<昭和を彩る伝説のスターたちに捧ぐ
>トリビュート、雪村いづみ、岩崎宏
美、荻野目洋子らによる奇跡のステー

6月29日、東京・文京シビックホール 大ホールにて、昭和の歴史を彩り、歌謡史に偉大な功績を残してきた伝説のスターたちに捧げるトリビュート・コンサート<昭和を彩る伝説のスターたちに捧ぐ~越路吹雪岸洋子ザ・ピーナッツ、そして山口百恵~>が開催された。主催は、一般社団法人日本ポピュラー音楽協会 (JPMA)。『日本レコード大賞』や『歌謡曲ベストテン』の総合プロデュサーを歴任した砂田実を総合演出に迎え、昭和を彩るスターたちの知られざる素顔などを垣間見ながら、いつまでも歌い継がれるべき名曲が届けられた。出演歌手は、岩崎宏美荻野目洋子、えまおゆう、上原理生、劉玉瑛、杉田真理子、土井裕子、雪村いづみ。演奏は、篠田元一(音楽監督/Keybord/Arrange)、ハクエイ・キム(バンド・リーダー/Piano/Arrange)、柴田亮(Drums)、助川太郎(Guitar)
、鉄井孝司(Bass)、鈴木圭(Sax)、鈴木慶子(Violin)、篠田浩美(Percussion)という実力派揃い。
トップバッターは、2006年に『第22回全日本アマチュアシャンソンコンクール』にて最優秀歌唱賞を受賞した経歴を持つシャンソン歌手、劉玉瑛。アイドルの元祖とも称される南沙織の「17才」(1971年)を爽やかに歌い上げた。
2曲目は、元タカラジェンヌのえまおゆうが、郷ひろみの「哀愁のカサブランカ」(1982年)。宝塚歌劇団(星組)で、歌、ダンス、芝居の三拍子が揃った華やかな男役スターとして活躍した実績を見せつけ、観客の心を掴んだ。

3曲目は、
東京藝術大学音楽学部声楽科卒業のミュージカル俳優・上原理生が、布施明の代表曲のひとつ「君は薔薇より美しい」(1979年)を歌い、その歌唱力に加え表現力の確かさを示した。
4曲目は、『第11回東京音楽祭』(1982年)で金賞を受賞した、高橋真理子の名曲「For You…」を
国立音楽大学付属高等学校声楽科卒のエリートシンガー、杉田真理子が熱唱。世界的な活躍も納得の、圧巻の歌声を披露した。
5曲目は、このイベントのMC役も務めたミュージカル女優で歌手としても活動する土居裕子が、かぐや姫の「なごり雪」(1974年)を歌い上げた。同曲は、1975年に約55万枚の大ヒットを記録したイルカによるカバーバージョンをはじめ、多くのアーティストがカバーしているが、土居のカバーもシングルカットが望まれる出来映え。
6曲目は、2017年にビルボード・ジャパン・チャートで2位となるリバイバル・ヒットとなった「ダンシング・ヒーロー」(1985年)を荻野目洋子本人が歌唱。8人のダンサーによるMJダンサーズを従えてのキレのあるダンスに、バブル景気を象徴するような華やかなダンスミュージックで会場全体を元気づけた。歌い終えた荻野目洋子に興奮気味の歓声と拍手が贈られた。
7曲目は、岩崎宏美本人による「聖母たちのララバイ」(1982年)。イントロが始まると、待ってましたとばかりにひときわ大きな喝采が起こった。1975年のデビュー当初から、その歌唱力において高い評価を受け、新人賞を数多く受賞した彼女だが、さらに円熟味を増しているのが見事である。バックからライトを浴び、魂を込めて歌う姿には神々しさまでもが感じられた。

ここでトークの時間となり、砂田実と音楽プロデューサー・酒井政利が登場。酒井政利は、日本コロムビア、CBSソニーレコードのプロデューサーとして、南沙織、郷ひろみ、山口百恵、キャンディーズ、矢沢永吉など300人余りのアーティストを手掛け“伝説のプロデューサー”と呼ばれてきた人物である。近年では、氷川きよしのプロデュースも担当。老若男女が口ずさめるヒット曲を多く世に送り出した二人が、土井の司会で、貴重な話を聞かせてくれた。

砂田実は、「僕の頃は先輩がいなかったんですね。幸せなスタートを切りまして、TBSに入社したとたんに、親友でフジテレビにいた椙山浩一(現・すぎやまこういち)に、クレイジーキャッツの『おとなの漫画』(1959年~1964年)という番組の台本を書いてくれ、と言われて。朝早く起きて新聞に目を通して、記事からネタをつかんでコントを作って、フジテレビで生放送を終えると、なにくわぬ顔でTBSに出社していました。その頃はテレビをやりながら、コマーシャルを作ったり舞台演出をやったりというのも可能だったんですね」とテレビ草創期を振り返った。ペギー葉山、ザ・ピーナッツ、越路吹雪、雪村いづみなど、錚々たる歌手の舞台演出を手掛けてきた砂田実は、「雪村いづみさんは、僕が初めてレギュラー番組を作った時から、あの笑顔で現れてですね、彼女も大変な人生だったと思うんですけど、今でも変わらない笑顔なんですね。素晴らしいです。これだけご一緒できる僕は幸せです」と明かし、当時の歌について「本当の意味でのプロの作詞家、作曲家が作った歌だったんですね」と語った。

