【インタビュー】鳴ル銅鑼、ポップな
親しみやすさの中に毒と色気をはらん
だ下剋上スピリットみなぎる四人組

君は、鳴ル銅鑼を聴いたか? 岐阜で結成され、名古屋で活躍し、東京で勝負をかける、下剋上スピリットみなぎる四人組だ。ハードコアからヒップホップまで、幅広いルーツを持ちながら、あえて“歌謡ロック”へと集約するその音楽性は、ポップな親しみやすさの中に毒と色気をはらんだ実に魅力的なもの。彼らはどこから来て、彼らは何者で、彼らはどこへ向かうのか? 3か月連続配信リリース曲を収録した4曲入りCD『SAKIGAKE』(11月3日、会場限定リリース)の完成を機に、三輪和也(唄/六弦)とグローバル徹(四弦)の二人に話を聞いた。

■バンドをやりたいなら「鬼平犯科帳」を見てないと意味がない
■「義理と人情で音楽はできる」と岐阜の先輩に言われて

――今、岐阜に住んでるんでしたっけ。

三輪和也(以下、三輪):いや、東京に。というか、神奈川なんですけど。2年前からですね。

――それは、東京で勝負してやろう的な動機で?

三輪:名古屋クアトロをやった時(2016年)に、僕らの中では勝手に名古屋を制覇した気になっちゃったんですよ。一緒にやりたいバンドもその時はいなかったし、目指すものがぼやけちゃった。人間って、打ち込むための指針が必要ですよね。遠すぎてもダレるから、いい感じの距離感のものはないかな?と思った時に、やっぱり東京だろうと。

グローバル徹(以下、グローバル):一旗揚げよう的な。

三輪:日本の音楽は東京に詰まってると思うから、とりあえず行こうという感じでした。

――さすが信長の子孫だなあ。尾張を平定したら次は都だと。戦国武将だ。

三輪:確かに僕たちのバンドは、織田信長感はあるかもしれない。

グローバル:三大武将の中だったら信長だね(笑)。

――岐阜はそういう人間を生む土地なんですよ。きっと。

グローバル:未だにハードコアなんです。ずーっと。

三輪:そうそう。可愛がってくれてるのもハードコアの人で、僕らも精神性はハードコアです。ただ僕らぐらいの世代になるとアンチテーゼとして、先輩たちとは違う音楽をやって先輩たちよりもビッグになってやろうみたいな気持ちが出てきて。

――おお。下剋上イズムだ。

三輪:だけど精神は受け継いでるんですよ。だから最初の頃は、こういう歌ものの日本語ロックのバンドの打ち上げで、けっこう戸惑いました。最初に「激しい方がかっこいい」という教育を受けちゃって、東京の打ち上げに慣れるのに時間かかったよね。「ずっと同じ席に座ってていいんだ」とか、「ごはんをちゃんと食べていいんだ」とか。
▲『SAKIGAKE』

――あはは。岐阜はどんな打ち上げだったんだ。

三輪:最初にメシに手をつけるのは絶対駄目。飲むスピードも、一番飲む先輩と全員同じスピードで飲む。上下関係が厳しいので。

グローバル:そうだね(笑)。

三輪:でも、そこで僕らは守られていた。ハードコアが盛んな、岐阜の小さな世界ですけど、ずっと守ってくれていた人がいるんです。STAB 4 REASONというバンドがいて、岐阜のバンドはみんな後輩みたいなものなんですけど。

――いい人に恵まれましたねえ。

三輪:サムライみたいな人なんですよ。音楽は義理と人情だからって、「鬼平犯科帳」のDVDを僕らが上京する前に渡されて、「これはバンドも一緒や」みたいな。バンドをやりたいなら「鬼平犯科帳」を見てないと意味がない、「義理と人情で音楽はできる」と言われて。

――最高だなあ。

三輪:みんなで上京前に見たもんね。その人が言うことは絶対なんで。

グローバル:最初は、せめてロックスターの映画とかならわかるけど、なんで「鬼平犯科帳」なんだって思ったけど(笑)。面白かった。

――それはバンドの形成に多大なる影響を与えていますよ。今いくつでしたっけ。

三輪:僕はまだ27歳ですが、メンバーみんな1990年度の生まれです。

グローバル:ポケモン世代ですね。マリオではない。
▲三輪和也

――音楽で言うと、BLANKEY JET CITYはかぶってる? ちょっとそんな匂いを感じたんだけど。

三輪:かぶっていないですね。好きですけど、その時から好きだったわけじゃないです。好きになったのは大人になってからです。

グローバル:でもそれ、言われたことある。「ブランキ―好きでしょ?」って。

三輪:僕もよく言われるし、普通に「好きです」って言いますけど、中学、高校の時の青春の音楽とかではないです。それだったらかっこいいんですけどね。周りがORANGE RANGEを聴いてる中、俺はBLANKEY JET CITYだったらかっこいいんですけど。そうでありたかったですけど、残念ながら僕もORANGE RANGEを一緒に聴いていました。

