五皿の絶品料理が味わえるような舞台
『ア・ラ・カルト』が30周年! 台本
を書き、自ら演じる高泉淳子がこの名
物舞台の魅力を語る

2018年12月14日(金)~12月26日(水)に東京芸術劇場 シアターイーストにて、12月28(金)~12月29(土)に近鉄アート館にて移動レストラン『ア・ラ・カルト』-美味しいものは心を動かすところにある 30th Anniversary が上演される。本公演の台本を執筆し、役者としても出演する高泉淳子に舞台の魅力を聞いた。
ーー『ア・ラ・カルト』が30年目を迎えたことについて、改めて心境をお聞かせください。
まず、あるのは感謝ですね。演劇を長く続けるだけでも大変なことなのに、ひとつの作品をここまでやってこられたというのは、本当に多くの方々が関わって、応援してくださったからだと思います。そして、何しろ観に来てくださる方がいなければ続かなかったわけですから。すべての公演を観ている方もいれば、何度も何度も足を運ばれた方、そして若いころに観ていて、その後しばらく来られなかったんだけどまた来るようになった方もいらっしゃる。初めて観たのは5歳のころとか、小学生だったとか、そういう子が成長してまた来てくれたりもしますしね。だって初演のころに生まれた赤ちゃんが30歳になっているわけですから、それを考えると本当にすごいことだなあって思います。
ーー『ア・ラ・カルト』の歴史を振り返ってみると。
30年は長かったような気もしますが、あっという間だった気もします。1983年に遊◎機械/全自動シアターを旗揚げして翌年から本公演を行ってきたんですが、その5年後に『ア・ラ・カルト』はスタートしたことになりますね。当初は年間に2本か3本、遊機械~の本公演用に作品を作っていたんですが、どうしてもいくつかボツになるシーンがあって。それを解決するのにいい方法はないかと考え、生まれたのが“シーズンオフシアター”だったんです。シーンをアトランダムに並べて、流れがつながらないところでは歌を歌ったりして。そうしたら役者も楽しいから毎年やりましょうということになり、お客さんも増えてきて。そのうち青山円形劇場で『僕の時間の深呼吸(1986年初演)』という作品をやらせてもらうようになり、そこで劇場プロデューサーが紹介してくださって中西(俊博)さんに出会えた。でも私たち、実は会う前から中西さんのお名前は知っていたんですけどね。まさに『僕の時間の~』の客入れの時間に中西さんの曲を使っていたりしたので。
高泉淳子
ーーそれは、たまたまですか?
そう、たまたまなんです。それが31年前の話で、この出会いが中西さんの生演奏が加わった形式の『ア・ラ・カルト』につながったわけです。まずは試行錯誤しながら3年はやってみよう、その3年が5年になり、そのうちに巻き起こったレストランブームも後押しになって、気がつけばなかなかチケットが取れない人気公演になっていたというのが8年目くらいでしたかね。そして次は10周年までやろう、20周年までがんばろう、と。
ーーそう考えると、本当に歴史のある作品ですね。
途中で、メンバーの白井(晃)がやめ、陰山(泰)さんもやめて、じゃあ、新たな『ア・ラ・カルト2』を作ろうかということでメンバーを新たにしたら、今度はまさかの展開で作品よりも先に劇場のほうがなくなってしまうということにもなり。
ーーあれには驚きました。
本当にびっくりでしたよ。拠点を失うって、とてもとても大きなことでしたから。あの拠点があったからこそ、『ア・ラ・カルト』のような作品が成立していたんだとも思いましたし。なくなったというのは本当にショックでした。そしてどうやって続けようかと考えて、“移動レストラン”という形で復活し、こうしてやり続けてきての30年、ということですからね。でもこのタイミングでまた青山劇場が復活するのかも? みたいなニュースもちょうど飛び込んできて、再び驚いているところです(笑)。
ーーそして今回は、30周年を記念してどんなことを狙っていますか。
基本的にストーリーは毎回変わるんですけれども、出てくる人物は同じというのがコンセプトなので。一番初めにレストランにやって来るのはひとりの女性で、次に出てくるのがお馴染みのキャラクターでもあるちょっと変わったサラリーマンの“高橋”。その次はこの店で出会う二人の話、その次が老人のエピソードで、これは出会ったばかりの二人なのか長年連れ添った夫婦なのか、そこはハッキリ明かされないんですけれど。今回も、こういう流れにはなります。
ーー場面が、四皿のお料理のようになっている。
あ、でも真ん中の三皿目として、にぎやかしのお話、ナマのお客様が入るので。だからそうなるとお皿は全部で五つ、ですね。
ーーそこが日替わりゲストの登場シーンになるわけですね。今回も、とても豪華な顔ぶれが揃います。
毎回、新たなゲストの方を入れたいと思っているんですが、今回はまず尾上菊之丞さんが初めて入ってくださるのがうれしくて。以前から、私は菊之丞さんに『ア・ラ・カルト』に出てほしいと思っていたんですよ。
ーーお知り合いだったんですか?
