【インタビュー】沖野修也「KYOTO J
AZZ MASSIVE、KYOTO JAZZ SEXTET、D
J KAWASAKI、NAYUTAH……来年すべて
が繋がります」

沖野修也の周りがざわついている。DJとして、選曲家として、クリエイティブディレクターとして、さまざまな顔を持ち活躍中の沖野だが、EXTRA FREEDOMという、自身も所属するマネージメント会社の社長としての顔も持っている。そのEXTRA FREEDOMから先ごろNAYUTAHがデビュー、DJ KAWASAKIによる満を持したKAWASAKI RECORDSの立ち上げ、そして沖野率いるKYOTO JAZZ SEXTETがリミックス盤をリリース、さらには今年、実弟・好洋とのKTOYO JAZZ MASSIVEのライブも行われた……。そんな沖野修也に今、一体何が起こっているのか、早速聞いてみた。

■グルーヴがあって、実は歌詞もすごくいい
■NAYUTAHはそういう存在でありたい

──ここのところ、沖野さんの周りがざわついてますね。

沖野修也 いや、そうですか(笑)? 実は来年、僕は音楽生活30周年を迎えるんです。この一連の動きは、そこへ向けての序章だと思っていただければ。NAYUTAH、DJ KAWASAKl、SEXTETはレコードの日にリリースすることを決めてましたけど、 Local Talkから出たKYOTO JAZZ SEXTETのリミックスに関しては、突如舞い込んで来たイレギュラーなリリース。さらにKYOTO JAZZ MASSIVE名義でライブをやったのも来年に向けての布石だったり。仕掛けているものもあれば偶然出たものもあって、来年に向けて良い流れになっているとは思います。

──そんな中でNAYUTAHさんから伺います。なぜ作詞しようと思ったんですか?

沖野修也 KAWASAKIが彼女のプロデュースをしたいということで、聴いてみたらすごくよかった。最初は話題作りのために、例えば芥川賞作家のや大御所に作詞を頼もうとしました。ところがKAWASAKIが付けたタイトル「見知らぬ街(仮)」に僕がピン!と来ちゃった。その情景〜上京して来た女の子が渋谷の街を徘徊している……俺、書いた方が早いんちゃう?と(笑)。ちょうど今年パリに行ったとき、僕の前座が2時間、イギリスとフランスのDJで日本語のブギー/ディスコだけをかけてた。それがドッカンドッカン受けてたんですね。それを見て日本語で全然オッケーやんと思いました。

僕は日本の曲はもちろん好きですけど、DJでかける日本語ってむしろダサくて恥ずかしいと思ってたタイプ。昔は山下達郎、笠井紀美子、オリジナルラブ、90年代後半はUA、ACO、CHARAとか……渋谷THE ROOM(沖野がオーナーを務める老舗の“ギャザリング”スペース)でかけてましたけど、そういうムーブメントがなくなって、ここ最近のいわゆる“和モノブーム”には引いてた。昔やってたし、という思いもあって。でもパリに行ってガツンと食らって、今日本語やらなくていつやる?と思ったんです。僕がもともとボーカリストに歌を発注するときは、鼻歌を渡して、それに歌を乗せてもらうわけですが、KAWASAKIからメロディの譜割をもらって、そこに見知らぬ街から想起されるキーワードを当てはめていくと、あれよあれよという間にできちゃった。その間、ホントに15分くらい。友達から借りていた、阿久悠さんの戦略的作詞入門みたいな上下巻2冊も読まず(笑)。

──NAYUTAHさんにも伺ったのですが、英語も堪能な彼女で、沖野修也、DJ KAWASAKI、MUROと、海外へ十二分にアピールできる職人たちが集まったわけで……。

沖野修也 逆に日本語で海外にアピールしたい。ディミトリ・フロム・パリがNAYUTAHの「GIRL」を日本語詞だけどかける、みたいなことを狙ってます。彼は星野源とかもかけてますしね。実は日本語ですけど、パリにいる日本のブギー好きなDJがターゲットです。

──そこまで考えた枠組みがあった。

沖野修也 それをあえて言わない方がいいかと。ジャケットをはじめ、明らかにシティポップ風で、昔出てたヤツでしょ?と言いつつ、こういうインタビューの時に「いや、実はこういうストーリーがあって……」と。そういう背景も知らずに海外の人がかけてくれるとなおいい。だからパリで彼らが日本のブギーをかけてなかったら、僕は歌詞を書いてないかも。フランス人だけかもしれないけど、言語的に英語も、ポルトガル語も日本語もそんなに抵抗がないらしくて。パリの若い世代ってそうらしいです。この前も「これ、いけてるよなー」って話してたレコードが郷ひろみ(笑)。そういうグルーヴがあって、かつ実は歌詞もすごくいい、というのをNAYUTAHでできればと思ってます。

──今後も作詞家・沖野修也は活動を続ける予定?

