INTERVIEW / Seiho 「結局、自分がい
るところが帰る場所」――旅するSei
ho。その極意と哲学を訊いた

SHIBUYA TSUTYA内WIRED TOKYO1999にて、11月19日(月)までの期間限定で展開中の Airbnb Cafe(https://spincoaster.com/news/airbnb-cafe-at-wired-tokyo-1999-and-travel-music-night-supported-by-spincoaster) 。この企画と連動する形で、Spincoasterではツアーや制作などの遠征の宿泊先として、Airbnbを利用するアーティストへのインタビューを掲載中。水曜日のカンパネラ・コムアイに続く第2弾として登場したもらったのは、国内シーンでは異彩を放つプロデューサー/DJのSeiho。
Matthew David主宰の〈Leaving Records〉からのリリースや、USツアー、そしてLAのビート・ミュージック〜ヒップホップ・シーンにおける最重要イベント“Low End Theory”にも出演を果たすなど、グローバルな活躍をみせるSeiho。地元・大阪から東京、そして世界中へとフットワーク軽く飛び回る彼の、旅の哲学を訊いた。
Intervier & Text by Takazumi Hosaka
Photo by 横山マサト
Presented by Airbnb(https://www.airbnb.jp/)
――最近のSeihoさんはCMや映像のための音源制作も多いですよね。近況はいかがですか?
Seiho:外仕事多いですよね。でも、どちらかというと、今年の頭くらいに作業していたものが最近出始めたという感じで。今は自分の作品もがっつり制作していますし。
――昨年お話しした時は、キーワードのひとつとして「トランス」とおっしゃっていましたが、音楽的にはどういうムードに入っていますか?
Seiho:そうですね。何か、ムードに合わせた音楽が多すぎる気がしていて。ただ、「トランス」って言ってたのも、そういうことが関係していたんですよね。トランスってムードもクソもないじゃないですか(笑)。ムードを壊すというか、ムードがトランスに持っていかれるというか。不快じゃないけど、快適じゃない音楽、みたいな。
――なるほど。
Seiho:あと、最近はリスナーの認知をいかに歪ませられるか、っていうところに興味があって。Metomeくんと話していたことなんですけど、電子音楽って何でもできるじゃないですか。だから、PCからギターの音色が出てこようが、わけわかんないノイズ、優しいフルートの音色とか、何が出てきてももはや誰も驚かない。だってPCから流れてくるから。でも、ギター弾いた時にピアノの音色が出てきたら、たぶんみんなビックリするじゃないですか。そういう違和感みたいなものを、制限がないように思われる電子音楽の中で、どうやって作れるのかっていうことを考えていて。
――今の話だと視覚が重要な話ですが、録音物などではどうやって表現するのでしょうか?
Seiho:ちょうど今制作している作品で、そういうことにトライしているところなんです。ここ最近、そういう人間の認識に興味があるんですよね。場所や物体を、聴覚情報として伝えたり、その聴覚情報をコラージュしたり。そういうモノを作りたいんです。ちょっとまだ考えがまとまってない部分もあるんですけど、それは新作が出た時にでもじっくりと(笑)。
――はい、楽しみにしています(笑)。では、話は変わりますが今年の5月から行われた北米ツアーはいかがでしたか?
Seiho:USツアーは毎年やっていて、今年で5回目かな? 今回はカナダのバンクーバーに行ったんですけど、めちゃくちゃよかったですね。僕が行ったタイミングって、日照時間が長い季節で。朝9時くらいに起きるじゃないてすか、そしたら朝ごはん食べて、車で山や川に遊びに行ったり、そこでお弁当のサンドイッチとかを食べて。犬と遊んだりブラブラ散策して、帰ってきたら夕ご飯を食べて。ちょっと流行りのクラフトビールを飲みに行ったり。さらに夜の9時くらいから「夕日観に行こうか」ってなってスーパーでお酒やおつまみ買って海に行って、10時くらいに「あぁ沈んだね」みたいな(笑)。
――最高の旅行(笑)。
Seiho:ハハハ(笑)。当たり前なんですけど、時間の使い方がもう全然違うんですよ。単純に昼が長くなってるんで。でも、冬の季節はそれが逆転して、夜が長くなるんですよね。何かバンクーバーのアーティストには、そういう環境も大きく影響しているような気もしていて。コントラストがハッキリしているというか。夏はこんなに楽しそうにしてるのに、冬の話を聞くと「ずっと家にいる」って言ってたりするし、みんな大体そういう時期に作業しているみたいなんですよね。日本でいうと北海道に優れたクリエイターが多いのと似ているのかなって。雪もすごいし、寒いから家にいる。そこで作業する、みたいな。
――ちなみに、昨年のUSツアー直前(3月末)にもEP『Unreal』をリリースし、今年もUSツアー前に新曲「Tear Off The Dress」をリリースしています。これは偶然なのでしょうか? それとも何か意味が?
Seiho:確かに合わせてリリースしているけど、あんまり深くは考えていないですね(笑)。僕、誕生日が4月なんですけど、ちょうどそういうタイミングだったので、今年一年の総括とか、自分の中でのムードの切り替えみたいな意味はありますね。
――ツアー中にも制作をしているそうですが、何か特別な意図や狙いなどがあるのでしょうか?
Seiho:ツアー中、特に海外の場合は頭がバグってるんで、それを記憶しておきたいっていうのはありますね。例えば前日アメリカのクラブとかで遊んでて、「なるほど! こういうことか!」って思う瞬間があるんですよ。日本と違って向こうの人はめちゃくちゃ喋るんですけど、だからこそ低音が重要なんだな、とか。ずっと喋っているから、(人の話し声とバッティングする)中高音域はみんなさり気なくミキサーとかで削ってるんですよね。あとはアトランタとかで若い子たちと遊んでいた時に、ビートが一拍フィルで抜けるだけで全く踊らなくなる光景を見て、こんなにループに対してシビアなんやって思ったり。ツアー中はそういうのを忘れないように、スケッチする感覚で制作することが多いです。僕の場合は頭で作っているって思われることが多いんですけど、どちらかというと日記みたいなものをずっと作り続けていて。それを日本に帰ってきた時とかに聴き返して思い出したり。それを次の制作のヒントにしたりしています。
――ちなみに、SeihoさんはUSツアーの際にはエアビーを使用して宿泊することが多いそうですね。
Seiho:そうですね。そもそも、僕は日本でも2年間エアビーだけで暮らしていた時期もあるくらいで。たぶん、めっちゃ詳しいですよ(笑)。
