れており、同性カップルを目にすることも少ない日本においては、教育などの機会を設け、積極的に話題にする姿勢が必要だ。本展は、たくさんのLGBTカップルの写真によって、人間味溢れる魅力的な姿を知ることができる貴重な機会といえよう。

また、LGBTの人々の存在を知ることは、自分自身のセクシュアリティや立ち位置、ひいては生まれてきた意味を捉え直し、より深く知るきっかけになる。そして多様なあり方や価値観に触れることで、セクシュアリティや見た目やステータスで人を差別することはなくなり、強く生きる勇気を与えられるだろう。その意味で、強く美しいLGBTカップルを記録し伝える本展は、友人や家族や子供など、自分にとって大切な人と共に鑑賞して絆を深めるのにも適した内容でもあると思う。
本展開催に先立って行われたレセプションでは、レスリーが本展のために撮り下ろした新作のモデルとなったカップルが登場。スーパーモデルである女性は耳が聞こえないそうで、凛とした佇まいで辺りを払う気品があった。男性は映画監督で、まさにレスリーが重要視しているダイバーシティを体現するような2人だった。レスリーの写真の中で2人は、ダイナミックにたなびくスカーフに包まれながら、指でLGBTの「L」を形づくっている。会場でも2人はレスリーと共に「L」を示し、愛に満ちた会場でLGBTとダイバーシティへの協調を示した。
世界に拡大する愛 WE ARE LOVEの発信する力

本展のSUPER LOVEシリーズとharMony SUPER LGBT WEDDINGプロジェクトはひとつの空間に同居しており、中央の写真は透明のアクリル板によって展示されている。アクリル板はよく見ると7色のレインボーカラーであり、LGBTのシンボルを示している。こうした壁のない展示は、ポーラ ミュージアム アネックスでは初めての試みだとのことだ。
レスリーは誰に対しても分け隔てなく接し、積極的に話しかけ、相手の心をほぐして懐に入っていく。相手からレスポンスがあるか否かは気にせず、知らない人とも臆せず喋る。そのふるまいをレスリー自身は「それが縁だから」と語る。レスリーの写真が眩しいばかりの生命力に満ちているのは、レスリーがモデルの心の壁を取り払った上で撮影しているからだろう。レスリーのポジティブさは写真とモデルだけではなく、写真が展示されている空間、そして観る側にも伝播していくように思う。
レスリーは、今回の展示空間はパワースポットであるという。『WE ARE LOVE』の写真は壁のないポーラ ミュージアム アネックスの会場をパワーで満たし、また観た人々を通して愛の力をさまざまな場所に伝えていくはずだ。今年、写真家としてのキャリアの20周年を迎えるレスリー・キー。これからも写真によって愛を表現し、そして写真によって世界に愛を拡大させていくのだろう。愛を肌で感じられる、ライブ感溢れる本展を、どうかお見逃しなく。

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