しりあがり寿も登壇の『バッドアート
美術館展』レポート 名作か迷作か?
 全110点が日本初公開!

米国・ボストンに存在する、バッドアート美術館(通称MOBA)。その名の通り、ひどすぎて目をそらせない絵画を国内外から収集し保存展示する、風変わりな施設だ。作品の収集方法は、主にガレージセールや中古のリサイクルショップ、時にはゴミ捨て場から救出されることもあるそうだ。さらに、アーティスト自身による寄贈や、作品の所有者から寄贈されることも。
右:《ロダンの虹》
左:《ジョージとトイレの日曜日》

そんな、選りすぐりのバッドアートが日本に集う展覧会『バッドアート美術館展』(会期:〜2019年1月14日)が、Gallery AaMoにて開幕した。本展では、肖像画ならぬ「笑像画」をはじめとして、風景画、動物画、宗教画など、様々なカテゴリーに分けられた絵画110点が紹介されている。
会場エントランス
本展覧会のスペシャルサポーターには、漫画家のしりあがり寿が就任。会場には、しりあがりによるツッコミコメントが散りばめられている。日本では最初で最後の機会になるかもしれない、ユーモアあふれる作品がそろう会場より、見どころをレポートしよう。
左:《青いタンゴ》
左から:しりあがり寿、ルイーズ・ライリー・サッコ(バッドアート美術館館長)、マイケル・フランク(バッドアート美術館キュレーター)

何かがオカシイ……なのに目が離せない! バッドアートの魔力
MOBAは、1994年にスコット・ウィルソンという美術商がゴミの中から1枚の絵画を発見したことにはじまる。当初は、額縁だけを売る目的で作品を持ち帰ったが、スコットの友人ジェリーがそれを見つけて、捨てるにはもったいない駄作なので保管しようと提案し、自宅の壁に飾ることに。それ以降、仲間内からジェリーの元にバッドアートが届けられるようになり、ボストンにある映画館の地下スペースを利用して、コレクションを展示するようになったそうだ。
《マン・イン・ザ・ミラー?》
バッドアートの選抜条件は、作者が誠実な思いで一生懸命制作したものであること。ところが、制作過程で何かがうまくいっていない状況になり、残念な結果になってしまっていること。それが最終的に味わいのある魅力を持っていることなどが必須項目。作品が名作なのか、あるいは迷作であるのかは、鑑賞者自身の感性にゆだねられている。
《チャーリーとシーバ》
本展では、MOBAの学芸員が作成したユニークな解説にも注目したい。想像力豊かな作品解釈や個性的なタイトルは、作者のセンスに引けを取っていない。
左:《決意のオーラ》
ユーモア溢れるキャプションにも注目

オープニングセレモニーでは、世界初公開となるバッドアート作品のお披露目も行われた。2018年9月にコレクションに加わった最新作《天国への階段(ゲイブとリズ)》に対して、バッドアート美術館キュレーターのマイケル・フランクは「歩き疲れたカップルが工事中の階段を登って、落命する直前に撮った記念写真」と解説。
《天国への階段 ゲイブとリズ》
ポートレートから静物画、ヌード、宗教画まで!
本展は、肖像画、風景画、動物画など様々なセクションに分かれて構成されている。
左:《空中浮遊する花瓶》
聖母子像

冒頭の肖像画ならぬ「笑像画」を扱う章に展示されている《マナリザ》。
右:《マナリザ》
世界的に有名な肖像画《モナ・リザ》によく似た作品であるが、マイケル氏は、「これを見たときになんだかモナリザというよりも、女装した男性のように見えたので、MAN(男)という字を入れて、《MANA LISA》というタイトルをつけた」と説明する。さらに、本作はアーティスト自身による寄贈作品とのこと。作者自らがバッドアート美術館に作品を持ち込んだことについて、マイケルは以下のようなエピソードを語った。
「アーティストが本作を最初に描いた時は、とてもうまくできたと思っていたらしく、かなり気に入って自分の家に展示していたところ、遊びに来た友人たちに絵を見て笑われた。自分が思っていたよりも、そんなにうまく描けていなかったのかもと思って、MOBAに寄贈することに決めたようです」
漫画家のしりあがり寿がオススメする《沼ピクニック》は、「ありそうにない風景画・静物画」のセクションにて展示中。
《沼ピクニック》
マイケルは、「ちょっとSFっぽいというか、未来の地球温暖化が進行した世界で、カップルがおそろいのスーツを着ている様子が描かれている」と解説。しりあがり寿は、「すごいテクニックだし構図もバッチリ決まっているのに、着ている服が変なカエルみたいなことになっている。なんでああなっちゃったんだろう」と首を傾げた。
「バッドアート動物園」のセクションでは、味のある表情をした動物画が多数紹介されている。
右:《パグのロナンくん》
上:《死んだ魚》下:《マリノフカ(コマドリ)》

《UN POISSON MORT(アン・ポワソン・モール)》は、フランス語で死んだ魚を意味する。本作について、「英語よりもフランス語の方がなんとなく重要っぽい感じがするから、フランス語にしました」とマイケル。
続く「ドッペルゲン画ー」のセクションにて、米国の人気歌手ライザ・ミネリを描いた《あらお久しぶり》は、作品の出来栄えが気に入らず、作者が倉庫の中に放置していた一品。
《あらお久しぶり》
この作品の特徴について、マイケルは「長らく放置された結果、ちょうど胸の谷間のところにカビが生えてしまったので、まるでライザ・ミネリに胸毛が生えてしまったように見えるところ」とコメント。
ほかにも、スポーツのルールが根本的に破られている「バッドアート運動会」や、聖母マリアやイエスキリストを描いた「溢れ出る宗教観」など、それぞれのセクションで強烈な個性を放つ作品を見ることができる。
左:《セーフ》
右:《スピリット・イン・ザ・スカイ》

しりあがり寿「人間こそがバッドアートの代表」
本展の見どころとして、スペシャルサポーターに就任したしりあがり寿による、ツッコミコメントやイラストの数々も見逃せない。
右:《高貴なまさぐり》
中央:《アニーの秘密》

「僕のつけたコメントに惑わされずに、みなさん自由に突っ込んでもらって、楽しんでいただければ」と話すしりあがり寿は、バッドアートの魅力について以下のように語った。
「出来の悪い子はかわいいというように、会場にある作品はすべてかわいいんですけど、全部やばいオーラが出ている。情熱を持って描こうとしていたのに、道に迷っちゃった作品って、だいたいこの世界のほとんどがそうですよね。みんな道に迷っていると思うし、僕も迷っています。人間こそがバッドアートの代表じゃないですかね。そう思うと、実は深い展覧会なんじゃないかな」
漫画家のしりあがり寿
さらに、自身の活動とバッドアートの共通点について司会者に問われると、「僕も70年代末から日本で流行した『下手ウマ』というところから出てきて、下手を売りしていたんですけども、そんな自分が海の向こうの仲間と出会えた気がしてうれしいです」と笑顔を見せた。
展覧会オリジナルグッズ
会期中はすべての作品が撮影可能とのことなので、お気に入りの作品にツッコミや解説をつけてSNSで紹介するのも面白そうだ。『バッドアート美術館展』は2019年1月14日まで。

アーティスト

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