【ライブレポート/インタビュー】澤
野弘之、初の上海単独公演で描いた色
鮮やかなる音世界

澤野弘之が、2018年12月6日に中国・上海で初の海外単独公演<澤野弘之 LIVE [nZk] in Shanghai>を開催した。
音楽は国境を越える。もはや使い古された言葉だが、今回上海で澤野のライブを観ていて、改めてこの言葉が真実であることを実感した。澤野の音楽は、国境を越え、海外の人々の心を震わせている。それは、ライブ中の観客の歓声の大きさや多数の手が振り上げられている光景のみならず、終演後に帰途に着くオーディエンスのたくさんの笑顔を見て、強く確信できたのだ。

この日、会場となった上海東方芸術センターは、ステージ後方と側面にも座席が設置されたクラシックコンサートホール。約2,000席のチケットは即日ソールドアウト。観客は上海のみならず、中国のほかの都市からも集まっていたという。現地時間の19時30分。ライブへの大きな期待感が会場を包み込む中、澤野にとっても、また現地の観客にとっても特別な公演の幕は、激しいシンセサウンドと明滅するライティングとともに開かれた。

オープニングを飾ったのは『青の祓魔師』のインスト曲「D + T」。サポートメンバーがステージに現れると、ダンサブルなサウンドをはじき出す。観客の興奮が徐々に高まっていくと、いよいよ澤野が登場。大きな歓声が上がる中、澤野は軽やかにピアノを奏でる。着席ではあったが、観客のほとんどはクラップや手を挙げるなどして、バンドの演奏に心地よく反応。冒頭からオーディエンスの熱量は高い。

2曲目は「The Reluctant Heroes」。『進撃の巨人』のリヴァイ兵長のテーマで、澤野の男性ボーカル曲の中でも特に人気のある曲の1つだ。ボーカルのmpiは、煽りを入れながら力強い歌声を聞かせる。メンバーは勢いを上げながら「Warcry」へ。グルーヴ感のあるサウンドで、会場のテンションをより高めていく。壮大なストリングスとヘヴィなギターリフが腹の奥底にまで響く「Hill Of Sorrow」では、青を基調にした照明でクールに魅せる。ロックシンガー然とした熱いパフォーマンスで、mpiはライブ序盤から観客の心をぐっと掴む。そんな彼の魂のこもったバトンを引き継いだAimee Blackschlegerは、疾走感のある「DOA」、叙情的なメロディを聞かせる「No differences」、ポップでUSロック感のある「Light your heart up」の3曲を表情豊かに歌い上げる。彼女の伸びやかな歌声は、このクラシックコンサートホールにマッチしていて、会場全体を包み込むように美しく響き渡っていた。
▲mpi
▲Aimee Blackschleger

ライブ中盤では、『終わりのセラフ』の主題歌「X.U.」、『機動戦士ガンダムUC』の挿入歌「EGO」、『Re:CREATORS』の第1期オープニングテーマ「gravityWall」、『機動戦士ガンダムUC RE:0096』のオープニングテーマ「Into the Sky」を一気に畳み掛けた。「X.U.」と「EGO」を担当したGemieは、力強さと繊細さが同居した歌声で大きな存在感を放ち、「Into the Sky」を歌唱したTielleはエモーショナルな旋律を説得力のある歌声で観客に届ける。2人の堂々としたパフォーマンスから、シンガーとしての成長が強く感じられた。
▲Gemie
▲Tielle

この日の公演には、日本での澤野のライブを手がけているサウンドチームとステージ制作チームも参加。上海の地でも、高い音楽性を放つ澤野のサウンドをステージ上で見事に再現していた。また、今回は大掛かりなステージ装飾はなかったが、色鮮やかなライティングがとにかく秀逸。ミュージシャンとシンガーのパフォーマンスを生々しくソリッドに魅せることに成功し、改めて澤野のバンドとシンガーの演奏力、表現力の高さを感じることができた。

ライブ本編は終盤に向けて、ギアを上げていく。歯切れのよいギターカッティングが楽曲をリードする澤野流“魔法少女”ナンバー「HERE I AM 」で、煌びやかなポップサウンドを響かせると、「ninelie」では澤野の真骨頂と言える壮大で幻想的な音世界を上海東方芸術センターに構築。「ninelie」は、イントロのピアノが奏でられた瞬間にこの日一番の大きな歓声が上がった。お台場の実物大ユニコーンガンダム立像のテーマソング「Cage」で、叙情的でスケール感のあるサウンドを放つと、本編の最後は『キルラキル』の挿入歌「Before my body is dry」を、Tielleが感情をたっぷりと込めて歌唱。音源ではDavid Whitakerによるラップパートを、この日はGemieが担当。彼女は、リリックを勢いよく重ねていく。この日本でも見たことがない予想外のボーカル編成に驚かされたが、「Before my body is dry」の新しいボーカルスタイルを提示する刺激的なパフォーマンスであった。
本編が終了すると、日本でもお馴染みの“野澤コール”によるアンコールが発生。上海にも[nZk]ライブのお約束が伝わっていることに思わずニンマリしていると、メンバーが再びステージに姿を現し、「Call your name」を披露。緩急のあるバンドサウンドに乗りながら、mpiが熱く、そして色気のある歌声を聞かせる。

“上海のみなさん、素敵です。大好きです。機会があれば、また会いたいです!”と澤野が語ったのち、最後に披露されたのは『Re:CREATORS』の第2期オープニングテーマ「sh0ut」。TielleとGemieはパワフルなシャウトを轟かせ、澤野を中心にしたバンドも濃密なサウンドを観客に届ける。