最初はやはり費用が安いっていうのと、何か新しいサービスが出てきたなっていうことで、確か2015年くらいから使い始めました。アメリカとかの場合は結構こっちとテンションも違って、家に着いたらその近所の手書きの地図とかが置いてあったり、「キッチンの下を開けてごらん」っていう手紙があって、開けてみたらめっちゃお菓子が入ってて、「自由に食べていいよ」って書いてあったり。「めっちゃ嬉しい!」みたいな(笑)。
――特に印象深い宿泊先は?
Seiho:どこだろう……。何か、ホストと会わずに鍵の受け渡しをする場合もあるじゃないですか。隣の家のどこどこに鍵が置いてあるからそれを受け取って、返す時は駅の近くのコインランドリーに必ず座っているおばあちゃんがいるから、その人に渡してくれって説明された時とかがあって、「ドラクエみたいやな……」って思ったり(笑)。あとは広いところを比較的安価に借りられるのも嬉しいですよね。サンフランシスコの一軒家はヤバかったです。日本でも昔は地方遠征の時に使ったりしていたんですけど、ホストから「ミュージシャンやってんのか?」って言われて、実際に僕のライブにも来てくれたり。若い子がやっていることも多かったですしね。
――和風の、古民家のような物件にも滞在していましたよね?
Seiho:2〜3回くらい古民家みたいなとこに泊まったこともあるんですけど、そのうちの1回は奈良の廃旅館を住居に改造したようなところだったんで、毎晩めちゃくちゃ怖かったですね。心霊的な意味で(笑)。
――Sugar’s Campaignの2ndアルバム『ママゴト』の制作も、一軒家を貸りて合宿的に行っていましたよね。あれもエアビーですか?
Seiho:あー、そうですね。あれは横浜だったかな。僕がみんなに料理を振る舞ったりして、楽しかったですね。
――めちゃくちゃ利用していますね(笑)。
Seiho:たぶん50ヶ所くらいは行ってると思います。何かとにかく色々なところでエアビーを使っていて。たぶん、一時期はハマってたんだと思います。
――それは自分の家、住むところを固定したくないという思いがあったから?
Seiho:それもありますね。必要最低限の機材を持っていって、そこで制作するっていうスタイルができるようになってからは、フラっと福岡に行ったり、大阪に戻ったり、勢いで韓国行ったり。1〜2週間滞在することもザラでしたし。
――そんなSeihoさんの旅の必需品は?
Seiho:ダイソンのドライヤーと、PCや機材、MIDI鍵はOP-1か、ROLLIかYAMAHAのDXを持っていくことが多いですね。あとは行く先々で新しいシンセサイザーを使いこなすっていうルールを課すことも多くて。今、モジュラー・シンセが3ラックあるんですけど、そのうちのひとつを持っていったり。DigitaktっていうサンプラーやTetraっていうシンセサイザーだけを持っていったりすることもあります。とにかく、行った先では機材を限定したいんです。家では大体全部繋いであるけど、手癖で使っちゃったり、ルーティーンが決まってきちゃうので。
――なるほど。
Seiho:あと、キーボードが自分の右にある時、左にある時、目の前にある時でたぶん作る曲って変わると思ってて。模様替えとか旅行、つまり移動もそれと同じで、環境を変えることで作る曲が変わる。でも、その中でも変わらない部分があって、その「本質」みたいな部分を見極めるのが大事なんですよね。たぶん、エアビーで各地に泊まりながら制作していたのは、そういう部分も大きくて。
――まさに自分を見つめ直すじゃないですけど。
Seiho:そもそも、何で人が移動するのかって考えた場合、そこに用事があるってパターンが一番多いと思うんですけど、中にはきっと元いた場所にいれなくなったからっていう理由もありますよね。例えば少数民族とかの話で考えてみると、元の部落から未開の地へ勇敢に出ていったっていう一面と、元の部落で暮らせなくなったという一面、両方考えられる。だから、移動って何か「強さ」と「弱さ」の2面性があるなって思っていて。旅してる時はそういったことを考えさせることも多いですね。
LAの“Low End Theory”に出た時に、毎回Daddy Kevは僕のことを「大阪から来たSeiho」って紹介してくれるんです。別にそこは「日本から〜」でも大丈夫なはずですよね。でも、僕はそれが結構大きいと思っていて。「大阪から来た」って他者に言われることによって、自分のアイデンティティがハッキリするというか。でも、そこには大阪から気張ってLAへ来たっていう一面がありつつも、もう一方では大阪から逃げてきたっていう捉え方もできるかもって感じてしまったんですよね。
――でも、Seihoさんが自由に色々なところへ行けるのは、地元・大阪っていう帰る場所があるからですよね。
Seiho:そのはずだったんですけど、この2年くらい移動し続けた結果、帰る場所がなくなった、みたいな。結局、自分がいるところが帰る場所なんだなって。アメリカでツアーしている最中は日本に帰りたいって思うことってほとんどなくて。行く時もテンション上がってるので、結局は帰っている最中に色々考えるんですよね。「向こうで何を感じたか」「この後、どうするのか」とか、そういうことを帰路で考えることが多くて。日本でも、東京に行くときは「明日のライブの仕込みをしなくちゃ」「あの曲仕上げるぞ」とか、そういうことを考えてるんですけど、大阪の実家に帰る時は、「そういえば最近こんなことあったな」「この前あの人に言われたことは重要だよな」とか、そういう思いに耽るんですよね。だから、その「回想」自体が「帰る」っていう行為なんじゃないかなって思うようになってきて。そもそも「帰る」って何なんだろうって考えた時、海外に行ってる時は和食を食べることが「帰る」っていうことかもしれないし、家族の写真を見る行為ももしかしたら「帰る」行為なのかもしれない。
――なるほど。では、Seihoさんにとっての「いい旅」と「悪い旅」を分ける基準は何かありますか?
Seiho:色々なところに行けば行くほど、土地ってあんまり関係ないなって思うんです。土地とか環境よりも、そこでどういう人と会えるかっていうのが重要で。だから人との出会いが一番大きく作用しますね。海外とかに行ったら、現地のプロモーターとかがすごいホスピタリティで迎えてくれるじゃないですか。3日滞在したら3日とも連れ出してくれたり。そういう接し方をされると、逆に自分は普段日本にいる時に、果たして同様の振る舞いができているのかっていう風に考えさせられるんですよね。海外や大阪の友達が東京に来た時に、それができているのか。日々の忙しさにかまけて、ないがしろにしているんじゃないのか、とか。
――そういう想いをより強く感じさせてくれるのが「いい旅」だと。
Seiho:う〜ん。でも、結局「悪い旅」っていうのを体験したことがなくて、わからないんですよね。旅って嫌な出来事があっても結局はいい経験になるというか。旅っていう行為はマイナスもプラスにしてしまうんですよね。フライトのトラブルで12時間くらい空港に閉じ込められたこともありましたけど、その時に読んだ本とかNetflixで観てた作品とかは、今でもハッキリと覚えてるんですよ。でも、同じように家でダラダラ無駄に過ごしながら読んだり観た物は、あまり覚えていないと思うんです。旅ってそういう効果があると思うんですよね。

