Tahiti 80にインタビュー。「サンシ
ャイン・ビート」が詰まった約4年ぶ
りのニュー・アルバムに込めた思いと

日本でも高い人気を誇るフランスのバンド、Tahiti 80の約4年ぶりとなるオリジナル・フル・アルバム『ザ・サンシャイン・ビート vol.1(the sunsh!ne beat vol.1)』がリリースされ、その翌週には来日公演が行われた。最新アルバムからの楽曲が多数披露された東京公演では、フロントマンのグザヴィエ・ボワイエが全てのファンとアイコンタクトをするかのように一人一人の顔をしっかりと見ながら歌っていた姿が印象的だった。来日公演について、また新作にはどのような思いを込めたのか、グザヴィエに訊くことができた。

――今回の来日公演はいかがでしたか?
特別な時間を過ごすことができたよ。前回Tahiti 80で日本公演を行ったのは『パズル』をリイシューした時だったから、久々に新曲を披露することが出来て本当にエキサイティングだった。ニュー・アルバムのツアーはまだ始まったばかりだけど、何箇所かでのライヴを経て、大阪と東京ではとても良い状態でライヴを行うことができたと思う。来てくれたみなさんも楽しんでくれたのではないかな。
――観客のみなさん全員が笑顔で、ステージ上で演奏しているみなさんも、とても楽しそうでした。
長年応援してくれているファンにまた会うことが出来て嬉しかったよ。大勢の家族と再会したような気分だった。彼らは、僕たちのこれまでの楽曲に反応してくれるだけでなく、新曲をプレイしても、まるで前から知っている曲かのように盛り上がってくれる。ニュー・アルバムは、楽観的でアップテンポで、Tahiti 80らしいけどちょっとしたひねりを加えた作品。最初から最後まで踊って、楽しんでもらいたいと思いながら演奏していたよ。
――とても楽しいライヴでした! もう一度このツアーで日本に来ていただきたいです。
そうだね! これらの曲を、大きな野外音楽フェスなどでも披露できたら良いよね。いや、是非やりたいと思っているよ。
グザヴィエ・ボワイエ
――楽しみにしていますね! さて、ニュー・アルバムのタイトルには「ビート」という言葉が入っています。「ビート」はTahiti 80の音楽の特徴的な要素のひとつでもあると思いますが、今回タイトルに含めた経緯を教えていただけますか?
アルバムを作るときは、毎回色々な違った方法を見つけようとしているのだけど、今回は自分が好きな60年代の音楽からドラムをサンプリングしようと考えた。最終的には全て違うものに変えたので使わなかったけど、最初はメロディーもちょっとサンプリングしていたんだ。今回は、このように好きなビートをサンプリングして、ジャム・セッションをするという方法で曲を作っていった。ある日、どんな音楽を作っているのか聞かれたときに、「サンシャイン・ポップとビッグ・ビートをミックスしたようなサウンドだよ」と答えたんだ。その時に、これは使えるかもしれないと思った。「ビッグ・ポップ」だと響きがあまり良くないけど、「サンシャイン・ビート」は良いネーミングだなって。これまでも僕たちは「サンシャイン・ビート」のような音楽をやっていたと思うんだ。君が言うように、ビートには重点を置いていたからね。良いグルーヴが生まれると人は反応してくれるし、そこに良いメロディーが乗れば脳も反応してくれる。まさにそれがこのアルバムで成し遂げたかったこと。スタジオの中で、その曲や曲のビート、ベースラインなどが「サンシャイン・ビート」であるかどうかをメンバーと確認しながら作り上げていったんだ。
――どの曲もビートや曲の雰囲気が違い、最初から最後までワクワクしながらアルバムを聴きました。
複数のバンドの曲が入っているわけではないけれど、実は、色々なシングル曲をコンパイルしたような作品にしたいというイメージもあったんだ。アルバム全体を通してのストーリーや繋がりがあるような作品ではなく、リンクするのはそれぞれの曲が持つエネルギー。コンピレーション・アルバムという意味も込めて、タイトルには「vol.1」とつけた。これまでの作品は、コンセプト・アルバムではなくても、「始まり」と「終わり」があるような作品だったので、今回はこれまでに作ったことがないタイプの作品を作ることができたよ。
――先程もアルバムを作るときは毎回色々な違った方法を探すとおっしゃっていました。やはり、作品ごとの変化や進化をすごく意識して制作されているのですね。
『ボールルーム』は、「Crush!」や「Coldest Summer」などを除くと、少しダークで内省的なアルバムだったと思う。なので、アルバムのジャケットも黒がベースになっていた。でも、今回はジャケットに黄色やピンク色を使い、キウイも使っていて、真逆のイメージとも言えるよね。毎回、アルバムを作り始めるときは、前作と異なるものを作ろうと色々考えているよ。
――アルバムのジャケットとサウンドがぴったりですよね。ちなみに、キウイ以外のフルーツも候補に上がっていたのですか?
