稲垣吾郎がベートーヴェンに扮する『
No.9』を3年ぶりに再演! 脚本・中
島かずきと演出・白井晃を独占インタ
ビュー!

稲垣吾郎が誰もが知る“楽聖”、ベートーヴェンに扮する舞台『No.9』が2015年の初演から3年を経て、待望の再演を果たす。『運命』(交響曲第五番)や『田園』(交響曲第六番)や『エリーゼのために』などなど、膨大な楽曲を残したベートーヴェンとはどんな人物だったのか。音楽家として致命的ともいえる聴覚障害を抱えつつ、暗い過去を持ち、偏屈な激情家でもあり、そして天才的な才能の持ち主。その彼が、日本では“第九”と呼ばれ、中でも第4楽章の主題は『歓喜の歌』または『喜びの歌』として多くの人に愛されている“最後の交響曲”としても知られる『交響曲第九番ニ短調作品125』を、いかにして生み出したかがドラマティックに描かれていく。脚本を手掛けた劇団☆新感線の座付き作家・中島かずきと、演出を担当する白井晃に、初演時のエピソード、そして再演に向けての想いを語ってもらった。
ーー初演を振り返って、特に印象に残っていることは。
中島:開幕初日の幕が下りた瞬間に、お客さんが立ち上がって「ブラボー!」って声をかけてくれたんですよ。ストレートプレイなのに「ブラボー」だなんて面白いなあって思った記憶があります。まるでクラシックのコンサートの終わりみたいな感じがして。初演は、基本的にそのあともずっと毎日スタンディングオベーションが起きていたので、僕らも手応えを感じていました。やはりなんといっても、稲垣くんのベートーヴェンがまさしくハマり役で。彼が何かのインタビューで、ベートーヴェンが亡くなったのが56歳で、芝居のクライマックスは55歳くらいなんですが、そのくらいの年齢になるまでやり続けたいみたいなことをおっしゃってくれていて。僕もまさにそうなればいいなと思っていた作品でしたから、今回の再演は非常に嬉しいです。
中島かずき
白井:僕は、まず音楽の構成が難しかったということを一番覚えていますね。中島さんに書いていただいた台本の中には、もちろん『第九』と『月光』など、4~5曲はどの場面でかかるか指定されているんですが、そのほかの場面ではどういう楽曲を使用するか、非常に悩みました。音楽家の話なので、やはりベートーヴェンの楽曲で全部構成しようとしたら、この人、とんでもなくたくさん曲を書いているので。
中島:そう、多作なんですよね!
白井:ピアノソナタも32番まであって、それも4楽章まであったりするからそれだけで、128曲くらいは聴いて。
中島:ハハハ、それはすごい。
白井:なんでこんなにたくさんの曲を聴かなきゃならないのかって。
中島:あの頃の白井さん、いつも怒っていましたよね(笑)。
白井:怒ってました(笑)。でも仕方ないと思い、覚悟を決めて。
ーー全部の楽曲を聴いたんですか。
白井:ええ、毎日のように。もちろん知っている曲もありましたけど、こんな曲もあったんだ? ってものもありましたね。
中島:そうそう。意外とくだらない曲も書いてるんですよ。『失われた小銭への怒り』とか(笑)。
白井:そうですよね、面白いのもいろいろ聴きました。でも、ああそうか、これはこういう恋愛をしていた時期の曲だなとか、こういう苦悩があった頃にこのピアノソナタを書いていたんだなとか。そして後半、『第九』を書くのに至る過程というのを時系列で彼の人生と共にその音楽を知ることができたのは、確かに怒りながらでしたけど(笑)、ベートーヴェンのことを勉強する上ではとても身になりましたね。
中島:ハハハハ、なるほど。
白井:あと、実は最後のほうに書かれている彼の苦悩、カールという甥っ子を寵愛するばかりに彼が崩れていってそこから再生する過程を『喜びの歌』と結び付けていくという、中島さんが書かれた大団円の部分をどういう風に持っていけばいいか、ものすごく悩まされていたんですよ。稽古場にも早くから来て、第九と、中島さんの書いたセリフとを組み立てながら「終われない……、終われない!」と、さんざん苦しんで。
白井晃
中島:え、そうだったんだ、知らなかった。
白井:でもある時、台本を読みながら、セリフのリズムとその場面での人々の動きを考えていたら、第九の音楽自体の順番を組み替えてみようと思いつき。その瞬間に「これだ、終われる!」と思いました。もしかしたら、僕の誤読かもしれないけれど、とにかく「わかったぁ!」って思った瞬間が、僕にとってはまさに『喜びの歌』でした(笑)。
中島:そうかあ、苦労したんですね。