沖野修也 そうですね。実際にNAYUTAH以外の人の歌詞も書こうかなと。音楽性は限定されますけど、SUCHMOSのような人たちもいるし、ディミトリが星野源をかけているくらいだから需要はあるかなと思って……誰も頼んでこないと思うけどね(笑)。

──そういうバックストーリーがあったんですね。

沖野修也 今は和モノ好きの間でNAYUTAHって誰?となっているし、店頭のリアクションもいいらしくて。それは歌詞というより曲がいいからだと思いますけど。パリで僕の前座をしてくれたDJにも渡したし、いつか「サダ・バハーがNAYUTAHかけてたよ!」みたいになったらいいですね。

■DJ KAWASAKIのプライドやアイデンティティは
■KAWASAKI RECORDSで確立される

──そのNAYUTAHさんをプロデュースしたDJ KAWASAKIですが、KAWASAKI RECORDSの相談を最初に受けたときはどういう気持ちでしたか?

沖野修也 やっとか、ですね。弟の好洋はESPECIAL RECORDSをやってるし、富永陽介はCHAMP RECORDSをやってる。なんでKAWASAKIはやらないかなーと思ってましたから。どちらかというとKAWASAKIはメジャーから出したい派だったから、そうなのかなと思ってた。今もメジャーで出すことをヤメたわけじゃないですけど、弟とか富永にもやれるんだから、もっと自分でやれば?と思ってたんです。ようやく重い腰を上げまして、「やっていいですか?」と言うから、「とりあえずお金は出すけど、収支は全部やらせるし、後のランニングコストは知らんで〜」的な(笑)。

で、彼もいろいろと葛藤はあったみたいで、自分につけられたイメージやレッテルと、今やりたいことの差に常に悩んできて、いまだに“イケメンの貴公子”、“ピアノハウスの人”みたいに言われてるから。そうじゃない自分を表現するためにも自分のレーベルを始めて、「僕がやりたいのはこれです」ということをやるべきだと思う。メジャーのときは露出も多かったし、あそこまでの発信はできないし、イメージは変わらないかもしれないけど、本人のプライドやアイデンティティはこのレーベルで確立されるんじゃないかな、と思います。

──KAWASAKIさんが悩んでいた時期って長いようですが、沖野さんは気づいてましたか?

沖野修也 もちろん。僕はブギーっぽいのって「STILL IN LOVE」くらいからやってた。あれは2011年、震災の前なんです。僕は当時既にジョーイ・ネグロ、ディミトリ・フロム・パリ、DJコン……彼らのような音楽性を完全に視野に入れたわけなんです。で、SEXTETを始めたときに、KAWASAKIにそこを譲ったつもりだった。そこをやんなよ、と。だけどKAWASAKIは当時MAKOTOくんとコラボをしてて、その二人のユニットはテッキーな方向性だった。そのチームは解消したわけじゃなくて、MAKOTOくんがロンドンに移住したっていうのが関係してて、KAWASAKIが何もかも一人でやるっていうときにどういう音楽性を確立するのか……そこに直面した。彼なりに変遷がある中で今一番やりたいことにようやくたどり着いた。いろいろなヒントをあげつつも、僕は待っていた、と言えるかもしれませんね。僕の『DESTINY Replayed by ROOT SOUL』が出て、DJ KAWASAKIエディットとかもやらせてるから……ヒントをあげつつ、時に手綱を引っ張りつつ、時に手綱を緩めて(笑)。

──それもあって沖野さんとしては「ようやくか……」?

沖野修也 そうだし、彼に合っていると思う。7インチだけでDJしたり、本人はブギー/ディスコを過去作品の中に入れてるしね。来るべくしてきた場所ではあるんですけど、そこまで本当にいいかというのは確かめていた5年でもあるんじゃないかな。シーンの動向とか、彼もヨーロッパに行って自分のプレイで何が反応いいかとか、いろいろな経験があった。ヨーロッパのフェスに出たのは大きかったですね。そのときにDJ KONも出てたけど、ディスコやリエディットものでガンガン盛り上がってたから。

日本だと歌もののソウルフルハウスとかディスコとか、そういうシーンがないですよね? どちらかというと、ディープハウス〜テクノが人気。ディミトリ・フロム・パリ、サダ・バハー、セオ・パリッシュが来たら行くけど……って感じでしょう? でもヨーロッパに行っていろんな人のプレイを見て、自分もプレイをして、これはいけるなという手応えがあったんじゃないかな。

