筋肉少女帯・大槻ケンヂが語る、昨今
の覚醒ぶりと“大人の男が歌うロック

筋肉少女帯メジャー・デビュー30周年記念のニュー・アルバム『ザ・シサ』、10月31日リリース。続いて大槻ケンヂの新しいソロプロジェクト“大槻ケンヂミステリ文庫”、略称オケミスのアルバム『アウトサイダー・アート』、12月5日リリース。説明は野暮だが、『ザ・シサ』 の『シサ』とは「視差」の意で、「セレブレーションの視差」「パララックスの視差」と、アルバムのラスト2曲でその言葉を使っている。もっと説明は野暮だが、オケミスは、早川書房の1953年から刊行し続けている翻訳ミステリのシリーズ“ハヤカワ・ポケット・ミステリ”の通称“ポケミス”に倣ったもの。

後者は、これを書いている時点では未完成だったので聴けていないが、前者『ザ・シサ』は、曲がバラエティに富んでいるという意味でも、その幅広い楽曲たちに引っぱられて大槻ケンヂの作詞世界もこれまで以上に広がっているという意味でも、「こうあってほしい筋少」と「新しい筋少」が見事に共存しているという意味でも、本当に30周年にふさわしい、だから歌詞カードを熟読しながら1曲1曲聴いていくのがとにかく楽しい、そんな快作になっている。以下、作品と自身の近況についてのオーケンのお話です。