――残念ってことはない(笑)。

三輪:みんなと同じ、ORANGE RANGE、ASIAN KUNG-FU GENERATIONとか。

グローバル:そして、家に1枚浜崎あゆみがある。宇多田ヒカルと。

――鳴ル銅鑼を聴いてパッと連想したのは、THE BACK HORNとか、9mm Parabellum Bulletとか。あと椿屋四重奏

三輪:ああ、椿屋四重奏はバチバチです。

――ああ、やっぱり、すごい感じる。

三輪:バッチバチです。9mm Parabellum Bulletは、徹くんが高校の時にコピーしてたよね。すごく失礼な話、THE BACK HORNも9mm Parabellum Bulletも全然聴いたことがなくて、鳴ル銅鑼を始めるまでは知らなかったバンドです。僕は邦楽ロックをあまり聴いてなかったので。

グローバル:周りの環境が、洋楽を聴く人が多かったよね。

三輪:そう。日本人でちゃんとCDを持ってたのが、椿屋四重奏と椎名林檎だったんですよ。音源を聴いてみなさんが思う通り、本当にそのままです。椿屋四重奏にすごく影響を受けているのが、僕とギターのカバくんなんですよ。徹くんやドラムの遼平くんはそうでもないけど、歌メロやギターのニュアンスが近くなるのは自然なことだろうなと。だから椿屋四重奏っぽいと言われても嫌な気持ちはまったくなくて、むしろそれをわかってくれてありがとうという感じです。ちゃんと影響を受けてると思います。

グローバル:あと、僕らはいい意味で音楽に対して、もちろん好きな音楽はあるんですけど、かっこいいものはかっこいいと言えるんですよ。ヒップホップもめっちゃ聴くし、ファンクも聴くし、でもMr.Childrenも好きやし、みたいな。食わず嫌いがまったくない。

三輪:かっこいいものはかっこいいと認めるし。たとえば徹くんがかっこいいと思ったものに対して、僕がかっこよくないと思ったとしても、もめるんじゃなくて、それでいいんですよ。

グローバル:理解がある。

三輪:こういうジャンルしか聴かないとか、この人のファンですとかじゃなくて、いい音楽はいい音楽というものがはっきりあります。四人とも。
▲グローバル徹

――去年出た『汎神論』はすごいアルバムで。大好きなんですけどね。

三輪:ありがとうございます。僕らも、めっちゃいいアルバムだと思っています。

グローバル:アルバムごとに挑戦するジャンルというか、これがうちらの特長ですという曲調がないんで、毎回挑戦になるんですけど。

三輪:『汎神論』には、僕が正しいと思うことを貫くというテーマがありました。鳴ル銅鑼は『無知』というアルバムで誕生して、セカンドの『極彩色』で思春期を迎えて…という流れがあったんですけど、鳴ル銅鑼というバンドがこのタイミングでしたいことは、思想というか、宗教を抱えることだったんですね。

――宗教?

三輪:普遍的ではない、唯一無二の自分を信頼する、自分が自分の宗教でもあるということを僕たちは掲げる。鳴ル銅鑼は鳴ル銅鑼次第で、好きなようにやるし、僕らの理想の音楽を追い求めるという決意表明のようなアルバムです。曲には暗い部分も明るい部分もあるけど、人間はいいところも悪いところもあるし、その上で曲がらないものが絶対にある。全体的にマイナーコードでダークな感じがすると言われても、それが鳴ル銅鑼にとっては兆しであり、前向きなことであるという、いいアルバムだと思います。
■自分の身の回りにあることしか歌ってないんです
■遠い未来とか遠い誰かとかじゃなくて

――それを経て、今回の3連続リリースへ至る。また違うモードに入ってきているということなのかな。

三輪:今回の3か月連続リリースは、僕がこうしたいと言ったよりは、メンバーやマネージャーが言ったことなので。僕が作り続けていた曲を送って、選ばれた曲たちという感じです。僕は全部シングルにするつもりで書いているので、どれがなってもいいと思っているし、それが今回選ばれて、ありがたい話です。