──KAWASAKIさんのインタビューからは並々ならぬ意気込みを感じました。

沖野修也 ホントにそう。もちろんEXTRA FREEDOMというマネージメントオフィスがあって、今もメジャーから出そうと思えば出せる環境ではあります。でも海外のアーティストってみんな自分でやってるんですよね。彼らの逞しさにもインスパイアされたんじゃないかなぁ。自分の好きなアーティスト、しかも10〜20歳くらい年下のアーティストたちが「オレ、レーベルやってるんです」と。メジャーよりもひとりでやって、アナログカットしている方が逆にイケてる。シングルのリリースが溜まってきたら、コンピ盤をメジャーで出す可能性はありますが、それまではアナログ盤と配信で構わないと思う。

──KAWASAKI RECORDSに注目したいと思います。

沖野修也 バージョン違いやエディットものだけですでに10タイトルくらい控えてますからね。毎月出さないとあかんとちゃうん(笑)? それだけKAWASAKIのモチベーションが高いんです。7インチが売れて儲かるとは思ってないですが、アクティブに活動をしてるというイメージを出してもらいたい。
MASSIVEとSEXTETは背景が全く違うし
■楽器やリズム、BPMで差別化を測る

──それに続いてKYOTO JAZZ SEXTETの動きが気になります。

沖野修也 来年はKYOTO JAZZ MASSIVEもKYOTO JAZZ SEXTETも出したい。KYOTO JAZZ MASSIVEはライブもやったので、そのときにやった曲をアルバムにしようと思っています。KYOTO JAZZ SEXTETに関して今考えているのは、アルバムタイトルが『KYOTO』。掛け軸に京都って書いてあって、生け花がトランペットみたいなイメージ。和ジャズにしたいんです。琴など使いつつも、70年代の日本人ジャズマンたちがやったジャズと邦楽との融合ではなく、BRAINFEEDERなどを視野に入れつつ、このベースラインはジャズにないよね、とか琴だけどシンセのシーケンスでもいいじゃんみたいな。京都というタイトルでありながら洗練された音楽、しかもジャズにしたい。

ファーストアルバムはブルノートのカバー、セカンドはスピリチュアル・ジャズのエッセンスを入れてトモキ・サンダースをフィーチャーしました。3枚目はタイトルを京都にして、曲ごとに「哲学の道」「龍安寺の石庭」みたいなタイトルにして“京都のサウンドトラック”のようにしたい。でも伝統音楽としての邦楽風な作品にはしたくないんです。

──KYOTO JAZZ MASSIVEとKYOTO JAZZ SEXTETとの住み分けってどうなりますか?

沖野修也 実はKYOTO JAZZ MASSIVEもバンド化しようと思ってるんです。そうなるとどちらもバンドになってどこで差別化を測るのか? まずは楽器。KYOTO JAZZ SEXTETはウッドベースに生ピアノ、KYOTO JAZZ MASSIVEはシンセサイザーとかFENDER ROHDES。サウンド的にもKYOTO JAZZ SEXTETはジャズ、ビートミュージック、生音のドラムンベース。KYOTO JAZZ MASSIVEはハウス、ブロークンビーツ、テクノ。ブレンドしている背景が全く違うので、リズムのバリエーションやBPMで差別化を測ろうと思っています。それに起用するボーカリストも違うし、KJMはよりダンスに特化していくし、SEXTETはよりリスニングになっていくと思う。

──パッとハービー・ハンコックが頭に浮かんだのですが……ジャズのときがSEXTETで、フュージョンのときがKJM。

沖野修也 まさにそうですね。それを2019年にやります。
──最後にROOMを含めた沖野修也率いるマネージメントオフィス“EXTRA FREEDOM”についてお伺いしたいのですが。沖野さんのシンパ、グループがあります。例えばROOMに行くと佐藤強志、富永陽介、OIBON、DJ KAWASAKI、それに今回NAYUTAHが加わりました。その集団は揺るぎない存在だと思いますが。そういう集団はどのように形成してきたと思われますか?

沖野修也 それは僕も不思議なんです。これだけ放任してて、よく付いて来るなと。その放任がいいのかも、信用してるってことだし。

──沖野さんがそれぞれのスタッフを信用している。

沖野修也 うん。色々不満はあるけど、恫喝もしないし。普通はこんな職場ないですよ。

──例えばKAWASAKIさんが独り立ちをしてDJとしてやっていくとき、「僕はもう沖野組じゃないんで」と言ってもよさそうな……。

沖野修也 放置してるんですけどね(笑)。ただ放置はしつつもちゃんと責任は取るからなのかな。店が赤字だったら埋めるし、KAWASAKIがダメになった時も面倒見るし──ダメになってないけど(笑)。

──みなさん、居心地がいいんでしょうか?