■最近僕、作詞脳が覚醒していて
──アルバム、1年に1枚ペースって早いですよね、このキャリアのベテランにしては。
早いですね。でもまあ、バンドのボーカルなんてね。アルバムでも作らなければ、何も社会に貢献してないですからねえ。このリリースペースは、僕は全然ありがたいですね。しかもこの『ザ・シサ』を作る前に、“大槻ケンヂミステリ文庫”というソロ・プロジェクトで、『アウトサイダー・アート』というアルバムも作っていますからね。個人的には、最近は小説を書いていないので、むしろまだできるぐらいな感じです。
──歌詞はどんどんできる?
できますね。それは、物語を書くことによって、自分の心の絡まった糸を解きほぐすという、自己治癒みたいなことをやってるからだ、と自覚してからかもしれない。自己ヒーリングのためにも作詞はたくさんしていこうと思ってますね。アイドルであるとか、声優さんとか、いろんな人に詞を書かせてもらってるんですけど、まだまだオファーくれたら全然書きますよ、僕は。演歌とかも書いてみたい。
もう、この場を借りてどんどん募集します。他のロック・バンドの歌詞も書いてみたいんですよ。最近はよく、若いバンドがリスペクトしてくれたりするんだけど、言ってくれたら俺書くかもよ。
──(笑)。
最近僕、作詞脳が覚醒していて。このアルバムの曲も、下手すると1日2作書いてたんですよ。複合ビルの喫茶店で1作書いて、「あっ!」と思いついて、隣の喫茶店でもう1作書いたりして。あと、「セレブレーションの視差」って曲は、インストゥルメンタルにする予定だったのに、僕が全面的に朗読の歌詞を書いて来ちゃったんですよ。
しかも大槻ケンヂミステリ文庫の方が先なんです、歌詞を書いたのが。そっちに9曲書いたあとで11曲書いた、ほぼ連続して。オカルトに関しての歌詞が多いでしょ? オカルト的なもの、超常現象とかを詞にしたくて。それをさんざん試みたのがオケミスの『アウトサイダー・アート』で、そこからさらにまたこぼれたものが『ザ・シサ』に回ってる感じですかね。
──オケミスとは何か、という説明もお願いします。
はい。筋肉少女帯というのは、仕掛けが大きいヘヴィメタル・バンドなので、なかなかパッパッと動けないんですよね。あと体力的にも相当消費するので、ちょっと大人な感じの横ノリで、シャウトをしない、体力的にもキープできて、かつメンバーは僕だけで、その時にスケジュール等空いているミュージシャンを集めて、もっと数多くライブをやりたい。と、思ったわけです。そのCDも出したいんだけど――と、レーベルに言ったところ「いいですよ」と。
で、僕はスタジオ・レコーディングが得意じゃないんですよ。なので、ライブ・レコーディングにしたいと。ベーシストの高橋竜、そしてバンドのオワリカラ、それぞれに数曲ずつ作ってもらって、吉祥寺のライブハウスで2日間にわたってその2バンドと出て、演奏したんです。それを録音して出しましょう、と。今、オワリカラのタカハシヒョウリくんと高橋竜ちゃんに、録った音を大きくいじってもらっていて。もうできるんじゃないかな。
オケミスでは、ポエトリー・リーディングとジャズファンク・サウンドの融合みたいなことをやりたかったんですよ。セルジュ・ゲンスブールの、あるじゃないですか、ファンキーなサウンドに載って、ただウニウニウニウニしゃべったり歌ったりするやつ。あと「ヘイ・ユー・ブルース」(左とん平)とか、かまやつひろしさんの「ゴロワーズを吸ったことがあるかい?」とか。ああいうのをやりたかったの。でも結局は歌ものも多くなったけど。
大槻ケンヂ 撮影=菊池貴裕
■人類が普遍に持つ暗闇というのは、
現象として目前に現れる時は、すごく小さなことに集約される
──『ザ・シサ』には「なぜ人を殺しちゃいけないのだろうか?」という極端な曲も入っていますが。
「なぜ人を殺しちゃいけないのだろうか?」は、自分で言いますが、とてもよくできた、と思いました。まず、おいちゃん(本城聡章)の曲が、80年代の産業ロック的なね。ボン・ジョヴィとか、スタジアム・ロックっぽい、ミドルテンポでみんなで拳を突き上げて歌うような曲なんですよ。「いやあ、これを筋肉少女帯でかあ?」と。おいちゃんは読めないところがあって、ほんとに意外な曲を作って来るんですよ、100%の自信でもって。
「ええーっ!?」って思ったんだけれども、そういう曲が逆にチャンスなんです。僕の詞を載せると異化効果が生まれて、化学反応でおもしろくなる場合があるので。前作の「サイコキラーズ・ラヴ」も、歌詞を抜くと本当にJ-POPなんで、これは狙い目だと思って、サイコキラー同士の愛を歌ったんですけど。だから今回も、「いやいや、まいったなこれ、どうしようかな。じゃあ何かとてつもないものをぶっこもう」と思って。
前々から、なぜ人を殺したり殺されたりしてはいけないのか?ってあるでしょ、人間の普遍のテーマとして。僕には答えがあって、それによって多くの人がスケジュール調整がつかなくなって困るからだ、と(笑)。特にミュージシャンなんかは、喪服を持ってない人、いっぱいいるから。それを詞にしようと思って、そしたら見事にハマりまして。
──そもそも、その答えに行き着いたのはなぜ?
殺人はないんですけど、自殺とか、不慮の事故とかで亡くなった人が、まわりにわりといるんですよ。そのたびにね、俺、コナカとかに行くんですよ。お香典のマナーとかわかんないから、「香典袋、コンビニで買えるんだ?」とか。どれを買ったらいいのかわかんなくて、間違えてお祝い用の封筒買ったりしてさ。で、買ったはいいけどペン忘れた!って、お通夜の席で人に借りて、端っこの方が書いたりして。あれ、ピン札入れちゃいけないんだってね? だから手でクシャクシャにして入れたりして、いろいろ大変なんだから死んだりするの勘弁してくれよ!と思うんですよ。
──20代ならわかりますけど、50歳過ぎてそれっていうのは(笑)。
まったく(笑)。でもね、いくつになっても、アウトサイドを生きてる人間は大概そうですよ。そのたびごとにワイシャツとネクタイがどっか行っちゃうんですよ。わかってないでしょ? ロック・ミュージシャンのアウトサイドさっていうのを。みんなそうよ? スーツなんか持ってないし、持っててもどこにあるか忘れるの。俺よく言ってるんだけど、スカをやってる奴以外はスーツなんて持ってないから(笑)。
──あははは!
変な服は持ってんだけどさ。スカとロックンロールバンド以外は、まずスーツを持ってないのよ。だから迷惑、本当に! 人を殺す殺さないとか、倫理とかそういう問題じゃなくて、迷惑だから! やめな!ってことを、僕は常々思ってたんです。で、てなバカなことを言って、そこからまぁ真意を読み解いてほしいと。
