SOIL&“PIMP”SESSIONS ジャズ界の
風雲児として挑戦を重ねてきたバンド
が刻んだ歴史の一コマ

TOUR 2018“DAPPER”FINAL

2018.8.1 中野サンプラザ
SOIL&“PIMP”SESSIONSは、ライブレポートには向いていない。なぜなら椅子に座ってメモを取るより、フロアに降りて音の波に身を委ねる方が絶対に楽しいから。8月1日水曜日、中野サンプラザ、『TOUR 2018“DAPPER”FINAL』。1階に降りて満員のファンと共に体を揺らしたい、そんな衝動にかられ続けた素晴らしい時間だった。
オープニングは、最新アルバム『DAPPER』からの「Method」。みどりん(Dr)と秋田ゴールドマン(B)が叩き出す細分化されたビートの上を、のしのし歩く恐竜の咆哮のごとくタブゾンビ(Tp)がトランペットを吹き上げ、社長が「アーユーレディ中野サンプラザ!」とオーディエンスを煽る。続く「Explorer」では丈青(Key)がショルダーキーボードを弾きまくり、サポートの栗原健(Sax)が気迫のソロを聴かせる。大ホールのライブだが、無駄なセットや演出は一切ない。そこにあるのは、ひらめきに満ちた演奏と、暗く妖しい照明と、椅子を無視して立ち上がり体を揺らすオーディエンスの姿だけだ。
SOIL&“PIMP”SESSIONS 撮影=横山マサト
丈青のメロディアスなソロからラテンビートの「Mature」~「Bond」のメドレー、さらにジャズ・スタンダードの「Moanin’ 」へ。“DEATH JAZZ”を名乗るSOILだが、モダンジャズの名曲をほぼ忠実に再現する姿には、確かなスキルと偉大なジャズの歴史へのリスペクトが感じられてうれしくなる。「Deform Reform」ではトランペットとサックスの2管が爽快なユニゾンを決め、ソロでは“もっとやれ!”と言わんばかりに互いを煽り合う。フルコースで言えばここまでが前菜とスープ、さあここからはいよいよこの日のメインディッシュの登場だ。
Nao Kawamura 撮影=横山マサト
Awich 撮影=横山マサト
Kiala Ogawa(Kodäma)+Shun Ikegai(yahyel) 撮影=横山マサト
「この日本には、素晴らしいボーカリストがたくさんいます」
事前に告知されていた通り、この日のライブには『DAPPER』に参加した多くのゲストが登場する。社長の紹介でステージに招かれた一番手・Nao Kawamuraは、ジャズ、ソウル、R&Bの深いルーツを感じさせる豊かな包容力あふれる歌声で、二人のコーラスと共にアッパーなR&Bチューン「Drivin’ 」を披露。二番手は沖縄出身の女性ラッパー・Awichで、クールな浮遊感漂う「Heaven on Earth」のトラックに乗せ、ハードなラップでオーディエンスを挑発。トランジスタ・グラマーなボディいっぱいに詰まった情熱をぶちまける、ダイナミックなパフォーマンスに客席が湧いた。「Glitch」に参加したShun Ikegai(yahyel)とKiala Ogawa(Kodäma)の組み合わせは、CDで聴くよりより肉感的でドキドキするほど官能的。男性ファルセットとスウィートな女性ボイスが絡み合い、心地よいチル空間を作り出す。
三浦大知 撮影=横山マサト
EGO-WRAPPIN’ 撮影=横山マサト
照明は暗いままなのに、突然ステージ上に光が湧き上がる気がした。三浦大知の登場だ。「comrade」の骨太なヒップホップビートに乗り、全身でグルーヴを生み出しながら歌う動きにつられ、客席全体が波のように揺れる。ヒップホップからJ-POPまで、多くの場数を踏んできた彼ならではの説得力あるパフォーマンスだ。そして、強い酒が続いたあとのチェイサーのような「Dusk」をはさんでステージに現れたのは、EGO-WRAPPIN’ の中納良恵と森雅樹。「drifter」などスタイリッシュにギターを奏でる森の隣で、自由に体をくねらせ歌う中納の歌には、どんな理屈もかなわない。SOIL&“PIMP”SESSIONSが用意した、たゆたうような電子音の配列と奔放な歌とのバランスが最高だ。
