【Mr.Seaside インタビュー】
90'sオルタナティブロックの精神を
吸収した、したたかに青臭い
次世代バンド
20歳前後の新たなオルタナティブロックバンドが続々登場する中で、ひと際透明感と中性的なヴォーカルが胸の奥を刺すバンド、Mr.Seaside。したたかな青臭さがあふれる音楽性同様、芯がありつつ簡単には掴めない個性を持つマツモトユウタ(Vo&Gu)の静かな野心を探る。
マツモトさんが最初に衝撃を受けた音楽って何ですか?
NIRVANAですね。中3の終わり頃に『ベースマガジン』からクリス・ノヴォセリックに興味を持って。とりあえずCDを買って、コンピレーションアルバムの『Incesticide』を聴いて、オルタナティブロックにはまっていきました。その流れでPAVEMENTが今も好きです。
バンドを始めるきっかけはNIRVANAじゃなかった?
バンドを始めたのが高2の終わりなので全然あとなんですけど、NIRVANAを聴いていたからか他の子たちからちょっと引かれちゃってて、なかなかバンドができなくて(笑)。地元は群馬で熊谷のほうの高校に通ってたんですね。そこで軽音楽部のイベントに誘われたんですけど、なんか観てたら無性にむかついて(笑)。“何でこんなバンドばっかりなんだ?”と思って、それでバンドを始めました(笑)。
マツモトさんは最初から歌うつもりだったんですか?
最初からそうです。歌が好きって言うより、単純にリードギターが弾けなかったんで。特に本とか映画がめっちゃ好きとか、そういうのじゃないんです。なので、曲が先行で、でもインストは興味なくて…曲を作る要素のひとつとして歌詞も考えないといけないと最初は思ってました。でも、やっぱり日本人に向けて歌ってるんで日本語にしようというのはありました。意味も適当なものは嫌で。僕の要素を伝える手段として、僕らしい歌詞を書くような努力はしてますね。あと、声自体も良い意味でちょっと変なのが分かってたので(笑)、それを隠す必要もないかなと思って。
今回の1st EP『boys in blue』は5曲入りですが、まとまった作品を作った実感はありますか?
今回のCDに関しては最初から全部10代をイメージした歌詞なんで、そこでの統一性はあるかなと思ってます。
記録というニュアンス?
そうですね。日常の歌詞を書いて共感を得るとかそういうのではなくて、単純になんか淡い…ラブソングってわけでもないんですけど、だいたい男と女が歌詞に出てくるんで、その時の言葉にできない淡い感じはイメージして作ってます。
アンサンブルもちゃんと歌が聴こえるようにシンプルに構成されていて、驚くぐらい音数が少ないですね。
最初は洋楽ばっか聴いてたんですけど、バンドを始めてからSUPERCARとかART-SCHOOLにすごい影響を受けて。歌詞に関してはいしわたり(淳治)の歌詞がすごい好きなんで。
呼び捨てですか(笑)。
僕にとっては架空の存在みたいな人なんですよね。 “世界の小澤”(指揮者の小澤征爾)みたいなものです。特にSUPERCARの初期の歌詞に影響を受けていて。
自分たちの感覚なんだけど、メッセージじゃないところが、いしわたりさんの歌詞の特徴ですね。
そうですね。ちゃんと言いたいことを言わない感じ。今は日常の答えを言っちゃってるような歌詞が多い中で、いしわたりの歌詞は答えというか、考え方が何通りもできるし、自分の考え方のスペースがすごくあると思う。答えが1個しかない、自分の考える余地のないものが多いから。言いたいことはあるけど言わないスタンスがすごいなと思って、そこらへんは真似て書いてます。
まさにSUPERCAR初期っぽいなと思ったのが「altanative in Tokyo」で。このオルタナティブな人は自分?
