コブクロが創る秀でた旋律と歌詞を、
路上の空気を損なうことなく構成した
『NAMELESS WORLD』
メロディーと歌詞重視の音作り
何と言っても、M1「Flag」のイントロ前、M12「同じ窓から見てた空」のアウトロ後に配されたSEが印象的だ。街中のざわめき。足音。ハードケースからギターを出し入れする音。M1ではこれから路上で演奏が始まり、M12では演奏を終えて街から去っていくような作りで、コンセプトアルバム的な体裁だ。The Beatlesの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』が架空のバンドのショーを表現したのであれば、『NAMELESS WORLD』では架空のデュオではなく、あくまでもコブクロがそこまでやってきたことの象徴化といった感じだ。そして、そのM1「Flag」のイントロはアコギのストローク+ハーモニカ。1番のサビ終わりまではリズムレスで、アンサンブルもA’でハモりがあるだけ、と冒頭は路上スタイルを貫いている。
もちろん、全体的にはアコギ一辺倒ではなく、サウンドはバラエティー豊かではある。ブラスが入ったM5「待夢磨心-タイムマシン-」はさすがに派手で、間奏はビッグバンド風だったりする。M6「Pierrot」はオールドスクールなR&R。The Beatles、The Rolling Stones、The Who…といったロックの先達へのオマージュが感じられる。一方、M7「Saturday」はギターレスでピアノとベースだけのジャジーなサウンドメイク。かと思えば、M8「大樹の影」は三線入りのオキナワン。M11「LOVER'S SURF」ではディストーションの効いたエレキギターを全編に配した王道のJ-ROCKと、とても多彩な楽曲構成だ。
ただ、根底にあるものは、あくまでも言葉とメロディーであり、本来それを支えているのはアコギであることが分かる作りがなされている。分かりやすいのはM3「六等星 -NAMELESS STAR TRACK-」だろうか。この楽曲、リズムはドコドコとしたジャングルビートであり、ギターはオルタナを彷彿させるノイジーさで、ベースも忙しなく動く。そこだけとらえたら、1990年代のロックバンドっぽく思えるところだが、いずれの音もそれほど前に出ている感じがないのだ。イコライジングすればロックバンド然としたサウンドに聴こえるのかもしれないが、バンドサウンドが前に出過ぎないバランスがデフォルトであることは間違いない。
M2「桜」もそう。ピアノ、ストリングスが配されて、ドラマチックかつゴージャスな音作りではあるものの、アコギの音がそれらに拮抗するようなバランスで、決して埋もれないように配慮されていると思う。決定的なのはアウトロ近く(ていうかアウトロ)のブレイク。ハーモニーとアコギで締め括っているのは、この楽曲がストリートで生まれたことを強調する意味もあったのではと推測する。M12「同じ窓から見てた空」のアウトロも鍵盤と打楽器が若干聴こえるが、エレキや低音がないことから同じような意図があったような気がしなくもない。