沖野修也 人間、究極的に言ったら好きじゃないと続かない。僕のことは好きかどうかは別としても、EXTRA FREEDOMという音楽好きがいて、その音楽好きが好きなお客さんもいて……小さく始めるんだけど、世界にも発信してて、常にクリエイティブな環境。他のクラブってアーティストを育てませんよね? THE ROOMって、大沢(伸一)くん、MONDAY満ちる、birdを含め、THE ROOMの卒業生がいる、いわば大学のような集まりなのかな。大沢くんは卒業生だけど、今もTHE ROOMを気にかけてくれているし、そういう家族とも違う“母校愛”的な(笑)。EXTRA FREEDOMという集団に属している誇りと安心と、なのかな。実はお金のこともシンプルで、副業OKな職場で自由契約だから、組織と組織でないファジーな感じを、僕がうまくマネージメントに取り入れている。例えば現時点ではNAYUTAHのデビューにしても勝手に動いたらアカンってことはなくて、他に仕事があったら報告してね、と。搾取されてない感、じゃない?

──EXTRA FREEDOMみたい団体って他にないですよね。

沖野修也 ないですね。

──あの集まり感はなんなのか。

沖野修也 言われてみると結構謎ですね(笑)。僕がマネージャー出身ということもあるかもれない。マネージャーとアーティストの両方の良さ、悪さを分かっている。だから仮にアーティストが邪な心を抱いたとしても、実は僕の手のひらで囲っている(笑)。自由なのに安心感も得られる組織って存在しないと思う。

──NAYUTAHさんが入って、今後アーティストを増やしていこうという方針はありますか?

沖野修也 海外アーティストの日本限定のマネージメントのオファーはすごく多いんですが、お断りしてます。期待値が大きすぎて。「修也と組んだら日本のビジネスが膨らむかも〜」って。でもあまりにも多いし、誰かと組んだら次は私ってなるから全部お断りなんです。サポートはするけど、EXTRA FREEDOMにもうアーティスト枠はないんだと。自分でやりなさいというところがあるんですよね。例えば僕でさえ個人マネージャーがいない。僕がいないんだからDJ KAWASAKIにマネージャー?100年早いよ、と(笑)。海外はそんなの普通ですからね。

そういうのを全部できないと、これから生き残っていけないと思うんです。セルフマネージメント、セルフプロデュース、セルフブランディング……残酷ですけど。おしゃれじゃない時点でアウト、オシャレが普通。スーパースターは別ですけど、僕らくらいのミドルクラス……そこにも達しないかもしれないけど(笑)、アンダーグラウンドなクリエイターはそれが常識です。という僕の考え方が基本にあるから、EXTRA FREEDOMではセルフマネージメントしなさいね、ということなんです。佐藤は店長だけどDJに関することは個人でやってますし、富永なんかはTHE ROOMに籍を置いているものの、CHAMP RECORDSとして個人オーナー。だから……社員にしてないのがいいのかな、みんなDIYというか自分でなんとかしなきゃいけないスピリットはある。

──EXTRA FREEDOMというかTHE ROOMなのかな、他にはない集団だとここのところ特に感じていて、NAYUTAH、DJ KAWASAKI、KYOTO JAZZ SEXTETと、この連投は他の人だったらなんの脈絡もないリリースに思えますが、THE ROOMという存在があって初めて成立する、つまり沖野修也あってこそ、そう思います。

沖野修也 ですね。EXTRA FREEDOMというくくりで見ると普通ですよね。レコード会社で、和モノとブギーとジャズのリリースあったら、断りますね(笑)。それに僕の中では、来年の30周年もあるし、NAYUTAHのデビューもあるし、KAWASAKIのアルバム、先が見えているからだと思います。一見めちゃくちゃに見えるリリースもそれらの序章なんです。あれはこういうストーリー、これはこういうストーリー、来年に向けてビジョンがあるから成立してるんです。KYOTO JAZZ MASSIVE、KYOTO JAZZ SEXTET、DJ KAWASAKI、NAYUTAH……来年すべてが繋がります。なるほどEXTRA FREEDOMってこういうことなんだ、と。すべて僕の妄想なんだけど、その妄想を因数分解して仕掛けていってますから(笑)。

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