ーー頭の中で、あの曲が鳴り響いた(笑)。
白井:そうなんです。難しい謎解きがようやく解けた感じでした。
中島:自分としては、最後はここで第九が流れたら終われるなくらいの気持ちで書いていたんですけどね。でも演出家が脚本を誤読するというか、つまりそれは演出家の解釈なわけで。そうやって演出家の解釈が入らないと作品が面白くならないですからね。
ーー白井さんの色が作品に加わるということでもあるし。
中島:ええ、そういうことだと思います。僕はただひたすら「ありがとうございます!」って、稲垣くんと白井さんに感謝しながら本番は観ていましたよ。そういえば、稲垣くんの忘れられない言葉があって。「いやあー、舞台ってこんなにしんどかったでしたっけ」って言っていたんですよ。
白井:アハハハ、そうでしたか。
中島:ラストシーンとか、特にものすごくエネルギーがいるんです。俺の脚本はたとえ会話劇でもクライマックスではしんどいのか、それはゴメンねって思って。
ーー別に殺陣をするわけではないのに(笑)。
中島:そう(笑)。ただ、ひとりで苦悩して、ひとりで解決して、ひとりで立ち上がるんです。でも、その場面は相当エネルギーが必要なんですよね。
白井:そうなんですよ、ひとりで立ち上がって、ひとりですべてやらなきゃいけないから。中島さん、もっと言葉をくださいみたいな気持ちになったこともありました。だけど、第九を聴きながら何回も読んでいるとピタッとパズルがハマる瞬間があって。むしろ言葉数がないところで、感情の流れが見えてきたんです。あの時は嬉しかったですね。
中島:『喜びの歌』って静かにあのメロディが流れ出して、合唱が入る瞬間にものすごく高揚するじゃないですか。あの高揚の瞬間こそが、劇中のベートーヴェンの覚醒なんだろうなと思っていたんです。あの『喜びの歌』には異常なくらいにエネルギーがあるので、あれに寄り添っていけばいいんだろうとも思いましたね。
(左から)中島かずき、白井晃
ーー再演にあたって、脚本の改訂や演出の変更はあったりしますか。
中島:脚本はちょっと、シェイプアップしました。プロデューサーサイドから短くしてくれと要請があって、少しずつ削っています。
白井:中島さんとは事前に打ち合わせをさせていただいて、初演の舞台では我々のひとつの完成形として成果を得たけれど、せっかく再演させていただくので今回はさらに高みを目指したいと。それで若干セリフの組み立てや、シーンが少し長いかもねというところはちょっとコンパクトにすることと、どちらかというと人物伝なので歴史絵巻的な部分よりも心情の部分をより際立てたいですねという話を中島さんとさせてもらい、それに応えていただきました。でもまだ稽古数日にもかかわらず、こんなにちょっとした組み立ての変更だけでここまで変わるのかなと思ったくらいに心情が際立ってきている気がします。
中島:僕も、一景の稽古を見ただけですけど、だいぶスピーディーになったと思いましたね。
白井:逆に、そこをじっくり丁寧にやってみると、細かな部分がどんどん見えてきて。中島さんの脚本が本当にね……面白いんですよ(笑)。
中島:ありがとうございます、もはや新感線では言ってもらえない言葉ですよ(笑)。いのうえ(ひでのり)はそういうこと、まず言わないのでね、ホント嬉しいです。
白井:いや、実際に面白くて。人物が7人くらいいる場面でも、たとえばナネッテが言った言葉をニコラウスはこうとらえているんだけど、カスパールは、そしてベートーヴェンはと、それぞれ全然とらえ方が違うんですね。そうやって思惑がバラバラな人たちが同時に同じ場面にいるというケースが多いんです。そこが、とても難しいんですよ。ちょっとしたミザン(立ち位置、見せ方)ひとつがなかなか決められなくて。
中島:なるほどー。
白井:少しバランスを崩しただけで、誰が何を言ったが違う形に見えてしまう。みんな、違う想いを持ちながらその場にいるというのが結構多くて、でもそこがとても面白いんです。
白井晃
ーーそして今回、半分ほどが新たなキャストになるということですが。
中島:メインキャストが違うだけで、やはり変わった印象になりますね。以前『ジャンヌ・ダルク』を再演した時には、脚本を一言一句変えなかったのに、大勢から「本をずいぶん変えたんですね」って言われたんですよ。あの時、キャストが変わると意味が伝わる部分が変わってくることを知って、とても面白かったんです。そういう意味では今回はまた新しい『No.9』になるんだろうなと思いますね。特に、マリアとその家族に関しては全員変わっていますし、ベートーヴェンに一番近いところの兄弟たちも変わっていますから。
