コブクロが創る秀でた旋律と歌詞を、
路上の空気を損なうことなく構成した
『NAMELESS WORLD』

“THE コブクロ”と言える旋律

それでは、そのメロディーに関して若干記したい。これはもしかしてこの時期のコブクロを語る時にはご法度なのかもしれないのだが、決してディスっているわけでも何でもないので、そこをご配慮の上でお読みいただきたいのだけれども、『NAMELESS WORLD』収録曲の随所で日本人アーティストからの色濃い影響が感じられる。それが滲み出てしまって、隠し切れないと言った印象すらある。黒田作曲のM8「大樹の影」は音符への言葉の乗せ方が、彼が大ファンだという尾崎 豊っぽさを感じるし、字余りというか、言葉詰め込み型のM12「同じ窓から見てた空」は吉田拓郎、長渕 剛らから連なる日本フォークソングの系譜といった感じだ。小渕が手掛ける曲のサビで高音に突き抜ける感じは、これはもうどう考えてもMr.Childrenの桜井和寿の影響大だろう。黒田、小渕はともにミスチルのファンだというから、違和感もないほどにその旋律が歌唱されている。

だからと言って、何もコブクロがエピゴーネンなどと言うつもりはさらさらない。どんな優れたアーティストでも、その作品には何かしらの影響は残るものだ。音楽に限らず、アーティストと呼ばれる人たちは、模倣によりアートを理解し、その中から己の独自性を見出すのだと思う。突然、才能が降って沸くようなことはないと断言してもいい。

ミスチルだ尾崎だと指摘したが、無論それだけでなく、『NAMELESS WORLD』には、彼ら自らが確立した“THE コブクロ”がしっかりと刻まれている。それがM2「桜」とM4「ここにしか咲かない花」というシングル曲であることには意見を待たないのではないかと個人的には思う。サビで響かせる叙情的で劇的な旋律は誰も創り得なかったものであり、その圧倒的な自負もあったのだろう。メロディーに過度なサウンド装飾がないのがその証拠ではなかろうか。M2「桜」のアウトロは前述の通りだが、M4「ここにしか咲かない花」はサビの熱い歌唱からすると、その背後ではさぞかしアコギをジャンジャカとストロークするのだろうと思いきや、そうではないし、ギター以外の音も実はそれほど温度が高くはない。これはメロディー優先…いや、歌最優先の姿勢の表れと考えることができる。いずれにしても、先人の磁場から逃れ、彼らがビヨンドに到達していたことが分かるナンバーであることは間違いなく、今となってみれば、それまでの自身の売上記録を更新して、大ブレイクのきっかけとなったことも、“そりゃあ当然だよな”といった感じである。

OKMusic編集部

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