――見事にバラバラですよ。一発目の「狂言」がロカビリーっぽい歌謡ロック、ミュージック・ビデオを作った「イケスカナイ」がクールでファンキーなダンス・チューン、「ベスタ」が哀愁のギターロック。

三輪:曲のバリエーションが広すぎて、激しいロックな感じに行くのか、バラードに行くのか、お洒落なダンスミュージックに行くのか。選択肢が多すぎて、メンバーもマネージャーも「鳴ル銅鑼は次にどういうふうに見られたいか」という感じで決めるんだと思います。曲がいいという以前に。

――逆に言うと、それしかできない。

三輪:こっちは変わりようがないんで。でも「イケスカナイ」がリード曲に選ばれるとは、僕は絶対思っていなかった(笑)。暇つぶしというか、曲は特に思い浮かばないけど作った方がいいよなーという時期に、PCの編集の練習がてら作っていて。たまたま家に来たマネージャーがそれを聴いて、「それやろう」ということになった。こんな感じで(寝転がって)作ってたんですよ。

――やる気ないなあ(笑)。でも曲はかっこいい。

三輪:はい。僕もすごいかっこいいと思う。

――みなさんミュージック・ビデオを見てもらえると。かっこよくて、最後は怖いですよ。炎がブワーッて。

三輪:あれはガソリンをまいて、Zippoを投げて。

グローバル:ちょっと、ビビっとるもんね。
▲『SAKIGAKE』

――そうそう(笑)。投げたあと、ビクッとしてるのが面白い。でも「イケスカナイ」はメッセージ的にも鳴ル銅鑼の本質を突いてると思っていて、「なめんなよ、気に入らねえ」っていう反抗スピリットが思いっきり前面に出ているでしょう。

グローバル:いつもの和也が出ていますね。ストレート。

三輪:“手首の傷が増したって/別に知らないフリもできるんだよな”は、我ながらかっこよすぎるな。そんなこと、この邦ロックの詞でよう言えるな?って。

グローバル:“袋の鼠が集まって/一纏めに燃やして次の種へ”とか、右向け右な奴全員死ねってことでしょ。お前ら、仲良しこよしでやってんじゃねえよって。

三輪:別にそれを駄目だと言ってるわけじゃなくて。ステレオタイプに対するアンチテーゼで、その中で消されてしまう個性がもったいないというか。

グローバル:本当に嫌いってわけじゃない。だから音楽の土台に立って言うんですよ。

三輪:そうそう。馬鹿のフリは馬鹿同士でやってくれたらいいし、僕はもう馬鹿は飽きたから、賢くなろうと思いますという歌なんで。賢くなりたい人は一緒に賢くなったらいいし、馬鹿のままでいたい人はそれでいいと思いますけど、僕はもう相手にしないですという歌なんで。鳴ル銅鑼らしいと思います。

――「俺」と「おまえら」を鋭く対立させて「どう思うんだ?」と突きつける。鳴ル銅鑼ってそんな歌詞が得意でしょう。

三輪:メロディが乗っていなかったら、自己啓発本になっちゃうような内容が多いんで(笑)。

グローバル:「イケスカナイ」は特にそうだよね。

三輪:自分の身の回りにあることしか歌ってないんです。遠い未来や遠い誰かじゃなくて、身の回りの大事なもの、嫌いなもの、好きなものの曲しか書いていないから。

グローバル:しゃべってる感覚に近くなるよね。

三輪:そう。だから僕の言葉は、人に届くのが速いと思うんですよ。非現実ではなくて、みんながどこかで思ってることだったり、それが僕の場合はこういう不満だったり怒りだったりするけど。

グローバル:悲しさだったりね。恋愛もそう。

三輪:そう。終わることへの欲望とか、カタルシスとか。すごく近いことを歌っていると思います。

――「ベスタ」もそうだよね。“未来を君だけのものにできるよ”と歌っておきながら、最後に“冗談さ”で全部ひっくり返すという。

三輪:きれいごとだけではやっていけないのは、みんなも僕もわかっているから。

グローバル:泥水すすっているからね。

三輪:本当にできることなんですよ。未来を自分のものにすることは。でも、「できない」と思ってやったほうが、いいことだと思うから、あくまで僕の言ってることは冗談ですよと。だけど、どこかで絶対できる瞬間があると思っているという、そういう歌です。
――微妙なところだけど。わかる。

三輪:嘘はつきたくないんで。きれいごとだけでは、きれいなだけで終わってしまうんで。汚いものがちゃんとないと。鳴ル銅鑼は、正直に歌を歌ってるだけだと思いますけどね。