ーーマリアを演じる剛力彩芽さんの印象はいかがでしたか。
中島:まず、背が高いですよね。大島さんとは全然柄が違って、初演の大島優子さんは背のちっちゃい、内面のエネルギーを秘めた子というイメージでしたけど、今回の剛力さんはシュッとしていて、彼女が演じる一景のマリアは何も屈託なく生きてきた子、みたいな感じがしました。なので、マリア像もだいぶ変わるんじゃないかなと思います。
ーーそこがもしかしたら初演と一番違うところかも。
中島:これはやはり、ベートーヴェンとマリアの話ですからね。マリアが変わることで、化学反応が当然起きると思うんですよ。そこがどんな反応になるのか、楽しみなところです。そしてマリアだけではなく、ナネッテも、そしてヨゼフィーネも、ベートーヴェンを巡る女性が全員変わっていますのでね。しかもそれぞれ、タイプの違うキャストに変わるんですよ。たとえば初演の高岡早紀さんが肉感的なヨゼフィーネだったとするならば、今回の奥貫薫さんは清楚なタイプなので。また全然違うアプローチからヨゼフィーネを作ってくると思うので、そこも楽しみです。
白井:剛力さんはまだ舞台2回目ということでしたので、正直どれくらい舞台でやれる方か、わかっていなかったんですけど。稽古自体はまだ2日目ですけど、とても勘が良くて「あ、できる!」と思いました。
中島:あのルックス通り、のびやかに育ったマリアに見えますよね。
白井:たとえば、学校のチアリーダー部に入ってたような。
中島:うん。スクールカーストの上のほうにいそうだよね。大島さんの場合はわりと目立たない中間層にいる感じの女の子がだんだん覚醒していくという雰囲気だった気がするので、そこで差がずいぶん出そうだなと。
中島かずき
ーー稲垣ベートーヴェンの魅力は、どういうところに感じられていますか。
白井:吾郎さんはもう、ご自分の道をご自分のスタイルで歩いている印象があるので、そこがベートーヴェンと非常にシンクロするところがあって。
中島:うんうん、わかります。
白井:そのことを、しっかりと楽しんでいらっしゃる感じがします。たとえば、すぐそばにカールがいたのに、突然「お? いたのか!」って言い出す。そんなところが面白いよねえって、ご自分でも言っていました。
中島:ああー、なるほどね。
白井:ベートーヴェンも音楽のことをやっていると、周りに誰がいるのかわからなくなったんでしょうね。吾郎さんも、仕事をする時にはやっぱり相当集中してやってらっしゃると思うから、そういうところでも共感する部分が多いんじゃないかな。そして、わかるがゆえにベートーヴェンの狭い視野、これは日常的な意味での狭い視野で、音楽的な視野はもちろんすごく広いんですけど、その中で生きている彼を演じることを、すごく楽しんでやってらっしゃるように思います。音楽にも精通されているから、そういうご理解も十分にあるし。今、稽古をやっててすごいなと思うのは、稲垣さんって稽古場に集まったさまざまな世界を持つ人たちの芝居をすべて柔軟に受け入れるんです。
中島:ほほう、そうなんだ。
白井:役者といっても、いろんなスタイルの人たちがいるわけで、それに対して頑なに自分の型を通す人もいるけど、それもみんな全部柔らかく吸収されていますね。
中島:それは前回もそうでした? それとも今回特に?
白井:今回特に、そう感じます。
ーーでは最後に、一言ずつお客様へお言葉をいただけますか。
中島:今回は、新生『No.9』になると思います。初演は自分たちが思っていた以上に評判が良く、好意的に受け止めていただいたのですが、あれと同じことをやるのではなくて、また新しいものが生まれると思いますので、そこのところはぜひとも期待していただきたいですね。
白井:僕は初演の時、自分自身がこの作品に関わらせていただいたことに本当に感謝したんです。そのくらいに、こういう演劇に関われた喜びを感じていたんですね。あの喜びを、今回はさらに大きくしたいという気持ちがすごくある。せっかくの再演のチャンスですから、さらなる喜びを観客のみなさんも一緒に楽しんでいただけるようなものにしたいと思っています。それは自分にも切に言い聞かせているし、切にみなさんに訴えたいところでもありますね!(笑)
(左から)中島かずき、白井晃
取材・文=田中里津子 撮影=荒川 潤

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着