歌詞は事実が3パーセントぐらい、妄想が97パーセントぐらいでいつも書くんですけど、僕の知り合いで群馬から東京に上京した人がいて。その人が東京に来たことに“なんで東京に来たんだろう?”と疑問を抱いたというか。それをいろいろ考えてて歌詞にした感じですね。いつも言葉にできないような感覚を歌詞にするんで、すごい抽象的になっちゃうんですけど。
もし歌詞の《東京》っていうのが一人称だとすれば、東京自体が自滅的ともとれるし、いろんな受け取り方ができる歌詞だなと。
答えは正直ないんですよね。ただ…みんなきれいな言葉を使うけど、現実と言ってることが伴ってないなという疑問から作っていった部分もあって。それがまず大前提であって、そのあとはいろいろ重ねていった感じです。
EPのタイトルチューン「boys in blue」は完全に女の子目線ですね。
これまでに1曲も女の子目線で書いた曲がなかったんで、ちょっと書いてみようと思って書いたんです。“青っぽい”ってテーマがあって、その上でイメージを言葉にしていっている感じなんで、正直言って《オーマイエニーシング ラブミー》とかはあんまり意味ないんですよ。英語表記だと意味が変わってくるというか、はっきり意味を持つとまた違うというのも狙っていて。
この歌詞に登場する男の子は自分の好きな世界の中で生きていこうとしてるけど、さぁどうなることやらって感じがします。
それもあるし、好きな男と付き合ってるけどその男の将来性がまったく見えないとか…(笑)。そういう感じを考えながら作ってましたね。
この曲のコード進行はシューゲイザー的というか、エフェクティブではないけどMy Bloody Valentineを思い出しました。
本当ですか? 結構好きなので(笑)。とりあえずスルメ曲をイメージして。ロックンロールみたいなものより、無機質な感じがすごい好きなんです。熱く弾いてるけどあまり感情に訴えてこない感じのサウンドというか。
ギターサウンドの影響はありますか?
田渕さんは“さま”付き(笑)。
一番好きなギタリストはThe Policeのアンディ・サマーズなんですけどね。クリーンとかディレイとかリバーブとか、コーラスがかかってる感じ。でも、自分はそんなに弾けないし、実際はガシャガシャ弾くとか、そういう意味でNUMBER GIRLでの田渕さんのコードストロークやエフェクターとかも真似たりしてる。ジャキジャキな音を出すという意味で影響は結構受けましたね。
あと、世代的に象徴的な「19」は実際の“19の俺”に書いたんですか?
この歌詞を考えてたのは19ですね。でも、単純に思ってたことを書いただけです。周りを見てて、“あ、みんな死んだなぁ”みたいな。みんな就職とか言い始めるじゃないですか。で、大体はどうでもいい会社に行って、半年ぐらいで辞めてる感じだなぁと思って。歌詞は付き合ってる女の人が先に働いてるという前提で書きましたね。《19才で終わった 人生が終わった》って言ってるけど、それは前向きな終わり。そういう歌です。
最近、再び若い人たちがオルタナやギターバンドを結成している文脈にMr.Seasideもいると思うんですが、自分たちではどう思ってますか?
時代が回ってるなと思います。シティポップと呼ばれるシーンが出てきた時は新しくは感じないと思ったし、なんか時代は回ってんなぁと。今はサウンドとかも含めたオルタナロックみたいなのが流行ってきてはいるんで。流行ってると言っても下北とか、バンドが好きな人にしか流行ってない気がするんで、それがもっとライトな層にまで浸透すればいいなと思ってますけどね。
取材:石角友香
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EP『boys in blue』2018年9月26日発売
3P3B
ミスターシーサイド:群馬県高崎発オルタナティブロックバンド。シューゲイザーサウンドにマツモトのアンニュイな歌声が合わさることによって、どこか懐かしくいなたい気持ちを思い起こす。2018年9月26日に1st EP『boys in blue』をリリース。Mr.Seaside オフィシャルHP
「slow goodbye」MV