吉澤嘉代子「月曜日戦争」は誰が何と戦っているのか

吉澤嘉代子「月曜日戦争」は誰が何と戦っているのか

吉澤嘉代子「月曜日戦争」は誰が何と
戦っているのか

ドラマは、バカリズムがずっと書き続けていた架空のOLの日記をドラマ化したもの。男であるバカリズムが主人公のOLを演じており、まさに妄想を具現化した内容になっています。
『月曜日戦争』というタイトルが、まず良いですね。「月曜日」の「戦争」は、毎日を戦うOLの象徴。週の始まりである月曜日は、マイナスイメージで語られることが多く、それはもう「戦争」と表現してもいいくらい苦しく大変な瞬間があるのです。でも、この曲は暗くならない。それでいて、浅くもならない。それが井上陽水松本隆からの影響を受け、日本語に敏感である吉澤嘉代子の力なのでしょう。
吉澤嘉代子 『月曜日戦争』
歌いだしの歌詞です。「青いリボン」は、OLのイメージであり、憂鬱な月曜=ブルーマンデーにもかかっています。制服に染み込んだ自身の「透きとおる血」の「微かな香」をたどるという歌詞。自分自身の血とは、香りとは、ルーツとは何だったのか。「わたしを探すの」という歌詞に続きます。この曲は、最初から最後まで自分を探している曲。これこそが「戦争」なんですね。
歌詞の主人公は、「貴方」の役を引き継ぎます。「貴方」とは、幼い頃の自分を救ってくれた存在。それは、親かもしれないし、親戚かもしれないし、それこそ名もなきOLかもしれない。そんな自分を救ってくれた役を引き継ぐ。それが、社会で働くことなんですね。この曲は、働くことの本質を「役を引き継ぐ」として表現しているのです。
「敵はもうそこ」という歌詞が出てきました。ここでの「敵」は、嫌な上司や嫌な出来事、そのほかもろもろの仕事上の嫌なこと全般。そして、そんな嫌なことに負けそうになる自分自身です。だから、この曲は何度も自問自答します。
唐突な 水金地火木土天海冥
唐突にも思える「水金地火木土天海冥」。言うまでもなく、惑星の並びです。「月曜日」を天体の「月」とかけているんですね。このフレーズで曲が、よりファンタジックになります。MVでも可愛い女戦士が出てきます。月曜日が、「月」の戦士として有名なセーラームーンとつながるんですね。この曲がうまいのは、そういう要素をこっそりと仕込む点。
「月のひかりに脱がされる」のフレーズのポイントは、セーラームーンの主題歌である「月の光に導かれ」にかかっている点。だけでなく、「月のひかり」が照るような夜にふと自分自身の裸の心と向き合うようなイメージや、親密になった人と性的な関係に至るようなイメージや、さらに言えば月曜日という昼間の「ひかり」の中で、否が応にも自分の殻が脱がされ本音が出てしまうような瞬間までもを想起させる点。そして「わたしは 誰だっけ」と、ここでも自問自答します。
ドラマの内容に沿った歌詞
「液晶」という単語が、PCの液晶画面や、スマホの液晶画面を連想させます。OLの職場を端的に表した「液晶の花園」という表現。このあたりのフレーズは、ドラマの内容に沿っていますね。ドラマの第1話で、実際に「ヒーター」が「味方」であるOL達を救います。

不思議な世界観ながら親しみやすい月曜日戦争
「はじまり」を殺したら「おわり」も消える。憂鬱なはずの月曜日も、なければ、自分自身が死んでしまうのです。だから「もういちど生まれてよ」と、再び月曜日を呼び出し、歌詞の主人公が映る鏡は輝きだします。後半にこのフレーズがあることで、曲全体に肯定的なイメージが残るんですね。最後まで「わたしは 誰だっけ」と、自問自答しているこの曲。OLであれ、シンガーソングライターであれ、どんな人生でも、自分は何者かという問いは続きます。それはずっと続く血の流れない戦争なんですね。

「戦争」という単語はあれど穏やかで明るく、不思議な世界観ながら親しみやすく、それでいて深い曲。歌詞や歌声が、架空の世界を楽しく作り上げています。吉澤嘉代子、すごい才能ですね。

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