山寺宏一・水島裕らによる英国超人気
コメディ再演、ラフィングライブ第四
回公演「パパ、アイ・ラブ・ユー!」
開幕レポート

山寺宏一と水島裕、演出家の野坂実の3人によるユニット・ラフィングライブの舞台「パパ、アイ・ラブ・ユー!」が2018年11月29日(木)に東京・三越劇場にて開幕した。
本作は、クリスマス直前の病院で起こる大混乱の物語。2015年にラフィングライブ旗揚げ公演として上演され人気を博し、待望の声を受けて前回よりさらにパワーアップした再演が実現した。
作者のレイ・クーニーは、1932年ロンドン生まれ。コメディ文化の水準が高い英国にあってNo.1人気笑劇作家だ。「パパ、アイ・ラブ・ユー!」はクーニーが得意とする、嘘が嘘を呼び、どんどん収集不可能になっていくスタイルのシチュエーション・コメディである。彼の笑いのテクニックがふんだんに盛り込まれている脚本からは、英国コメディの緻密さ、シニカルさが味わえる。そしてそれを、息もつかせないステージとして完成させたのは、俳優や演出家の手腕だ。
(撮影:河野桃子)

【あらすじ】
クリスマスが近づくロンドン。セント・アンドルーズ病院内はパーティの準備で浮き足立っている。外には雪が降っており、ひと足早いクリスマス気分に包まれている。そんな中、エリート医師デーヴィッド(山寺宏一)だけはクリスマスどころではない。数時間後に開かれる記念講演でスピーチをするので頭がいっぱい! 世界中の医師を前にしての、出世のかかった大舞台のために懸命にスピーチの暗記をしていた。するとそこに、18年前の愛人ジェーン(高垣彩陽)が現れ「実は私たちには息子がいて、その子が父を探しにこの病院の受付にいるの」と告白。これがバレたら出世も愛妻との生活も破綻する! ピンチ回避のためにデーヴィッドがとっさについた嘘が発端となり、嘘の上塗りを重ねるハメに。事態は悪い方へ、悪い方へとこじれていき、やがて病院を巻き込んでいく・・・。

幕開けから舞台に登場する山寺はかなりのハイテンション。畳み掛けるような台詞の応酬に「これはデーヴィッドがスピーチ前に緊張しているせいかな」と思っていると、そのままの勢いで2時間15分(15分は途中休憩)を駆け抜けるから驚きだ。いや、むしろ時間を追うごとに勢いを増していく。笑いと混乱の洗濯機に放り込まれた気分だ。
(撮影:KOUHEI OSHIRO
(撮影:河野桃子)
舞台となる医師談話室は医者以外立ち入り禁止だが、そこに愛人や患者、家族、なぜか警察官までやってきて大わらわ。嘘が新たな嘘を呼び、突然のトラブルたちにも見舞われ、七転八倒するデーヴィッド。山寺は舞台をところ狭しと駆け回り、次々襲いくるアクシデントに目まぐるしく百面相をし、奇声をあげたり平静を装ったり。終演後には2、3キロ痩せているのでは……?と思うほどの全力投球。デーヴィッドが必死になればなるほど、本人には不本意だろうけれどこちらは笑えてきてしまう。
(撮影:KOUHEI OSHIRO)
(撮影:KOUHEI OSHIRO)
デーヴィッドの嘘に巻き込まれる同僚のヒューバート(水島裕)が、また人が良さそうで愛着が湧いてくる。焦るデーヴィッドとちょっとトボけたヒューバードは、互いに勘違いしたり、思いやったり。助け合ったかと思えば、次の瞬間には相手の足を引っ張ったりする。そんな二人の関係を演じる山寺と水島は、息がピッタリ。
(撮影:KOUHEI OSHIRO)
デーヴィッドの愛妻ローズマリー(寿美菜子)と愛人ジェーン(高垣彩陽)ら、デーヴィッドをめぐる女性たちが素直で賢く、魅力的。おかげでデーヴィッドのダメっぷりが際立ち、それもまた笑いを誘う。
(撮影:KOUHEI OSHIRO)
(撮影:KOUHEI OSHIRO)
居合わせた警官(大塚明夫)は客観的に状況を把握しようとするも、混乱した現状では火に油を注ぐばかり。病院内の騒動にさらなる刺激的なスパイスを加えることに。
登場人物全員が個性的! 婦長(斉藤こず恵)、お調子者の医師(関智一)、ジェーンの息子(小日向星一)、患者(坂口候一)、理事長(斎藤志郎)……などなど、誰もが空気を読んだか読まずか個人の事情で勝手に喋り出すので、混乱が混乱を呼び、観客も含めてのてんやわんや。
(撮影:河野桃子)
(撮影:KOUHEI OSHIRO)
(撮影:河野桃子)
事態があまりにこじれてくるので、ほんの少しデーヴィッドが可哀想にもなるが、それもほんの少しだけ。そもそも嘘をついたデーヴィッドの自業自得なのだ。遠慮せず大いに笑って結構! それに、達者なエンターテイナーたちによる練られた舞台は、観客に対してオープンだ。心のままに反応していい空間が心地よい。
なによりテンポが大事な作品なので、台詞のタイミングやスピードはとても重要。稽古場にもお邪魔したが、誰にどう何を言うか、細かい打ち合わせと練習が繰り返されていた。そのうえで、怒涛の会話の応酬を繰り出すのは、声の技術ある声優の力だろう。余計な間を作らず、早口言葉のような台詞も明晰で、息を吸った次の瞬間には空気を変える。アップテンポなコメディに、声優の「声で表現する」強みが活かされている。声に加えて、動きもキレが良く、表情や仕草も大きいので、全体がとてもダイナミックに感じられる。
(撮影:KOUHEI OSHIRO)
ユニット名のラフィングライブには、「笑ってリラックスして元気になれる」という思いが込められている。その通り、出演者たちが客席に向かって扉を開いてくれているので、こちらも肩に力入れることなくリラックスできる。ロマンチックなクリスマスとは一味違う、笑顔溢れるクリスマスを一足先に味わえた。
取材・文/河野桃子

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