「臼井孝のヒット曲探検隊
~アーティスト別 ベストヒット20」
実はスゴい存在の
AKB48のヒットを探る
それまでのアイドルと大きく異なる
“会いにいけるアイドル”
第一に“会いに行けるアイドル”をコンセプトとして明確に打ち出し、秋葉原の彼女達の専用劇場をオープンし、またファンとの握手会を開催した点。さらに、このCD購入の特典として開催される握手会をメンバー個別にすることで、そのCD売上枚数が飛躍的に伸び、これが後に“AKB商法”と呼ばれるようになった。その副作用として、握手券だけ抜いて、新品同様のCDを大量に転売したり廃棄したりする者や、完売してしまうメンバー個別の握手券欲しさに詐欺まで起こす者が現れたこと、さらにはシングルCDランキング自体が曲の良し悪しではなく、特典の魅力が優先されるという大きなキッカケにもなってしまった。しかし、ヒットチャートが大きく乱れたことはさておき、このこと自体は経済の活性化に向けた大きな“発明”だろう。
次に、グループのメンバーが流動的で、AKBブランドを軸により多面的な活動が出来る点。例えば70年代のピンク・レディーでは、他にミーとケイの代わりはいない訳だから、本人達の睡眠(平均1~2時間)や食事(大半が車中でリンゴをかじるなど)の時間を極限に減らし、しまいにはケイの盲腸の手術後の傷口にガムテープを貼って(嗚呼!)日本武道館の公演を敢行するなど、無理に無理を重ねた活動だったが、AKB48の場合は、その気になれば劇場公演と地方イベントとTV出演を異なるメンバーを稼働させることで同時にこなせるのだ。
また、そうやってメンバーを流動的にすることで「あの子をスターにするためには、自分が応援しなくては!」というファン心理に火が付き、エスカレートする者が多く、その端的な出来事が2009年以降行なわれているシングルの選抜メンバーを決めるという“総選挙”イベントだろう。
すべてのオリジナル曲の作詞および
活動プロデュースを手がける“秋元康”
今の彼こそ、睡眠時間がないんじゃないかと思うほど多忙を極めているはずだが、詞の内容は80年代や90年代に比べて、随分と共感されるものになっているのが興味深い。20世紀における彼の作品の多くは内容がコミカルだったり、キャッチーなタイトルありきで歌詞の内容はやや希薄で、ある意味TVマンらしい作品が多かったが、近年はキャッチーなタイトルを保ちつつ、メンバーの苦悩やファンの片想いなど、より個々の感情に寄り添うものが増えている。まさにメンバーと共に秋元自身も大きく躍進しているのだ(その凝縮した形が欅坂46のメッセージ性の強い作品群とも言えるだろう)。そこに一旗揚げようと各方面の作曲家から大量の優れたメロディーの楽曲が集まってくるわけだから、まさに鬼に金棒状態。この優れた楽曲群が、AKB48を簡単に馬鹿にできない大きな根幹となっている。
但し、AKB48のシングル売上の大半を占めるのは“劇場盤”と呼ばれるメンバー個別の握手券付きのCDなので、2011年の「桜の木になろう」以降、どんな楽曲を歌ってもミリオンセラーとなるという状況が続いている。
配信やカラオケのヒット状況を見ると
楽曲ごとに大きく異なる人気
実際のところ配信やカラオケのヒット状況を見ると、楽曲ごとに人気は大きく異なっている。AKB48の楽曲を「全部売れている」と楽観視しているTV関係者の人も「AKBなんて、どれもCDしか売れていない」と蔑視しがちなアンチアイドルのリスナーも、ここでの複眼的な視点に基づいたヒットを是非参考にして、各楽曲の魅力にも注目してみてはいかがだろうか。