「MCしないつもりだったけど。すべての出演者に大きな拍手を!」
オンタイムのR&B/ヒップホップの世界へ最接近した『DAPPER』の濃密な世界を堪能したあとは、さらにテンポを上げエレクトロミュージックの領域へ。「Pride Fish Ball」「Papa’ s Got A Brand New PigBag」の2曲はノンストップのダンスタイムと化し、強烈なエレクトロビートに乗り狂乱のサックスとトランペットがバトルを繰り広げ、秋田ゴールドマンがシンセベースで重低音を叩き出し、丈青がバッハ「小フーガ」の一節をすべりこませ、社長がステップを踏みながらステージを横断する、まさにダンスとカオスのダンスパーティー。みどりんが渾身のソロを決めて大喝采を浴びると、曲はお馴染みのライブチューン「SAHARA」へ。いよいよクライマックスが近づいてきた。
曲は絶対の人気曲「SUMMER GODDESS」。演奏前に社長が入念にコール&レスポンスの練習を繰り返した甲斐あって、会場の一体感が素晴らしい。猛スピードでフレーズを叩き出すサックス、トランペット、ピアノの爆音は、これぞDEATH JAZZ。冒険心豊かなソイルだが、やはり最後に戻ってくるところはここだ。そして、火照りきった体を冷ますようなクールダウン・チューンの「「FUNKY GOLDMAN」。爽やかな風のような演奏を残して、およそ2時間のライブ本編は幕を下ろした。
野田洋次郎 撮影=横山マサト
アンコール。「長くなるから、スタッフに絶対しゃべるなと言われたけど」と笑わせながら、タブゾンビがオーディエンスへの感謝の言葉を告げる。アルバムでまだ演奏していない1曲を、「来れない人の代わりに社長が歌うから」という前振りに場内が笑いと拍手で沸き上がる、その瞬間を逃さずにステージに乱入してきたのは、野田洋次郎(RADWIMPS)だ。シークレット・ゲストのはずが、1曲目からステージ袖でライブを楽しんでいたらしく、お客さんに見つかるんじゃないかとハラハラしたと笑う社長。息の合ったコンビネーションで披露した「ユメマカセ feat. Yojiro Noda」は、野田の中にあるR&B/ヒップホップの要素を全開にした最高にクールな1曲で、気だるさと軽やかさ、洗練と猥雑とが混然となった珠玉の逸品。バンドとはまったく異なるテンションで、伸びやかに歌い舞う野田の姿は、ここでしか見られない貴重なものだ。この日のこのパフォーマンスを、生で体感できた人は本当に幸運だ。
SOIL&“PIMP”SESSIONS 撮影=横山マサト
映画で言えば、ここからはエンドロール。ジャズ・スタンダード「Strasbourg/St.Denis」のゆったりとしたグルーヴに乗せ、もう一度ゲストを一組ずつ呼び戻して紹介する、この贅沢な余韻の喜びを何と表現すればいいだろう。SOILへのリスペクト溢れる言葉が続く中、特に印象に残ったKiala Ogawaの、「高校生の時にフジロックでSOILを見ました。その人たちと同じステージに立ててうれしいです」という言葉。デビューから14年、ジャズ界の風雲児として挑戦を重ねてきたバンドは、多くの人に影響を与える指針となって今も新しい音を探している。多彩なゲストとのコラボレーションは、ただのパーティーではない、音楽が受け継がれていく歴史の一コマだ。
メンバーが一人ずつステージを去り、最後に残ったドラムスのみどりんが発したひとこと。「ありがとうございました。SOIL、最高!」 それはここにいるすべての人が、今思っていることと同じだった。SOILは進化する。僕らはそのあとを追い続ける。
取材・文=宮本英夫 撮影=横山マサト
撮影=横山マサト

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