“Airbnb Cafe“

期間:2018年10月26日(金)~11月19日(月)
営業時間:10:00~26:00
(ランチタイム:10:00~17:00、ラストオーダー:フード23:00、ドリンク25:00)
場所:東京・渋谷 WIRED TOKYO 1999

Airbnbとは

Airbnb(エアビーアンドビー)は、世界中の「ゲスト(旅行者)」と空いている家や部屋を宿泊場所として提供する「ホスト」をつなぐプラッフォーム。
世界各地のユニークな宿泊施設に泊まれたり、現地の人の家に泊まって暮らすように旅ができるAirbnbは、世界191か国以上、累計4億人以上が利用している。
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Travel music Night supported by Spincoaster”
会場:WIRED TOKYO 1999

2018年10月26日(金) 20:00〜23:00

DJ:
Seiho -DJ Set- (21:00〜22:00)
Spincoaster Crew

2018年11月2日(金) 20:00〜23:00

DJ:
okadada (21:00〜22:00)
Spincoaster Crew

2018年11月9日(金) 20:00〜23:00

DJ:
Licaxxx (21:00〜22:00)
Spincoaster Crew

2018年11月16日(金) 21:00〜24:00

DJ:
YonYon (23:00〜24:00)
Spincoaster Crew
※エントランスフリーですが店舗営業中のためなるべくお席をご利用下さい。
※プログラムは当日変更になる可能性がございます。

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