──だから、論点を軽い方向にずらすことによって──。
論点をずらして本質を探してもらう、というか。だって、誰かが人を殺したり殺されたりしたら、前々からチケットを買って楽しみにしていたライブにも行けないんだよ? そう言ったらリスナーもわかるんじゃないかしら。井上陽水さんの「傘がない」ですよね。
──うわ、すごいものと並べましたね。でも、否定できない(笑)。
でしょ? 人類が普遍に持つ暗闇というのは、現象として目前に現れる時は、「傘がない」とか「喪服がない」とか、すごく小さなことに集約されるんです。そういうことを、歌ってみたいなあっていう気持ちです。僕は今、なんて言うのかな、『アルジャーノンに花束を』現象で、けっこう知的レベルが高いんです(笑)。じゃあこれから下がっていくのか。あはは。だから、僕は、冗談にくるめて非常に深いことを歌う領域に今いるんでしょう、多分。
■僕は「ロック病院メンヘラ科」
──「オカルト」をテーマにしたのは? もともとずっと昔から大槻さんのテーマですけども、今なぜ改めて。
やっぱりオケミスの方からなんですよ。オケミスで、オカルトと超常現象とロックがコラボするというのを、テーマとして試みて。そのあとすぐ『ザ・シサ』の作詞に入ったから、筋肉少女帯でもそれをやりたかったんですよ。
さらに、偶然にも、オカルトを扱う『緊急検証!』って番組が(CSファミリー劇場で放送、大槻も出演)映画化されることになって。「その主題歌になりますよ」という話で、それで「オカルト」という曲も書いたんですね。
やっぱりオカルトって、一生自分が好きでいることのひとつなんだな、っていうのがわかってきたっていうか。若い時って、自分が好きなことはみんな好きだと思ってるじゃないですか。若い頃から僕はオカルトとプロレスが好きで、世の人はみんなオカルトとプロレスが好きなんだと思っていたら、どうもそうではないらしいと(笑)。
タクシーとか床屋さんとかで、世の中の人は全員野球と相撲が好きに決まっている、というところから話し始める人、いるじゃないですか。あれが僕の場合、プロレスとオカルトなんですよね。……特にオカルトなんだなあ。僕がタクシードライバーや理髪師になったら、めんどくさいでしょうね。「当然ご存知でしょ?」っていうところから、オカルト話を始めたりするので。「お客さん、青森のイタコ、いるでしょ?」「はあ?」みたいな(笑)。
──「マリリン・モンロー・リターンズ」に出て来る御船千鶴子、調べましたもん(笑)。で、「ああ、この人か!」と。
そうそう、『リング』の貞子のモデル。でも、この「マリリン・モンロー・リターンズ」なんか、ほんと、大人の男にしか書けない詞だなと思ってます。もちろんこれは「マリリン・モンロー・ノーリターン」という野坂昭如先生の歌のオマージュなんですけど。野坂先生の歌は、子供心に「大人の男の歌だなあ」と思ったじゃないですか。僕も、もう大人の男の歌を歌ってみたいと。
一時期、困ってたんですよ、男のロック・ミュージシャンが大人になると、歌うべき対象がないと。やっぱり歌っていちばん絵になるのは少女で、大人の女の人を歌にすると欧陽菲菲さんのような、「ラブ・イズ・オーヴァー」感が出てしまうと。お客様はやっぱり若い気持ちでいますから、いつまでも心は少女だから。それですごい困ってたんだけれども、50代になったぐらいで、なんとか見えて来たんですよね。少女ではない大人の女性と大人の男の関係を、ロックにする作詞の仕方が。
大人の男はわかってくれると思う、「マリリン・モンロー・リターンズ」の、この、女性への畏怖を。ほんとに、女が戻って来る時は、置いてきた猫を取りに来る時、そうでなければっていうのは、怖いなあ!と、自分で書きながら思いましたね。世界の美女が帰る夜、すべての男は怯える、いや、まったくそのとおり。それがモンローってものに集約されるんですよね。たいがい大人の男は、「ああ、女に悪いことしたな」と思いながら生きてるから。ああ、こういう詞が自分も書けるようになったのか、と。
それで言うと、「ネクスト・ジェネレーション」も、オジさんバンド好きの若い女の子が仲良くしてるボーカリストが、実はお母さんが昔追っかけていた、あまつさえ付き合っていた、ギョヘッ!ていう曲で。これ、ほんとにあるかもしれない……僕はないですよ? 僕はないですけど、ある人はありますよ? たぶん。
──誰のことを言ってるんですか。
いや、英米にはあるんじゃないですか?(笑) ウディ・アレンとかそれで問題になったでしょ。二世代アーティストっていうか、そのうち三世代アーティストになって来るから、そういうことを歌にしてみたかったんですよね。
僕はほんとは、介護の問題もロックにしたかったんですよ。同世代のミュージシャンやファンの方が、介護で現場に来れなくなるっていうのは、けっこうあってね。お手紙なんかでも、「介護の合間にライブに来ています」みたいな。これは外せないテーマだと思った。でもそれをロックにしようとすると、まだダメなんだなあ。ストレートに出しすぎちゃったりして。もっとうまくできないかなあ、と思って。
やっぱり、歳相応なテーマっていうのは……それは、テーマが増えるってことだから。未開の地でしょう? フロンティアだから、これからいろいろ書いていきたいなあと。介護の歌、次のアルバムなんかでは、できるんじゃないかな。うまくやりますよ、そこは。
──ほかにもネタはある?
ありますね。介護以外にも、今回使えなかったテーマで、次で書きたいと思っているやつがあるし。さっきも言ったけど、僕は作詞は自己治癒になっていると思うので、書けば書くほど健康になるような気がするんですよね、メンタルが。聴いてる人もそうであるんじゃないかな、と思って。僕を、作詞面において支持してくださる方がけっこう多いのは、そういうヒーリング効果もあるのかなとは思うので。精神分析的な詞だから、いろんな人の悩みの部分に触れて、そこを癒すことのある効果が、たぶんあるんだと思うんですね。
ま、すべての歌の詞はそうなんだけれども、僕は不特定少数の人にがっつりくるというか。なんだろう、「ロック病院メンヘラ科」っていうか(笑)。だから、どうぞ、診察に来てくれれば! 治療します!

取材・文=兵庫慎司 撮影=菊池貴裕
大槻ケンヂ 撮影=菊池貴裕

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