デザイナーが、(アルバムのタイトルにある)感嘆符を配したデザインのドラフトを送ってきたので、丸の部分をキウイに変えて送り返したら、なかなか良いねと言ってもらえて。ザ・ストーン・ローゼズのファースト・アルバムでレモンを使っているところからヒントを得たんだ。ポップ・ミュージックでキウイをジャケットに使用している人は少ないし、(音楽と)すごくマッチすると思った。ビタミン豊富でカラダにも良いからね。
――私たちを幸せにしてくれるフルーツですね。
まさに。スムージーも一緒に提供できればもっと良かったんだけど……(笑)。
グザヴィエ・ボワイエ
――さて、『ボールルーム』をリリースしたあとにソロ・アルバムをリリースされていますが、曲づくりの時期は分けていたのですか?
『ボールルーム』とソロ・アルバムはリンクしている部分があると思う。特にパーソナルな曲はソロ・アルバムの方に入っているかな。Tahiti 80のニュー・アルバムはソロの制作が終わったあとに作り始めたから別モードだね。Tahiti 80の新作を作るならば他のメンバーと一緒に作ることが重要だと思った。このアルバムの殆どはペドロとメデリックと僕の3人が中心となって作り上げたんだ。
――ジャム・セッションを行いながら曲を作っていったとおっしゃっていましたが、どのように作り上げられていったのですか? 完成させるのが大変だった曲はありましたか?
「Sound Museum」や「Let Me Be Your Story」はすんなりとグルーヴが生まれたけど、コーラス部分は何度かやり直した。「Natural Reaction」は、心の中で描いているイメージをなかなか具現化できなくて完成に数ヶ月かかったかな。ミックス作業を始める直前に全く違うアイディアが出てきたりしてね。「My Groove」はストレートな楽曲ですぐに出来上がった。スタジオの中ではキーを変えたり、色々なチューニングを試したり、実験的なことをしていたので、それぞれの曲を色々な方法でレコーディングしたよ。
――制作時に、インスピレーションを得たアーティストや楽曲はありますか?
参考にしたものがいくつあって、例えば「Let Me Be Your Story」では、KC&ザ・サンシャイン・バンドのように、ホーンを試してみようかって。「My Groove」は、スカンジナビアン・ポップスのフレイヴァーがあるし、「Hurts」はスパンダー・バレエと、彼らの「True」をサンプリングしたP.M.ドーンの雰囲気からアイディアを得たりもしたんだ。今回は、ちょっと◯◯風かなと思うことがあったとしても、もう既に充分自分たちの個性やパーソナリティーは出ていると思ったので、気にしないようにした。聴く人によっては「あの曲っぽいかも」と思うことがあるかもしれないけど、そうだとしたら、それはその人の音楽の趣味が良いということなんじゃないかな。
――今作では、アンディ・チェイスが共同プロデューサーとして参加していますが、どのような経緯でまた彼にお願いしようと思ったのですか?