いえ、違います。私が狂言を観に行った時にゲストで出ていらして、そのあと会わせていただいて。それで、私がライブとリーディングとちょっとした軽い芝居をやる『恋する夏のレストラン』(2016年)という公演をやった時に、菊之丞さんにゲストで出ていただいたんです。いきなり『ア・ラ・カルト』に出ていただくよりも、私自身の企画なら自分が責任を持てばいい話ですから、そこでトライアルの意味もあって出ていただいたら、これが素晴らしかった! 日本舞踊の尾上流四代家元で、お忙しい方なので私がお稽古場に伺って、そこで本読みをやらせていただいたりして。「一応、高泉さんがやってほしいことを全部言ってください」っておっしゃるので、歌ってほしい曲が1曲、あと一緒に歌いたい曲を2曲、踊ってほしい曲を1曲、って言ったら全部引き受けてくださったんです。それで当日は場所をチェックして、セリフも歌も一回だけ合わせてみただけだったのに、パーフェクトでした。また歌が素晴らしくうまいんですよ。それで、いずれは『ア・ラ・カルト』に出ていただきたいと思っていたんです。
高泉淳子
ーーそして舘形比呂一さんも初参加ですよね。
はい。こちらは最近もしょっちゅう会っているお友達です(笑)。昨日もうちで打ち合わせをしていました。一昨年、兵庫県立芸術文化センターがプロデュースしている『sound theater』という公演で初めてご一緒して、何日かの稽古と、兵庫での4日間を一緒に過ごしていたらすっかり仲良くなって。彼、私のことを“アツコねえさん”って呼ぶんですよ。なんだそれは? って思っていますけれども(笑)。そして、レ・ロマネスクのTOBIさんは前回初めて出ていただいて素晴らしかったので、また出演していただこうと。で、ROLLYと(春風亭)昇太さんはもう、レギュラーみたいなものですからね(笑)。また(高橋)源一郎さんは、私が学生のころからファンだったんですよ。ラジオで一回、ご一緒させていただいた時には、私が『男と女のレストラン』の短いバージョンと長いバージョンを書いていったら、長い20分のほうをナマでやってくれてね。
ーーいきなりですか、それはすごいですね。
「リハなしでやるんだ、この人!」って驚きましたけど、これがすごく良かったんです。さすがに歌まではどうかなと思っていたら、去年出てくださった時にちゃんと歌ってくださって。
ーー篠井(英介)さんも、ゲストに出られるのはちょっと久しぶりですよね。
そうです、そうです。英介さんとはもう、戦友同士みたいな関係だというか。
ーーまさに同世代の。
きっと30周年だから、お祝いで出てくださるんだと思います。うれしいですね。さて、今年はそれぞれ何を歌っていただけるでしょう。設定も各自に合わせて変えていきますので、ぜひ楽しみにしていてください。
高泉淳子
ーーキャストの中では、中山祐一朗さんも4年ぶりの出演です。
彼はホント、ちょっと癖のある、他にはなかなかいないキャラクターの持ち主ですからね。それで“高橋”の相手役、部下として抜擢したんですけれども、どうやら結構な緊張しい、らしいんですよ。だけどこうして30年も続けてやっているようなところに途中参加で入ってくるのって、確かに大変だと思います。そういえばいつも汗かいていたし、毎日眠れなかったらしいですしね。そうは見えなかったけど(笑)。私はまたご一緒できて楽しいですよ、意外なところから仕掛けてくるのも面白いので。まあ、この数年の間に彼も結婚したり子供が生まれたりしていて、4年も“高橋”と離れていてどんな風になっているんだか。どういう状況にしようかなあと、考え中です。どこかにいって出世している設定にしようかなとか。
ーーそうか、この4年の間にキャラクターが暮らす環境が変わっているかもしれないんですね。転職していたりして?
そうですよ、別の仕事をしているのかも。向こうは成功組で、“高橋”は負け組かもしれませんね。
ーーそして、今後も『ア・ラ・カルト』は続いていく、と。
でも、これからどうなっていくのかは正直、わからないですけれどね。ただひとつ私が今思うことは、これが『ア・ラ・カルト』のことなのかどうかもわからないんですけど、年をとるといろいろなことが起きるじゃないですか、親も年をとってきて介護をしなければならなくなったりして。仕事も退職して環境が変わり、一体自分の人生はなんだったんだろうなと振り返った時とかに、どんな舞台を観たいだろうか……? もしかしたらその候補に『ア・ラ・カルト』という作品もあるのかなと、考えたんです。もちろん他にも演劇を作っていらっしゃる方はいっぱいいるけれど、ただし『ア・ラ・カルト』のような作品って、私はあまり観たことがないなと思っていて。
ーー確かに、唯一無二ですね。
それに『ア・ラ・カルト』の観客層って、実は演劇ばかり観ている方たちでもないんですよ。年に1回だけこのお芝居を観に来るんですとか、コンサートにはよく行くけれど演劇としては『ア・ラ・カルト』だけとか、家族揃ってみんなで観に来るという方もいる。あと、チケットを初めての両親へのプレゼントにした、とかね。そういった色を持っている作品なんです。そういうこともあって、私としてはやはりこの先も残していきたいというか、続けていきたいというか。だからたとえばもし今度『ア・ラ・カルト』を観て、「こういった作品を作りたい」という方がいたらいくらでもノウハウを教えます! と伝えたいです。
ーーなるほど、それも素敵なことですね。
いや、だって私自身もいずれ80歳になって動けなくなってきたらますますこういう舞台が観たくなりそうなのに、その時になかったら悲しいですからね。1日かけて、その日にしかできない演奏をやる人たち、その日にしかできないことをやる役者たちと一緒にやりたいというのが私の表現の理想ですし、それがまさに『ア・ラ・カルト』の良さだとも思う。その日しか観られないものが好きでやり始めたので、この『ア・ラ・カルト』というものが、お客さんにとってもそうあってほしいんです。ですからこれからもできる限り、私が動けている間はずっと提供していきたいなと思いますね。
高泉淳子
取材・文=田中里津子 撮影=鈴木久美子

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