酒井政利は、「南沙織さんはアイドル第1号なんです。1960年代後半はまだ、アイドルという言葉がなかった。当時はレコード界では、“青春スター”だとか“歌うヤングポップス”とか、そういう感じだったんです。それで私がアメリカに旅した時に、向こうの方から“アイドル”という言葉があると説明を受けたんですね。フランク・シナトラが1944年にアイドル第1号となっていて、その時のキャッチフレーズは、“女学生の友”。ああ、そういう方法があるんだ、と思いました。それで日本に戻ってからアイドル路線を展開しようと。その第1号が南沙織さんだったんです」と振り返った。「70年代80年代はレコード界の黄金期でしたね」と語る酒井は、山口百恵のプロデュースを手掛けた時のエピソードも明かした。「『スター誕生!』(1971年~1983年)のプロデューサーから、担当してもらえないかとお話があったんですが、最初面接した時に、芸能界でやっていけるかなって思う位、地味な存在でしたね。ただ顔は綺麗でした。よく見てると表情が変わるんですね。嬉しい時は嬉しい顔になって、何か伝えたい時は目で訴える、表情っていうのは表現力なんです。こんなことは初めて言うかもしれませんが、彼女の恩人は、森昌子さんであり、桜田淳子さんなんです。森昌子さんは歌を上手く歌っていましたし、桜田淳子さんは空から微笑みかけるようなアイドル性がありましたよね。そこで3人娘にして、森昌子さんは土の匂いというか、大地、陸の感じ、桜田淳子さんは空の感じがしたので、ならば、山口百恵さんは海で攻めようという意味で、『ひと夏の経験』とか『横須賀ストーリー』という路線を作っていけた。それも森昌子さん、桜田淳子さんがいたからです」。歴史的価値の高い、興味深い証言である。
ここで山口百恵作品特集となり、オリコン1位を獲得した「夢先案内人」(1977年)を劉玉瑛が披露。続いて、さだまさしが作詞・作曲を手掛けた「秋桜」(1977年)を岩崎宏美が、50万枚を超えるセールスを記録した「プレイバックPart2」(1978年)を上原理生が、阿木陽子・宇崎竜童のコンビによる傑作「イミテーションゴールド」(1977年)を荻野目洋子がそれぞれ歌い上げた。
その後のペギー葉山作品特集では、ゲストにペギー葉山の演奏を60年以上続けたというジャズピアニスト・秋満義孝が登場。2018年の8月で89歳になる秋満義孝は、現在もソロ活動や歌の伴奏も続けている。音楽に対して厳しく、完璧主義だったというペギー葉山が、「絶対に秋満さんじゃなきゃ嫌だ」と言っていたという。その演奏を生で聴くことができるとは感動である。和製ジャズの傑作「爪〜あいつ〜爪」(1958年)を上原理生が、青山学院が舞台となって誕生した「学生時代」(1964年)を土居裕子が、秋満の演奏で歌い、会場を沸かせた。
岸洋子作品特集では、ゲストにジャズピアニストで、作曲家、編曲家、指揮者、音楽監督としても活躍中の前田憲男が登場。前田憲男の演奏で、浅丘ルリ子主演の同盟映画の主題歌「夜明けのうた」(1964年)を杉田真理子が、岸洋子の代表作「希望」(1970年)を杉田真理子が歌うという贅沢な時間となった。「夜明けのうた」と「希望」は、砂田実が作曲家・いずみたくとタッグを組み、良い曲を作ろう、と希望に燃えて作った曲だという。
続いて、ザ・ピーナッツ作品特集は、ザ・ピーナッツが引退特別番組で「ウナ・セラ・ディ東京」(1964年)を歌う映像から始まった。恋シリーズの定番曲のひとつ「恋のフーガ」(1967年)と、日本にバカンスという言葉を定着させた大ヒット曲「恋のバカンス」(1963年)を、土居裕子と劉玉瑛のコンビで、和製ポップス創成期を彩る「ヴァケーション」(訳詞:漣健児/1962年)と「ロコモーション」(訳詞:あらかわひろし/1962年)を荻野目洋子がキュートな振り付けと共に披露した。
越路吹雪作品特集では、越路吹雪が「愛の賛歌」(訳詞:岩谷時子/1960年)をリサイタルで歌う貴重映像が流れ、越路吹雪の代表曲「ラストダンスは私に」(訳詞:岩谷時子/1961年)と「ろくでなし」 (訳詞:岩谷時子/1965年)をえまおゆうが、「ビギン・ザ・ビギン」(訳詞:岩谷時子/1952年)を上原理生が、「愛の讃歌」を岩崎宏美が、それぞれ、自身の魅力を発揮して歌唱した。
大トリを飾ったのは、1953年に「想い出のワルツ」でデビューした現役シンガー・雪村いづみ。1955年から、美空ひばり江利チエミとともに「三人娘」として脚光を浴びた伝説のスターである。2018年で81歳を迎える雪村いづみは、「青いカナリヤ」(1954年)、「テネシー・ワルツ 」(1952年)、「スワニー」(1959年)を、「三人娘」時代と変わらない声でパワフルに歌い切った。まさに奇跡の歌声である。会場には感嘆のどよめきが起こり、そのままアンコールの拍手となる。雪村いづみは、「どうもありがとう! 嬉しいわ!」と挨拶。「あたし81なの? 知らない。歳のこと考えてなかった」「次何歌うの?」というマイペースぶりと朗らかな笑顔も可愛らしく、観客達を魅了した。
ここで、出演者達がステージに登場し、感想を語った。「今日は楽しかったですか?」という土井裕子の問いに、雪村いづみは「私はもう何も考えないで、一生懸命やったの!」と回答。続けて前田憲男も「何も考えないで一生懸命やりました」と答え笑いを誘った。秋満義孝は「約50年若返りました」と言い、荻野目洋子は「歌手として大大大先輩の雪村いづみさんの生の歌を聴かせていただいて……。本当にありがとうございました」。岩崎宏美の「自分は本当にまだまだなんだな、ということを実感しながら、でもこんなに元気な先輩がいらっしゃるので、私ももう少し頑張ろうと思いました」という言葉からも、いかにハイクオリティなコンサートだったかがわかる。
アンコールでは、岸洋子や越路吹雪が歌った「ケ・サラ」(1971年)を、前田憲男の指揮によるバンド演奏に秋満義孝のピアノも入り、出演者全員で歌唱。ここでしか聴くことができないであろう超豪華なラストナンバーに会場中が沸き、終演を惜しんだ。昭和を彩る伝説のスター達とその楽曲の素晴らしさを改めて感じられる時間であり、出演した歌手をはじめ、演奏者、プロデューサー、演出家も、レコード界黄金時代から現在まで、輝かしい形で現役を続けているということにも心が揺さぶられるコンサートであった。