――あと、そうそう、「狂言」で、近松を引用してるでしょ。

三輪:わー。さすが。初めて言われました。うれしいです。

――“あだしが原の道の霜”。なんか聞いたことあるなーと思ったら、「曾根崎心中」だよね。

三輪:ふと出てきたんですよ。メロディを歌ってる時に、“あだしが原の道の霜”というのがハマって出てきて。これって誰やっけな? そうだ、近松やと思って、引用しました。

グローバル:降りてきたんや。語呂が良かった。

三輪:意味合いもすごくいい。死ぬことは致し方がないという、あだしが原に毎年霜が降りるのと同じように、死にゆくことは自然なことですみたいな。降りてきたというか、近松さんが僕に文学的にすごいパンチラインを残してくれたから、近松さんがすごい。

――文学、好きですか。

三輪:大好きです。

――CDの4曲目に入ってる新曲「斜陽」も、太宰だし。前のアルバムの1曲目の「兆し」にも“風立チヌ”というフレーズがあったし。絶対好きだろうなって。

三輪:不思議なもので、この4曲を作るにあたって、最近本を読まないようにしていたんですよ。文学的になりすぎずに、もっと人間的な曲を歌いたかったから。もっと人にわかる詞を書きたいと思って、できるだけ読まないで作ったんですけど、やっぱりどこかで出てきたりして、面白いなと思います。

――これから始まるワンマンツアーのタイトル「登楼」も面白い。遊郭用語でしょ。吉原とか。

グローバル:友達に、すごく登楼する子がいるんですよ。

三輪:自分で言うんですよ。風俗店の帰りに「登楼して参りました」って。

――文学的な人やね(笑)。

三輪:その響きが鳴ル銅鑼には合うなと思ったんですよ。極楽に向けて階段を上っていく、ライブハウスの階段を上っていく感じで。バンドとしても階段を上って、軽やかに遊郭へ遊びに行くみたいな感じのほうが、イメージが合うと思ったんですよ。

グローバル:ちょっとお洒落して。

三輪:勝負して一番になってやるとかじゃなくて、しゃあしゃあと「上へ参ります」みたいな。

グローバル:いい言葉よね、日本の。

――そうそう。鳴ル銅鑼は日本のいい言葉をよく使ってくれている。

三輪:それが合うのもバンドの武器ですから。そういう言葉を使って不思議じゃないというのも。

――そもそもバンド名の鳴ル銅鑼も、不思議に耳に残る日本語で。

グローバル:よくハードコアだと思われますね。未だにライブハウスで「ハーコーかい?」って言われる(笑)。

――映画から取ったんでしたっけ。

三輪:そうです。『愛のむきだし』という映画で、感動したシーンがあって、“愛がなければ私は鳴る銅鑼”というセリフが出てきて。調べたら聖書の言葉で、語呂もいいし、意味合いも好きだったので、みんなで表記を考えてこれになりました。

――実はまだ生ライブを体感してないので。次のツアーには必ず登楼しますよ。

三輪:ぜひぜひ。すごくいいバンドなので。

――知っています(笑)。

三輪:最近、鳴ル銅鑼に対して、いいバンドだなって言葉がしっくり来るんですよ。かっこいいとかよりも、四人の感じがいいバンドだなって最近思います。もっと良くなることがわかってやっていて、その方法もつかんでるから、あとはそれを洗練していくだけという感覚があって。客観的に、ライブを見るのがすごい面白いタイミングなんだろうなと思いますね。

――今でしょ、と書いときますよ。

三輪:今が面白いと思います。のるかそるか、どっちもあるやん? ズボーンと売れてまいそう、というのと、いなくなってるかもしれない、というのと。

――あはは。危ないね。

三輪:急に「飽きた」とか言って辞めそう、みたいな。

グローバル:それで、四人で農業やってそうやね(笑)。

三輪:一瞬で辞めそうだなというのと、手の届かない人になってしまいそうだなというのと、どっちもある。そこが面白いんだろうなって、勝手に思っています。

取材・文●宮本英夫
リリース情報

『SAKIGAKE』
11/3リリース
TPDR-0025 1200円(税込)
1.狂言
2.イケスカナイ
3.ベスタ
4.斜陽

ライブ・イベント情報

<鳴ル銅鑼 ワンマンツアー「登楼」>
2018.11.3(土) 大阪・福島2ndLINE
2018.11.17(土) 新栄APOLLO BASE
2018.11.24(土) 下北沢SHELTER

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