全出演者が揃ったカーテンコールが終わると、澤野だけが再びピアノのもとへ。音楽家・澤野弘之を天が祝福しているかのように白く輝く数本の閃光を受けながら、澤野はメドレー形式で「The Moment of Dreams」「LiVE/EViL」「GUNDAM」を、色彩豊かに奏でていく。観客は彼の美しい演奏から目を離すことはできない。中には感極まり、すすり泣く人の姿も。最後の1音が会場に放たれると、上海東方芸術センターには、2,000人全員の歓声と拍手が響き渡った。

“謝謝(シェイシェイ)、また会いましょう”という言葉と笑顔を残し、ステージをあとにする澤野。彼にとって初めての海外公演は、オーディエンスもミュージシャンも、そして澤野自身にとっても幸福感溢れる形で幕を下ろした。

澤野の次の海外公演はいつになるのか。そして、その時、彼は再びどのような美しい情景をステージ上に描いてくれるのか。この上海の夜は、国境を越える澤野弘之の音楽の力の強さを実感させ、彼の今後の海外活動への期待感を高めてくれるものであった。
取材・文:鈴木健也(BARKS編集部)
撮影:西槇太一

<澤野弘之 LIVE [nZk] in Shanghai>
セットリスト

2018年12月6日
上海東方芸術センター

M01 D + T
M02 The Reluctant Heroes
M03 Warcry
MC
M04 Hill Of Sorrow
M05 DOA
M06 No differences
MC
M07 Light your heart up
M08 X.U.
M09 EGO
M10 gravityWall
M11 Into the Sky
MC
M12 Amazing Trees
M13 friends
M14 Wild War Dance
M15 Release My Soul
M16 Battle Scars
M17 HERE I AM
MC
M18 ninelie
M19 Cage
M20 Before my body is dry

EN1 Call your name
EN2 sh0ut

EN3 Piano Solo(「The Moment of Dreams」「LiVE/EViL」「GUNDAM」)
上海のファンを熱狂させたライブを終えたばかりの澤野弘之をバックステージでキャッチ。初の海外公演への想いや、この日のステージの感想、さらに将来の海外活動に関する考えを語ってもらった。

■新鮮に感じる景色があると、テンションが高まるし
■またライブをやろうって気持ちになります

――ステージに立つ前、上海でのライブに対してどういう想いを持っていましたか?

澤野:ファンの人がいるというお話は聞いていましたけど、実際にやるまでは、お客さんがどういう反応をするのか正直わからないところがありました。でも、ライブが始まった時の歓声を聞いた時に、初めて自分の音楽を聴いてくれている方たちがここに集まってくれているんだなって思って。そして、何よりも上海の方たちが温かくて、ライブをやっていて本当に楽しかったです。

――今回のライブを経て、上海という土地は、澤野さんにとって重要な場所になりましたね。

澤野:そうですね。ライブとは関係ないのですが、上海の近未来感のある街に惹かれました。『ブレードランナー』とか『攻殻機動隊』のようなサイバーな感じがしたんですよ。車で移動している間にビルとかを見ていて、テンションが上がっているのを実感して。自分って、ああいうものに興味があって、すごく刺激を受けるんでしょうね。だから、よく考えてみると、東京の景色も好きなんですよね。上海はもっと奇抜なデザインのビルもあって、日本の都市とも少し違っていて面白いなって思いました。中国は華やかな色合いを使うイメージもあって、そのあたりのセンスも面白いですね。

――今回のライブ会場もリニューアルされたばかりでモダンな感じでしたよね。クラシックコンサートホールというのも独特でしたし。

澤野:そうですね。ステージの後ろにもお客さんがいるのは初めての経験でしたし、どこを見てもお客さんがいるのはすごく新鮮でした。いろんな意味でやりやすく楽しかったです。

――個人的には、鮮やかな照明も印象的でした。

澤野:今回は、日本でも僕のライブを手がけてくれているいつものチームが来てくれたので、日本でやっている形のまま見せてくれたのだと思います。ただ、演奏をしていて、いつもとは違う色の感じはしていましたね。

――今回、思い出深かった曲は?

澤野:TielleさんとGemieさんに普段歌ってもらっていないサウンドトラックの曲を歌ってもらったりしたので、その辺の反応がどうなるかな?って思っていたんです。でも、よい反応があってありがたかったですね。

――確かに「ninelie」の時の歓声は大きかったですね。

澤野:「ninelie」はイントロが始まった瞬間から反響が大きくて嬉しかったですね。

――あと、「Before my body is dry」でのGemieさんのラップには驚きました。

澤野:僕もリハから女性ラップいいなって思っていたので、あの2人でやる感じも面白いと思っていて。日本でもやってみたいと思いました。

――次の上海での公演も楽しみにしています。

澤野:そうですね。実際に来る前は、どれくらいの方が自分の音楽を聴いてくれているのか不安があったんです。確かにスタンティングではないということもありましたが、手拍子をしてくれたり、曲が終わったあとの歓声とかで温かく迎えてもらえたことがわかって、そこは本当に嬉しかったです。個人的には、また機会があるんだったら来たいなって思っています。日本、海外問わず、ライブは毎回お客さんの反応だなって思っていて。以前Zepp DiverCityで2日間やった時に、2日目の「Barricades」で、お客さんがみんな一緒に歌ってくれたことをすごく新鮮に感じたんですよ。そういう新鮮に感じる景色があると、自分のテンションが高まりますし、またやろうって気持ちになります。今日の上海の方たちの反応は、日本の方たちとはまた違うものだったので、またみなさんが興味を持ってくれるのであれば、やってみたいなって思っています。

――その日が近い将来に訪れることを期待しています。

澤野:そうですね。でも、また飛行機に乗らなくちゃいけない。まあ、そこはもう諦めました(笑)。場所によってお客さんの反応が違うことがわかったので、ほかの国も見てみたいなと。徐々に徐々にですけど(笑)。

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