メンバー内で意見が割れている時に決定してくれる人がいるというのは、やはり良いことだとリチャード・スウィフトと一緒にアルバムを作った時に思ったんだ。リチャードは、悲しいことに3ヶ月前に亡くなってしまって……。リチャードと仕事ができたのは素晴らしい経験だったし、このアルバムにまた誰かを迎え入れるのも良いかなと思った。音楽を通じて色々な人とコラボできるところも、音楽制作の醍醐味だと思うからね。『パズル』をリイシューしたときにアンディと連絡はとったし、元々アンディとはまめに連絡を取り合う仲の良い友達でもあるんだけど、彼は忙しい人でね。今回は、ヴォーカルのレコーディングをしてくれないか頼んだんだ。マイクのこととか、自分のヴォーカルをエディットすることも考えなくてはならないとなると、セッションの空気感が壊れてしまったりもするし、歌うことだけに集中することが出来ないからね。アンディは快諾してくれて、もともと1回だけ、10日間だけ来る予定が、結局4回くらい来てもらって、最終的にはニューヨークで彼とアルバムを仕上げたよ。『パズル』や『ウォールペイパー・フォー・ザ・ソウル』のプロデューサーでもあるからね。信頼できる友人に関わってもらいたいということもあり、アンディに頼んだ。あとは、僕のファースト・ソロ・アルバム(アックス・リヴァーボーイ『チュ・チュ・トゥ・タンゴ』)、Tahiti 80の『ウォールペイパー・フォー・ザ・ソウル』、『ザ・パスト、ザ・プレゼント&ザ・ポッシブル』にも参加してくれているトニー・ラッシュがミックスしてくれたんだ。今回は特にイメージが明確にあったので制作に少し時間がかかってしまったけど、自分たちが信頼している人たちにサポートしてもらえて本当に良かったと思っているよ。
――時間がかかったということですが、どれくらいかかったのですか?
1年以上はかかったね。ソロ・アルバムのリリースもあったし、曲がたくさん出来たのでデモを録って、選んでいる期間があり、アンディは2ヶ月ごとにフランスに戻ってきたから待っている時間は作業がストップしていた。あとは、7枚目のアルバムだし、これまでと同じことはやりたくないという思いもあったから、自分たちが納得のいくまで作業していたよ。間隔が4年空いたのはちょっと長かったけど、ソロ・アルバムをリリースしたり、ミニ・アルバムのリリースもあったので、結構忙しくしていたよ。
――どの曲にも思い入れがあると思いますが、特に好きな1曲を教えていただけますか?
「Hurts」かな……。他の曲よりダークでメランコリックな曲。元々ピアノで書き始めた時に、キャロル・キングっぽいなと思っていて。そのままピアノを弾きながら歌うのは自分もやったことがあるし、他の人もやっているので、ビートを変えてヒップホップのフレイヴァーを足してみたんだ。アンディがピッチを変えて、しっくりくるテンポに調節してくれた。ヴォーカル録りは日曜日の朝。前日にアルバムの最終セッションで深夜2〜3時くらいまで歌っていたので、ちょっと遅めの10時半〜11時くらいに起きてレコーディングした。実は、ポール・マッカートニーが『アビーロード』の「Oh! Darling」でちょっとしゃがれたような声で録音するために敢えて早朝にレコーディングしたということからインスピレーションを得ているんだ。歌詞がすごくパーソナルなのでその内容からか、疲れからなのか、曲に深く感情移入して歌うことができたし、実は自分のコンフォート・ゾーンから出ていたということもあって、すごくエモーショナルな時間だった。アルバムの曲はもちろん全曲好きだけどね。
グザヴィエ・ボワイエ
――最後に、今後の予定を教えていただけますか?
フランス、ヨーロッパを中心に年内は引き続きツアーを行って、「vol.2」もいつか作りたいけど、それとは別で来年の夏までには新しい何かを発表したいと思っている。あと、『パズル』がフランスでリリースされたのは1999年なので、来年は発売20周年。それを記念した何かもできればと思っているよ!
取材・撮影・文=岡村有里子

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