写真提供:一般社団法人 日本ポピュラー音楽協会
(c)Japan Popular Music Association & Koji Ota
取材・文:仲村 瞳

<昭和を彩る伝説のスターたちに捧ぐ~
越路吹雪、岸洋子、ザ・ピーナッツ、そ
して山口百恵~>

2018年6月29日(金)@文京シビックホール 大ホール
[セットリスト]
・オープニング:歌謡曲メドレー
01.「17才」劉玉瑛
02.「哀愁のカサブランカ」えまおゆう
03.「君は薔薇より美しい」上原理生
04.「For You…」杉田真理子
05.「なごり雪」土居裕子
06.「ダンシングヒーロー」荻野目洋子
07.「聖母たちのララバイ」岩崎宏美
・トーク 砂田実 酒井政利
山口百恵作品
08.「夢先案内人」劉玉瑛
09.「秋桜」岩崎宏美
10.「プレイバックPart2」上原理生
11.「イミテーションゴールド」荻野目洋子
・ペギー葉山作品
12.「爪~あいつ~爪」上原理生  ゲスト/秋満義孝
13.「学生時代」土居裕子  ゲスト/秋満義孝
・岸洋子作品
14.「夜明けのうた」杉田真理子  ゲスト/前田憲男
15.「希望」杉田真理子  ゲスト/前田憲男
・ザ・ピーナッツ作品
16.「恋のフーガ」土居裕子/劉玉瑛
17.「恋のバカンス」土居裕子/劉玉瑛
18.「ヴァケーション」(訳詞/漣健児) 荻野目洋子
19.「ロコモーション」(訳詞/あらかわひろし) 荻野目洋子
・越路吹雪作品
20.「ラストダンスは私に」(訳詞:岩谷時子)えまおゆう
21.「ろくでなし」(訳詞:岩谷時子)えまおゆう
22.「ビギン・ザ・ビギン」(訳詞:岩谷時子) 上原理生
23.「愛の讃歌」(訳詞:岩谷時子)岩崎宏美 ゲスト/前田憲男
・雪村いづみ作品
24.「青いカナリヤ」雪村いづみ
25.「テネシー・ワルツ」雪村いづみ
26.「スワニー」雪村いづみ
・アンコール
「ケ・サラ」 出演者全員

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